企画

一般社団法人企業福祉・共済総合研究所 秋谷貴洋氏に聞く


人事担当者が知っておくべき、福利厚生制度の潮流2017

2017.06.26

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人事担当者には、法改正や政府の動きなどの外部環境も理解したうえで、自社に合った福利厚生制度や施策を設計する力がますます求められている。そこで今回は、福利厚生制度の最新動向と、人事担当者が知っておくべきポイント、そして福利厚生の制度設計能力が問われるようになった背景などについて、企業福祉の専門家である、一般社団法人企業福祉・共済総合研究所の秋谷貴洋氏にお聞きした。

秋谷 貴洋(あきや・たかひろ)

法政大学大学院社会科学研究科修士課程修了。1989年に社団法人産業労働研究所(現・一般社団法人企業福祉・共済総合研究所)入所。企業福祉や健康保険組合の実務に関する調査や情報収集・提供に関する業務に従事し、現在に至る。

目次
  1. 近年の福利厚生の動向
  2. 注目すべき3項目:ヘルスケアサポート、介護、育児関係
  3. 景況感と法定外福利厚生費への投資の経年変化
  4. ブランディングや採用にも福利厚生施策を「戦略的」に活かす
  5. 福利厚生は「会社からのメッセージ」。従業員への周知は人事担当者の役割
  6. より俯瞰的な視座と、専門性が制度設計のキーに

近年の福利厚生の動向

一般社団法人企業福祉・共済総合研究所の秋谷貴洋氏

秋谷貴洋氏

直近の福利厚生制度の潮流において特筆すべき点を、秋谷氏は次のように語る。

「この5年間の動向において顕著なのは、法定外福利厚生(以下、法定外福利)は、社会保障の補完機能(法定給付の上積みや法定外医療費の補助機能)から、調整機能(一利害関係者としての社会参加機能)や従業員の生活支援(育児や介護ならびに治療と仕事の両立、災害支援など)に及ぶ施策へと移行しているという点です。変化の主要因としては『社会経済環境(景気、雇用動向)』『会社法等の新設や改正』『従業員のライフスタイルや意識の変化』が挙げられます」(秋谷氏)

とりわけ、雇用情勢の改善と、政府主導の働き方改革の影響が大きいという。

「まず、雇用情勢の改善によって、就職活動が『売り手市場』となった現在、各社は人材確保の観点から他社との差別化、働きやすさの向上がますます重要だと捉えるようになりました。その有効な手段として、魅力的な福利厚生施策を取り入れ、アピールする動きが見られます。
また、『日本再興戦略』の実施や国際競争力強化などの観点から、政府は働き方改革・生産性向上をさかんに訴えています。これは職場のワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を実現するための福利厚生施策の後押しになっていると言えます。
もちろん、『次世代育成支援対策推進法』の延長や『女性の職業生活における活躍の推進に関する法律』の施行といった、法律の影響も無視できません。介護や治療のような制約があっても継続して働ける職場環境づくりを進めるという動きが各社で広がってきました。さらには、労働安全衛生法などの改正により、事業主の責任が強化されています。このように、法令遵守の観点からも、福利厚生施策には間接的な影響が生じています」(秋谷氏)

注目すべき3項目:ヘルスケアサポート、介護、育児関係

「福利厚生費調査」(日本経済団体連合会)によると、法定外福利費は抑制傾向が続いているものの、9年ぶりに増加に転じている。増加に転じた背景は何か。秋谷氏は、この調査の特徴として、次の3点を挙げる。

「今回の調査で増加が目立ったのは、ヘルスケアサポートと育児関連です。また、近年増加傾向にあるのが介護関連です。これらの調査対象の範囲は、次のようになっています。
①ヘルスケアサポートの範囲は、診療、入院費補助(差額ベッド補助を含む)・労働安全衛生法に基づく健康診断費用・法定外健康診断(人間ドック・生活習慣病健診等)・メンタルヘルス等健康相談費用(セミナー参加費を含む)・医薬品等購入費用など。
②介護の範囲は、サービス利用費補助(介護関連施設、介護タクシー利用補助等)、介護積立費用補助、介護相談費用補助、用品購入、レンタル費補助など。
③育児関係の内訳は、育児サービス(ベビーシッター)利用補助、育児・教育相談費用補助、教育ローン、教育費用補助(利子補給等)、日用品購入・レンタル費用補助など。

