【第19回】研修マスターの6つ星“指南術”
伸び悩む部下を成長させる10%アップの目標設定術
学校法人産業能率大学が行っている調査に「課長の悩み」を聞いた項目があります。2018年に公開されたデータでは1位「部下がなかなか育たない」39.9%、2位「部下の人事評価が難しい」31.9%、3位「職場の業務量が多すぎる」26.6%という結果になりました。
また今回の調査では、「求められる成果が出せていない」「目標のハードルが高すぎる」という項目で約3%数値が上昇しています。このことから、部下が伸び悩み、自身も成果が上げられていないという悩みを抱える管理職の様子が浮かび上がってきます。
そこで今回は伸び悩む部下を自立的に成長できる部下へと進化させる目標設定の仕方について紹介します。
参考情報:第4回上場企業の課長に関する実態調査(2018年1月)
部下について知っていることを整理する
管理職対象の研修やキャリアコンサルティングなどで「部下がなかなか育たない」と感じている方のお話を伺うと、そもそも、時間がなくて部下の現状を把握できていません。特に「育たない」と感じている相手ほど、その理解は曖昧です。ご自身にあてはまる場合は、まず次の3つの側面から、部下の現状を把握するために、次の項目を書き出し整理してみましょう。
1.業務的側面
- 部下の担当業務の内容
- 部下に期待している役割(とその理由)
- 業務に求める期待水準(質、量、達成期日)とその理由
- その業務を進める上でのコツや勘所
- その業務を通じて得られるもの(どのような知識、経験を積めるか、ネットワークが築けるか)
- その業務が部下自身のキャリアにどのような影響をもたらすか
2.人間的側面
- 入社の経緯(志望動機)
- 部下自身の将来展望
- 上司から見た部下の強みと課題
- 部下本人が感じている業務遂行上の強みと課題
- 部下本人のプライベート(心身の健康面も含め)な悩み
3.支援環境
- 業務力を高めるために知識、スキル、経験を積む機会の有無
- 定期的なコミュニケーションの場や機会の設計
- 苦手な作業、仕事、人間関係がある場合の支援体制の有無
- プライベートな課題への支援体制の有無
いかがでしょうか。全て書き出すことができている場合は、問題があっても、何が問題化発見しやすくなったのではないでしょうか。一方、書き出せない部分については部下と直接コミュニケーションを取って、理解を深める必要があります。
次に、整理した内容をもとに部下とコミュニケーションを取ります。すると次のように、それぞれの部下の状況と、部下が成長できない要因が見えてきます。
- 上司が成長してほしいと考えいることと、部下が成長のために努力していることが異なっていた
- 実は、部下自身は人知れず努力していた
- 上司が忙しそうなことを気遣い、質問や確認ができず仕事が停滞していた
- 周囲に遠慮していた
- 周囲との関係がうまくいっていなかった
- 不調を抱えていた
そのため、問題の多くはコミュニケーションの過程で解決へと進みます。以上のことから、部下について知っていることを整理するだけでも、成果をあげるきっかけになることがおわかりいただけたのではないでしょうか。
「できます」「やります」「がんばります」と言うだけで成果が出ない部下の場合
上述のことから、問題の多くは部下についての情報を整理することで解決します。しかし次のような部下の場合、表面的には問題が解決しても、なかなか成果が出ないケースがあります。それは「できます」「やります」「がんばります」と答えていて、本人も努力している様子なのに、成果が出ない場合です。
実は筆者自身がこのようなケースに陥ったことがありました。自分としては一生懸命やっているのに、成果が思ったように上がらない。理由がわからないまま成果が長く低迷した時期がありました。その時、私自身の内面では次のようなことが起きていました。
- 「理想とする成果」と「現実」の乖離が大き過ぎ、無意識に不安を感じていた。
- 成果を上げたいという気持ちが強すぎ、焦りがあった
- 成果が出ない時期が長引き、「またできないかも」と不安や否定的な気持ちが常にあった
- 成果が上げられないことに、自分自身を責めていた
このような状態から何とか脱したいと思った私は、セミナーや書籍で成果が出ない状態から脱する方法を探しました。
そこでわかったことがありました。それは、理想とする目標と現実のギャップが大きすぎると、「不足している部分」に意識が向くということです。
例を挙げると、100点満点のテストで自分が取ったのは50点だったとします。自分でも100点を取りたいと思っていた。でも50点しか取れなかった。「次頑張ろう」と思う。そして次は60点になった。その時、「まだ40点不足している(なんて自分は力不足なんだろう)」と考えること。これが、ギャップ「不足している部分」に意識が向いた状態です。
理想を高く持とうとする、頑張ろうとするほど(なんて自分は力不足なんだろう)と、そのギャップに目を向けてどんどん自信を失っていきました。悪いことに、自分が自信を失っていることにも気づくことはありませんでした。そのため、努力しようとすればするほど、成果が上がりにくくなる、そんな悪循環に陥っていきました。
では私はどう考えればよかったのでしょうか。まずは10点アップできたのであれば、「できた」ことに目を向け、次に「もう10点頑張ろう」と、自分の成長を上積みしていくことを考え、行動することが必要でした。
それではこのことを職場に置き換えて考えてみましょう。成果が上がらない部下がいた場合、取り組むことは次の2つです。
目標設定はプラス10%で
組織目標の多くは、業績目標から本人の役割に応じて割り振られます。その際、本人の現状の能力よりも、高めに設定されます。しかしそれが、本人の能力に合っていなければ絵に描いた餅になり、本人の意欲までそいでいく元凶となります。
一方で、割り振られた目標を変えることはなかなかできません。そこでおすすめしたいのは、前年度の実績から現状の能力を客観的に捉え、プロセスを細分化し、日々の努力を10%上積みすれば到達できるように落とし込む方法です。
例えば、業務の生産性向上が目標であれば、次のようにスパンを短く設定して「どうしたらできるか」を部下自身に考えもらいます。
- 今までと同じ業務を、1日15分間短縮する
- 社内からの問い合わせを1配信あたり10%減らせるような情報発信をする
- 業務マニュアルの作成を、1週間に1作業進める
重要なことは、半日、1日、1週間、1ヶ月という業務スパンの中で、自分で考え工夫したことが、「できた!」「達成した!」という回数を増やしてあげるように設計することです。
回数が増えれば増えるほど、本人の中で自信が育まれ、徐々に目標達成力もついていきます。そうなれば、自立的に考えて動けるようになるので、上司としても安心して仕事を任せられるようになります。実は、責任感が強く、努力する人ほど、できなかったことに目を向けがちです。それが行き過ぎるとメンタルヘルスを損なう危険性も出てきます。
部下それぞれについて情報を整理すること。そして、伸び悩んでいる部下に対しては、目標の設定方法を今一度見直す。これは、部下自身、そしてチームとして、それぞれが成長を感じ自立的な取り組みに変化する可能性があります。まずは情報整理から進めてみてはいかがでしょうか。
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