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年末調整の電子化、実施の前に人事担当者が解決しておきたい3つのポイント

皆様、はじめまして。株式会社Works Human Intelligenceの伊藤裕之と申します。
20年近く、統合人事システム「COMPANY」の導入・保守コンサルタントとして、大手法人の制度変更、業務改善、運用などの課題と向き合ってきました。
今回は、2020年からスタートしている「年末調整の控除証明書等電子化」について、大手法人各社の年末調整業務の実態を踏まえたうえで、事前に整理、解決しておきたいポイントをまとめました。メリットをはじめ、その裏にある思わぬデメリットもご紹介していきます。人事・総務担当者にとって毎年膨大な工数がかかる年末調整業務、本コラムが電子化への一助となれば幸いです。

※こちらの記事は下記の人事トレンド紹介コラム「年末調整の電子化、本当に実施して大丈夫?気を付けておきたいポイントまとめ」を@人事の読者様向けに一部編集させていただいております。
https://www.works-hi.co.jp/businesscolumn/nenmatsutyousei_web2

目次

  1. 2020年の控除証明書等の電子化で変わること
  2. 便利に思える年末調整申請電子化。でもその前に解決しておきたい課題とは?
    ①年末調整は人事の仕事?
    ②義務化は任意=効率化を阻む電子と紙の併用
    ③従業員へのメリットを考える
  3. まとめ

2020年の控除証明書等の電子化で変わること

2020年から年末調整申告において、

  • 保険料控除証明書
  • 住宅借入金等特別控除証明書及び年末残高証明書

の電子データ提供が開始されます。

【参照】国税庁ホームページ 年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降)
https://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/nencho.htm

在宅勤務の定着によって、バックオフィスの業務が電子化されることは、大きなインパクトがあり、どちらかといえばポジティブな評価や印象を受けることが多いでしょう。当然、各社の人事担当者にとっても、年末調整業務の効率化は常に意識する部分ですが、果たしてすぐに控除証明書等の電子化に踏み切ることは可能なのでしょうか?

上記の国税庁資料の内容から、改めて制度の概要を整理してみましょう。

これまで従業員がはがきで受け取り、内容を申告用紙や申請画面に記載したうえで、原本を提出していた

  • 保険料控除証明書
  • 住宅借入金等特別控除証明書及び年末残高証明書

を電子データで会社に提供できる、ということが最大の変化です。

※2020年度の導入は義務化ではありません。

受け取った人事担当側も、添付された内容と申請内容が一致するかをチェックする必要があり、さらに紙申請であれば、その情報を年末調整システムに登録、あるいは別途登録データを作成し、CSV等で一括登録という運用が必要となります。

特にチェック~データ登録は、従業員一人分実施するだけでも10分はかかる作業です。1000人分実施すると、単純計算で10000分=160時間=1人/月必要となります。したがって多くの企業は、とても担当者だけで対応できず、アウトソーシング化したり、普段は給与に関係しない人事部員総出で作業を実施したりしています。

このように、年末調整の電子申請システムは多くの企業で導入されている一方、申請者による申告書・証明書の内容の記入、原票の添付、人事担当者による保険料や住宅情報の届出チェックは、依然としてアナログに行う必要があるといったケースが多いです。

また、紙で添付された申告書は7年間の保管が必要です。
社員数の多い企業であれば、どこかの倉庫に申告書の入った段ボールが山のように積まれており、処分が手間、さらには溜まる一方で保管場所もなくなってきた、ということもあるでしょう。

今回の法改正は、上記課題の解決につながります。
実際、前述の国税庁ホームページでも下記のように記載されています。

≪勤務先のメリット≫
勤務先は、従業員が年調ソフトで作成した年末調整申告書データを利用することにより、控除額の検算が不要となります。また、控除証明書等データを利用した場合、添付書類等の確認に要する事務が削減されます。
さらに、従業員が年末調整申告書作成用のソフトウェアを利用して控除申告書を作成するため、記載誤り等が減少し、従業員への問合せ事務も減少することが期待されます。
加えて、書面による年末調整の場合の書類保管コストも削減することができます。

※ 年末調整申告書データを利用して年税額の計算等を行うためには、勤務先の給与システム等が年末調整申告書データの取り込みに対応する必要があります。

上記の通り、まずは勤務先の給与システムが申告書データの取り込みに対応していなければなりません。申告書データの取り込み方法は下記の3パターンありますが、2020年11月時点では【1】と【2】の2パターンのみが可能となっています。

