いまさら聞けない人事マネジメントの最新常識

第3回「組織開発と関係性構築」

「1on1」「OKRとノーレーティング」「働き方改革」といった新しいキーワードから、「採用面接」「OJTとOff‐JT」などの定番用語までを幅広く網羅し、最新の心理学やキャリア研究の知見などを取り入れつつ、人事・総務担当者の実務に役立つポイントをリクルートマネジメントソリューションズの専門家が紹介します。
第3回目のテーマは「組織開発と関係性構築」です。「個と組織」の関係性から、人材開発と組織開発の本質と求められるアプローチ、最後はテレワーク下で組織開発を推進するために有効な戦略について組織行動研究所所長の古野庸一氏が解説します。

【関連記事】
第1回「採用と人材の戦力化」
第2回「育成と能力開発」

目次

  1. 人事が戸惑いやすい「組織へのアプローチ」を紐解く
  2. 個と組織の関係性とパフォーマンス
  3. 人材開発と組織開発の意義とねらい
  4. チームの「心理的安全性」を高めるためリーダーに求められる8つのこと
  5. テレワーク下における組織開発
  6. 「組織開発と関係性構築」のまとめ
  7. 編集部より書籍紹介

人事が戸惑いやすい「組織へのアプローチ」を紐解く

人事として、採用や育成や異動・配置のように、一人ひとりにアプローチすることに慣れていても、組織全体に対する介入や人と人の関係性にアプローチしていくことに戸惑いを感じている人は少なくない。しかしながら、組織のパフォーマンスを考える上では、組織全体や人と人の関係性を進展させていくことは意味深い。そのような組織の進展について、本稿では扱っていきたい。

個と組織の関係性とパフォーマンス

組織の定義はさまざまあるが、バーナードは、ある目的を実現するために集まった集団を組織と呼んでいる※1
一人ひとりの個人の能力を単純に足し合わせたものが全体の能力になると考えられるが、実際には、単純に足し合わせたものよりも全体のほうが大きくなったり、小さくなったりすることがある。個人間あるいは組織と個人間での相互作用が働くということである。

アダム・スミスは、『国富論』の中で組織の能力を語る際に、ピン製造の話を持ち出している※2 。ピンを造るのに、一人で精一杯働いたとしても一日1本のピンも造ることができないけれども、工程をいくつかに分けて、分業することによって、10人で48000本造ることができる例を示している。部分の和より全体の和のほうが大きい例である。

ピン製造の話は、分業の話、つまり仕事の業務設計に関わる話であるが、組織のパフォーマンスを考える場合、心理的な影響も無視できない。たとえば、自分と同じチームのメンバーが懸命に働いていることに感銘を受けて、自分も懸命に取り組むということは、よく起こることである。あるいは、落ち込んでいるときに仲間から励まされて、頑張ってみようと思うこともある。

一方で、仲間が懸命にやっているから、自分は手を抜いてもいいと思うこともある。個人が集まって組織は作られるが、個人は組織の影響を受け、個人のパフォーマンスや組織のパフォーマンスは変化する。

※1  C.I.バーナード(1968)『経営者の役割』山本安次郎訳 ダイヤモンド社
※2   A.スミス(2000)『国富論』水田洋監訳 杉山忠平訳 岩波書店

人材開発と組織開発の意義とねらい

経営を行う上で、組織のパフォーマンスを高めることは重要課題の一つである。その際に、その構成員一人ひとりにアプローチしていくことが人材開発であり、当人に対して、パフォーマンスを高める研修を施すことが一般的である。あるいは、当人の上司に対して、部下育成に関する教育を施行していく。

そのような人材開発に対して、組織全体の関係性や相互作用に介入していく手法を組織開発と呼ぶ。
当人への育成施策ではなく、当人と上司の相互のコミュニケーションを促進していくことや構成メンバー全員参加のワークショップを行い、良好な関係性を構築し、パフォーマンスを高める相互作用を促進することが組織開発アプローチである。

チームの「心理的安全性」を高めるためリーダーに求められる8つのこと

チームのパフォーマンスを高めるための条件として注目を集めている概念が「心理的安全性」である。
心理学者のエドモントソンによれば、「心理的安全性」とは、自分の考えや感情について、不安なく自由に発言できる雰囲気を指す※3。心理的安全性が醸成されれば、都合が悪い真実に目を向けて話し合いをすることができる。そのような話し合いを通じて、避けられる失敗を回避することができ、イノベーションは促進され、メンバーのコミットメントやエンゲージメントを高めることができる

