いまさら聞けない人事マネジメントの最新常識
第1回「採用と人材の戦力化」
「人と組織」をテーマに、マネジメントが直面するさまざまな課題の解決にあたるリクルートマネジメントソリューションズの協力のもと、「いまさら聞けない人事マネジメントの最新常識」をメーンテーマに,、採用、育成、組織開発など5回にわたりコラムを寄稿していただきます。
「1on1」「OKRとノーレーティング」「働き方改革」といった新しいキーワードから、「採用面接」「OJTとOff‐JT」などの定番用語までを幅広く網羅し、最新の心理学やキャリア研究の知見などを取り入れつつ、人事・総務担当者の実務に役立つポイントを紹介します。
第1回目のテーマは「採用と人材の戦力化」です。経済や社会情勢が激動する現在、企業の採用活動の目的や手法はどう変化しているのか。人材の戦力化に何かが求められるのかについて、リクルートマネジメントソリューションズの研究・開発部門である組織行動研究所の所長・古野庸一氏が解説します。
目次
変化の時代における採用と育成とは。
日本における採用は、国内人口の減少、少子化の影響、テクノロジーの進展、価値観の変化の影響で、変化している。具体的には、インターンシップの広がり、採用手法の多様化、ジョブ型雇用へのシフトであるが、新型コロナウイルス感染拡大により、オンラインでの面接を行う企業が急増している。そのような変化の時代であるが、「採用と人材の戦力化」のエッセンスは何だろうか。
変化の時代だが、採用活動の目的は変わらない
はじめに述べなければいけないことは、企業を取り巻く環境は激変しているが、採用活動の目的自体に大きな変化はないということである。
自社にとって必要な人材がいない場合、社外から人材を調達する必要がある。人材は、ビジネスの継続性という観点、あるいは人材は成長していくという観点から、現在という視点だけではなく、中長期的な視点で考えることも人事に求められている。日本で新卒採用する場合、採用された学生が長期に働く可能性を考えると、自社の中長期的なビジネス展開を視野に入れておくが経営者以上に必要である。
多くの企業で「自社で活躍してくれる可能性が高い人材を採用し、自社でいきいきと働いてもらう」ことを採用活動の目的にしている。そのために、自社にフィットする人材像を定義し、採用人数や採用手法を定め、母集団を形成し、その中から選抜していく。本人の特徴を踏まえながら、入社後の適応を促進し、早期に活躍できるような働きかけを行っていく。
以上が、採用活動の目的と大まかな流れであるが、継続的に採用を行っていくのであれば、採用活動のPDCAを適切に回し、変化に対して柔軟に対応していくことが求められる。
つまり、オンラインでの面接など、手法の変化に応じて、よりよい手法を試していくとともに、短期的には各々の採用手法に対して、コストパフォーマンスを吟味することが必要である。中長期的には採用した人材が適切であったか、採用した人材がその後活躍したのかどうかということを科学的にレビューしていくことが求められていると言えよう。
採用手法の変化
採用の代表的な手法として、自社ホームページや就職サイトで公募するか、大学やエージェントを通しての人材紹介は主流であるが、リファラル採用が注目を集めている。
リファラル採用とは、在職社員やその知人・友人を通しての採用、つまり口コミでの採用である。米国の大手企業では、約9割の企業でリファラル採用を実施しており、日本でも、現在の勤務先を見つけた経路の約2割が口コミである※1 。リファラル採用が注目を集めている理由は、転職市場に現れない優秀な人材に接触できること、決定率が早いこと、入社後のミスマッチが少ないこと、採用コストが低減できることにある。
新型コロナウイルス感染拡大に伴って、オンラインでの採用面接が主流になりつつある。
就職みらい研究所の調査によると、2020年6月の時点でオンラインでの面接経験者は、新卒採用の場合、約7割※2 。従来のリアル対面での面接に比べて、時間や場所の制約を受けないため、面接機会を増やせるメリットがある。地域を超えた就職・採用活動も促進される。一方で、オンラインでは、会話の冗長性や非言語的なコミュニケーション(表情や仕草など)が制限されるので、双方の納得感などの課題もあり、しばらく試行錯誤が続けられるであろう。
※1:ワークス研究所「全国就業実態パネル調査2019データ集」
https://www.works-i.com/research/works-report/item/190605_jpsed2019data.pdf
※2:就職みらい研究所「2021年卒 就職活動TOPIC」
https://data.recruitcareer.co.jp/wp-content/uploads/2020/08/topic_21s_20200826.pdf
