いまさら聞けない人事マネジメントの最新常識

第4回「人材マネジメント」

「1on1」「OKRとノーレーティング」「働き方改革」といった新しいキーワードから、「採用面接」「OJTとOff‐JT」などの定番用語までを幅広く網羅し、最新の心理学やキャリア研究の知見などを取り入れつつ、人事・総務担当者の実務に役立つポイントをリクルートマネジメントソリューションズの専門家が紹介します。
第4回目のテーマは「人材マネジメント」ですリモートワーク下で、どのようなマネジメントを行えば、従業員がモチベーションを高め、高いパフォーマンスを発揮できるのか。戦略的人材マネジメントを実施する際の3つの代表的なアプローチ法を紐解きながら、組織行動研究所所長の古野庸一氏が解説します。

【関連記事】
第1回「採用と人材の戦力化」
第2回「育成と能力開発」
第3回「組織開発と関係性構築」

目次

  1. コロナ禍であらためて考えたい「戦略的人材マネジメント」
  2. 戦略的人材マネジメント観点から人事施策を考える際の3つのアプローチ
  3. 3つのアプローチを効果的に取り入れるには
  4. リモート下における人材マネジメント
  5. 「人材マネジメント」のまとめ
  6. 編集部より書籍紹介

コロナ禍であらためて考えたい「戦略的人材マネジメント」

人材マネジメントは、自社に必要な人材を定め、人材の採用・調達を行い、自社の中でうまく活かしていくための一連の施策である。施策の多くは、評価制度などの制度として制定されているが、人材を活かすための円滑な運用も人事の大切な役割である。

今回は、まず、「戦略的人材マネジメント」に触れていく。そして、コロナ禍で拡大した、リモートワークを前提にした、人材マネジメントについて、言及していく。

戦略的人材マネジメント観点から人事施策を考える際の3つのアプローチ

戦略的人材マネジメント(Strategic Human Resource Management:以下SHRM)は、1980年代から米国で使われ始め、90年代後半に日本に紹介された考え方である。企業の成果(生産性や財務的成果など)は、人事施策とその運用によって、左右されるという考え方であり、人事制度や施策を考える上で、バックボーンのひとつになる観点である。
そのようなSHRMの観点から人事施策を考える際には、いくつかのアプローチがあるが、3つのアプローチに類型化される※1

※1  Delery, J. E. and Doty, D. H.(1996) “Modes of Theorizing in Strategic Human Resource Management: Tests of Universalistic, Contingency, and Configurational Performance Predictions”, Academy of Management Journal,Vol.39, No.4 pp.802-835.

「ユニバーサリスティック・アプローチ(ベストプラクティス・アプローチ)」

1つ目は、「ユニバーサリスティック・アプローチ(ベストプラクティス・アプローチ)」である。このアプローチでは、人の心の動きは、国や企業を超えて普遍的であり、高業績企業は、そのメカニズムを理解し、運用しているという前提に立っている。例えば、人がやる気になるメカニズムは万国共通であり、高業績企業では、そのメカニズムを利用して、動機づけ施策を行っていると考える。そのため、高業績企業が行っていることを探り、必要に応じて自社に取り入れていくという考え方である。

「コンティンジェンシー・アプローチ」

2つ目は、「コンティンジェンシー・アプローチ」である。各社の経営環境やビジネスモデルは異なり、経営戦略も違うため、高業績企業と同じような人材マネジメントを行っても、同じような成果が得られるわけではない。それゆえ、各社の環境や戦略に応じて、人材マネジメントを考えるというアプローチである。

「コンフィギュレーショナル・アプローチ」

3つ目は、「コンフィギュレーショナル・アプローチ」である。HRM施策内での整合性を重視するアプローチである。各社において、採用、育成、配置、評価などのHRM施策が連動しなければ、全体として、十分な成果はあがらないと考えられる。それゆえ、施策を束ねるポリシーを一貫したものに合わせようとする考え方である。

3つのアプローチを効果的に取り入れるには

3つのアプローチは、どれか1つを選べばいいというものではなく、施策を考える際には、3つのアプローチすべてを考慮する必要があると考えられる。では、具体的に、どのように取り入れればいいのだろうか。
最初に、3つ目のコンフィギュレーショナル・アプローチから考えていく。HRM施策がバラバラであれば、その効能は限定的になると考えられるので、HRM施策を束ねるHRMポリシーを明確にすることを、まず考えなければならない。

次に、自社の戦略に応じたHRM施策を考えることが必要になる。コンティンジェンシー・アプローチである。それは、施策を束ねるHRMポリシーから紡ぎだされるものであるが、自社の行動規範、バリュー、ビジョン、戦略と照らし合わせて、決まっていくものと考えられる。たとえば、「主体性を重んじ、まず行動して、試行錯誤を繰り返し、新しい価値を創造することが、自社の競争優位性にある」としたら、それに合致した人材の採用と育成を行うことが施策の柱になるだろう。

しかしながら、より高みを求めるのであれば、世界の高業績企業が行っているベストプラクティスに注目する必要がある。
ユニバーサリスティック・アプローチである。自社だけで考えることは、独善的になりがちである。他社の最先端の施策を取り入れていくときは、施策そのものとともに施策の背景にあるメカニズムを知っておく必要がある。たとえば、人が没頭し、仲間と連携して仕事を行い、より高い成果を促進する施策があるとしたら、その施策とともにそのメカニズムを検討していき、自社の戦略と統合して、取り入れていくことができるだろう。