しかしながら、そのような心理的安全性を実現するのは難しい。何らかの発言をする際、無知と思われないか、後ろ向きだと思われないか、あるいは会議の進行を遅らせることにならないだろうかという不安や思惑が働き、実際には、必要な発言ができないのも事実である。
「心理的安全性」を高めるキーパーソンは、そのチームのリーダーである。エドモントソンは、心理的安全性を高めるために、リーダーに次のようなことを求めている※4

・メンバーの率直な発言が必要なことを宣言する
・チームの目的を明確にする
・リーダーが完璧でないことを示す
・探求的な質問をする
・意見を引き出す仕組みをつくる
・感謝を表す
・失敗を奨励する
・チームの約束に違反にした人に対して制裁措置をとる

心理的安全性を高めるための項目として、意識的に取り入れてみる価値はあるだろう。

※3 A. C. エドモントソン(2014)『チームが機能するとはどういうことか』野津智子訳 英治出版
※4 A. C. エドモントソン(2021)『恐れのない組織』野津智子訳 英治出版

テレワーク下における組織開発

テレワーク下において、コミュニケーションの問題が浮上している。
Web会議システムの普及に伴って、上司と部下間でのコミュニケーションやチーム内でのコミュニケーションは、比較的円滑に行われている例も増えてきている。しかし、オフィスで、お互い顔が見えることで成り立っていた、ちょっとした相談や雑談が難しくなっている。また、偶然のコミュニケーションや斜め横の上司やチームを超えてのコミュニケーションも容易でなくなっている。

新型コロナウィルス拡大が終息した後においても、テレワークを継続していくことを前提にするのであれば、経営者や人事は、オンラインによる戦略的なコミュニケーション・デザイン、戦略的な組織開発を考えておく必要がある。

オンラインで、隣の部署や隣のグループの上司とのインフォーマルなランチ会を行うことで、雑談や偶然のコミュニケーションを誘発する仕組みをつくる。経営幹部から毎週スピーチを開催していくことで、組織に対して“遠心力が働きやすい”テレワーク下で求心力を高める。
逆に、オンラインで、社員から、自分の仕事をアピールする場や経営に対する提言を行う場を設ける。あるいは、社内有志によるインフォーマルなオンライン勉強会を開催し、誰でも参加できるようにする。

上のようなインフォーマルなコミュニケーションは、オンラインのほうが、場所の制約がない分、気軽に行うことができる。対面リアルを前提にしたコミュニケーション・デザインではなく、オンラインならではの特徴を活かして、新たな組織開発を戦略的に行っていく必要な段階にあると考えられる。そのためには、人事だけではなく、経営者とともに、社内広報や総務とも連携して促進していく必要があるだろう。

「組織開発と関係性構築」のまとめ

組織開発と関係性構築に関して、以下のことを述べた。

  • 個人が集まって組織は作られるが、個人は組織の影響を受け、個人のパフォーマンスや組織のパフォーマンスが変化する
  • 織の構成員一人ひとりにアプローチしていくことが人材開発。それに対して、組織全体の関係性や相互作用に介入していく手法を組織開発と呼ぶ
  • 最近、「心理的安全性」が注目を集めており、そのキーパーソンはリーダーとなる
  • 今後はオンラインによる戦略的なコミュニケーション・デザインや組織開発を考える必要があり、オンラインに向いているインフォーマルな場を活用して促進するとよい

次回は「人材マネジメント」に関して論じたい。

編集部より書籍紹介

ジョブ型人事制度、1on1、OKR、働き方改革……1冊で最新人事用語がすべてわかる! 『いまさら聞けない 人事マネジメントの最新常識』

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出版社:日経BP 日本経済新聞出版本部
発売日:11月17日(火)
価格:1,000円(税抜)
版型:単行本(小B6判・新書)
ページ数:184ページ
詳細:https://www.recruit-ms.co.jp/press/book/
http://amzn.to/3oc5Q0i(amazon.co.jp)

【目次】
第1章 採用と人材の戦力化
 インターンシップ、リファラル採用ほか
 Column ゆれる就職活動
第2章 育成と能力開発
 1on1、アダプティブ・ラーニングほか
 Column リモートワークで育成はできるか
第3章 組織開発と関係性構築
 チームビルディング、心理的安全性ほか
 Column 社員が自発的に働く職場とは?
第4章 人材マネジメント
 ジョブ型とメンバーシップ型、OKRとノーレーティングほか
 Column ジョブ型人事制度のワナ
第5章 働き方とキャリア
 働き方改革、同一労働同一賃金、シニアの働き方ほか

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