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コロナ対策で検討したい制度変更

在宅勤務の交通費は実費支給すべき?【業務編】~効率的な通勤手当業務の設計とは~

皆様、はじめまして。株式会社Works Human Intelligenceの伊藤裕之と申します。
20年近く、統合人事システム「COMPANY」の導入・保守コンサルタントとして、大手法人の制度変更、業務改善、運用などの課題と向き合ってきました。
前回(在宅勤務の交通費は実費支給すべき?【制度編】~通勤手当の賢い見直し方~)は、コロナ禍における人事・総務担当者にとって大きなトピックとなっている、通勤交通費の定期支給の廃止と実費支給への移行について、事前に検討する点、制度変更に当たって配慮したい点を整理しました。

今回は、制度変更が必要となった際に、あわせて担当者の「業務改善につなげるための適切な設計」に関するポイントをご紹介します。
通勤交通費の見直しが必要となった際に、本コラムが検討や課題解決の一助となれば幸いです。

※こちらの記事は下記の人事トレンド紹介コラム「通勤手当の制度を設計し直すために必要な考え方とは」を@人事の読者様向けに一部編集させていただいております。
https://www.works-hi.co.jp/businesscolumn/transportation-fee-2

目次

  1. 通勤手当業務が非効率となりがちな要因
  2. 通勤手当の制度設計-必要な2つの前提
  3. 制度設計は3つのポイントで
  4. 「完ぺきを目指さない」ことも大事

通勤手当業務が非効率となりがちな要因

前回のコラムでもお伝えした通り、新型コロナウイルス感染症予防に伴う在宅勤務(テレワーク)の浸透により、多くの企業で交通費支給の見直しと実施が進んでおり、実施中・検討中の企業が全体の7割を占めています。(弊社調べ)

また、このような動きに合わせて鉄道事業会社側も対応を迫られており、例えば、JR東日本では時間帯別運賃制度を検討しています。
【参照】読売新聞オンライン混雑時間帯の運賃値上げ、JR東が検討
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20200707-OYT1T50229/

時期や具体的な制度は未定のようですが、鉄道事業会社にとって、通勤定期撤廃による安定した収益の消滅は大きな痛手となります。そのため、社会インフラでもある企業として必要な収益基盤の維持という観点では理解のできる施策です。

仮に、この制度が正式に導入された場合、各企業の交通費支給制度はどう対応することになるのでしょうか。在宅勤務の比率によっては、出社日数の減少に伴うコストカットのために実費支給に切り替えたにもかかわらず、「新制度導入後はやはり6か月定期のほうがよかった」ということもあるかもしれません。

実は、通勤手当業務は、制度上の要因によって、今回のコロナ禍に伴う対応以前より、担当者の業務負荷が高い傾向にあります。

通勤手当業務の負荷の高さには、様々な要因があります。
その最大の要因は、多くの企業において通勤手当支給の根拠となる経路が「最も経済的かつ合理的」というあいまいな基準で決定されていることと考えます。
(上記外部要因)

これは所得税法上非課税となる条件として定義されているものであり、結果として多くの企業で支給条件として準拠しています。

ただ、「経済的・合理的」の判断はきわめてあいまいであり、最終的には担当者の判断に委ねられているのが現状です。
担当者にとってゆかりのない地域の通勤経路を正しく判断することは、決して容易ではありません。人事として合理的だと決定した経路が、従業員にとって合理的ではないことは日常茶飯事と言えるでしょう。

結果的に、一定の従業員サービスレベルを維持しようとした場合、次のような影響が起こります。(上記内部要因)

  • 正しい経路や最寄り駅を決定しているかどうかのチェック工数の増大
  • 人事判断に承服できない従業員への説明と、事情を踏まえた上でのイレギュラーな経路管理、交通費支給管理による業務効率の悪化
    (イレギュラー対応のため、システム化や運用改善による解決が困難)

まずは制度設計を見直して運用負荷の軽減を図るということが、本質的な解決につながります。

通勤手当の制度設計-必要な2つの前提

前提①:通勤手当の支給は各企業の裁量範囲である

今回の実費支給への切り替えにあたりこのような問い合わせをいただくことがあります。

「〇月分の交通費から後払いの実費支給に切り替えたいのですが、その場合、〇月の給与で支給する交通費がなくなります。これって法律的に問題ないのでしょうか?」

支給されて当然のように思われていることも多い交通費ですが、あくまで通勤手当は家族手当や住宅手当と同じ、従業員の福利厚生の一手段にすぎません。

例えば、前払いから後払いに切り替わるにあたって、交通費支給が発生しない月があったとしても問題はありません。むしろ上記ケースであれば、支給しない月が当然発生します。