【1】従業員が各保険会社・銀行のWebサイト等から取得
【2】従業員が政府の運営するマイナポータルから電子データ(XMLファイル)を取得
【3】人事システムがマイナポータルにAPI連携し、自動取得

現状は、従業員が取得したデータを年末調整申請システムにて登録することで申請できます。【3】の形式が可能となれば、そもそも従業員がファイルを取得する必要もなくなりますが、現時点ではその仕組みの中核となる政府運営の「e-私書箱」のAPI仕様が確定せず、検証環境も明確になっていません。

参考までに、弊社が提供する統合人事システム「COMPANY」は2020年11月時点で下記のような対応状況となっています。
【図1】運用イメージ

便利に思える年末調整申請電子化。でもその前に解決しておきたい課題とは?

「部分的とはいえ電子化はできているし、少なくとも担当者は楽になったんじゃない?何が問題なの?」

一見そう感じるのですが、実施に向けてはいくつか超えるべきハードルがあると考えます。
ポイントは
「従業員にとってのメリット/デメリットは?」+「控除証明書等電子化は義務化ではなくあくまで任意」=「従業員の協力が得られるのか?」
です

①年末調整は人事の仕事?

「COMPANY」を含めワークフローシステムを利用した年末調整申請の利用率は年々高まっています。

その一方で、担当者にとっては申請サービスを導入して効率化完了、というわけにはいかない事情があります。それは、大多数の従業員にとって、「年末調整は人事の仕事」という価値観が根強く残っていることです。

以前、すでに99%の従業員に年末調整申請を公開、申請提出を行っている、従業員数万名規模の企業の地方事業所(工場)にお邪魔して、事業所人事担当者とお話したことがあります。その際に、従業員が自発的に申請を行わないことが事業所人事担当の業務負荷となっているという悩みを聞きました。Web慣れしていない年齢層が高い従業員に限らず、若い世代にも当てはまっているといいます。

従業員数千人のうちの何割かが人事担当のサポートを求める状態では、人事業務の改善は難しいでしょう。きちんと申請が上がってこなければ、申請に対する差し戻しも頻発します。上記の企業では、年末調整申請における差し戻し率は5%。それほど多くないと思われるかもしれませんが、3万人企業であれば5%=1500人に対して、差し戻しの案内やその後のフォローをすることになるのです。

また、申請を自発的に行わないことはもちろん、行っていても、提出期限ぎりぎりに対応している方が多いことも、担当者にとって業務負荷を高める原因です。

“年末調整は人事の仕事なのに、なぜ自分たちがこんな面倒臭いことをしなければならないのか”

こうした従業員一人ひとりの認識が、人事担当にとっては最大の敵であるという理解が必要です。

②義務化は任意=効率化を阻む電子と紙の併用

電子化の浸透を阻むもう一つの壁が、今回の控除証明書等電子化はあくまで義務化ではなく任意のものである、という点です。義務化ではないということは、従来通りに行う人と新しい方法で行う人に二分され、必然的に電子申請と紙申請の混在につながります。担当者は、二通りの届出チェックを強いられるでしょう。

これまでも、Web申請に必要な従業員用端末を十分に用意できない、ITスキルの低い(ないしは意欲の薄い)従業員をWeb申請に誘導できないなどの理由で、多くの企業の年末調整はWeb申請と紙申請の混在が続いてきました。今回可能となった控除証明書等電子化を任意で進めた場合、これまで控除証明書や申告書の添付→チェックで統一されていた業務まで、既存の方法と電子化の2つに分かれることになります。

運用方法の統一は業務改善の第一歩です。そこから考えれば、今統一されている年末調整のコア業務が2つに分岐することは、担当者にとって大幅な負担の増加を意味します。

【図2】年末調整電子化に対するアンケート結果
※図をクリックすると拡大します

弊社が実施した年末調整電子化に対するアンケート結果【上図】でも、担当者の懸念はこれまで記載した2点に集中していることがわかります。「在宅勤務が基本になったのだから、年末調整も電子化の流れに乗るべき」のような議論だけで実施に移るものではない、と理解できるのではないでしょうか。

③従業員へのメリットを考える

長くなりましたが、上記前提を踏まえて、年末調整の控除証明書等電子化によって従業員にはどんなメリットがあるか、再度国税庁の説明を見てみましょう。

≪従業員のメリット≫
従業員は、これまでの手書きによる手続(年末調整申告書の記入、控除額の計算など)を省略でき、年末調整申告書の作成を簡素化できます。また、書面で提供を受けた控除証明書等を紛失した場合は、保険会社等に対し、再発行を依頼しなければなりませんでしたが、その手間も不要となります。

