いまさら聞けない人事マネジメントの最新常識

第2回「育成と能力開発」

「1on1」「OKRとノーレーティング」「働き方改革」といった新しいキーワードから、「採用面接」「OJTとOff‐JT」などの定番用語までを幅広く網羅し、最新の心理学やキャリア研究の知見などを取り入れつつ、人事・総務担当者の実務に役立つポイントをリクルートマネジメントソリューションズの専門家が紹介します。
第2回目のテーマは「育成と能力開発」です。コロナ禍で人材育成・能力開発の現場でもオンライン化が進んでいます。こうした状況下で育成担当者や現場のマネジャーはどのような観点や手法を考えていけば良いのか。組織行動研究所所長の古野庸一氏が解説します。

【関連記事】第1回「採用と人材の戦力化」

目次

  1. 新型コロナウイルスがもたらした人材育成・能力開発の変化
  2. OJTとOff-JTの境界があいまいになってきている
  3. オンライン時代だからこそ問われる企業人事の学びへの関わり方
  4. リモートワーク下での1on1
  5. これからの学び
  6. 「育成と能力開発」のまとめ
  7. 編集部より書籍紹介

新型コロナウイルスがもたらした人材育成・能力開発の変化

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、多くの企業で、オンラインでの人材育成を半ば強制的に検討・実行せざるを得ない状況である。そのようなオンラインでの人材育成に代表されるように、企業内での人材育成・能力開発は、近年、大きな変化が起こっている。どのような変化が起きているのか、それに対して企業はどのように対応しているのか、概観してみたい。

OJTとOff-JTの境界があいまいになってきている

企業における人材育成手法は、OJTとOff-JTに大別される。OJTとは、On the Job Trainingの略で、実際の仕事を通して行われる教育である。一方で、Off-JT(Off the Job Training)は職場を離れて行わる教育である。企業における教育は、OJTが主であり、職場の上司や先輩から指導を受けたり、業務を通して、自らが知識を覚え、スキルを磨いていったりしているのが実態である。

OJTとOff-JTという概念は、リモートワーク主体の働き方になっても変わらないフレームであるが、OJTとOff-JTの境界線があいまいになってきていることが今日的である。Off-JTというのは、職場から離れた学習であることには変わりはないのだが、テクノロジーのおかげで、職場に居ながら、職場から離れることができるのである。つまり、会議の途中で、わからないことがあれば、インターネットで検索することもできるし、知り合いの専門家にSNSで質問することもできる。

オンライン時代だからこそ問われる企業人事の学びへの関わり方

また、職場において、ちょっとした隙間時間に、オンラインでの講座を学べることが可能になってきているので、職場での学びなのか、職場から離れての学びなのかという観点では、その境界は不明確になってきている。

新型コロナウイルス感染拡大に伴って、学習コンテンツを提供する側が、リアル対面での講座をオンラインで置き換えるケースは拡大している。それゆえ、私たちは勤務中に気軽にオンライン講座を受けることができる。しかも、新型コロナウイルス感染拡大は世界的な現象ゆえに、オンラインでの講演・講義は、諸外国でも増えている。一昔前なら、そう簡単に聞けなかった、海外の貴重な講演を手軽に勤務時間中に聞ける時代になった。

しかしながら、そのようなオンラインでの学びは、企業人事が意図しなければ、個人の自主性に依存しがちになる。学ぶ人はどんどん学ぶけれども、学ばない人は学ばない。そこでは学びの格差が起こりつつある。また、そもそもOJTでの学びは、上司・部下との関係性や職場の環境によって、学びの進度が異なることも考えられるので、あらためて、この時代において、強制的に職場を離れた学び(Off-JT)に関して、企業人事が意図的に設計する意義があると考えられる。

リモートワーク下での1on1

1 on 1ミーティング(ワン・オン・ワンミーティング、以降:1on1)とは、上司と部下の間で、特に用件がなくても定期的に行う対話である。上司・部下間でのコミュニケーション頻度が減る中、従業員のエンゲージメントを高めることを目的にして、米国に急速に普及し、近年、日本でも取り入れる企業は増加した。

導入目的は、「問題の早期発見」「従業員のリテンション促進」「パフォーマンスの向上」等である。また、実際に行われている内容は、進捗管理、アドバイス、知識付与、キャリア相談、行動変容など様々である。
リモートワーク下において、1 on 1は、部下マネジメントの常套手段になりつつある。1on 1は、上司からすると、職場で目にすることができない部下の状態を把握し、サポートするには便利な施策であり、部下からすると、困りごとの相談や精神的なサポートなどをもらえる機会である。

しかしながら、各社において、1 on 1時に必要なスキルを持っていない上司も少なくないことが課題になっている。ここで求められているスキルは、「傾聴スキル」「承認スキル」「フィードバックスキル」などである。それぞれのスキルは、後天的に身につけられるものであるが、勘と経験だけで身につけられるものではない。一般的に、優秀なマネジャーであっても、コミュニケーションの癖があるので、専門家からの指摘や指導によって、学ぶ必要があるスキルであると考えられる。

