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高年齢者雇用安定法の改正にあわせて再検討したいシニア人材の活用【後編】

70歳まで活躍できるキャリアプランとは? 今後の人事制度に求められる新たな仕組み

皆様、株式会社Works Human Intelligenceの伊藤裕之です。
20年近く、統合人事システム「COMPANY」の導入・保守コンサルタントとして、大手法人の制度変更、業務改善、運用などの課題と向き合ってきました。
今回の記事では、4月に施行が予定されている改正高齢者雇用安定法について概要を整理したうえで、各企業が高年齢者の持つ力をいかに戦略的に活用することができるかについて、前・後編にわたり考察を行っています。

後編は、高年齢者の雇用状況について厚生労働省の統計データを参照しながら、高年齢者雇用を企業がどのように実践すればメリットや価値を生み出せるのか、制度活用のポイントを中心に解説します。
人事・総務担当者にとって、施行に向けた準備や今後の制度・運用の見直しの際に、本コラムが検討や解決の一助となれば幸いです。

※こちらの記事は下記の人事トレンド紹介コラム「高年齢者雇用安定法の改正にあわせて、制度を戦略的に活用するための3大ポイントとは」を@人事の読者様向けに一部編集させていただいております。
https://www.works-hi.co.jp/businesscolumn/elderly_utilization

【前編はこちら】70歳まで活躍できるキャリアプランとは? 高齢者雇用安定法の意義と2021年4月施行の改正点を整理

目次

  1. 各種統計から見る高年齢者雇用の状況
  2. 数字上は高年齢者雇用を確保できているが・・・各企業にメリットは?
  3. 高年齢者雇用のメリットや価値を生み出す、制度活用のポイント
  4. まとめ ~未来の自分自身のために

各種統計から見る高年齢者雇用の状況

さて、前編を踏まえたうえで、現在の高年齢者雇用の状況を確認してみましょう。

現在の高年齢者雇用の状況


(出典)令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-

統計上では、ここ10年で各年代とも就業率が向上しており、15歳~64歳の人口減少にもかかわらず労働者人口は増加していること、60歳以降の高年齢者の就業率は、2012年近辺を境に上昇傾向にあり、高年齢者雇用安定法の改正(現行制度)の効果が現れていることが読み取れます。
企業の高年齢雇用継続への対応状況も確認してみましょう。先般、厚生労働省より発表されております、「令和2年『高年齢者の雇用状況』」から確認します。


(出典)厚生労働省 令和2年「高年齢者の雇用状況」

上図からわかる通り、高年齢雇用の確保を行っている企業は、現行制度施行以降、ほぼ99%に達しており、昨年はついに99.9%まで到達しました。
こちらも数字上は、すでに実施目的を達成していると判断できます。


(出典)厚生労働省 令和2年「高年齢者の雇用状況」

雇用確保の方法については、全企業の76.4%(300名以上の企業の86.9%)が「継続雇用制度の導入」と回答しています。
定年の引き上げ、廃止ではないことから、継続雇用に伴って、人事等級や評価、報酬といった待遇面、勤務形態や仕事内容や役割といった職務面に見直しが入る制度設計になっているケースが多いと考えられます。
今回の改正対象となっている、66歳から70歳までの雇用確保の状況はどうでしょうか。


(出典)厚生労働省 令和2年「高年齢者の雇用状況」

希望者全員を継続雇用している企業は、全体で約12%、従業員数301人以上の比較的大規模な企業では約5%にとどまっています。逆に言えば、今回の改正に伴い、数の上では大幅な労働力の確保が可能となるかもしれません。

非正規雇用者の年齢別の割合推移

次に、非正規雇用者の年齢別の割合推移を見てみましょう。



(出典)令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-

上図から、65歳以上を中心に55歳以上の年齢層における非正規雇用労働者の割合が、2012年前後を境に上昇ないしは高水準で推移しており、高年齢層の就業人口の確保が非正規雇用を中心として実現されているということが確認できます。
また、独立行政法人労働政策研究・研修機構の2019年の調査からもその傾向が見受けられます。

