研修マスターの6つ星"指南術"

【第4回】育成側の成長が、新入社員の成長エンジン

新入社員の心理に沿ってかかわることの重要性

入社式に入社時教育、そして配属前の研修など、新入社員の入社前~配属までは、新入社員の育成にあたる人材育成担当者も多いのではないでしょうか。そんな中、新入社員に接するときどんなことを考えながら接しているでしょうか? 「彼らを一人前にしなければ」「配属先で困らないように」「わが社の人材として恥ずかしくない振る舞いができる人に」など、色々な思いがあるかもしれません。

そんな方に知っておいてほしいのが「新入社員にとって」という視点。この期間のかかわりというのは、新入社員の配属後の成長やエンゲージメントにつながる重要なポイントです。そこで、新入社員の「気持ち」を理解し、新入社員の心理に沿ってかかわることの重要性とアプローチの着眼点をお伝えします。

新入社員の気持ちのゆらぎ

新入社員の気持ちというのは、大まかには、入社時、配属前、配属後、一定期間経過後、1年後にゆらぎがあります。育成する側がその気持ちのゆらぎに沿ってメッセージを伝えたり、支援の手を差し伸べたりすると、新入社員の視点が変わり意識や行動に変化がもたらされます。

その気持ちのゆらぎを大まかに整理し、そのタイミングで発信するメッセージのポイントを以下にまとめました。

時期 新入社員の気持ち 育成側が発信しておきたいメッセージと支援
入社時 夢、希望、期待 働きがい、やりがい、面白み、楽しさなど
配属前 漠然とした「不安感」 「不安」があることへの共感、向き合い方
配属後 「失敗」への恐れ 失敗は誰でもする、その失敗から学ぶことの大切さ
一定期間経過後 「壁」にぶつかる 貢献や成長できていないことへの焦りの払拭
1年後 次の成長への期待 1年がんばったことを認め、次の成長テーマの示唆

それでは、事例を通じて具体例を紹介します。

配属前や配属直後の時期は「不安」を感じる人が多い時期

数年前、ある技術系の新入社員研修を担当したときのこと。入社時教育を終えて2ヶ月間の技術教育の合間に、ビジネスの基本教育に携わったことがありました。その内容は、入社時教育で学んだ、職場でのコミュニケーションのとり方(マナー、報連相)、仕事の進め方、チームワーク、論理的な伝え方、電話応対、来客訪問応対(ご案内、名刺交換など)を、より実践的に身につけてもらうというもの。

入社時に受ける全体での一斉教育とは異なり、部門内の少人数に向け4月に2回、5月に2回と計4回にわたってかかわりました。回を追うごとにメンバーの個性も理解でき、その距離も縮まっていく取り組みがいのあるものでした。

そのプログラム期間中に迎えたゴールデンウィーク前の研修でのこと。メンバーの一人が「原田さん、自分は本当にやっていけるのでしょうか」と質問に来ました。「どうしたの?」と聞くと、「採用時に『技術や知識は一から教えるので大丈夫』といわれて入社したものの、自分以外のメンバーは、大学時代に開発の知識や技術を学んでいる人が結構いる。

一方自分は、そういう知識も経験もまったくないので、ついていくのがやっと。正直に言うと今とてもしんどいんです」と言うのです。「そうなんだ、しんどいんだね」と伝えると、「そうなんです。来週からのゴールデンウィークで地元に戻ったら、もう帰ってきたくなくなってしまうかも。そんな気持ちになるぐらい、ちょっと今はつらいです」と、うっすら目に涙を浮かべて話していました。

そこで私は「そうなんだ。今はつらいよね。でもさ、あなたの場合は理解力もあるし、コツを覚えるのが早いから、技術的な面は焦らなくても大丈夫だと思うよ。それよりも、会社があなたのどんなところを評価しているか、それを聞いてみたら?」と話をしました。その後、そのようなやり取りがあったことを、人材育成の責任者の方には伝えておきました。すると、しばらくしてからその責任者から、「なぜ採用されたか」についてメンバーから質問があったという話をうかがいました。

