最新調査から見る、「ジョブ型雇用」と日本型人事の今後とは ~日本企業が人事制度の改善に生かすためのポイント

皆様、株式会社Works Human Intelligenceの伊藤裕之です。
20年近く、統合人事システム「COMPANY」の導入・保守コンサルタントとして、大手法人の制度変更、業務改善、運用などの課題と向き合ってきました。今回の記事では、昨年以降、人事におけるトレンドとなっている「ジョブ型雇用」について、制度の概要や特徴を改めて整理したうえで、日本企業がどのように向き合うべきか、考察を行います。

人事・総務担当者にとって、ジョブ型についての議論や検討、今後の制度・運用の見直しの際に、本コラムが一助となれば幸いです。

※こちらの記事は下記の人事トレンド紹介コラム「ジョブ型雇用とは?誤解されやすいポイントと日本企業が導入する際に考えるべきこと」および『「ジョブ型」トレンド時代に考えるべき人事制度と、人事・現場管理職のあり方』を@人事の読者様向けに一部編集させていただいております。
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目次

  1. ジョブ型雇用とは?「仕事を定義し、人を配置する制度」
  2. 従来の日本の雇用制度「まずは会社の一員となる」=「メンバーシップ型雇用」
  3. 「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」の比較
  4. ジョブ型雇用が注目される背景
  5. 欧米とは異なるジョブ型雇用の形:「日本版ジョブ型」
  6. 日本版ジョブ型が導入される目的
  7. 各社のジョブ型実施状況は?
  8. 職務や役割の定義を言語化できるのか?
  9. もしジョブ型の制度を活かすならば
  10. ジョブ型の前に企業のありたい姿の浸透を

ジョブ型雇用とは?「仕事を定義し、人を配置する制度」

ジョブ型雇用とは、各企業が会社における各職務の内容(ジョブ)を職務記述書(ジョブディスクリプション)にて明記し、その内容に基づいて必要な人材を採用・契約する制度です。
「仕事に人をつける」ということがありますが、それを具体的に実践する制度といえるかもしれません。

ジョブ型雇用は欧米では一般的な雇用制度であり、採用のタイミングで企業側が求める「職務」を満たすスキル・知識を従業員側が持っている必要があります。それは、大学卒業後、初めての就職においても同じです。
企業において必要な職務は決まっています。したがって、採用が発生するのは、職務に対して何らかの空きが発生した場合や新規事業等で新たな職務が発生したケースであり、日本企業のような定期的な新卒の一括採用という概念はありません。
また、原則として職務限定雇用であり、本人の同意がなければ異動も昇進もありません。

従業員へ支給する報酬についても、職務記述書に記載されている内容に基づき実施されます。また、人事評価(人事考課)は上級の職務以外では実施せず、昇格や昇級についても上位の職務に空きや公募が発生し、それに対して応募し、合格しなければ発生しません。

こういった背景があるため、従業員は自律的にキャリアプランを考え、より市場価値を高めるために必要な自己研鑽を積み、公募へ応募し、社内で求めるキャリアが実現できないのであれば転職をすることが必要となります。したがって、おのずと人材の流動性が高まります。

各国で異なるジョブ型雇用のあり方

ただし、ジョブ型雇用といっても国や地域によって差異があり、運用の状況は各国で異なります。
アメリカ・カナダの北米におけるジョブ型雇用では、新卒採用が少なく、職務記述書に即した中途採用がメインであり、解雇も企業によってある程度自由に行われます。異動については主に欠員の補充のために実施され、社内公募が一般的です。また、賃金は職務評価で決定されますが、金額はその職務の市場価格がベースとなっています。
一方、ヨーロッパのジョブ型雇用は各国で状況が異なります。例えば、ドイツは新卒採用が多く産業別(職種別)労働組合の影響が強いこともあり、企業側が自由に解雇することはできません。また、日本企業の雇用形態に似た部分があり、平均勤続年数も長くなっています。賃金については産業別に職種別で賃金レベルが明確に決定されているため、それが支給のベースとなっています。

※図はクリックすると拡大します。

従来の日本の雇用制度「まずは会社の一員となる」=「メンバーシップ型雇用」

従来の日本企業の雇用制度は、「メンバーシップ型雇用」が主流となっており、「ジョブ型雇用」と対をなす概念となっています。採用は新卒者の一括採用を基本として、採用のタイミングでは明確な職務(ジョブ)を提示することなく、採用後の研修とジョブローテーションの中で、経験やスキルを身に着けていくという制度です。