60代前半の継続雇用者の雇用形態(%)

そして、以下の図からもわかる通り、一般的には60歳以降は業務量自体を減らす、あるいは責任範囲や分量を縮小することが多いようですが、3分の1程の企業においては、そのまま継続するという傾向にあります。

※図は出典:厚生労働省「高年齢者雇用の現状等について」より、独立行政法人労働政策研究・研修機構 「高年齢者の雇用に関する調査」 (企業調査)」(2019年) 【速報値】をベースとして作成

60代前半の継続雇用者の 定年前(60歳頃)と比べた仕事の内容や責任の変化(単位:%)

さらに、継続雇用者の配置を行う際に考慮する点として注目したいのが、大企業の半数近くが「技能やノウハウの継承が円滑に進むこと」を挙げている点です。
多くの企業側にとって、従業員の定年までに必要な技能やノウハウの継承を行いづらい状況にあるという課題があると考えられます。

※図は出典:厚生労働省「高年齢者雇用の現状等について」より、独立行政法人労働政策研究・研修機構 「高年齢者の雇用に関する調査」 (企業調査)」(2019年) 【速報値】をベースとして作成

60代前半の継続雇用者を配置する際に配慮している点(単位:%)

賃金については、再雇用前の50%~90%の支給となっているケースが多く、平均で70%程度です。

※図は出典:厚生労働省「高年齢者雇用の現状等について」より、独立行政法人労働政策研究・研修機構 「高年齢者の雇用に関する調査」 (企業調査)」(2019年) 【速報値】をベースとして作成

60歳直前の賃金を100とした場合の61歳時点の賃金水準の分布 (単位:%)

※図は出典:厚生労働省「高年齢者雇用の現状等について」より、独立行政法人労働政策研究・研修機構 「高年齢者の雇用に関する調査」 (企業調査)」(2019年) 【速報値】をベースとして作成

数字上は高年齢者雇用を確保できているが・・・各企業にメリットは?

以上、統計情報をもとにして、高年齢者の雇用確保状況について見てきました。

数字上は、ほぼ全ての企業が高年齢者雇用安定法に対して取り組みを実施しており、実際の就業者数としてはその成果が出ていることが見て取れます。
その一方で、多くの高年齢者が非正規雇用契約や、定年前の給与から何割かの報酬減へ変更して働いています。
果たして、この状態で労働力人口の減少に対して、高年齢者の雇用で補完ができているといえるでしょうか。

高年齢者雇用のポジティブな感想やメリット

一般的に、高年齢者の雇用事例として紹介される企業のポジティブな感想や実施のメリットとして、下記のようなものがあげられます。

  • 高年齢者が生き生き働くことによる周囲への好影響(地域社会等への貢献)
  • 若手社員に対しての見本となる
  • シニア社員はお客様への安心感がある
  • 自社の技術はシニアに支えられていて、無くてはならない存在である

確かにそのような面はあるかと思いますが、冒頭に記載した「労働力人口の減少を補完する」といったポイントは出てきていません。国や政府の方針や目的の実現には至っておらず、「制度実施によって、企業側にそれほどのメリットや価値が発生していないのではないか」という疑問があります。

高年齢者雇用のデメリットやリスク

さらには、メリットばかりではなく、次のようなデメリットやリスクが出てくることも考えられます。

  • 雇用は確保され、一定の給与はもらえるが、雇用の終わりが見えている中で周囲と同じモチベーションが保てない
  • 周囲の従業員から、パフォーマンスが出ていないのに自分と同等かそれ以上の給与をもらっている、と不満が出てくる

各企業で65歳の雇用継続対応に向けた各種制度が整い、運用が始まっている状況ではありますが、現時点では雇用は非正規雇用が中心となっているため、その活用は限定的である可能性が高いです。
その現状を踏まえた上で、戦略的なシニア雇用の制度活用を検討する必要があるのではないでしょうか。

