「学ぶ。みがく。変わる。」かんき出版の“誌面”研修

第12回「難題を解決するプロジェクトリーダー」の心得

過去のリストラクチャリング(事業再構築)によってギリギリまで絞り込まれた少人数体制のため、いざ、新規プロジェクトを立ち上げようとしても人がいない。
「プレイングマネージャー」といえば聞こえはいいが、実態は「管理もやれ、現場もやれ、人材育成もやれ、経営者感覚を持て! 新規事業を考えろ! いっそのこと全部やれ!」というような、ムチャぶりとしか思えない状況だ……現場からはそんな悲痛な声が聞こえてきます。

今回は、外資系コンサルとして、また企業経営者として、数多くの「トラブルリカバリー」を経験してきた中鉢慎氏が、その長年の経験を通じて得た、泥臭く、時には一般的なセオリーと逆行するような、実践的なプロジェクトリーダーシップをみなさんにお伝えします。

著者プロフィール

中鉢慎氏
ディアマンテス株式会社代表取締役社長、テラス株式会社代表取締役。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)、プライスウォーターハウスクーパース(後、日本アイ・ビー・エム[IBM]と経営統合)などで、主に、トラブルリカバリーのプロとして、多くのプロジェクトに参画。現在は独立し、2社の経営に携わりながら、国内、世界を飛び回っている。

プロジェクト上で問題は必ず起こる

「VUCA」Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)時代と呼ばれる昨今、私たちを取り巻く環境は急激に変化しています。これまでの仕事のやり方がそのままでは通用しない時代になり、ほとんどすべての業務が「定常業務」ではなく「プロジェクト化」しつつあります。

以前よりも複雑度が増している現代のプロジェクトは、いくら綿密に調査、計画、管理をしても、予定通りに進めることはなかなか難しいもの。

そこで中鉢氏は、さまざまな業界や種別のプロジェクトに共通する「不確実性」「失敗要因」を最小化するために、プロジェクトを「計画」「管理」する従来型の「マネジメント志向」ではなく「デザイン」「推進」していく「リーダー志向」のガイドラインとして、「D3アプローチ」という手法を編み出しました。

「Define(定義)」「Design(デザイン)」「Drive(推進)」からなる3つのフェーズに含まれる12ステップ(作業群)は、プロジェクトマネジメントに関する方法論をまとめている世界的機関「PMI」が提唱するガイドライン「PMBOK」に準拠しています。

あくまでもプロジェクトを設計するうえでの最低限の作法であるPMBOKに対して、D3アプローチは、「あらゆるプロジェクトにおいて問題は必ず起こる」という前提のもとに対処法を設定しているのが大きな特徴です。

今回は、このD3アプローチのノウハウをまとめた著書『外資系コンサルが教える難題を解決する12ステップ プロジェクトリーダーの教科書』より、「Define(定義)フェーズ」の一部を抜粋してお伝えしましょう。

リーダーが定義する6つの要素

プロジェクトは単に「立ち上げ」れば良いわけではありません。異なる経験やバックグラウンドを持つ関係者が共通認識を持ち、円滑なコミュニケーションを図るためには、言葉の意味を「変わらないように定め(=定)」「物事が道理にしたがう(=義)」ように整備する必要があります。

最初にプロジェクトリーダーが定義するべきは、チームが目指す「ビジョン」、「ゴール」、「目的」、「目標」、「標的」、「マイルストン」の6つです【図1】。リーダーはこれらを矛盾なく、密接に関連づけながら定義し、チームメンバーたちに説明する必要があります。

「ビジョン」は、「ゴール(最終目的)」を達成したことによる理想像、見たい景色です。優れたビジョンは、チームが逆境にあるときにメンバーが歯を食いしばって、あきらめずに前を向けるような力を与えます。そのためにも、リーダーは外向きのキレイな言葉ではなく、不格好でも良いので「自分の言葉」でビジョンを繰り返し、力強く伝えていく必要があります。

次に「ゴール」に関してですが、失敗するプロジェクトの特徴として、そもそも実現不可能だったり、成功したのかどうか判別が難しいようなゴール設定がされているケースがあります。プロジェクトを成功させるためには、リーダーは次のSMART GOAL」を心がけましょう。

S:Specific(具体的な)
M:Measurable(測定可能な)
A:Achievable(達成可能な)
R:Result oriented(結果志向な)
T:Time bound(時間内にできる)