つまり、まずは会社に帰属するということを第一義とし、次に将来性や現在の業務状況等を加味しつつ、「人に仕事をつける」という考え方です。会社にとって、従業員の雇用を維持することが非常に重要であり、会社の都合による解雇のような、従業員側のデメリットは、非常に発生しづらい仕組みとなっています。
企業に長期で在籍することを前提として、社内研修やOJTによってスキルや専門性を徐々に身に付け、最終的に従業員の成果を最大化することで企業にメリットを生む考え方となります。

一方で、職務を限定することなく(職務無限定)、「会社の一員となること」をベースとした契約となるためではないため、基本的に会社が決めた職務に対して従わなければなりません。従業員側から見た場合、仮にスキルや経験を持っていたり、今の部署におけるキャリアに満足していたりしても、将来性を見越して、あるいは会社の配置戦略上、全く希望しない部署に配属される、といったデメリットも起こり得るでしょう。

メンバーシップ型雇用を支える根本的な仕組みは、以下のようないわゆる年功序列型の賃金制度です。

  • 上司が部下の成長や人間性や将来性、あるいは実施プロセスといった定性的なジャッジをするという行動評価や能力評価
  • 上記の結果と勤続年数・年齢をベースとし、一律で徐々に職能等級=給与レンジが上がっていく職能資格等級制度と定期昇給制度

また、住宅手当や家族手当、さらには通勤手当といった職務とは無関係である生活給を支給することで、従業員の生活をサポートする仕組みも特徴です。長い時間をかけて、従業員の生活や人生と一体化する仕組み、ということができるかもしれません。

現在のメンバーシップ型雇用制度の確立には、高度経済成長時期における労使間の交渉の中で、従業員の生活の維持と雇用の維持を優先する方針が背景にあったとされています。
ともすれば、「日本企業の採用は就職ではなく就社だ」というような批判的な言葉も聞かれますが、これはメリット・デメリットの問題ではなく、結果的にそういった制度になっているという背景を考える必要があるでしょう。

「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」の比較

ここで、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用を比較してみましょう。

ジョブ型雇用については、様々な解釈がされていますが、下記の内容については注意が必要です。

  • 「ジョブ型雇用=成果主義」ではない(むしろ一般社員は評価自体が存在しないケースも多い)
  • ジョブ型雇用といえど解雇の自由度の高さは各国様々で、ジョブ型の導入と直接的な解雇率の高さとは関係はない
  • 本来、ジョブ型雇用を決定づけるのは職務記述書の存在で、それが存在していない場合はジョブ型雇用とは言えないため、独自の制度ととらえるべき

ジョブ型雇用にせよ、メンバーシップ型雇用にせよ、雇用制度は各企業の取り組みにとどまらず、「はたらく」ことに対する国や社会全体のアプローチの結果であるという理解が必要です。ジョブ型雇用の検討や推進を行うのであれば、このことを念頭に置いておくべきでしょう。

ジョブ型雇用が注目される背景

次に、今「ジョブ型雇用」がトレンドとして取り上げられている背景を整理します。

経団連によるジョブ型雇用へのシフトの提言

経団連は、コロナ以前よりジョブ型雇用へのシフトについて提言していましたが、2020年1月にも日本企業の雇用制度の見直しとジョブ型雇用の推進について言及しています。

【参照】日本経済新聞 「脱一律」で人材磨く 経団連、労使交渉変革へ指針(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54640500R20C20A1EE8000/

背景にある企業側の思惑としては、下記のようなことが考えられます。             

  • 「学生を即戦力化して社会に出してほしい」という大学側への要望もふまえつつ、年功序列賃金制度から、一定の職務を切り出して報酬を明確にすることで、優秀な社員を採用(特に若手)できるようにしたい
    【参照】採用と大学教育の未来に関する産学協議会・報告書 Society 5.0に向けた大学教育と 採用に関する考え方-概要-(https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/028_gaiyo.pdf
  • 成果の低い中高年層の処遇変更(解雇、賃金低下)を可能としたい

前者については、ジョブ型雇用を実施するメリットも含まれたものであると考えられます。

一方、後者については、ジョブ型雇用に対するデメリットとして言及されるイメージでもありますが、すでに記載したように、ジョブ型雇用はあくまで職務に対して人をつける考え方であり、成果のあり方と直接の関係はありません。