高年齢者雇用のメリットや価値を生み出す、制度活用のポイント

本稿では、シニア雇用における制度活用の検討ポイントを下記に置きます。

「60歳以降(再雇用後)だけではなく、もっと早いタイミングから、60歳以降のキャリアプラン(ライフプラン)を想定した人事制度設計とする必要があるのではないか 」

どのような視点においても高年齢者の活用は待ったなしです。であれば、その活用時期から逆算したプランを用意するのは自然な流れだと考えます。

前提

まず、次のことを前提において検討します。

・各企業は否応なく高年齢者の雇用安定に取り組まなければならない
→法律上にも社会構造上でも避けて通れない問題です。

・戦略的な実施は企業にとって、イメージ面でもメリットがある
→高年齢者雇用の先進事例や活用事例、さらに、そのためのキャリアプランの準備と提示は、「社会全体の課題解決に取り組んでいる」というプラスの評価につながります。

・コロナ禍により海外からの労働力確保が難しい
→昨今のコロナ事情を踏まえた場合、海外からの労働者確保が現時点では困難であり、見通しが立たない状況です。高年齢者(もう少し枠を下げて中高年層)の活用が最も現実的といえるでしょう。

次に、具体的な対応策について検討してみます。

対応策①:60歳以前から、個人でパフォーマンスを出せるスキルが身に付くキャリアプランを策定する

通常の制度設計では「管理職になる=年功序列型の職能給が最大化する」となっていることがほとんどです。そのため、50歳近辺までキャリアプランの中心が「管理職になるかどうか」となり、各個人のスキル向上やパフォーマンス向上に着眼したキャリアになりづらい傾向にあります。

職能資格制度において、管理職等級へのキャリアアップを否定することは、若手社員時代の「投資」(将来的な昇給を前提として若手時代は比較的低賃金で働く)に報いることができなくなるため、企業として手を打ちづらい点ではあります。
しかしながら、職能資格制度における能力評価や行動評価は、個人のスキルやパフォーマンスが定量的に評価されづらいため、特に技術系以外の社員にとっては、専門的なスキルや経験を主体的に身につけ、活用できる期間が短くなります。
その結果、定年近くに管理職から外れた時に、個人として能力を発揮できる業務領域や職務が少ない(ないしは明確でない)という傾向にあります。
仮に、モチベーションが上がらず、「若手にとって見本とならない」元管理職が増えれば、会社としても彼らを再雇用してどう活用するか、扱いに困るという結果につながりかねません。

そのためには、すべての社員が何らかの専門性を持つためのキャリアプランが必要です。60歳間際になって各個人で考えても手遅れなので、人事担当者が中心となり企業側が逆算したキャリアプランを準備し、それに紐づく教育や訓練が必要となります。
また、若手から見ても、スキルや技術を持った社員が長期間活躍できるようなキャリアプランが不明確であったり、そうした社員が満足な処遇を得られず不満を抱えていたりするというケースがあります。こうした場合は若手自身も将来に向けて不安を覚える可能性があるため、その観点においても上記のような対策は必要になってくるのではないでしょうか。

対応策②:管理職⇔非管理職の行き来を前提としたキャリアの複線化

対応策①を実現するためには、管理職と非管理職のキャリアの複線化が必須となります。
今となっては制度として定着した感のあるキャリアの複線化ですが、管理職⇔非管理職の役割の行き来を可能としているケースは、どれだけあるでしょうか?

キャリアを複線化しても、「管理職至上主義」で賃金や処遇差が大きい場合、必然的に非管理職への転換はネガティブ要素としてとらえられるため、それをポジティブに受け止める従業員は少ないでしょう。まずは、「余人に代えがたい専門的なスキルを早くから保持すること」を高く評価し、それを処遇する制度を検討することが必要となります。

そのための手段の一つとして「ジョブ型人事制度」の概念を利用してもよいかもしれません。本来の欧米型の「ジョブ型雇用」とは異なるものの、企業の目標を達成するために必要なジョブ(職務)と、そのジョブ(職務)を実現するために必要なスキルを明確化し、それを極めることを高く評価すると宣言しておけば、各社員が専門性を生みだす源泉につながりやすいと考えられます。

