効果的な研修のための処方箋
現場とのギャップをなくす研修とは(2)
2015.08.24
前稿では、研修の意義や効果的な研修方法をカークパトリックの4段階評価モデルを紹介し考えていきました。本稿では、研修のニーズに焦点を当てて、さらに考えを深めていきたいと思います。
研修の意義とは、「知るようなる」だけでなく「できるようになる」ことです。つまり、研修によって受講者の行動変容がおきることにあります。このことを忘れると、研修が単なる「お勉強」で終わってしまいます。このようにならないためには、研修の運営、実施などを行う人事担当者が、現場からの具体的にどのようなニーズがあるかをしっかり把握することが必要となります。このニーズ分析をしっかり行うことが、研修を効果的に行うための分かれ道になるといっても過言ではありません。
研修のニーズを考える
現場の理想は、研修を受けるのであれば業務に役立つプラスの行動変化を求めます。従来の研修会社が提供している研修カリキュラムは、新卒研修を例にとると、「ビジネスマナー」「ビジネスコミュニケーション」「言葉遣い」「電話応対」「文書作成」などといった教科書的な内容が優先順位を問わず羅列的に取り扱われています。
教科書的な内容は、一般的知識として最低限押さえておかなければいけない内容です。しかし、一般知識で終わることや羅列的に実施されることが、研修と現場のギャップを引き起こす要因となります。
そもそも、各企業は、規模・業態・立地・顧客・職種・文化などが異なっています。当然のことながら、新卒社員に求められる「知らなければいけない内容」「できなければならない内容」の優先順位も異なってきます。ですから、一般知識やスキルだけの習得だけでは限界があるのです。
研修と現場のニーズのギャップを少なくするためにも、具体的にどのような知識やスキル・考え方を身につけなければならないのかというニーズ分析が必要となります。しかし、ニーズ分析を行って研修の企画が行われている企業はまだまだ少数です。その証拠に、多くの企業では、例年通りの研修内容や研修会社に言われるがまま研修が行われています。
ニーズ分析を行うことのメリット
ニーズ分析は難しくて大変な作業であると思われるかもしれません。しかし、ニーズ分析にはいくつかのメリットがあります。新卒研修を例にとると、第一に、ニーズ分析を実施することで新卒社員に求められる「知らなければならない内容」「できなければならない内容」の優先順位が明確になり、不必要な内容を実施する必要がありません。ニーズのない研修を行っても時間とお金のムダにしかなりませんので、ニーズ分析は経済性や効率性の観点からメリットがあります。
第二に、ニーズ分析は現場担当者を研修に巻き込まなければなりません。現場担当者を巻き込むことは、現場担当者も研修企画の一翼を担うことでもあるので、研修の責任が分散化され研修実施後のクレームが発生しづらいというメリットがあります。特に、現場の上長を巻き込むことは、研修後の行動変容を評価する際においても有効です。
第三に、人事担当者が他の業務を兼任していることも多いかと思います。このような場合、人事担当者が1人もしくは少数でニーズ分析を実施することは大変負荷のかかる作業です。この観点からしても、現場担当者を巻き込むことは大きなメリットがあります。
学習目標設定と研修会社の利用方法
ニーズ分析が終わると次のステップとして学習目標設定があります。学習目標(=パフォーマンス目標)とは、「以前にはできなかった(わからなかった)ことで、研修後に受講者ができるようになること」と定義されます。これは、ニーズ分析からより具体的な行動として落としこむ作業になります。学習目標の設定は評価設定と表裏一体の関係のため、必然的にカークパトリックの4段階評価モデルのレベル2の学習をクリアしたことにもなります。
ただ、学習目標の設定は、専門的な知見が必要となるので、外部の研修会社を利用するといいでしょう。ニーズに沿った明確な学習目標を提示してくれる研修会社は信頼できる研修会社といえます。逆に、カリキュラムだけで学習目標を提示できない研修会社に依頼すると、研修がただの「お勉強」に終わる可能性が高くなります。また、学習目標設定は、全受講者が目標を達成できたかという観点から、研修会社の客観的な評価も可能になります。
次稿は、Off-JTとOJTの関連性について書いていきたいと思います。
- OJTの質を驚くほど高める手法とは…?
- いかにしてOff-JTとOJTを結びつけるか
- 現場とのギャップをなくす研修とは(2)
- 現場とのギャップをなくす研修とは(1)
執筆者紹介
宮崎照行(みやざき・てるゆき)(Training Office 代表) 中央大学経済学部を卒業後、人材開発系ベンチャー企業の参画に携わる。その後、衆議院議員秘書を経て、研修事業・人事コンサルティング事業を主な業務内容としたTraining Officeを設立。
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