加えて、解雇に対してはヨーロッパ諸国のように制約が高いケースも多く、ジョブ型雇用と関連して議論されることは本来無理があると考えられます。

② 在宅勤務/テレワークの定着による影響

在宅勤務/テレワークの場合、対面で従業員管理やパフォーマンス管理をすることができないため、解決策の一環として、職務を明確化するジョブ型雇用が脚光を浴びているという側面があります。

ただ、所感としては本来考えるべきことが逆転した印象で、在宅勤務/テレワークを前提として企業が従業員に何を期待し、どのように動機づけするか、従業員が「はたらく」ことにどんな意味を見出すかが重要なのではないでしょうか。

そして、テレワーク実施以前から、従業員のパフォーマンスや業務プロセスは、把握できていたのか、テレワーク実施によって、どの領域が把握困難となったのか、明確にしたうえで、具体的な対応策を検討し、実施する必要があるでしょう。そのプロセスを経ることなく、ジョブ型雇用がいきなり解決策として登場するのは唐突であり、やや拙速である感は否めませんが、注目を集めるきっかけであることは事実です

欧米とは異なるジョブ型雇用の形:「日本版ジョブ型」

ジョブ型雇用がクローズアップされている背景には、各企業の人事部門で長年抱えている課題を解決できる「処方箋」として期待されている点があると考えます。

現在、日本の多くの企業で検討され、導入されている「ジョブ型」の多くは、本来のジョブ型雇用とは異なるものです。

一言で言うと、新卒採用や(特に非管理職の)ジョブローテーション・定期昇給/昇格といったメンバーシップ型雇用の要素はある程度そのままにしたうえで、ジョブ型雇用の「職務定義および評価、報酬の明確化」「職務に対する最適な人材の自律的な育成と配置」を可能とする人事制度、運用設計です。

これを「日本版ジョブ型」という位置付けとします。

具体的には、下記のような制度設計が一般的です。

  • 企業の経営戦略、ミッションなどから必要職務を洗い出し、求める職務範囲や期待する役割と必要スキル・着任要件等を定義する (職務記述書、役割定義書等の作成)
  • 職務やポストを難易度や職責に応じてランク・グレード化する  (職務等級・役割等級制度の利用)
  • ランク・グレードごとに報酬額を決定する
  • ランク・グレードごとに目標や評価水準を定め、各期末に評価→職務ランク・グレードの昇格や降格を行う(自動的に報酬額も上下する)
  • 職務に空きや変動が発生する際は、職務記述書の定義をもとに社内公募を行い、不足があれば外部から採用を行う

また、実施にあたり、段階的に適用範囲を広げていくことが一般的なため、現在は下記のいずれかのパターンで推移しているケースが多くあります。

ダブルラダー型:報酬を職務等級・役割等級だけで決定せず、職能給要素と折半する
●管理職先行実施型:管理職のみ先行実施し、非管理職は既存制度を継続する
●ポジション定義型:研究職や高度な技術職など、特定の職種・職務にのみ適用する

現在議論され、導入が進んでいるジョブ型の人事制度は、既存のメンバーシップ型雇用制度を否定するものではありません。むしろ、既存の人事制度をある程度前提としたうえで、これまでの人事施策をより徹底、定着させていく運用設計の一形式、と定義されます。

日本版ジョブ型が導入される目的

それでは、各企業はどのような課題解消を目的として、ジョブ型の人事制度を導入しようとしているのでしょうか。
主に下記3点に集約できます。

① 企業目的、組織目標に対するパフォーマンスの最大化

・適材適所の人事配置を可能とするために、職務やポストの内容を定義する
・職務やポストの内容を詳細に定義・分類し、企業戦略に沿って重要な職務を明確にすることで、配置すべき人材の把握や発掘、後継者育成を容易にする
・職務に必要なスキルや経験、コンピテンシーを明確にすることで人材育成を促進し、外部からの採用機会を増加させる

② 従業員の成長促進、モチベーション向上

・適材適所の人事配置を可能とするために、職務やポストの内容を定義する
・職務やポストの内容を詳細に定義・分類し、企業戦略に沿って重要な職務を明確にすることで、配置すべき人材の把握や発掘、後継者育成を容易にする
・職務に必要なスキルや経験、コンピテンシーを明確にすることで人材育成を促進し、外部からの採用機会を増加させる

③ グローバル対応が可能な人事制度設

・国内の従業員と海外従業員を同一ランクで評価、処遇する

すなわち、職務内容を明確に定義することで、最適配置と従業員の成長やキャリア形成を促し、結果的に組織の生産性やパフォーマンス向上、企業戦略の実現に寄与する、というフレームワークがあり、その処方箋として登場しているのが「ジョブ型」ということです。

各社のジョブ型実施状況は?