実は、会社が開発の知識や経験がないメンバーを採用したのには意図がありました。それは、従来「開発中心」で仕事を進めてきた結果、お客様とのコミュニケーションが希薄になり、お客様から「要望が伝えにくい」という意見が出ていたためでした。そこで、お客様への気配りやかかわりといったコミュニケーションの強化を図るねらいもあり、知識や経験がなくても育成で力をつけられそうなメンバーの採用に至ったのでした。

しかし、このような意図は本人たちに知らされることはほとんどありません。そのため、悩みにつながっていくようです。また、一般的に配属前や配属直後の時期は「不安」を感じる人が多い時期でもあります。あらためて自分を振り返ると、私もそのような経験をした一人です。

先輩社員の体験談は有効

生命保険会社時代のこと。同じエリアに配属になった新入社員は約100人。自分以外の全員が優秀に見えました。さらに、上司や先輩、誰を見ても「バリバリのプロ営業」に見え、「本当に自分はやっていけるのだろうか?」、「営業成績を上げることはできるのだろうか?」と、先を考えては不安で不安で仕方がありませんでした。

そんな時、研修プログラムに「先輩の経験談を聞く」というものがありました。その先輩は「バリバリ」の方に比べると、ややおっとりとした雰囲気で、一見すると「営業職だろうか?」というぐらいふんわりとした印象。その方が「皆さん、今はこれから営業活動に出てやっていけるだろうかと不安じゃないでしょうか?私も皆さんと同じぐらいの時期に、大丈夫だろうかとそればかりが心配でした。でも、営業活動が始まったら、上司がしっかりサポートしてくれて、それで成果を上げることができました。ですので、あまり心配せずに、上司を頼って取り組んでいってください」という話をされました。

それまで「大丈夫だろうか」とそればかり考えていたのが、その話を聞いて「何とかなりそう」と思えるようになりました。このような経験を通じ、先輩社員による課題克服の経験談は、とても有効であると思います。そのため、新入社員の気持ちのゆらぎにそって、「先輩社員が自分の経験を元に課題を克服した経験を伝えるメッセージ」を伝える機会を研修あるいは現場での指導(OJT)で意識しておくと、育成が進みやすくなります。なお、メッセージを伝える際は、具体的な話をもとにBefore(課題を感じている状態)→Turning Point(その課題を乗り越えるきっかけ)→After(課題を乗り越えたあとの気持ち)という流れにすると伝わりやすくなります。

「じっくり取り組んでいこう」という育成姿勢を

入社時教育~配属までの育成する側が「一人前にしないと」という気持ちで一生懸命取り組む時期というのは、実は、新入社員にとってみると多くの負荷がかかり心理的に負担を感じている時期でもあります。

このようなタイミングで大事なことは、新入社員が自分の気持ちを伝えやすい関係性をつくることや、気持ちを話しやすい雰囲気をつくるために、先輩が新入社員時代に抱えた悩みなどを話しておくこと。また、配属先の上司や先輩に、一見大丈夫そうに見える人でも内心は不安が増す時期であることを伝え、「じっくり取り組んでいこう」という育成姿勢を醸成しておくことです。

まとめ

以上のことから、本当の意味での「育成」とは、新入社員の成長を信じ、一人ひとりの気持ちに寄り沿ったコミュニケーションをとることや成長を「待つ」ことも含まれることを理解いただければと思います。

新入社員一人ひとりがどんな気持ちでいるかを時々想像するだけでも接し方は変わってきます。そのような相手を思いやる気持ちこそ、育成側に期待される「成長」。自分を成長させ、新入社員が「ここでならやっていけそう」と思える環境づくりを進めていってください。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加


資料請求リストに追加しました