「副業OK=良い会社」はもう古い? 経営戦略としての複業解禁を考える
副業解禁に関してのポジティブなニュースが増えています。
大手企業の副業解禁に加え、政府も副業の推進に前向きです。厚生労働省のモデル就業規則でも、昔は禁止されていたものの、最新版では推奨されています。今副業を解禁してない会社でも、時代の流れが変化しつつあるのは感じているでしょう。
そのブームの中、気になるのが、「副業をしたい社員」と「あまりさせたくない会社」の権利主張合戦。お互いの出方を牽制しつつ、綱の引っ張り合いをしている状態が見受けられます。
社員が隠れてする副業に大きなメリットはありません。ただし、ブームに乗って副業を解禁しても、会社のリスクが増大するだけで結局失敗に終わってしまいます。
そろそろ、会社側が覚悟を決める時期です。副業に対しての自社の姿勢を明確にし、解禁なのかNGなのかを、「会社の言葉」でしっかり社員に伝えるときが来た、といえるでしょう。
「分業化」のシナリオが通用しなくなった日本企業
これまでの日本企業は、分業化で成長してきました。
ひとりが同じ作業を習得することで教育コストを下げ、かつ退社しにくい制度戦略で成功してきたのです。そして、長期間勤務し、全体を俯瞰できるようになった社員を選抜し、出世させてきました。
しかしそのシナリオはもう通用しません。それに気が付いた大企業が、副業解禁を推し進めているのです。
国が副業を推進するのは、「会社が倒産したときの受け皿」をつくるため
通用しなくなったのは、分業化だけではありません。会社が短命になり、終身雇用が瓦解しました。
国が恐れているのは、会社が消えた瞬間に勤めていた人が行き先を失い、失業保険、教育系訓練、そして生活保護の利用者が急増することです。
しかし、副業をきっかけとした複数の勤務先があれば、どこかが倒産しても、受け皿が残るという目論見ができます。国の副業推進は、企業に対し「潰れたときの、社員のためのセーフティーネットをつくっておくように」といっているのと、同義なのです。
実際に副業しているのは、本業の所得が低い層
働く側も、終身雇用が見込めない以上、副業にはポジティブな意識を持っています。しかし、実際に副業をしているのは、大企業に勤務する中間層ではなく、
① 年収299万円以下の、副業で収入補てんをしなくては生活が苦しい層 ② 年収1,000万円以上の、本業でも収入が確保されていると想像できる層 |
に二極化されています。
【本業の所得階層別でみた副業している者の数】
(出典)総務省「平成29年就業構造基本調査」
会社の認めたい副業は、国が推奨する「クリーンな副業」です。社員がスキルアップできたり、本業とシナジーが生まれたりするなら、ぜひ認めようという姿勢ですが、リアルに副業が必要なのは、①の層です。
しかし①の人が、退勤後にレジ打ちやナイトワークの副業をしても、会社にとってメリットはありません。逆に健康やモチベーションに関してのリスクが出てしまいます。そのため、本来は副業が必要な、平均収入が低い業界ほど、副業を認めにくくなっている…という構造が生まれています。
法律で禁止されてはいない副業、会社はどうルール化すべき?
ここで、「本業に支障をきたすような副業なら、しないで欲しい」という会社と、「給与が低い以上、副業せざるを得ない」という社員の、いたちの追いかけごっこが始まります。
副業を禁止する法律はありません。そのため、就業規則や副業規程で副業に関するルールが定まっていなければ、それは副業の「許可」にあたります。そもそも副業自体は罪ではありません。なにしろ国が推奨し始めていますから…。
しかし、就業規則で副業が禁止されており、違反者を罰することが書いてあれば、就業規則が優先されます。
就業規則できちんと定めてあれば、副業した社員を罰することにも問題はありません。ただし、会社には就業規則の周知義務があるので、トラブルがあったときは「副業禁止」のルールを社員に周知できていたかどうかが問われます。
会社は、社員の副業にどこまで口出しできるのか
では、会社が副業を認めていたとして、副業の内容に口を出す権利はあるのでしょうか。
「副業禁止」が可能である以上、「副業の限定」も可能です。たとえば同業種での副業は避けてもらうとか、副業先を申請してもらい、トラブルを回避するなどの対策はしてもよいでしょう。
ひとつ気を付けたいのは、「副業してもいい職種の限定」です。たとえば「エンジニアは副業してもいいけど、営業はダメ」ということになれば、不公平感が出てしまいます。
特に、給与の高いエンジニアに副業を許し、給与の低い社員には禁止する…ということが起きれば、本末転倒。給与が低くて困っているのは、後者ですから。
会社を母港とし、自由に航海させることで離職を防ぐ
ケースバイケースではありますが、優秀な社員こそ積極的に外に出さないと、会社に定着しなくなる時代が来ています。優秀なエンジニアなどは、向上心が強いほど、職を渡り歩きたがります。1社にとどまっていては、同じ仕事しかできないからです。
そして、そのような「そもそも収入の多い、職人系アッパー層」の需要は高いため、あっという間に離職されてしまいます。
副業を解禁すると、社員が離脱するようなイメージをお持ちかも知れませんが、実は逆。これからは、会社を母港としつつ、好きに航海をさせ、大漁で帰港してくれる社員を増やすしかありません。
社内の担当業務の範囲が狭い社員には、自社で体験できない分野を副業先で習得し、広い視野を持ってもらうという手もあります。これは社内副業にもつながりますし、会社にも社員にもメリットが大きいスタイルです。
社員も、副業とキャリアについて考える必要がある
社員の副業の目的は、収入かスキル。今から副業解禁を考える会社は、副業を求める社員が、どちらを欲しているかを紐解き、会社としてどうするかを見定めていく必要があります。
社員も、副業を始めたあとの自分のキャリアをきちんと設計する必要があるでしょう。収入だけの話なら、会社の人事制度や評価制度を利用すれば、解決するかも知れません。スキルについても、大きな会社なら代替案はあります。単純作業の副業をするくらいなら、違う部署で1週間仕事ができないか、トレードできないかなど、会社に働きかけてみましょう。
もし、就業規則がない状態ならば、黙って副業を始めてしまうという手もあります。しかし、社員サイドも、自分の副業が会社にとってどんなメリットになるのかを考え、会社に正しく働きかけ、ルールを定めてもらうようにした方が、未来にもつながるでしょう。
経営戦略の一環として、「複業」の可否を考える
副業解禁の理想形は、副業でスキルアップした人が会社に持ち帰り、本業でも成果を上げられること。それが評価や出世につながれば、本人にも会社にとってもウィンウィンな状態を生み出せます。
副業ブームもピークを超えた感がありますが、そろそろ「副業解禁した会社は、いい会社」という一辺倒な風潮から根本に立ち戻り、「何のために副業をOKにするのか」「どういう方針でルールを決めるのか」という、会社のポリシーを考える時期に入ってきたのではないでしょうか。
感情論で「禁止」するのでもなく、
ブームに乗って「解禁」するのでもなく、
経営戦略の一環として、「副業」を考えてみることをおすすめします。
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