実際に、各社ではどのような形でジョブ型人事制度が実施されているのでしょうか。

当社では、2020年末から2021年1月にかけて実施した人事考課分科会にご参加いただいた企業担当者に対して、ジョブ型実施状況のヒアリングを行いました。

各企業の「日本版ジョブ型」の実施、ないしは実施予定状況は下記の通りです。半数以上の企業で、何らかの実施、ないしは実施を前提とした準備が行われている状況であることがわかります。

具体的な内容について、いくつかの事例をご紹介します。

  • 管理職/エキスパートはジョブディスクリプションが存在し、職務に応じた等級がある
  • 中堅層あたりから総合職・専門職の2つに分かれるようになっている
  • 管理職や一部の人間が日本版ジョブ型になっており、一部「スペシャリスト」と呼ぶエキスパート人材がいる
  • 管理職を降りたシニアへのジョブ型導入を検討している
  • これまでは資格に紐づいて年俸を設定していたが、今後は管理職にのみ職責という概念を取り入れようとしている

日本版ジョブ型人事制度の導入にあたっては、以前から存在している役割等級・職務等級制度や、キャリアの複線化を活用することが一般的であり、結果としてジョブ型を意識することなく、人事制度変更の延長線のなかで実施・検討されているケースも多いようです。

ジョブ型人事制度の導入に際しては、下記のような課題認識の解消のため実施するという意見もありました。

  • メンバーシップ型雇用のあり方だと(特に管理職について)職務が曖昧になっている
  • 職種間で求められるスキルが違う中、評価や待遇に差がないことに対しては、社員からも不満が出てくると想定している
  • 人件費のことを考えると、同一労働同一賃金は裏返せば異なる労働は異なる賃金になるので、いつか実施しなければいけないのではと思っている

一方では下記のような課題も上がっています。

  • 組織改正がある度に管理職の役割定義のようなものを聞き直しているが、かなり手間がかかっている
  • ダブルラダーも検討したが、職務ランクがうまく定義できず断念した
  • 誰にどんなスキルがあるか測りにくいことが大きいことや、ジョブ型に移行したことで、ジョブ型の考え方に追いつけない人もいるのではないかという懸念がある
  • 製造業のため、現場の従業員もいれば開発もいるので、ひとりひとりのジョブで賃金を決めるのは限界があると思っている

全体として、ジョブ型的な要素を取り込むことによるメリットは理解できるものの、運用面でリスクや課題も多く、徐々に改善を加えながら適用範囲を広げつつあるのが現状、ということがわかります。

職務や役割の定義を言語化できるのか?

また、当社では、2021年1月~2月にかけて、ユーザー119法人を対象にジョブ型雇用に関するアンケート調査を実施いたしました。
結果として、多くの企業で職務記述書の導入や、役割を定義してランクに当てはめる役割等級制度の導入など、職務や役割の言語化を行う方向にあることが分かりました。

しかしながら、人事部門(ないしは経営部門)で全社の職務記述書や役割定義書を作成することができるでしょうか。あるいは、すべての職務において明確な言語化が可能でしょうか。
ジョブ型人事制度において最大のポイントとなるのは、職務や役割の責任範囲や、経営からの期待する役割、職務内容を記した職務記述書や役割定義書等を、どれだけの職務に対してどれだけの粒度で準備できるかという点です。
そして、人事部門および経営層が、会社における各組織や現場の職務内容をどこまで把握できているのか、という課題につながる可能性があります。

この場合は、ジョブ型雇用の検討を契機に、適正な職務内容や責任範囲、およびそれにふさわしい待遇が維持できているのかを先に調査したほうがいいかもしれません。その結果を把握時、分析すること自体が「今の仕事や組織、人員配置を見直す」きっかけとなり、結果的に企業にメリットをもたらす可能性があるでしょう。

一例として、今注目を集めている「HRBP(ビジネスパートナー)」という役割があります。
HRBPのように、経営・人事・現場と結節点を持つ役割が現場を理解し、あるいは現場の協力を得て情報を収集して分析していくなかで、そもそも自社の人事制度として、ジョブ型の人事制度が必要か、導入しても持続的に運用可能か、判断することがまず必要となるのではないでしょうか。