【参照】「ジョブ型雇用とは?誤解されやすいポイントと日本企業が導入する際に考えるべきこと」

副次的なメリットとしては下記のようなことが考えられます。

・ジョブを明確にしておくことで、中高年層のキャリア採用がしやすくなる可能性が高い
・「就職氷河期」で採用のミスマッチやキャリア形成に苦しんだ層(現在の40歳~45歳)が転職市場に増えてくる可能性が高い

外部市場への採用拡大と、既存の中高年層のレベルアップ、そして納得感の結果として、長期の定着と人員確保につながるのではないでしょうか。

対応策③:副業の活用支援=「自分のスキルで稼ぐ」準備

もう一つ、セットで考えることが可能なのが副業制度です。
昨年、厚生労働省からも、副業・兼業の促進に関するガイドライン が発表されました。
これまで属した企業内のキャリアや経験に必ずしも頼ることなく、自分のスキルを再認識し、不足を補い磨くという点で副業の活用は効果的であると考えられます。
副業で得た経験を本業側で生かしたり、企業へのフィードバックを行ったりすることも効果の一つとなります。

【参照】副業・兼業の促進に関するガイドライン平成30年1月策定(令和2年9月改定)厚生労働省

まとめ ~未来の自分自身のために

高年齢者雇用の対応策についてさまざまな点で検討すべき点を挙げました。着手が困難な方針もあると考えますが、単に高年齢者の雇用を確保しておけばよいという状態に比べれば、企業側にもメリットや価値の創出が見込まれるのではないでしょうか。
最後に高年齢者雇用安定法の改正を受け、今後の人事制度に求められる新たな仕組みを考えるためのポイントを整理してまとめとします。

早い段階で10年後、20年後のキャリアイメージを作っておくことが、若手社員の安心にもつながる 

現時点で優秀な社員が押しなべて転職や起業に積極的というエビデンスは見出しづらく、少なくとも一般的な日本の会社員にとってのファーストチョイスは、「長く今の企業で働き、その中で活躍・成長する」ということになります。
したがって、「多様なキャリアプランの準備」「ネガティブな中高年層の減少」は、若手社員の退職リスクを減らし、企業へのエンゲージメントを高める効果があると考えます。

スキルを持ったベテラン社員が多い方が、組織ひいては企業のパフォーマンスの向上につながる

プレイヤーとして優秀な社員が、必ずしも管理職として高いパフォーマンスを発揮できるかどうかはわかりません。
本来、組織内の各メンバーのモチベーションを維持し、個々のパフォーマンスの成果を組織のパフォーマンスに昇華するという、管理職に求められるスキルや能力は、プレイヤーとしてのスキルと能力とは、必ずしも一致しないからです。
より高い専門性やスキルを身に付けさせたほうが確実なメンバーであれば、無理に管理職を目指すのではなく、適性に合ったキャリアを準備しておくことが良いと思われます。また、そういった制度を準備しておくことで、多くの適切な人材が社内外から集まり、結果として組織や会社のパフォーマンスを増大させることにつながるのではないでしょうか。

とはいえ、超えるべき課題も多くあります。

  • どうしても定着してしまっているであろう「管理職至上主義」を労使ともに脱却できるか
  • ジョブやパフォーマンスに対する正当な処遇、報酬の支給ができるか(誰がその価値を評価できるのか)
  • すでにスキルアップが厳しくなっている(あるいはそう感じてしまっている)50歳以上対象者へのサポート、処遇、モチベーションの維持

60歳を超えて働くことが当然となる社会は、いずれ多くの社会人が経験するであろう未来です。
単に会社の制度を考えるだけではなく、想像される自分自身の10年後、20年後の仕事や人生の将来から逆算して、「こういう未来につながればいいな」という観点から検討がなされれば良いのではないか、を最後のまとめとします。【おわり】

【前編はこちら】70歳まで活躍できるキャリアプランとは? 高齢者雇用安定法の意義と2021年4月施行の改正点を整理

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