【第2回】研修マスターの6つ星"指南術"
新入社員に仕事を教えるときに役立つ「新人時代の経験の棚卸し」
指導者層と新人層ではコミュニケーションのベースが異なる
新入社員世代にとって、LINE、FacebookなどのSNSはコミュニケーションの必須ツール。研修で接する新入社員に活用度合いを確認すると、LINEは8割以上の人が活用しています。ポケベルで、数字を組み合わせてメッセージを伝えていた時代と比較すると、バリエーション豊富な絵から選択できるのは、なんともうらやましい限り。
さて、こうしたコミュニケーションツールの進化は、使い手の意識に少なからず影響を与えます。たとえば、Facebookでの「いいね!」、LINEの「スタンプ」。メールへの返信よりも気軽に、素早く相手へ反応を返すことができます。「反応」=「つながり」といった感覚もあるようです。
一方で、指導者世代は相手へ反応を返すことに抵抗があるよう。あるとき、40代以上の管理職世代にSNSの活用についてお聞きしたところ「Facebookで『いいね!』は、よほどでないと押さない」や、「いちいち相手へ反応していられない」といった意見がありました。
このように、コミュニケーションのベースが全く異なっていることを、指導する側は認識しておくことが必要です。
コミュニケーションを取る上で必要な「経験の棚卸し」
それでは、コミュニケーションのベースが異なる世代と、どう接していけばいいでしょうか。今回は、接する上で効果的な「経験の棚卸し」についてお伝えします。
棚卸すのは、入社時~30歳ぐらいまでの数年です。研修などでは表をお渡しし記入いただきますが、必要なのは次の要素です。特に、棚卸しながらそのときに自分がどんな「気持ち」だったかを思い出すようにします。
- 西暦/入社年数/年齢
- トピックスといえる出来事(社会、業界、取引先、会社、個人的に印象深い出来事)
- 担当業務/携わった仕事(プロジェクトなど)
- 業務を通じて得た知識、スキル、経験、人脈など
- 経験を通じて得た教訓
- その時々のモチベーションの高・中・低(なぜ上がったのか、なぜ下がったのか、どう復活したのかなど)
棚卸すことにより得られる効果は3つです。
1つ目は、新入社員時代に不安を感じたこと、嬉しかったこと、周囲にしてもらったことなど、今だから気づけることも含めて思い出すことで、自分の初心や、自分の周りの人たちが、自分にどう接してくれていたかに気づくことができます。それにより、自分がどう接するべきかが自ずとわかってきます。
2つ目は、自分が1つの知識やスキルを習得するために掛かった時間が把握できます。何年も経つと、すぐにできるようになったと錯覚していますが、実際は自分が思っている以上に時間が掛かっているもの。時間の掛かり具合を客観的に把握することで、余裕を持った指導計画の立案に活かせます。
3つ目は、自分と新入社員のバックグラウンドの違いが認識できます。育つ環境が異なれば、感じ方や価値観も異なります。違いに気づき、その違いに関心をもつことで、今までとは違ったビジネス上の発想にもつながるかもしれません。
以上のことから、自分の経験とその時の気持ちを振り返り、変化や成長を知ることは、新入社員の状況がつかみやすくなり、対応しやすくなる効果があります。
自分の気持ちを理解することが、相手の気持ちに近づく
参考まで、筆者の経験をお伝えします。
ある年の新入社員研修で、なかなか心を開いてくれないメンバーがいました。クールに構えたいようで、あまり感情を表に出しません。一方で依頼元のご担当者からは「新入社員の同期間の絆を深めたいので、コミュニケーションの殻を破ってほしい」というリクエストをいただいていました。
そんなときに、私もクールに構えたかった時期があったことを思い出しました。私の場合は、クールにしたかったわけではなく、同期が自分を受けいれてくれるか不安だったので、距離をとっていたのです。
それをヒントに、自分が新入社員時代にどんな不安を抱いていたかを伝えることや、配属後の不安などをお互いに伝え合うワークなどを取り入れたところ、心理的な距離が縮まり、同期同士の仲も深まっていきました。
手前味噌ではありますが、自分の気持ちを理解することが、相手の気持ちに近づくことを実感しました。
このことから、教育担当者、配属先の上司、OJT指導にあたる方には、新入社員から30歳ぐらいまでのことをこと細かに思い出し、自分の気持ちやその変化を知っておくことをお勧めしています。
といっても、実際に思い出そうとすると、なかなか思い出せず苦労するようです。そういう人は、自分の感情に疎くなっている可能性があります。それは相手の感情にも疎いことにもつながるので、相手との関係を良好にしていくためにも、ぜひこの機会に振り返りをしてみてはいかがでしょうか。
(このコラムは2015年8月12日の記事を再掲載しています)
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