~外国人労働者との協働を成功させるために~
グローバル人材に必要な4つのスキル
「グローバル人材」とは何か、定義はさまざまです。一言で言えば、「いつでもどこでも誰とでも仕事ができる人材」ですが、もっと実戦的なスキルに落とし込むと定義はどうなるでしょう? 過去25年の人事歴で累計1万人の採用面接を行い、外資系企業の元人事部長だった 私は「多様性を受け入れ、英語でロジカルに発表・主張できる人材」をグローバル人材の定義としています。それぞれの要素を詳しくみていきます。
1.アサーティブネス
アサーティブネスとは、自他を尊重した適切な自己主張という意味です。日本語がカタカナ表記になるとき、日本文化に存在しない概念であることが多いですが、アサーティブネスも例外ではありません。謙虚を美徳とする日本人にとってなかなかピンときませんが、外国、特に英語圏では必須のスキルです。能ある鷹は爪を見せなければ、誰にも気づいてもらえないのが英語圏です。アジアでも、人口が多く競争が激しい中国・インドでは当たり前のスキルなので、外国人と仕事をする機会が増えるとわかったら、アサーティブネスというスキルを身につけておく必要があります。
「謙虚は美徳」の文化では、自分の実力を最初から見せつけることは良しとされません。出だしを控えめにして、一緒に仕事をするうちに「この人はできる!」とわかってもらえればそれで良いからです。残念ながら、これは多くの外国人に対して通用しません。見たまま聞いたままを、その人の実力とするので、最初のコンタクトで印象が低ければ「あまり仕事ができないかもしれない」というレッテルをすぐ貼られてしまいます。
簡単な例で言うと、面接で「英語はできますか?」と聞いた時の反応が良くなければ、「できないんだな」と安直にすぐ判断するということです。TOEICの点数を聞いたら実は950点だったなんてことは起こらないわけです。
「自分をある程度大きく見せる」文化では、最初のコンタクトでマウンティングが行われます。やりすぎるとハッタリになる危険はありますが、自分の実力を実際より大きく見せる事が重要です。先ほどの英語力の例で言えば「TOEIC950点です、ビジネスを行う上で支障はありません」と言い切るくらいでちょうど良いのです。「帰国子女でないため、発音にアクセントがあるかもしれない」とか、「しばらく英語を使っていないのでさびているかもしれない」は言わなくて良いのです。
外資には、アサーティブネスが得意な人材が集まっていると言えるでしょう。ファーストコンタクトを大事にするので、部長が交代になって本社から新しい駐在員が来るようなケースでは、着任早々に自分をアピールする方々が現れます。じっくりつきあっていずれわかってもらおうと思う人は、少ないかもしれません。これから外国人と協働する方は、相手がどのような文化を背負っているのかを調べて「アサーティブ」に振る舞えるようにしたいものです。
アサーティブネスを身に付けるためには、「謙虚になりすぎない」「自分の言動の背景を読んでもらえないかもしれないので、明確な物言いをする」「ここぞという時に控えめにならない」を実践しましょう。
2.YES/NOを明確に
日本人が外国人と仕事をする上で相手がストレスを抱える大きなポイントは、日本人の曖昧な返事がYESなのかNOなのかわからないところです。相手を傷つけたくない気持ち、自分のメンツを大切にする思いが相まって、NOが外国人に伝わらないことが非常に多いです。日本人同士なら通じることも、背負っている文化が違うので明確に言わないと通じないことは多々あります。
例えば、ミーティングをしていて担当のAさんが最後に「検討したい」と言ったとします。外国人サイドは、言葉をそのまま取って検討の結果を待つことになります。一向に返事がないので、リマインダーを出すけれどまた返事がないことが続いて最後に関係がこじれるわけです。日本人の「検討します」は、「これから関係者で集まってどうするか検討して決めます」ではないことが、外国人にはわからないのです。やんわり断っているのは伝わらず、先方は「検討結果はいつ出るのか」と諦めずにリマインダーを送り、しまいにはメールの返事が来ないので無視されたと誤解してしまうという残念な結果になります。
外国人に対して、NOをもっと明確に伝えましょう。伝えた方が喜ばれます。彼らの価値観では、人間関係の和を保つことよりもタスクを完遂させることの方が重要なので、NOと言われたら次の手をどうするか考えられるので、明確な回答はむしろ有難いのです。
3.プレゼンテーション
英語圏では程よく主張できることが大切なことは、アサーティブネスの項でお伝えしました。その延長戦上で、英語でのプレゼンテーション力は非常に重要です。外資の本部長クラスで英語のプレゼン力が弱い人は、例外を除いてほぼいないのではないかと思うくらい大切なスキルです。
幾つかのポイントについて解説します。
- プレゼンス(存在感、オーラ)-堂々としていることイコール、自信がある、プロフェッショナルという評価になります。緊張していることが伝わったり、体が左右に揺れていたり、声がうわずっているなどは避けたい状態です。
- ロジカルな流れ-非常に論理的な言語で行うプレゼンなので、流れそのものもロジカルである必要があります。スライドを組み立てるときに、流れが英語的にロジカルになっているかどうかよく確認しましょう。何度もレビューしすぎて自分の目では改善点を拾えなくなったら、上司・同僚に見てもらうことをお勧めします。