採用後のリテンション
優秀な人材が採用できても、職場に適応できずに、離職してしまうリスクはある。それはそれで問題であるが、最近では、職場に適応して、活躍しているにも関わらず、辞める若者が増えている。大企業の場合、働く環境が恵まれていることもあり、早期離職は少なかったのであるが、ここ数年、若手の離職は、問題になってきている。
離職の要因として、職場の人間関係、賃金や労働時間の問題、仕事の内容の問題、あるいは会社の将来性の不透明さなどが一般的である。しかしながら、活躍しているにも関わらず、転職を考える若手は、「仕事の領域を広げていきたい」「生活の変化に応じた働き方を見直したい」という要望を持っている※3 。
前者の若手は「この会社で自分の可能性が広げられるのだろうか」「この会社にいて、能力を身につけることができるだろうか」ということを考えている。
後者の若手は「忙しすぎて、会社だけの生活になっていて、そのような生活を持続することはできない」と考えている。
どちらも顕在的にも潜在的にも人生100年時代を意識しているといえるだろう。つまり、自分が所属している会社や事業が立ちいかなくなった後でも自分の人生は続き、経済的な基盤となる有償の仕事を長い期間やり続ける必要がある。そして、仕事だけで消耗するような働き方ではなく、家事、育児、介護、地域活動、趣味などの時間も確保しながら、持続可能性というものを意識した働き方である。
離職が増えてきたとしたら、それは自社が時代に合っていないというシグナルである。なぜなら、優秀な人材が離脱している組織もある。一方で集まる組織があるということである。自社のマネジメントを問う機会である。自社に何が足りないのか。何が人気企業と違うのか。単なるリテンション・マネジメントを超えて、自社にとっての理想の人と組織や働き方について考える機会である。
※3:リクルートマネジメントソリューションズ(2018)「RMS Message52号」
「採用と人材の戦力化」のまとめ
採用と人材の戦力化に関して、以下のことを述べた。
- 企業を取り巻く環境は激変しているが、採用活動の目的「自社で活躍してくれる可能性が高い人材を採用し、自社でいきいきと働いてもらう」という本質は変わらない
- 採用手法は変化しており、リファラル採用が注目を集め、オンライン面接が主流になっている
- 採用後のリテンションについては、活躍しているにも関わらず転職を考える若手も増えているため、仕事だけでなく人生の価値観の変化に目を向け、自社に合った見直しが必要となる
次回は「育成と能力開発」に関して論じたい。
編集部より書籍紹介
ジョブ型人事制度、1on1、OKR、働き方改革……1冊で最新人事用語がすべてわかる! 『いまさら聞けない 人事マネジメントの最新常識』
企業の働き方改革や人材育成・マネジメントを支援してきたリクルートマネジメントソリューションズ・組織行動研究所の専門家が編集しているのが特徴だ。人事の仕事に初めて就く人の「入門書」となることはもちろん、ベテラン人事が「知の再発見」を提供する。人事に限らず、現場のマネジメントに関わる管理職にもおすすめの一冊だ。
内容は、働き方改革関連法、パワハラ防止法、女性活躍推進法改定、新型コロナウイルスの影響などにともない、人事やマネジメント層に求められる業務も多様化・複雑化している背景のもと、「1on1」「OKRとノーレーティング」といった新しいキーワードから、「採用面接」「OJTとOff-JT」などの定番用語まで幅広く解説している。
【出版概要】
出版社:日経BP 日本経済新聞出版本部
発売日:11月17日(火)
価格:1,000円(税抜)
版型:単行本(小B6判・新書)
ページ数:184ページ
詳細:https://www.recruit-ms.co.jp/press/book/
http://amzn.to/3oc5Q0i(amazon.co.jp)
【目次】
第1章 採用と人材の戦力化
インターンシップ、リファラル採用ほか
Column ゆれる就職活動
第2章 育成と能力開発
1on1、アダプティブ・ラーニングほか
Column リモートワークで育成はできるか
第3章 組織開発と関係性構築
チームビルディング、心理的安全性ほか
Column 社員が自発的に働く職場とは?
第4章 人材マネジメント
ジョブ型とメンバーシップ型、OKRとノーレーティングほか
Column ジョブ型人事制度のワナ
第5章 働き方とキャリア
働き方改革、同一労働同一賃金、シニアの働き方ほか
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