失業経験アリ人事コンサルによる直球コラム
社員が痴漢事件や交通事故に巻き込まれた際に、会社側が取るべき対応
2017.08.09
連日メディアでも報道されているように、会社員が事件や事故を起こしたり、巻き込まれたりする事例は少なくありません。特に公共交通機関を利用して通勤する社員の多い会社では、痴漢事件は全く無縁とは言えない問題です。もしこうした事件に巻き込まれた社員が現れた場合、その対応(処遇)は人事・総務担当者が行うことになります。社員が関わる事件・事故は、対応の仕方によっては会社に大きな影響を与えるものです。今回のコラムでは、痴漢事件・交通事故の対応について解説します。
社員の「痴漢疑惑」には慎重な対応を
「痴漢なんて起こしたらクビだ」と考えてしまうのが数年前までの「常識」でしたが、近年はそうはいかなくなってきています。
無論、痴漢の事実を認めている場合は、粛々と本人に対する処分を進めて行くのが筋ですが、問題は本人が痴漢の事実を認めていない場合、つまりえん罪の可能性があるときです。近年の社会情勢では、痴漢事件を賠償金目当てでねつ造するケースや、そもそも「勘違い」というケースも多発している以上、社員本人が痴漢の事実を認めていなかった場合は、慎重な対応が求められます。
えん罪で捕まった社員を解雇した場合、裁判では敗訴の可能性も
痴漢が事実でなかった場合、社員を解雇してしまったりしていると、社員から地位確認訴訟(解雇無効の訴訟)などを起こされ、敗訴する可能性が高くなります。そうなれば、貴重な人材を失うだけでなく、人事上も禍根を残しかねません。「人事は訴訟の原因まで作って何をしているんだ」と、会社の上層部から悪評価を下される可能性もあります。それでは、痴漢疑惑で社員が逮捕された場合には、どのような対応を取るのが良いのでしょうか。
まずは社員から事情を聴く
まず第一に実行すべきは、警察に拘留されている社員に面会し、事情を聞くことです。
会社担当者が自ら会いに行こうとすると、警察から「家族でもない相手を捜査中に本人に面会させることはできない」といった理由で面会を拒絶される可能性があります。確実に面会するためには、弁護士(会社に顧問弁護士がいる場合はその弁護士)に至急連絡を取り、その人物を通じて本人に事実確認を行うと良いでしょう。
本人が認めていても、刑が確定するまでは休職扱いにする
事実確認ができたあとに「本人が認めている」と確認できた場合は、推定無罪の原則を用いて、略式起訴までは休職扱いとし、刑が確定した上で人事上の処分を決定すべきでしょう。
処分の軽重については、刑の重さを鑑みつつ、企業の代表者と話し合って確定しましょう。ただ、逮捕された社員をどのように扱うかは、事前に規定等を整備して確定させておくことが大切です。事件が起きてしまった後にあたふたしないよう、起こりうる事態に幅広く対応できる規定を整備しておくことが、結果として会社を守ることになります。
本人が否認している場合は、社員を守る姿勢に徹する
次に「本人が否認している場合」の対処です。
この場合は、会社として否認している社員を守る姿勢に徹するべきでしょう。社員を突き放すような態度を取ると、他の社員から「えん罪でも会社は守ってくれない」「冷酷だ」といった感想を持たれ、人事だけでなく、会社に対する信頼を失うことにもなりかねません。会社・弁護士・否認している社員の見解を一致させた後で、事件の決着が付くまで休職として処理し、決定した刑に応じて、職場復帰か処分の実施かを慎重に決めるべきでしょう。
顧問弁護士がいない中小企業の場合は、痴漢えん罪に特化した弁護士保険なども存在するので、会社で団体加入しておくのも一考です。
社員が交通事故、特に人身事故を起こした場合
社員が交通事故を起こした場合、会社としてどう対処すべきなのでしょうか。
業務上の運転により事故を起こした場合は、会社には使用者責任が生じ、過失割合に応じて相手に賠償する義務が生じます。一方、業務外のプライベートタイムでの交通事故については、状況によって必要な対応は異なります。
無論、飲酒運転や暴走運転にて事故を起こした場合は、厳しい対応が必然となりますが、偶然の過失によって起こした事故については、慎重な対応を考えなければなりません。物損事故については、建造物を破損しないかぎり刑事罰が存在しないので当人同士の話し合いに委ねるべきですが、人身事故については、過失致死・過失傷害など、刑事罰となる可能性があります。特に、就業規則に刑事罰を受けた人間に懲戒処分を科す規定がある場合、放置はできません。
職種や事故の被害を勘案して、慎重に処分を決定する
まず業務上運転が必要な職種(ドライバー・ルートセールスなど)の場合は、事故を起こしたことで給与の減額などの処分を行うことは妥当と言えますが、運転を必要としない職種においては、減給や解雇などの処分は「いきすぎた処分」と捉えられることもあるので要注意です。ただし業務上の運転の有無に限らず、後遺症が残る重大な人身事故や死亡事故を起こした場合など過失責任が大きい状況では、解雇も視野に入れた厳しい処分が必要な場合もあります。
