データが会社を強くする! 北野唯我のロジカル採用理論
「新卒で何人採る?」に答える、人事担当者が把握すべき5つのデータ
2017.08.30
あなたの会社では、採用に「データ」を活用できていますか?
「@人事」では今月から、「北野唯我のロジカル採用理論」と題したコラムを連載します。執筆するのは、株式会社ワンキャリアのチーフアナリストとして、採用市場の分析に取り組む北野唯我氏です。
北野氏は、ボストン・コンサルティング・グループで事業戦略立案業務を担当した経験を持ちながら、ご自身のブログ記事が度々話題になるなど、マルチな才能を発揮しています。
第一回となる今回のテーマは『新卒採用で採るべき人数』です。
経営陣が悩む質問「新卒を何人採ればいい?」に定量的に答える
「我々みたいな会社は、何人ぐらい新卒で人を採れば良いんですか? 北野さん」
この質問は、つい最近、とあるベンチャー企業の社長さんと話したときに聞かれたものです。その方はCMでもおなじみの、今最も伸びているITベンチャーの社長でした。
このように「新卒を何人採るか?」は、多くの会社の経営陣にとって重要な意思決定です。ですが、今の人材マーケットは、こんなシンプルで重要な質問に定量的に答えが出せていないのが現状です。今日は、このことについて考えたいと思います。
必要なのは、新卒を採る「効果」と「費用」を知ること
経営陣を悩ませるこの質問に答えるためには、まず新卒を採る「効果」と「費用」の両面、すなわち「ROI(=投資対効果)」を考えなければなりません。金融工学の考え方を適用するなら、「DCF法」的な考え方が有効でしょう。ですが、これは現実的には極めて算出が難しい数字です。
―「DCF法」的な考えに基づいた採用方針
①1人採用することで得られる未来のキャッシュフローを現在価値に割り引く
②現在価値>採用費なら採用、そうでなければ採らない
では、人事採用者は経営陣の「新卒で何人採用すべきか?」という疑問に答えるため、定量データとして何を把握すればいいのでしょうか?
結論としては、新卒採用におけるROIの「効果」と「費用」をそれぞれ明らかにしましょう。
効果を見る際は「一人当たり生産性」と「離職率」に注目
まず効果を算出する観点は「効果の大きさ=新卒採用が与える売上へのインパクト」と「効果の持続性=採用した新卒が定着するか」に分解できます。
前者は、部署ごとに「一人当たり売上/売上総利益(=一人当たり生産性)」の推移を求め、新卒が多い部署と中途が多い部署とでパフォーマンスを比較すれば、新卒を一人採ることによる「プレミアム(上乗せ分)」が概算でつかめます。こうすれば、新卒一人あたりに将来見込める売上が想定できますし、もしも直近で「一人当たり生産性」が下がっていれば、今いる社員の業務改善が必要と考えられます。
次に「効果の持続性」を測るため、貴社の新卒社員における「離職率」や「定着率」を見るべきだと思います。一般的に、新卒は中途に比べて3年以内の離職率が、15%~20%近く高いと言われます(参照:中小企業白書2015年版「第2部中小企業・小規模事業者のさらなる飛躍」)。もし貴社の新卒社員の離職率が中途に比べて極端に悪い場合は、新卒を採用するメリットは他社より低いといえます。また、離職率で異常値がでている部署は、採用の前に「人材育成」や「ミドルマネジメント」に課題があると想定されます。よって、人事担当者としてはそちらを優先すべきだと私は考えます。
新卒の採用単価は50~200万 近年は中途の採用単価が急激に低下
「効果」が測れたら、「費用」も検討しましょう。具体的には「一人採用するのにかかる費用(=採用単価)」です。一般的に新卒採用は、採用単価が50~200万円程度と言われます。ここで気をつけるべきは、近年は「中途採用」の採用単価が急激に下がっていることです。
その背景は、候補者に対して直接アプローチする「ダイレクトリクルーティング」や、友人を紹介してもらう「リファラル採用」、Yentaに代表される「ビジネスマッチングツール」の普及にあります。結果的に、現場クラスであれば、中途社員でも採用単価が新卒採用水準で採れることも多くなってきました。裏を返せば、相対的に「新卒採用」の魅力は貴社にとって下がっているはずです。
優秀な学生の価値が急上昇し、「新卒ドリーム」は消えつつある
さらに今、新卒マーケットでは「優秀な学生」の価値が急上昇しています。新卒一括採用の実質的な崩れや長期インターン普及の影響もあり、どの企業でも活躍できる資質を持つ学生は、平気で有名企業から10社近く内定を取ります。ネームバリューのない企業が彼らを採用単価50~100万円で獲得するのは、現実的には不可能に近いのが現状です。1つの目安として、優秀な学生は一人につき100~200万円近くの採用コストがかかると覚悟した方がいいでしょう。
ですから、経営者の方と話しているとよく言われる「新卒採用は優秀な学生を安く採りやすい」という意見や、「我が社も大きくなってきたから新卒を採りたい」という「新卒ドリーム」の魅力は実は薄れてきているわけです。下手をすると中途より高くつくであろう採用費をかけてまで、本当に「新卒を採るべきなのか?」は、今冷静に考えてみるのはアリかもしれません。
「何人採ってもいいのか」と「何人育てられるか」を確認する
ここまで、新卒採用の「ROI」を出すために必要な数字を説明しました。もう一つ必要なのは「何人採れるか?」という観点です。これは事業計画上のPL(損益計算書)と、育成体制の両面から見るべきです。1つ目の事業計画上の判断は、予算に基づいて「何人まで採っても大丈夫なのか?」ということです。どの会社でもやっていることでしょう。2つ目の育成体制は「年間に何人までちゃんと育てられるのか?」を指します。
言わずもがな、新卒は育成にコストがかかるため、自社が育成できるキャパシティ以上に採用しても、すぐに活躍することはできません。そこで「何人までなら、きちんと成長の機会を与えてあげられるか?」を数字で把握しておくべきです。具体的には、社内の「育成が上手なエース社員の数」と「年間に何人のエース社員が生まれているか?」を計算すればよいでしょう。
【まとめ】人事担当者が把握すべき5つのデータ
さて、これまでの内容をまとめましょう。人事担当者が把握すべきデータは以下の5点でした。
①「一人当たり売上/売上総利益」の推移と、新卒を一人採ることの「プレミアム(上乗せ分)」
②部署毎の「離職率」と「定着率」
③自社の新卒、中途それぞれの「採用単価」とその推移
④事業計画上の予算内で採用可能な人数
⑤社内の「育成が上手なエース社員数」と「年間に育つエース社員数」
最後に、私の人生の目標の1つは「採用領域に、金融市場並みの情報データとロジカルな意思決定を導入すること」です。@人事では、来月以降もこのテーマに基づき、連載を執筆していきます。ではまた、来月お会いしましょう。
執筆者紹介
北野唯我(株式会社ワンキャリア執行役員兼チーフアナリスト) 新卒で株式会社博報堂に入社。中期経営計画の立案・M&A・組織改編業務を経験し、米国・台湾留学。帰国後、ボストン・コンサルティング・グループでの事業戦略立案業務などを経て、ワンキャリアに参画。現在、メディア事業の統括責任者。一方で23歳の頃から、日本シナリオ作家協会で「ストロベリーナイト」「恋空」などを執筆したプロの脚本家に従事。主な記事に『ゴールドマンサックスを選ぶ理由が僕には見当たらなかった』『田原総一朗vs編集長KEN:「大企業は面白い仕事ができない」はウソか、真実か』など。
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