Specific(具体的な)…たとえば「高い山に登る」という曖昧なゴールと「エベレストに登る」「富士山に登る」場合では、それぞれ必要な装備やチーム編成、資源(リソース)が大きく変わります。
Measurable(測定可能な)…チームがゴールを達成できたかどうか客観的に見ても判断できるようなゴールを定義する必要があります。

Achievable(達成可能な)…具体的で測定可能であっても、不可能なゴールでは意味がありません。「市場シェア100%達成!」「売上を1年で5倍にする!」など、威勢のいい目標を設定しているケースが見られますが、努力次第で本当に実現できるものなのかを関係者で十分に議論しましょう。

Result oriented(結果志向な)…プロジェクトのゴールはプロセス(過程)やガッツ(根性)ではなく、結果として何が得られるのかによって評価されます。

Time bound(時間内にできる)…プロジェクトは「有期性」の取り組みです。実現までの時間軸を意識したゴール設定になっていることを留意する必要があります。

マイルストンを設定する

ゴール、目標、標的にたどり着くための中間ポイントである「マイルストン(道しるべ)」を設定する際のポイントについて確認しましょう。プロジェクトリーダーはマイルストンの設定およびレビューをする際には、次の4点について注意してください。

1.ゴール(最終目標)を達成するために通らなくてはならない条件もしくは状態が具体的に定義されていること
(正しい例:〇月〇日要件確定、△月△日設計完了など)

2.状況の変化に左右されないこと(外的環境で変化されない)
(悪い例:為替が1ドル=120円になった場合)

3.「どのように」達成するかではなく「何」を達成するかが述べてあること
(正しい例:教育対象者一覧完成、テスト検収書受領など)

4.時間軸に沿って平均的に分散していること【図2参照】

マイルストンで忘れられがちなのは、「最終目標に向けた軌道修正を行う」ということです。道しるべを設定するだけでは不十分。以上の4つのポイントを押さえることで、実現可能性の高いプロジェクト計画に変わります。

プレスリリースを開発前に作成する

最後に、プロジェクトの「最終目標」をさらにパワフルに活用する手法として「逆算思考」という考え方について紹介します。

アマゾン・ドット・コム社の最高技術責任者(CTO)であるワーナー・ハンズ・ピーター・ヴォゲルス氏が公表した、アマゾン社内で行っているプロジェクトアプローチは次のようなものです。

  • アマゾン社では、新サービスに着手するときに「逆算思考」を用いています。その代表的な取り組みとして製品ありきのプロダクトアウトの発想ではなく、「顧客の視点」をスタート地点にするため、開発前に“プレスリリース”を作成している。
  • そのプレスリリース内容は、サービスの特徴とユーザーにとってどのような便益が得られるのかに焦点が当たっている。プロジェクトキックオフ時に全員でそれを読み、サービスの意義、価値、利用シーン、Q&A、ユーザーマニュアルまで想定します。
  • プレス記事を通じて、リーダーのみならずプロジェクトメンバー全員で実現したいビジョンとゴールを共有し、チームのパフォーマンスを引き出しているのです。

アマゾン社では、プロジェクトメンバーがこのプレスリリースを読んだときに、自分たちがワクワクしない、価値を感じられない場合は開発を見送ります。また、完成度が高く、納得感も高いリリースはプロジェクトを進める際の意思決定のガイドラインにもなりうると言われています。このアプローチは、最近ではアマゾン社のほか、マイクロソフト社など多くの企業で採用されているそうです。

次世代リーダーを育てる実践的な研修

中鉢氏は経営の傍ら、講師として年間に150回以上の研修に登壇し、過去20年間での研修の受講者数は2万人を超えています。

かんき出版が提供する研修では、本書の内容も含めた、リーダーシップ研修(スキルセット編)/リーダーシップ研修(マインドセット編)/部下育成力研修/交渉力研修などをテーマとした実践的なプログラムが好評を博しています。

研修内容は、各クライアント様の現状とニーズに合わせて最良の形にカスタマイズできますので、次世代のリーダーを育てたい企業様はぜひご相談ください。

【企画・監修:@人事編集部広告制作部】

「かんき出版の社員研修」

出版社の強みをいかした豊富なネットワークにより、有名作家が講師として登壇するのが特徴。あらゆるテーマのプログラムを取り揃え、企業の問題点の解決につながるようカスタマイズして提供している。講師陣の著書からカリキュラムを具体的にイメージしやすい。
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