事故については、その規模や状況などで被害の大きさも全く異なるため、総合的に勘案して処分を決定ししていく必要があります。弁護士などの専門家によく相談し、人事の独断ではない形で処分を考慮しましょう。
執筆者紹介
田中 顕(たなか・けん)(人事コンサルタント) 大学を卒業後、医療系人材派遣会社・広告代理店で人事を担当したのち、密着型人事コンサルティング団体「人事総合研究所」を設立。代表兼主任研究員として、労務相談受付・課題解決に取り組む。得意分野は採用・法務・労務・人事全般の問題解決等、多岐にわたる。
@人事では『人事がラクに成果を出せるお役立ち資料』を揃えています。
@人事では、会員限定のお役立ち資料を無料で公開しています。
特に人事の皆さんに好評な人気資料は下記の通りです。
下記のボタンをクリックすると、人事がラクに成果を出すための資料が無料で手に入ります。
今、人事の皆さんに
支持されているお役立ち資料
@人事は、「業務を改善・効率化する法人向けサービス紹介」を通じて日本の人事を応援しています。採用、勤怠管理、研修、社員教育、法務、経理、物品経理 etc…
人事のお仕事で何かお困りごとがあれば、ぜひ私達に応援させてください。
「何か業務改善サービスを導入したいけど、今どんなサービスがあるのだろう?」
「自分たちに一番合っているサービスを探したいけど、どうしたらいいんだろう?」
そんな方は、下記のボタンを
クリックしてみてください。
サービスの利用は無料です。
関連記事
-
企画
失業経験アリ人事コンサルによる直球コラム
【まとめ】誰にも聞けないことを教えてくれる「人事コンサル直球コラム」
2015年からスタートし、2年間に渡って@人事で行われている人気連載「失業経験アリ人事コンサルによる直球コラム」。人事コンサルティング団体「人事総合研究所」代表の田中 顕(たなか・...
2017.06.30
-
企画
ひとり人事の職場改善計画
【まとめ】これさえ読めばひとりでも安心! 「ひとり人事の職場改善計画」
2016年3月からスタートし、1年間に渡って@人事で連載された人気コラム「ひとり人事の職場改善計画」。社会保険労務士の郡司果林氏が、人事・総務になりたての方でも分かりやすく、そして...
2017.06.30
-
コラムニュース・トレンド
企業とシニア求職者のミスマッチをひもとく 第3回
シニア人材の活躍事例――これまでの人生経験を生かす
シニア層の活躍: 未経験業界への挑戦第1回は、シニア層の就業実態および意識をシニア個人と企業双方の視点からお伝えし、第2回では、積み重ねたキャリアで得たスキルや専門性を生かして生き...
2023.08.25
-
コラムニュース・トレンド
企業とシニア求職者のミスマッチをひもとく 第2回
シニア人材の活躍事例――これまでのキャリア・専門性を生かす
シニア人材の採用と活躍:スキルと経験を生かす方法第1回では、リクルートの調査研究機関『ジョブズリサーチセンター』が実施した「シニア層の就業実態・意識調査(個人編・企業編)」をもとに...
2023.08.18
-
コラムニュース・トレンド
「人的資本経営」の実践のポイント 第4回
人的資本経営の実践に向けて――マネジャーのリスキリング
人的資本経営の実践の要となるミドルマネジャーの「リスキリング」に注目本連載では、人的資本経営の実践のポイントとして、「人的資本の情報開示」「人事部の役割変化」「ミドルマネジメントの...
2023.08.10
あわせて読みたい
あわせて読みたい
人気の記事
国内・海外ヘッドライン
THE SELECTION
-
PRTHE SELECTION企画
「置き型健康社食」がもたらす可能性とは
健康経営、採用強化、コミュニケーション活性化にも。 手軽に導入できる「食」の福利厚生
-
PRTHE SELECTION企画
街なかの証明写真機「Ki-Re-i(キレイ)」で、もっと社員の顔写真管理をラクに
社員証の写真、「最適化」できていますか? チーム力を強化する顔写真データ活用法とは
-
THE SELECTION特集
【特集】ChatGPT等の生成AIが一般化する社会で必須の人材戦略・人的資本経営の方法論
-
THE SELECTION企画
レポートまとめ
@人事主催セミナー「人事の学び舎」 人事・総務担当者が“今求める”ノウハウやナレッジを提供
-
THE SELECTION特集
特集「人手不足業界の逆襲」~外食産業編~
「見える化」と「属人化」の組み合わせが鍵。 丸亀製麺が外食業界を変える日
-
THE SELECTION特集
人事のキーパーソン2人が@人事読者の「組織改革」の疑問に答えます(第2弾)
数値化できない部署を無理に人事評価する方が問題。曽和利光×北野唯我対談
-
THE SELECTION会員限定特集
働きやすい職場づくり~サイバーエージェント編
「妊活支援」や 「働くママ・パパ支援」を、 一部の社員のものにしないためには?