もしジョブ型の制度を活かすならば

最後に、日本企業とジョブ型雇用の今後について下記のようにまとめておきます。

  1. 欧米型のジョブ型雇用にすぐ至るものではない
    (現時点ではそのための社会的コンセンサスや理解には至っておらず、ジョブ型雇用に必須となる、職務記述書の作成が困難を極める)
  2. ジョブ型雇用が企業や組織の目的実現のため、さらにはそこで働く社員の成長に寄与する制度であるという判断からの逆算であって、ジョブ型雇用導入自体が目的となってはならない
  3. ジョブ型雇用をメンバーシップ型雇用との対立軸とせず、むしろメンバーシップ型雇用との共存および補完的存在としてスタートすることが現実的
  4. 実際にジョブ型の人事制度とするかどうかは別として、ジョブ型雇用の検討を契機に現行の職務や組織、従業員の成長やパフォーマンス発揮の改善、あるいはメンバーシップ型雇用における課題の解消を探ることが先決

特に④については、各社でジョブ型雇用制度、ないしはジョブ型雇用と評価される制度が管理職中心にスタートしていますが、むしろ若手や管理職外のベテラン層に適用することも検討したらどうかと考えます。

理由としては、これまでのような年功序列=職能資格制度の場合、下記のようなデメリットを抱えています。

  • 昇給や昇格に一定の時間軸を必要とするため、人材の流動性が高まる中で、優秀な若手ほど退職のリスクがある
  • 成長に関して、ジョブローテーションの配属先や上司との相性などの偶発的要素が大きい
  • 早い段階から管理職もしくはそれに準ずる職に就くことを目標としたキャリア形成が行われることで、中高年となって非管理職の職務に就いたときに、パフォーマンスやモチベーションが低い人員を抱え続けるリスクがある

これに対し、ジョブ型雇用によって職務と目標、およびそれに見合った報酬制度を用意することで下記のようなメリットを得られる可能性があります。

  • 若手社員のモチベーション維持と明確なキャリア、成長曲線の提示
  • 専門性を持ったベテラン社員の養成および長期間の雇用継続

ただし、そのまま反映するのでは職務変更による給与減額リスクや他の業務へのチャレンジをどのように実現するかという課題があるため、最終的にはメンバーシップ的要素も必要となるかもしれません。
そのため、③のジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の共存をいかに実現するのか、という点を追求する必要があるといえるでしょう。
例えば、下記のような方策が考えられます。

  • 全社の職務をジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用に分けて、補い合う。採用もそれぞれ行い、公募ベースで行き来を可能とする。
  • ジョブ型雇用対象者に対して、報酬やキャリアプランの中でメンバーシップ型雇用要素を組み込む。
  • 管理職をジョブ型雇用へ移行するのであれば、マネジメントに必要なスキルや資格を明確にしたうえで、管理職に至るキャリアプランの中でその取得を必須とするとともに、取得のための業務面の配慮や時間の確保をサポートする。

ジョブ型の前に企業のありたい姿の浸透を

ジョブ型導入の目的となるようなテーマは、各企業の人事部門で長年解決すべき課題として検討され、徐々に施策を実施していたケースも多いでしょう。

しかし、施策の実施以前に、企業や組織の文化や風土の変化、人事以外の各部門長の協力や教育、社内への浸透など、前提条件として解決すべきテーマも多く存在します。そのため、それ以外の施策が優先されたり、解決に時間がかかったりという問題に悩まされていた企業も多いのではないでしょうか。

各企業はDX(デジタルトランスフォーメーション)に代表されるデジタル化やグローバル化、さらには昨年のコロナ禍といった、近年の企業環境の変化に対応する経営戦略が求められています。
あわせて、対応するための人事戦略の準備と、即時的な解決策が求められています。
その一つとして、ジョブ型がクローズアップされている側面は否定できないでしょう。
様々な理由で人事面の課題解消が進まなかった企業にとっては、追い風として利用できるかもしれません。

ジョブ型に関する情報や議論は、どのような等級制度を導入するのか、報酬や評価はどうなるのか、あるいはどういったシステムで管理すれば、期待した効果をあげることができるのか、という点についてクローズアップされることが多いです。
しかしながら、ジョブ型を先行で導入している企業の事例からは、企業のありたい姿やミッションを逆算し、5年~10年かけて様々な人事制度と合わせて、働き方や社内の文化、風土を少しずつ変化していくための仕上げとして導入しているケースが多いと感じます。

最も必要なことは、まずはいかに企業や人事がありたい姿を明確に示したうえで、キーマンとなる現場管理職をサポートしつつその理解と協力を得ながら、従業員全体への浸透を深めていく過程にある、ということを結論とさせていただきます。

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