- スライド作成-外国人から出される日本人のスライドへのNGの筆頭は、文字が多すぎることです。プロジェクターでスクリーンに映し出すと、文字が多いスライドは読めない状態になりますので要注意です。日本企業の場合、欠席者が後で読んで内容がわかるように細かく書くことも多いようですが、グローバルな基準は、内容を確認するのは欠席した人の責任で、プレゼンした人の責任は参加者に最高のプレゼンを行うことなので、ここは切り替えが必要です。
- リハーサル-英語でのプレゼンが苦手だとおっしゃる方が、ぶっつけ本番にプレゼンをされて驚くことがありますが、リハーサルなしに外国語でプレゼンをするのは無理があります。使える語彙の数、詰まったときの打開力などは母国語と同じレベルではないので、帰国子女で英語が母国語という方を除きリハーサルは欠かせません。私は、本社での30-40分のプレゼンの場合は、その日の早朝、現地ホテルの鏡の前で3回リハーサルを行うことをルーティンとしていました。
英語で仕事をする上で、プレゼンテーション力は非常に重要です。ポイントを習得したら、あとはリハーサルあるのみです。
4.ダイバーシティ
日本でダイバーシティと言うと、職場での男女の管理職比率などがすぐ頭に浮かびますが、そもそもダイバーシティとは何を指すのでしょうか? ダイバーシティとは、年齢・性別・人種・宗教・LGBTなどの多様さを生かし、企業の競争力につなげる取り組みを指します。お互いの価値観を尊重すれば協働は容易になり、「異なる視点を仕事に生かせる」という大きなメリットがついてきます。
人々の物事の選好が国ごとにどう異なるかを表す「ホフステード6次元異文化モデル」には、世界の文化を測る指標の一つに「不確実性回避」という軸があります。要は、石橋を叩きたいのかどうかということです。日本は不確実性回避のスコアが92で、世界トップクラスの「想定外を避けたい国民文化」です。このスコアは、ダイバーシティを考える上で影響を与えるように思います。自分の知らないこと、今まで経験したことがないことをできれば避けたいので、女性管理職が増えたらどうなるだろう、ミャンマー人を採用したけれど大丈夫だろうか、と不安ばかりが先立ってとりあえずチャレンジすることができなくなりそうです。
私は、年齢・性別・人種・宗教・LGBTすべての人材と職場で同僚だったことがあります。良い人かどうかは個人次第で、マイノリティかどうかは仕事力に全く関係ないというのが私の個人的な結論です。ダイバーシティは、異なる視点を職場にもたらしてくれるので、歓迎して活用できる姿勢を養いたいです。 個人としても、価値観の違いに気づく貴重な機会を与えてくれる素晴らしいチャンスです。
外国人と協働するには、自分とは違う文化つまりは価値観を持った人たちと仕事できるかどうかが試されます。多様になっていく働き方を前に、「多様性を受け入れ、発表・主張できる」人材を目指し、自身の労働市場での価値を高める努力が求められています。
多様性を味方につけて変わりゆく時代を楽しめるよう祈りながらペンを置きます。
(株)AT Globe 代表取締役/Lumina Spark & Leader プラクティショナー/ホフステード認定講師/STAR面接法認定講師
ニューヨーク生まれ。お茶ノ水女子大学卒業後、日本GE株式会社に入社して 人事部に配属となり「人事」のキャリアをスタート。 その後、モルガンスタンレー、ヴィッカーズ・アジア・パシフィック本社勤務など外資系企業でキャリアアップ転職し、DHLジャパン株式会社の人事本部長を経て2014年に独立。AT Globeを立ち上げる。現在はおもに企業向け研修と個人向けキャリア・カウンセリングを実施。 企業では、グローバル・コミュニケーション力を引き上げるために、アサーティブネス・ロジカル思考・英語プレゼン・多様性を味方につける方法を、シリーズで研修している。
・著書『やっぱり外資系!がいい人の必勝転職AtoZ」(青春出版)
・ホームページ http://atglobe.jp/
・著者コンタクト先 info@atglobe.jp
著書紹介『やっぱり外資系! がいい人の必勝転職AtoZ』
現在は、2人に1人が人生の途中で転職をする時代。転職先として、昨年話題となった“GAFA(Google・Apple・Facebook・Amazon)”をはじめとする「外資系企業」への注目が高まっています。一方で、「外資系」への転職活動は英文履歴書や面接のプロセスなど、日本企業への転職とはノウハウが異なるため、戸惑う人も多いといいます。そこで本書では、人事のプロとして25年間に累計1万人を面接・面談した著者だからこそ知り得る、外資系企業に特化した“成功する”転職ハウツーをあますところなく明かします!
著者:鈴木 美加子
定価:本体1,512円 (税込)
装丁:単行本192ページ
出版社:青春出版社
発行年月:2019年4月23日
ISBNコード:978-4-413-23121-3
Amazon書籍情報:https://amzn.to/2upwUQm
Contents:
はじめに―2人に1人が人生に一度は転職する時代を迎えて
1章:転職活動を始める前に…
―「外資系転職」の利点とリスクを知っておく
2章:マッチする求人情報との出合い方
3章:自分は「外資系」に合う?合わない?徹底セルフチェック!
4章:読まれる英文履歴書の徹底解説
5章:内定が出たら―退職・転職への心構え
6章:A4一枚を「詳細資料」に展開する
おわりに―採用面接は大切なお見合いの場です
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