ホラクラシー組織で実践! 「人が人を評価しない」評価制度の作り方

キャスターグループ(株式会社キャスターと株式会社働き方ファーム)は9月から新年度ということもあり、給与体系、評価制度を改定しました。ベンチャー企業は組織の変化が大きいため、毎年のように人事評価制度を改定することは珍しくないと思うのですが、キャスターグループも4期目が終わるこのタイミングで改定することになりました。

今回の改定では、他の会社と違う点として「人が人を評価しない」、社長だろうが取締役だろうが社員の給与を決める権限を誰も持っていない、そんな制度にしました。その一部をTwitterでつぶやいたところかなり多くの方から「詳細を聞きたい」などのお問い合わせをいただいたことに驚いています。

あまりない形態の組織ではあるのでどういう風に考えて設計していったのかをオープンにする意味もあるかなと思い、どう設計したのか、何を考えていたのかを書いていきたいと思います。

※参考:実際のツイート内容は以下の通りです。

「自分が管掌してる部門の評価/給与制度できた! コアなところとして
 ・役割と結果のみ給与決定のロジック
 ・人が人を評価しない仕組み
 ・マネジメントに近いと事業連動
あたりがポイントかなーと。ホラクラシーぽい制度になったので今度noteにでも書こうかな。設計など知りたいとかあればDMでも」石倉秀明@kohide_I(Twitter)


※ホラクラシー…上司と部下といった、肩書などに基づく「ヒエラルキー組織」とは異なり、上下関係のないフラットな組織。
参照:「ホラクラシーとは」(日本経済新聞)

キャスターグループ給与/評価制度の概要

特徴的な考え方、設計のもとになっている考え方は以下のようなものです。

・部署ごとに給与テーブルはそれぞれで作る
・原則としての考え方は統一


そして原則は以下の通りです。

・ホラクラシー基本概念として「役割(ロール)」が主役
・役割があり、役割ごとにミッション/目標を設定
・役割ごとにミッション/目標の難易度に応じて標準給与を設定
・人が人を評価する権限は誰にもない、給与決定ルールが「神」
・給与や評価は「役割」と「ミッション/目標の達成度=結果」の2つでのみ決まる
 (人による恣意性なし)
・同じ役割でも結果がより高い人、低い人は標準給与より上下させる
・結果=成果ではない
・結果=事実、成果=結果をもとにした他人からの評価
・給与が変動する要素は3つ
- 結果
- 役割変更
- 会社の業績(給与原資の変動)
・マネージャーやリーダーの役割が求められる結果単位は「会社/事業業績」


上記について、簡単な例で解説します。

例えば、「Aという商品の新規営業」という役割を決めます。次にその役割のミッション/目標とそれと見合う標準給与を決めるのがまずベースです。標準給与は難易度や採用マーケットでの相場などを加味して決定します。

仮にここでは、以下のように決定したとします。

・ミッション:新規MRR(※)の達成
・目標:新規MRR1,000万/月
・標準給与:40万/月

※MRR…月間経常収益。月ごとに繰り返し得られる収益のこと。
参照:「マーケティング用語集」(株式会社タービン・インタラクティブ)

あとはこの目標の達成率が110%の時は+2万、120%なら+5万、90%なら−3万...そんな形で給与テーブルを設定し、査定期間(例えば6カ月)の結果で次の給与が自動的に決定する、そんな仕組みです。

もちろん会社業績などによって給与テーブル自体も査定期間のタイミングで見直します。

人は人を評価するべきか

制度を考えていく中での大きな論点は「人が人を評価すべきかどうか」でした。

ホラクラシー×リモートで働いている弊社では「行動のマネジメント」は基本的にしません。社員と約束するのは「結果のマネジメント」のみ。その前提に立つと、役割と結果だけを社員と会社で約束して握り、そこのみで判断するのがベストだろうと現時点では考えています。ある意味、会社と個人が「役割」と「結果」だけしか約束しておらず、それ以外は自由であり、フラットなつながりなので、お互いにぶら下がれない仕組みでもあります。

(※行動のマネジメント=朝○時に来る、お昼休憩は1時間、など誰でも守れるルールを守らせる管理、マネジメント方法。
 結果のマネジメント=目標やミッション達成のために必要なタスクやTodoなどの管理、マネジメント方法。)

役割と結果で決まる、という原則を徹底すれば「人が評価する」という必要はなくなります。むしろ人が評価すると、正確性がなくなったり、評価者の好みなどによる恣意性が出てしまう可能性が上がると言えます。

人が介在すると、「役割」と「結果」のみで評価すると言っていたのに、なぜか同じ役割で同じような結果の人が違う給与になるという事態が発生し、評価に対する透明性や納得感、給与テーブルの仕組みなどが明確でなくなってしまう可能性があるのです。

キャスターグループでは、この給与テーブルと「誰がどれだけ給与をもらっているのか」は全部公開されます。(公開されなくても推測できてしまうんですが)それだけ透明性がある中で「人の評価」というボラティリティ(※)が高い要素を入れることにメリットがありません。

※ボラティリティ…価格変動の度合いを示す言葉。
参照:「初めてでもわかりやすい用語集」(SMBC日興証券)

また組織形態をホラクラシーにしている弊社では「役割」を明確にしていくわけですが、役割が決まるとセットで権限が決まります。そしてマネージャーやリーダーも役割なのですが、その役割の権限ルール中に「評価/査定」はありません。そもそも人を評価する権限がある役割が存在しないという運用にしています。

人が他人を正しく評価することはできない

そもそも、「正しく評価すること」を「人」はできないのでは? と思っています。人が他人を正確に評価できるはずなんてなく、そんな不確かなものに頼ることで、評価内容に納得感がなかったり、評価基準が明確にならなかったり、といった事態になるのであれば、最初から評価なんかしないほうがいいという考えもあります。

正確に評価する、正しく評価する、ということはできないはずなのに、それをやろうとして莫大な時間を費やす。でもその結果、誰かは不満になったり、給与テーブルなどを無視したりする事態が起きてコンセンサスが取れなくなる。そんな事例はたくさんあるかと思います。

以上のようなことから、キャスターグループでは「人が人を評価しない」という前提に基づいて今回の制度を設計しています。評価制度だからといって、その内容がずっと変わらないということはありませんので、次回は全く違う制度に変わっているかもしれませんが、その際はまた公表していきたいと思います。

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