社内の人間関係を改善 「世にも美しいコミュニケーション」、始めませんか?
経営者や人事総務担当者が抱える悩み・問題のトップには、どの時代も「人間関係」がくるのではないでしょうか。
職場の人間関係を構築するのは、社員間のコミュニケーションです。だからこそ、会社のあらゆる問題に対し、万能薬の役割を求めたくなるのが「コミュニケーション改善」とその取り組みです。
そこで今回は、コミュニケーションについて多くの方が抱える「誤解」を解き明かしながら、コミュニケーション改善のための対策について提案します。
コミュニケーションの真の目的は「事実の共有」
HR総研が行った「社内コミュニケーションに関する調査」によると、「社内のコミュニケーションに課題があると思うか」という質問に対し、約8割の企業が「ある」と回答しています。企業規模に関わらず、大企業、中堅企業、中小企業のそれぞれで、同じように課題を抱えているようです。
実際に、ハラスメント、離職率増加、雇用問題、クライアントとのトラブル、業績低下ほか、職場で起こる問題の主な原因は人間関係、すなわちコミュニケーションだということに、多くの経営者も社員も気付いているのではないでしょうか。
そのため、職場の問題解決の万能薬として「コミュニケーションの改善」を求めるのは、ごく自然な流れであると言えます。
そもそも、「コミュニケーション」とは何なのでしょうか。誰もが知っていて当たり前の言葉ですが、その定義は実に不明確で、人それぞれが違った解釈を持っています。一般的に、コミュニケーションとは「分かり合う」「意思疎通」「伝える」と解釈されることが多いですが、それらはあくまでコミュニケーション上の過程にすぎないのです。コミュニケーションの真の目的とは、「事実を共有すること」なのです。
「価値観の違い」は、コミュニケーションを阻害する呪いの言葉
コミュニケーション研修の現場で「伝えたいことが伝わらない理由は何か? 」と問いかけると、「価値観の違い」という答えが多く挙がります。
しかし、価値観とは、個々の人生経験の「これまで」と「今」と「これから」のかけ合わせによって生まれるもの。指紋のように1人ひとりの価値観が異なるのは当然であり、それを前提とした上で、コミュニケーションを円滑に行うためにどうするべきかを考える必要があります。
よって、都合良く安易に使えてしまう「価値観の違い」という言葉ですべての問題を片付けてしまうことは、その瞬間、思考を強制終了しているのと同じなのではないでしょうか。
つまり、「価値観の違い」という言葉は、「事実を共有する」というコミュニケーションの目的を瞬時に強制終了する、呪文のようなものだと言えます。言葉は意味をなさず、会話は成り立たず、問題解決の可能性さえも完全に失う。それがコミュニケーションの強制終了です。
「環境づくり」と「習慣化」が重要
「コミュニケーションの強制終了」を防ぐには、研修やセミナーなどを積極的に利用し、受講後に実践トレーニングを継続できる環境をつくり、完全に習慣化していくことがポイントです。つまり、「価値観の違い」という強制終了パスワードが存在しえない環境と習慣をつくり上げることが重要になります。
また、「価値観の違い」を乗り越え、「事実の共有」を行うには、相手との共通点や妥協点を見つけていくことが重要です。これらを行うことによって、情報収集力、対応力、柔軟性、ユーモアが身に付き、本当の意味での「コミュニケーション能力」の向上につながるのです。
「共感力」が「集合体」の質を高める
コミュニケーションが上質であればあるほど、そのつながりから生まれる「集合体」の質は高くなります。会社組織、職場というものは、どんな規模や職種であれ、「個人」がコミュニケーションによってつながった「集合体」です。ダイバーシティ社会を迎え、「個人」がさらに際立つ時代だからこそ、今後はより一層コミュニケーションの改善に注力すべきです。
コミュニケーションの最終目的である「事実の共有」。会社の場合、共有されるべき事実には、企業理念や会社目標などが当てはまります。それは、会社という「集合体」の存在目的そのものであり、組織が機能するための命綱のようなものでもあります。
そして、会社の存在目的を社員が共有するために求められるのは、「価値観の違い」という概念が入り込む隙を与えない「共感力」を持つことです。社員(個人)の共感力に重きを置いた社内コミュニケーションを強化していくことで、「集合体」として共通の認識を持つことができ、それがやがて大きな成功につながるでしょう。
共感力は、むやみに何に対しても「同意」することではありません。その都度、自分の意思で「共感可能な事実を探求する」という飽くなきパワーのことを指します。そして、知らないこと、疑わしいこと、信じたくないことにも共感できるポイントを探求するには、人間が本来持っている「好奇心」をフル活動させることも必要です。
「共感力」は、社員のエンゲージメント・幸福力向上にもつながる
Google社をはじめ、世界のトップ企業が成功要因の1つとして挙げている「社員エンゲージメント」も、共感力の高さを表したものです。一見すると共通点も少なく、価値観もまったく違うように見える「個人」が、それぞれの共感力をもってして「集合体」を創り上げた賜物なのです。
共感力は、個人の幸福度とも比例すると言われています。ビジネス利益につながるコミュニケーションは、話す力・聞く力というこれまでの一般常識的なスキルに加えて、「共感力の質」こそが成功の鍵を握っていると言えます。
「世にも美しいコミュニケーション」がつくる未来は美しい
以上のことから、コミュニケーションによって、社内の人間関係の改善だけでなく、会社全体の質を高めると考えます。さらに、私は、その一歩先にある個人の先入観や差別感に影響されない極めて中立的な「事実の共有」を多くの人が当たり前に楽しむことを「世にも美しいコミュニケーション」と定義しています。
「世にも美しいコミュニケーション」から生まれる社会を見てみたいと思いませんか? 世にも美しいコミュニケーションがつくり出す未来が美しくないはずがない。単純にそう信じる人が1人ずつでも確実に増えてくれることを願います。これからはもう、「価値観の違い」を理由に、コミュニケーション問題を強制終了することなどできないのです。
*2018年のノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑氏が記者会見で語り、話題となった「教科書を信じるな」の真意もご参考に。
「ノーベル賞受賞者も京大名誉教授も「教科書を信じるな」と口を揃える理由(デイリー新潮)」
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