これからの学び

これからの学びの特徴をひとことで言うとしたら、「パーソナライズ」である。学習者が置かれた環境、学習者の得意・不得意あるいは学習進捗状況に応じて、個人ごとに最適な学習を提供することは、技術の発達に伴い、可能になってくる。
学習者が一堂に集まり、同じ指導者によって、同じ教材で、同じプログラムで行うことの良さはある。そのようなやり方は、一般には効率的であり、仲間とともに切磋琢磨して学ぶのに適しており、新入社員研修などは、一律のプログラムで行うことも多い。しかしながら、人によって状況は違っており、一人ひとりに応じた学習のほうが、個人の意欲喚起にもつながるし、学ぶ速度も高まるとも考えられている。

それぞれの状況に応じて学ぶという意味では、アダプティブ・ラーニングという手法もその一つである。一人ひとりの学習履歴を活用して、苦手なところを重点的に行うことや得意なことを伸ばすような学習コンテンツを提供していくような仕組みである。学校教育で取り入れている仕組みであり、企業内教育において、これから期待される領域と考えられるだろう。

これからの学びという観点でもうひとつ付け加えるとすれば、職場で先輩の背中を見て育つという機能を、リモート下において、どのように補っていくのかである。同じチームで働く機会があれば、他のメンバーがどのように働いているのか見たり聞いたりすることはリモート下でもできるが、他のチームのメンバーやその他のチームの上司、つまり“斜め上の上司”との関係は、リモート下では浅くなることが予想される。

今、考えられる方策は、リモート下でも、そのような機会を意図的につくることである。隣のチームの人や斜め上の上司と合同でオンライン・ワークショップを行う。もっと気軽にオンラインでのランチ会を行うような機会を増やしていく。あるいは、オンラインでのインフォーマルな勉強会を増やしていき、社内でのコミュニケーションの場を増やしていく。

また、勉強会も一方向ではなく、グループワークや双方向のやり取りができるような仕掛けにしていくことで、企業内での縦横斜めのコミュニケーションを増やし、学びの機会を増やしていくことが得策ではないかと考えられる。これまで自然にできていたことを、意図的に取り組んでいくことも、リモート下での学びという観点では必要なことだろう。

「育成と能力開発」のまとめ

育成と能力開発に関して、以下のことを述べた。

  • テクノロジーの発達に伴い、OJTとOff-JTの境界があいまいになった。また、いつでも手軽に学べる環境になったことで、個人の意欲によって学びに格差が生まれている。強制的に職場を離れた学びを、今あらためて、企業が意図的に設計する意義がある
  • リモートワーク下において常套手段になりつつある1 on 1には、「傾聴スキル」「承認スキル」「フィードバックスキル」が求められ、専門家から学ぶ必要がある
  • 今後の企業内教育において「アダプティブ・ラーニング」のように、個人ごとに最適な学習を提供することが期待される。また企業の学びの機会を増やすために、縦横斜めのコミュニケーションを意図的に増やすことも必要

次回は「組織開発と関係性構築」に関して論じたい。

編集部より書籍紹介

ジョブ型人事制度、1on1、OKR、働き方改革……1冊で最新人事用語がすべてわかる! 『いまさら聞けない 人事マネジメントの最新常識』

企業の働き方改革や人材育成・マネジメントを支援してきたリクルートマネジメントソリューションズ・組織行動研究所の専門家が編集しているのが特徴だ。人事の仕事に初めて就く人の「入門書」となることはもちろん、ベテラン人事が「知の再発見」を提供する。人事に限らず、現場のマネジメントに関わる管理職にもおすすめの一冊だ。
内容は、働き方改革関連法、パワハラ防止法、女性活躍推進法改定、新型コロナウイルスの影響などにともない、人事やマネジメント層に求められる業務も多様化・複雑化している背景のもと、「1on1」「OKRとノーレーティング」といった新しいキーワードから、「採用面接」「OJTとOff-JT」などの定番用語まで幅広く解説している。

【出版概要】
出版社:日経BP 日本経済新聞出版本部
発売日:11月17日(火)
価格:1,000円(税抜)
版型:単行本(小B6判・新書)
ページ数:184ページ
詳細:https://www.recruit-ms.co.jp/press/book/
http://amzn.to/3oc5Q0i(amazon.co.jp)

【目次】
第1章 採用と人材の戦力化
 インターンシップ、リファラル採用ほか
 Column ゆれる就職活動
第2章 育成と能力開発
 1on1、アダプティブ・ラーニングほか
 Column リモートワークで育成はできるか
第3章 組織開発と関係性構築
 チームビルディング、心理的安全性ほか
 Column 社員が自発的に働く職場とは?
第4章 人材マネジメント
 ジョブ型とメンバーシップ型、OKRとノーレーティングほか
 Column ジョブ型人事制度のワナ
第5章 働き方とキャリア
 働き方改革、同一労働同一賃金、シニアの働き方ほか

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