さて、これらはすべて従業員にとって新たなメリットといえるでしょうか。例えば、以前から弊社システムで年末調整の電子申請を利用している企業では、そもそも控除額の計算は自動ですし、保険料であれば前年の登録データがデフォルト表示されています。入力画面も例年工夫が進み、そこまでストレスなく入力できるため、「これまでの手書きによる手続」による課題は昨年時点ですでに解決済みであったことがわかります。そうなると、従業員へのメリットは紛失時の再発行が不要になる程度で、新しいメリットはほぼありません。それにもかかわらず、控除証明書等電子化にあたって従業員が準備しないといけないことがあります。

申告データを取得できるPC環境の準備は必須ですし、これまで自宅に送られてきたはがきではなく、従業員自身が各保険会社や金融機関へ証明書の電子発行依頼を行い、各社のホームページからファイルを取得しなければならないという手間が発生します。同じ保険会社で統一している方はまだ良いかもしれませんが、住宅+保険で複数の会社からデータ取得しなくてはならない場合は「はがきを切り取ってホチキスで止めるほうが楽」という従業員も少なくないでしょう。

そして今後、最後の砦となりそうなのが、マイナンバーカードの取得やマイナポータルの開設手続き、さらにはe-私書箱の開設手続きです。
電子化という点で考えた場合、運用イメージ【図1】の③の対応が最も業務改善につながるはずですが、そのためには従業員全員のマイナンバーカードの取得が必須です。一方、現状マイナンバーカードの取得率は1〜2割程度と報じられています。この状態で電子化を進めようと思っても、従業員の理解を得て必要な準備をしてもらうにはかなりの労力が必要となるでしょう。
人事担当者は、この課題に向き合う必要があると認識しなければなりません。

まとめ

ここまで記載した通り、年末調整申請の電子化は、

  1. 従業員への理解の浸透
  2. 全申請の電子化(紙申請の撤廃)

が可能となって初めて実施への道筋をつけることができます。

そう考えると、今年から年末調整の電子データ提供をスムーズに活用できる企業は上記2点を満たしている企業のみです。

例えば、

  • すでに年末調整申請を電子化している(する予定がある)
  • 本人、家族などの年末調整に関連する申請を電子化している
  • トップダウンで従業員に運用変更とその理解を徹底できる
  • 電子データを利用した申請しか規定として認めない
  • 全社員がPCを所有していて、すでに自立的に申請できる

こういった企業は積極的に電子化を進めてメリットがあるでしょう。そうでない場合は思わぬデメリットが出てくる可能性があるので、まずは現在の年末調整申請やその他の申請の運用状況を整理するところから始めるべきかと思います。

控除証明書等電子化を進める前に、

  • 現状、従業員が各種申請を正しく上げることができているのか
  • 人事部や各事業所の担当に問い合わせやヘルプが集中していないか
  • マニュアルは正しく参照されているか、活用できているか

など、現在の運用状況を確認し、改善できる点がないか、把握することから始めてみてください。
そして、従業員にとって年末調整をはじめとした各種申請をより使いやすく、自立的に使用できる状況を整えた上で、控除証明書等電子化に向けた協力を依頼する、という流れで進めてみてはいかがでしょうか。

以下に具体的なアクションについて整理してみましたので、参考にしてみてください。

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  1. まずは年末調整の「申請」を電子化(Web化)する。
  2. あわせて関連する申請(本人情報、家族情報、住所情報の変更申請等)も電子化(Web化)する。
  3. 2まで実施されている企業は、現在の活用状況を確認し、紙申請が残っていないか、従業員が自立的に利用できているか、運用面で負担となっている部分はどこか確認する。
  4. 3について改善ポイントがあれば整理して対処する。
  5. 来るべき完全電子化に向けて、実施の必要性をPRするとともに、マイナンバーカードの取得、e-私書箱の開設準備をアナウンスする。
    ※なお、国・政府は、マイナポータルをハブとした、従業員の各種申告手続きの集約(ワンストップ化)を検討しており、将来の対応を見据え、早めに準備しておくに越したことはありません。
  6. 規定等を整備し、XXXX年度以降の年末調整はマイナンバーカード利用を前提として電子申請のみ受け付けることを決定する。
  7. 6の本番稼働に必要な準備を行う(運用面の見直し、システム対応、マニュアル準備など)。

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安易な実施に踏み切ることなく、かといって実施しないからと何もしないのではなく、状況整理と段階的な準備に十分な時間を割くことをお勧めします。

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