メンタルヘルス予防最前線

健康経営の土台として

社員のメンタルヘルス問題に悩む人事・労務の皆さん、厚生労働省が唱える「4つのケア」をご存知だろうか。

弊社メンタルヘルステクノロジーズと100%子会社のAvenirでは日々、人事・労務の皆さんより「労務・健康管理」について、ご相談をいただいているが、この「4つのケア」という概念を知る人事の方々は非常に少ない。
もし、目の前の読者(人事)がご存知であれば、社員にとってケアの行き届いた労務体制、健康管理体制になっているのではないだろうか。

人事・労務は忙しい。日々のオペレーションに加え、4月から施行された「働き方改革関連法」と「健康経営」 がダブルの波でやってくる。人事・労務としては、社内環境を整備することが命題となる一方、会社は企業成長のために「採用」、戦力化するための「研修」、社員が納得するための「評価」の底上げを優先しがちで、予算もそれらに割かれがちだ。

企業成長→採用→研修→現場アサイン→評価

これらサイクルがワークしていても、成長中の会社の人事が悩んでいることのひとつは「社員のメンタルヘルス問題」だろう。

【参照】カギは産業医との連携  職場のメンタルヘルス対策で人事がやるべきこと

健康は人も企業も失って初めて、気付く

「採用は重要」とは、どの会社の経営陣も人事も言っている。「労務・健康管理は重要」と経営陣も人事も言っている会社は、昨年後半から増え始めているが、まだまだ多くない。

社員のメンタルヘルス問題は社内にも伝染しやすく、人事だけではなくマネジャー陣も「ハラスメント」問題も含め、気を遣いはじめているにも関わらず、どのように対処すべきかわからなかったり、気付いていなかったり、人事は理解していても経営陣が理解してくれなかったりしている。

原因は、どうしても労務・健康管理が後回しにされがちな点にある。

人の健康と同じで、企業も「健康を失って初めて、気付く」ケースが多いからだ。

増加する精神疾患者。休職者は社員の約1%程度発生する

5年前のデータで恐縮だが、厚生労働省のデータによると過去15年間で約200万人から約400万人へと精神疾患者は増加している。このような背景があって、ストレスチェックが法案化されたのだ。【図1】

厚生労働省が発表しているデータでは全産業では0.4%が休職しているものの、人数が増えるほど、上がっていき、1,000人以上の会社では0.7%が休職している。
情報通信業では1.2%、50人に1人以上が休職している(平成28年「労働安全衛生調査[実態調査」」の概況より)。

これらは厚生労働省から公表されている数字ではあるが、厚生労働省の調査方法は「事業所母集団データベース(平成26年次フレーム)の事業所を母集団として、産業で常用労働者10人以上を雇用する民営事業所のうちから無作為に抽出した約14,000事業所」への調査の結果であり、有効回答率68.9%の調査で3割強が回答していないことから、調査結果の3割増しで存在する可能性を否定できない。
つまり、概ね1%前後が休職しているという仮説が成り立つ。

弊社が企業からの相談を受ける際、筆者の肌感覚だと、メンタルヘルス問題に直面している企業は休職者が1%前後発生している。発生していない会社もあるが、発生していると気付いていない会社も少なくない。

サービス業を中心に、従業員数が500人を超えるくらいになると経営課題として「メンタルヘルス問題」 が認知され、ようやく予防に取り組むための予算ができるというのが典型的なパターンだ。

メンタルヘルス問題が多くなっている要因

これは筆者の仮説ではあるが、近年メンタルヘルス問題が増えている要因は「IT化」と「職場ストレスの増加」と考えている。
IT化を紐解いていくと、①情報流通量の増加、②RPA、AI化による効率化を含む単純作業の減少、③SNSの発達である。

①情報流通量の増加

過去20年間で20倍以上になっていると言われている。
ある産業医の先生の言葉を借りると、「脳は進化していないのに、脳に入れる情報量は限界を超え始めている」とのことだ。朝のスマートフォンを見ながら通勤しているサラリーマン・OLはほとんどだろう。
脳をパソコンで例えると、ストレージにゴミデータが溜まった状態で仕事に取り掛かるため、脳は疲弊しやすくなっており、結果、メンタルヘルスが崩れるのだ。

②RPA、AI化を含む単純作業の減少

ITがもたらした効率化が背景にあるが、今まで単純作業を行なっていた人たちがいらなくなったことがあげられる。
30年前はメール等、存在せず、情報を運ぶことも仕事の1つであったことが一番、イメージしやすいだろう。