法律的には次の点が実現できていればよいとされています。

  • 通勤手当は、支給するならば「経済的・合理的」な経路を認定して支給していること
  • 支給した通勤手当額を社会保険の報酬額に含めること
    (+非課税限度額を超えた支給額を課税対象額に含めること)

当然ながら、実際は従業員への説明と理解が必要となりますが、まず前提として、通勤手当を支給するのか、しないのかは企業の自由であるということをふまえて検討を進めましょう。

前提②:通勤手当を「手当」と考えるのか「実費」と考えるのか

まず、「手当」は従業員の通勤に伴う出費を会社が負担するという考え方です。

例えば従業員にとって最安の経路でなくても、従業員の福利厚生という観点で妥当な額であれば許容することになります。
あくまで手当なので、実経路にかかわらず支給額は会社として決定した額であると割り切ることもできますが、許容範囲や例外認定の条件によっては、会社側のチェックやイレギュラー対応の運用負荷が発生します。

仮に、冒頭で取り上げた時間帯別の運賃が導入された場合、交通費支給額をどう決定するか、「手当」であるならば、会社としての方針で割り切ることもできるでしょう。

「都度、金額を出社時間で判断することは難しいし、運用上メリットがない」
「出社時間帯が一般的な通勤時間帯と被っている可能性が高いので、ピーク時の運賃をベースに出社日数を乗じて支給する」
「在宅勤務が浸透しており、出社時間帯も調整しやすくなっている。実費支給のメリットを生かすためにも、通常時の運賃をベースに支給する」

どの考え方であっても、「通勤手当はあくまで会社による福利厚生の一つ」という観点であれば間違いではありません。その代わり、通勤手当支給の目的である、従業員の納得性については考える必要があります。

反対に「実費」は、実際に従業員が通勤する経路を確実に捕捉して、支給額・払戻額で従業員・企業ともに不利益が発生しないようにするという考え方です。

正しい経路の申請と承認が前提となるため、会社側のチェックと従業員への説明が必要不可欠となる一方で、チェックや従業員の申請方法のシステム化が進むほど、運用負荷を低減させることができます。

例えば、時間帯別の運賃を導入する場合は、従業員がいつ出社し、その時に利用した運賃がいくらだったかを捕捉する必要があります。

そのためには、出社時の運賃を本人から申告させる、交通機関から実支給額データを何らかの形で提供してもらい給与へ反映するなど、実費を捕捉するための運用やシステム設計が必要となります。

上記の方法が可能かどうかは検討するとして、実現することができれば、仮に運用コストが上昇したとしても、従業員にとって理解の得られる仕組みとなる可能性が高いでしょう。

制度や運用を検討するときには、自社の通勤手当が「手当」なのか「実費」なのか、を明確にしておく必要があります。

もし、制度に細かく金額や距離の制限を定めながらイレギュラーは認めるとした場合、担当者のチェック負荷が高いわりに、従業員の納得性が低い制度となってしまう可能性があります。これは極力避けなければなりません。

では、上記を踏まえたうえで運用負荷を低減させるために、どのような制度設計を行えばよいでしょうか。

制度設計は3つのポイントで

① 通勤手当の制度はシンプルに

まず、どんな手当でも同じかとは思いますが、制度をシンプルにすることが大前提となります。

通勤手当で発生しがちなのは、勤務先の地域や交通手段で特例を認めたり、特殊な条件を用意したりする(例:都道府県ごとにガソリン単価を設定するなど)ことです。

そのため、なるべく上記のような制度は避けて、全社統一のルールとすることをお勧めします。

② 交通費支給の決定条件と算出方法を明確に

次に、交通費支給の条件を極力明確にすることが必要です。

  • 最寄り駅までの距離は、道なりなのか、直線距離なのか
  • 駅の出入り口は考慮するのか
  • 最安経路よりも所要時間が短い経路があった場合の許容率
  • その事業所で利用できる最寄り駅はどこか