リモート下における人材マネジメント

リモートワークを前提にした場合、今までの人材マネジメントを再考する企業は多いだろう。直接、メンバーの仕事ぶりが見ることができないという前提のマネジメントである。テレワーク主体になって、部下がさぼっていないか心配する管理職は増えているし、部下は自分の仕事を適正に評価してくれるのか心配になっている。いずれにしても「自律的に働く」ことがリモートワークの前提になる。

当社の研究調査によれば、「自律的に働く」ためには、本人の努力とともに、周りからの支援が行動促進につながっていることがわかっている※2
「自律」の定義は「自分で規範を決めて、その規範に沿って行動すること」であるが、「規範を決めること」も「規範に沿って行動すること」も実行するのは案外難しい。

「規範を決めること」とは、何をやるのか決めることであるが、それは組織側からの期待や組織のビジョン・戦略を考慮したものである必要がある。単に自分がやりたいことをやるのであれば、それは自由奔放、わがままであって、組織の中では許されない。自分がやりたいことと組織からの期待との統合によって、個人の仕事が決まってくる。そういう意味では、目標設定時に、上司は部下のやりたいことを引き出し、納得がいくまでコミュニケーションを行い、部下のやりたいことと組織からの期待の統合を丁寧に行うことが、リモートワークで、自律的に働くことの肝になる。

また、「規範に沿って行動する」ためには、上司の伴走が必要である。本人だけの努力で成し遂げられるほど、人は強くない。そのために、定期的に、進捗確認を行い、成果を達成するための助言を行っていくようなマネジメントが求められる。
いわゆる上意下達のコマンド型マネジメントから自律支援のコーチ型マネジメントへの転換である。HRM施策としては、そのようなスタンスやスキルを身につけるマネジャー研修が必要になってくると考えられる。

加えて、リモートワーク前提でのマネジメントに対応して、人事評価制度に関しても、再考が必要になる会社も多いだろう。もともと人事評価制度の問題点があった会社は、リモートワークへの移行の際に、その問題が露呈してきたという話もよく聞く。また、もともとの問題がなかった会社でも、日常的に直接観察できない部下に対する評価をしなければならないので、相応の工夫が求められる。

※2  リクルートマネジメントソリューションズ(2020)「自律的に働く」RMS Message59号
https://www.recruit-ms.co.jp/research/journal/pdf/j202008/m59_all.pdf

「人材マネジメント」のまとめ

人材マネジメントに関して、以下のことを述べた。

  • 戦略的人材マネジメント(SHRM)には、「ユニバーサリスティック・アプローチ(ベストプラクティス・アプローチ)」「コンティンジェンシー・アプローチ」「コンフィギュレーショナル・アプローチ」の3つのアプローチがある
  • これらはどれか1つを選べばいいというものではなく、施策を考える際には、3つのアプローチすべてを考慮するのがよい
  • SHRMは、戦略を前提にした人材マネジメントであるが、必ずしも戦略を前提にする必要はない。自社において、何を重視してHRM施策を考えているのか、大転換期には、改めて考える必要がある
  • リモート下における人材マネジメントとしては、メンバーが「自律的に働く」ことが前提となり、その定義は「規範を決めること」と「規範に沿って行動すること」である
  • 「規範を決める」ため上司は、経営の方向性や戦略とともに部下への期待を伝える。また、目標設定時に、部下のやりたいことを引き出し、納得がいくまでコミュニケーションを行い、部下のやりたいことと組織からの期待の統合を丁寧に行うこと。「規範に沿って行動する」ためには、定期的に進捗確認を行い、成果を達成するための助言を行っていくようなマネジメントが求められる

次回は「働き方とキャリア」に関して論じたい。

編集部より書籍紹介

ジョブ型人事制度、1on1、OKR、働き方改革……1冊で最新人事用語がすべてわかる! 『いまさら聞けない 人事マネジメントの最新常識』

企業の働き方改革や人材育成・マネジメントを支援してきたリクルートマネジメントソリューションズ・組織行動研究所の専門家が編集しているのが特徴だ。人事の仕事に初めて就く人の「入門書」となることはもちろん、ベテラン人事が「知の再発見」を提供する。人事に限らず、現場のマネジメントに関わる管理職にもおすすめの一冊だ。
内容は、働き方改革関連法、パワハラ防止法、女性活躍推進法改定、新型コロナウイルスの影響などにともない、人事やマネジメント層に求められる業務も多様化・複雑化している背景のもと、「1on1」「OKRとノーレーティング」といった新しいキーワードから、「採用面接」「OJTとOff-JT」などの定番用語まで幅広く解説している。

【出版概要】
出版社:日経BP 日本経済新聞出版本部
発売日:11月17日(火)
価格:1,000円(税抜)
版型:単行本(小B6判・新書)
ページ数:184ページ
詳細:https://www.recruit-ms.co.jp/press/book/
http://amzn.to/3oc5Q0i(amazon.co.jp)

【目次】
第1章 採用と人材の戦力化
 インターンシップ、リファラル採用ほか
 Column ゆれる就職活動
第2章 育成と能力開発
 1on1、アダプティブ・ラーニングほか
 Column リモートワークで育成はできるか
第3章 組織開発と関係性構築
 チームビルディング、心理的安全性ほか
 Column 社員が自発的に働く職場とは?
第4章 人材マネジメント
 ジョブ型とメンバーシップ型、OKRとノーレーティングほか
 Column ジョブ型人事制度のワナ
第5章 働き方とキャリア
 働き方改革、同一労働同一賃金、シニアの働き方ほか

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