組織能力向上エンジンとしての人財部門へ
インクルージョンが能動的でなければ、ダイバーシティは逆効果!?
『ダイバーシティ』(多様性)を推進するという場合、「年齢・性別・文化・経歴・身体能力などが異なる人を採用する」だけでは、A)とB)を無視し、C)に未着手となってしまいます。
組織の課題を全社的に(各部門を統合した視点から)捉える人財・組織部門には、「組織の成長や持続的な繁栄」を可能にするため、次の3つの取り組みが期待されるようになってきています。 A)『市場を意識』し、『経営視点』に立ち、『ライン部門※1』と協働』して進める『部門横断的な貢献』 [出典:2015年12月8日記事、「『人事部、不要!』とはどういうことか?」より一部改変して転載] |
では人財部門として、ダイバーシティの推進についてどういったことを考え、手を打っていくことが大切なのでしょうか?
※1 ライン部門とは、組織の主要業務を直接担当する部門を指します。
『管理的なダイバーシティ』と『戦略的なダイバーシティ』
A)とB)に適う形で人財を採用・配置するのであれば、『新たな経営・事業戦略の実行、新部門の立ち上げを可能にする人財像』および『既存のライン部門が求める人財像』を明らかにしてから、『さまざまな分野における、求め得る最高レベルの異才を確保する』ための活動が求められます。
『こうした活動の結果として、多様性を生じさせる』のが『戦略的役割を果たす人財部門』なのであって、「男女比が○○で…」という条件を掲げて人財を確保しようとするのは、従来型の『管理的業務を主とする人財部門』でしかないのではないでしょうか?
また、『多様な考え方や能力を持つ人財を確保する』ところまでで停止していては、『ダイバーシティの推進』とは言えません。なぜなら、「組織内にバラバラな考え方・価値観の人が散在する」だけでは、「関係者どうしの衝突(仲違い)が増えて業績が低下する」など、『組織が持つ本来の力』は充分に引き出せないからです。ダイバーシティは『イノベーション(創新普及)の必要条件』として有効なのであって、ダイバーシティを活かすには、事業の目的に適うように『境界を越えて』人々を束ねたり、ビジネス環境の変化に適応できるように人々を導いたりするような、『持続的な働きかけ』が重要です。私は、こういった働きかけを『インクルージョン』(Inclusion)と呼び、これを人財部門主導で行うのが、C)に相当する取り組みのひとつであるとして重視しています。
『受動的なインクルージョン』と『能動的なインクルージョン』
『共同体』※2の色が強い組織の中には、過剰な『仲間意識』、すなわち『内と外』の境界線を明確に持つあまり、『仲間はずれ』や『敵』を生むものがあります。また、共同体の内部では、「さまざまな人を受け入れる」という『受動的なインクルージョン』の後に、『異なる考え方・能力を持つ人々を同化させようとする力』が働き、ダイバーシティを失っていく場合もあります。
一方、『機能体』※3の色が強い組織では、『構成員間に建設的・創造的摩擦を生じさせる仕組みを設けたり、働きかけたりする』ことで『ダイバーシティを積極的に活用して、経営・事業戦略の実施に役立てる』という『能動的なインクルージョン』になります。「組織の成長や持続的な繁栄」を可能にするには、「現在の多数意見」ではなく『次代の多数意見を生む、現在の少数意見』が大事にされなくてはいけません。それは、現在の少数派を切り捨ててしまうと、次の新しい可能性に向けて動いていく力を失ってしまうからです(ただし、「常にその社会の絶対多数を占めているもの」であれば、変わらずに残る場合もあります)。構成員を同質化させず、ダイバーシティを保とうとするのは、こういった視点からも重要なのではないでしょうか。
所属組織の理念や、どういったビジネス環境にあるのかという条件によって、「組織の成長や持続的な繁栄」を可能にするには、共同体的な方が良いのか、機能体的な方が良いのかなどの判断が変わってくるのかもしれません。
あなたの組織では、ダイバーシティやインクルージョンについてどのように考えるのが良さそうでしょうか?
※2 共同体 と ※3 機能体
『共同体』(ゲマインシャフト、ドイツ語のGemeinschaft)は、『人間関係』を重視し、『構成員の幸福』を追求するための組織です(←元々は、地縁、血縁、友情などにより自然発生した原始的伝統的共同体社会を指す言葉です)。
『機能体』(ゲゼルシャフト、ドイツ語のGesellschaft)は、『利益』のような『ひとつの目的』を達成するための組織です(←元々は、国家・会社・大都市のように人為的に形成された近代社会を指す言葉です)。
[出典:合同会社5W1Hニューズレター第185号、「『クリエイティブな発想力×粘り強い実行力』&『パフォーマンス×意味』」より ]
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