③SNSの発達

SNSを使わない人は少ない。SNSは限定的なコミュニティにおけるテキストコミュニケーションの発達に、多いに貢献したものの、そこへの投下時間が増えたことにより、バックグラウンドの違う人とのコミュニケーションの機会を奪った。
結果、「外国語を話す日本人」 というような状況を加速させている。コミュニティによって言語が違ってくるので、意思が通じにくくなっているのだ。

もうひとつの要因である職場ストレスの増加について紐解くと、④プレイングマネジャーの増加、⑤無意識のハラスメントがあげられる。

④プレイングマネジャーの増加

シンプルに仕事の質と量が増えるとメンタルヘルスを患う可能性が高くなることだ。
実際、過労自殺で一番多いのは40代男性の層だ。

⑤無意識のハラスメント

昔はマネジャーの主な仕事がマネジメントであったが、現在、プレイングマネジャーが増え多忙となり、ハラスメント問題を防ぐための、管理職への研修や教育機会が減っていることがあげられる。

メンタルヘルス予防の基本概念の「4つのケア」

では人事・労務担当者がメンタルヘルス予防をするためにはどうすればよいのだろうか。

1つの指針が、冒頭であげた厚生労働省が唱える「4つのケア」という概念だ。
この考え方は、腕のよい産業医は周知の事実ではあるが、なかなか世の中に知られていない。4つのケアとは【1】セルフケア、【2】ラインによるケア、【3】産業保健スタッフによるケア、【4】事業場外資源によるケアである。

これに事業場のメンタルヘルスケア指針を計画し、4つのケアについて、計画、実行、評価、改善のPDCAを回していくことを推奨している。
セルフケアは自分自身の精神的な変化にどう気付くのかということ、ラインによるケアは中間管理職等のマネジャー職が部下の変化にどう気づき、フォローするのかという内容だ。

セルフケア、ラインによるケアはいわば、「ストレス」に対するナレッジマネジメントに相当する。
「産業保健スタッフによるケア」は、いわば専門家によるケアだ。産業医、産業保健スタッフ等、社内の立場から専門的知識を持つ者がケアする行為に相当する。

よく勘違いがあるのだが、産業医との面談はソリューション(解決策)ではなく、「リスクアセスメント」の場である(コミュニケーション能力の高い産業医は面談で解決してしまう場合もあるので、人事も勘違いが起こりやすい)。
そして、さらなる専門家につなぐのか、定期的にフォローするのかを決めていく。

事業場外資源によるケアとは、いわゆるEPAのことだ。企業も「社員向け」に外部の相談窓口を設置することを推奨している。

どうであろうか。読者の会社には設置されているだろうか。
おそらく、コンプライアンスの観点から産業医は設置されており、定期的な衛生委員会の開催も以前より行われているが、4つのケアを取り入れ、有効に機能している企業はまだ多くないのが実情ではないだろうか。

特に、「4つのケア」を計画し、実行しようとしても、そこには予算が必要だ。ただでさえ、予算が限られている中で、このようなところに多額の予算をかけられない企業も少なくないだろう。

しかしながら、少子高齢化の影響から実際に採用に苦しんでいる企業は少なくない採用環境下である。
社員を「人材」ではなく「人財」と捉え、投資する覚悟がない会社は、企業成長ができなくなり始めている現実と向き合わないといけない。
今年まではよかったが、人手不足から、今の社員が限界に達し始めているかもしれない。

メンタルヘルス予防は、家でいうと「床を強固にする行為」である

健康経営を家で例えると、人財は「床」であり、「床」が壊れやすい家では、大きくジャンプもできない。床を強固にするために、メンタルヘルス予防を講じていくことが、生産性を上げていく第一歩であるというのは過言ではないと筆者は考えている。

【解説:株式会社メンタルヘルステクノロジーズ 代表 刀禰真之介】

サービス情報:メンタルヘルスソリューションサービス

ELPISシリーズと呼ばれるITツールを主体に休職者を事前察知する為のアラートシステムやオンラインでの健康相談窓口、e-ラーニングでのラインケア・セルフケア研修受講システムなど様々なメンタルヘルスパッケージツールを提供する。

詳細はこちら https://mh-tec.co.jp/mental-health/

【監修・制作:@人事編集部広告制作部】

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刀禰氏のコラムはこちら https://at-jinji.jp/provider/column/467

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