パワハラはルールで縛れるか? 注意すべきは「役職と権力が紐付いた」組織
企業にパワハラ防止策を義務づける労働施策総合推進法の改正案が成立し、早ければ大企業は2020年4月、中小企業は2022年4月にも義務化が始まる見通しとなっています。
厚生労働省の改善に応じなければ、企業名の公開といった対応も視野に入っており、今まで対策を講じてこなかった企業にとっては「ヒヤヒヤ」ものの法改正となりそうです。
しかし、パワハラはそもそも人間関係のもとに生まれる現象。それをルールで縛ることはできるのでしょうか。単に「国からのお達しだから」と、社員間の関係性にNGを出すだけで、社内のパワハラはなくなるのでしょうか?
目次
- セクハラもそうだった!? 「うっすらとした恐怖」による抑制の効果
- 人事はやりたくないのが本音? パワハラ対策のコストは大きい
- 社内罰則の周知によって「パワハラ=やったらマズいこと」という意識付けを行う
- 日本社会のパワハラは階層構造によって生まれる
- 「ほめる・叱る」はハラスメントの温床だった
- 「役職・立場に左右されない」社内風土の醸成が重要
- 企業の役目は「パワハラの起きにくい」環境の整備
セクハラもそうだった!? 「うっすらとした恐怖」による抑制の効果
結論からいうと、「パワハラをしてはいけない」という明確なルールがあれば、心理的ブレーキはかかるでしょう。
セクハラを例に考えてみます。「セクハラ」という言葉が一般的になり、訴えられ、罰せられる事例が多く世に出たことから、オジサンたちは「(自分では認識できていないが)これはセクハラに当たるのではないか?」とグレーな行動を怖がるようになりました。
この「恐怖」がポイントです。怖いと感じると、心理的ストップがかかるからです。
ハラスメントのような「社会的ルール」に名前が付けば、顕在化し、一見増えていきます。しかし潜在的な事例は、する側の恐怖感によってある程度抑制されるため、減っているというのが事実でしょう。
つまりセクハラは厳罰化で減ったのではなく、昔は「よくあること」で片づけられていた事象に名前が付き、社会的に「それはダメでしょう」という風潮が当たり前になったことによって、減ったのです。
パワハラも同様です。かつては「指導」「教育」「部下への愛情」とされていた力による圧迫に、「パワーハラスメント」という名前が付き、行う側に明確にNGが突き付けられようとしています。そういう意味では、今回の防止策の義務化は、大きな一歩といえるでしょう。
人事はやりたくないのが本音? パワハラ対策のコストは大きい
パワハラは「人」の問題です。そしてその舞台が「会社」である以上、企業側は放置してはいけません。実際、パワハラの放置で、退職と訴訟リスクは増大します。建前上は「うちの会社は大丈夫」でも、内心は思い当たることが多くあるのではないでしょうか。
とはいえ、企業のパワハラ対策は大変。
まず、対策コストがかかります。SNSの書き込みへの対応、社員の声を拾う相談窓口の設置、適正な処置をしなかったゆえの損害賠償への対応などなど、恐ろしいほどに時間と費用が必要となります。
さらに人的コストも無視できません。社員への指導はもちろんですが、社長をはじめ、経営層の意識変革も重要です。とくにセクハラやパワハラは日常業務にかかわりますから、1年に1回程度の研修では追い付かないのです。
「パワハラ対策お願いね」などと任された人事担当者にしてみると、広さの分からない泥沼をキレイにしろ、といわれたようなもので、数字で結果が出るわけでもありませんから、「やりたくない」というのが本音ではないでしょうか。
社内罰則の周知によって「パワハラ=やったらマズいこと」という意識付けを行う
今回のパワハラ防止対策の義務化で、パワハラを行った本人に対する法的な罰則ができるわけではありません(もちろん暴行などが行われた場合は、刑法にあてはまります。名誉棄損があった場合なども同様です)。
そのため、企業としては懲戒規程に記載するなど社内罰則を定め、社員に「やったらマズいことになる」というリスクを認知させ、ルール順守への意識を高める必要があります。