上記は一例ですが、このように一般的に利用される経路の決定条件を明確にしておくことで、従業員からの不要な問い合わせを削減することにつながるでしょう。

また、次のようなあいまいな基準を極力残さないこともポイントです。

  • 「経済的」「合理的」と判断した経路
  • 最安経路よりも「大幅な」所要時間短縮が見込める経路なら許可する

さらに、下記のように距離や金額の算出方法も明確にしておくことが重要です。

  • 距離の算出については○○社の地図ソフト利用の結果とする
  • 決定経路は申請サービス内で表示された上位5経路の中から選択するものとする
  • 原則、表示外の経路は認められないが、親族の介護、子女の通園などやむを得ない事情がある場合は、その理由を申請内に記載し、上長の承認を得ること。ただし最終的な経路決定の判断は人事部で行う

これらが制度に定められていないと、申請ごとの判断や従業員との条件交渉が発生してしまう可能性があります。担当者の業務負担を大きくするとともに、従業員の納得性を低下させます。

「自分の地図ソフトだと2kmと表示されているから、バスを利用してもいいはず」
「自分がよく利用しているサイトでは、表示されている最安経路は表示されない」

上記は、起こりがちな従業員側からの交渉の一例です。
ここで重要となるのは、前提に記載した通勤手当を「手当」として考えるのか、「実費」として考えるのかという判断軸です。

もし「手当」であれば、制度はなるべくシンプルにしたうえで、ある程度は従業員の選択に委ねたほうがよいでしょう。
申請内のチェックにおいても最低限の支給許容率は保ちつつ、なるべく人的なチェックを省略することで、担当者の運用工数低減と従業員の納得性という双方のメリットを追求すべきでしょう。

逆に「実費」であれば、条件を明確化したうえで、申請内の機械的なチェックや担当者のチェックを支給条件に合わせて定型化し、個別の事情に合わせた都度の判断を極力少なくするという運用設計が必要となります。

③ システムに合わせた交通費支給の条件設計も視野に

交通費の支給条件を利用中の申請システムの仕様に合わせる、ということも一つの考え方です。

これだけ制度や運用が変化していく現状で、紙ベースの申請では今後の変化に適切な対応を行っていくことはできません。今後、通勤手当の申請を紙ではなく何らかのWeb申請サービスで実施することは、もはや避けて通ることはできないでしょう。

利用している申請サービスの仕様や機能要件に制度や業務を合わせるというのは、業務効率化という観点では理にかなった方法の一つです。

ただ、多くの企業の事例に携わって感じることではありますが、適切な通勤経路の決定は、最終的には人間の脳(経験や常識から導き出されたもの)が速くて正確ということも多々あります。

単に判定ロジックや経路の優先順位をシステムに当てはめようとしても、片方がうまくいけばもう片方がうまくいかない。そうして結局、申請上に表示されて決定された経路が本当に正しいのかシステムだけでは判別できずに、担当者が全件チェックせざるを得ない、という本末転倒なケースは避けなくてはなりません。

  • システムでは必要最低限の制限は行い、そこからはみ出たケースのみ担当者でチェックを行う
  • システムで実現できない、あるいは他の条件を阻害する条件は制度から外す

このように、最終的なチェックが残ることによる担当者負荷や、制度を外すことによる超過金額の妥当性を踏まえつつ、判断してはいかがでしょうか。

「完ぺきを目指さない」ことも大事

通勤手当の経路及び交通費の支給額決定は明文化されていないことも多々あり、担当者のチェックと判断によって支えられてきました。その結果、システム化を妨げるとともに、非効率な業務運用の原因ともなっていました。

ただ、今回の在宅勤務への移行という流れは通勤手当の意義を改めて整理し、変化に耐えうる制度と進化させるきっかけになります。

ポイントは「割り切ること」ではないでしょうか。
企業側でコントロールできない要素が多い通勤手当業務は、すべてを満たそうとすればするほど担当者の負荷に直結します。

・このパターンまではシステムで自動制御するが、それ以外のパターンは担当者がチェックする
・育児や介護が必要な従業員以外は一律で同じ制度にする

何を重視し、それ以外の部分をいかに割り切ることができるか。言葉にすれば簡単ですが、実施には困難を伴います。それを承知の上で、今後起こりうる変化へ柔軟に対応していくためには、多かれ少なかれ「やらない決断」も必要という理解が改善の後押しとなるでしょう。【おわり】

前回記事はこちら:「【制度編】~通勤手当の賢い見直し方~」

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