ここで大切なのは「周知」。社員に、「このような社内規程があります」と伝え、守らなければどうなるかを知らせておかなければ、パワハラ行動を心理的に回避させることはできません。
日本社会のパワハラは階層構造によって生まれる
しかし残念ながら、いくら対策しても、パワハラはすぐにはなくならないでしょう。ハラスメントは力の差が生む人間関係です。日本社会が階層構造である以上、上に立つものは力を誇示したがりますし、そこに個人的感情が加われば、ハラスメントが生まれます。
本来、会社内の階層は単なる「役割の違い」です。たとえばアメリカでは社長が偉いわけではなく、社長という役割を担っているだけの存在ですが、日本では社長が「偉い」とされます。
このように立場と、人としての価値が紐付いてしまうのは、とても危険です。
パワハラも、立場を超えて、自分が人間的に「偉い」という勘違いから始まります。「俺は、あいつより偉いから」という意識が芽生えた瞬間、ハラスメントの芽も生まれるのです。
「ほめる・叱る」はハラスメントの温床だった
階層構造の社会で気を付けたいのは、「ほめる・叱る」という行動です。両方とも人材育成の現場では必要とされていますが、ほめるも叱るも上下関係がないと発生しない行動だからです。
上司が部下を強く叱る根底にあるのは、自分の力を誇示し、マウンティングしたいという意識。これは、立場の違いを「力の違い」と勘違いしたことで起こります。
この「勘違い」が日本の会社組織で蔓延してしまった理由は2つ。ひとつめは、近年まで「階級が上の人間が偉い」と刷り込まれてきたこと。もうひとつは、社会人から自己肯定感が消えつつあることがあげられます。
重要なのはふたつ目です。自己肯定感が低いと、自分を保つために権力や外部要因からの承認を求めます。営業成績が高くて偉い!部長の言うことを先回りして動けて偉い!という、自分より偉い人からの「ほめ」を求めがちになるのです。
肩書や、名刺を多く持ちたがるのも「自分に価値がある証拠集め」。本来は誰に承認されようとも、自分で自分の価値を理解できているのがベストですが、自己肯定感が低い人はそうはいきません。
パワハラをしてしまう上司の年齢の社会人にとって、いまだ階級は絶対的でしょう。そのように育てられてきた世代ですから。しかしいざ自分が上司になったとき、自肯定感が低いと、自分の役職を万能と思い込み、「部下より強い自分、偉い自分」に優越感を持ち、パワハラ行為に走りやすくなるのです。
権力は行使しないと見えません。これが日本の階層構造でパワハラが蔓延している理由です。
「役職・立場に左右されない」社内風土の醸成が重要
では、パワハラ対策のために、人事担当者はどのような対応をすればいいのでしょうか。
根本的な解決を促すには社員の自己肯定感を高めることが重要ですが、それは長期的な話です。まず先にできるのは、「役職・立場は、役割の違いであって、人間性のよしあしではない」という風土の醸成です。
「うちの会社は、社長や部長だからといって絶対服従な社風ではないですよ」という意識が、ひとりでも多くの社員の当たり前になれば、パワハラは多少減るでしょう。
企業の役目は「パワハラの起きにくい」環境の整備
また、環境からのアプローチも効果的かも知れません。
たとえば、席配置が島になっている部署は、席自体が上下関係を生む形になっています。その場合はフリーアドレス導入や、席の配置をフラットな形にしてみると、関係性に変化が生まれる可能性はあるでしょう。
人は環境に依存します。まわりに上下関係によるパワハラが横行していたら、「ここではパワハラが当たり前なんだ」という意識が、組織全員に植え付けられてしまいます。
「国が決めたから」という理由で、社員にパワハラ禁止を通達するだけでは、あまり意味はありません。パワハラが悪いことなんて、皆すでに知っているからです。やるべきは、社内ルールを明確にして、多少の抑止効果を持たせたうえで、上下関係による権力行使が起きにくい風土、環境をととのえることではないでしょうか。
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