この調査対象の範囲から、福利厚生費が増加した背景を考えると、次のようになります。
まず、①のヘルスケアサポートについては、平成27年12月に施行した改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度への備えや、医療保険者に課せられた『データヘルス計画』の中で、事業主とのコラボヘルス(事業主と協働で取り組む健康づくり活動)への投資費用が生じた可能性が考えられます。次に②と③の介護ならびに育児関係の内訳が増えた要因としては、次世代育成支援対策推進法の施行や育児介護休業法の改正などにより、事業主が自主的活動に積極的になった点が挙げられます。
また、政府主導の『女性の活躍推進』も、職場環境の整備に一役買っています。同時に、現実的な課題として、従業員の介護離職を福利厚生施策によって防止する意味合いも高まってきたと考えられるでしょう」(秋谷氏)

では、こうした動きは、従業員の働きやすさ向上にどのように寄与するのだろうか。
「従業員にとって、会社(勤務先)が福利厚生を通じて、自分の健康や、育児や介護と仕事の両立の実現を支援しているという点が、勤務先に対する信頼感や安心感の醸成につながります。様々なライフイベントが生じる中で、勤務を継続しやすくする後押しがあることは、職場での能力発揮にもプラスの効果をもたらします。一方、会社側にとっては、従業員が会社の福利厚生について知り、それを利用することで会社を身近な存在と感じてもらい、帰属意識や生産性を高められるといった効果を期待できます」(秋谷氏)
このように、会社と従業員双方がメリットを感じられる福利厚生施策には、経営へのプラス効果も期待できる。

景況感と法定外福利厚生費への投資の経年変化

景況感と法定外福利厚生費への投資景況感と法定外福利厚生費への投資景況感と法定外福利厚生費への投資

資料作成:一般社団法人企業福祉・共済総合研究所

ブランディングや採用にも福利厚生施策を「戦略的」に活かす

昨今では、福利厚生サービス会社にアウトソーシングすることで、大企業と遜色ない制度を整備しているベンチャー企業や中小企業も少なくない。限られた予算の中で、他社との差別化を図るべく、ユニークな福利厚生制度(「失恋休暇」や「親子三世代勤務祝い金」など)を設ける動きも顕著だ。

中でも秋谷氏が注目しているのが、自社の福利厚生の一環だった社員食堂をビジネスにまで発展させた某精密機械メーカーの事例である。従業員に対してヘルシーメニューを提供する活動が、メディアを通じて次第に広がることで、転職人気企業ランキングの上位へと浮上し、結果的に中途採用者の人気企業として認知されていったという。福利厚生が従業員の意欲向上だけでなく、自社のブランディング、人材の採用といった経営戦略にもつながる好例だといえよう。

福利厚生の費用対効果は、定量的に測定することが難しい。ただし、従業員が生き生きと働けるようなサポート的施策が従業員にもたらす効果は大きいという。

「要介護者が増加する今日において、従業員の親族介護に対する支援は、離職防止において非常に重要となっています。例えば、介護が発生した際の対応に関する情報提供や、介護休業を取得した場合の雇用保障と所得保障、職場復帰支援などに関する施策です。また、『従業員の健康は会社にとっても財産である』という認識が広まったことから、従業員自身に対しても、若年期からの食生活習慣の改善やメンタルヘルス予防、健康の増進を促すという意識が高まっています」(秋谷氏)

福利厚生は「会社からのメッセージ」。従業員への周知は人事担当者の役割

福利厚生制度の動向の中でも、人事担当者にとって「これだけはしっかり理解しておきたい」ポイントは何か。

「福利厚生は、会社側から従業員に対して『会社の良さ』を伝えるメッセージです。先述した働きやすさ向上をめざした福利厚生施策は、『従業員が働き続ける中での課題や不安をできるだけ解消し、充実したキャリアを自社で築いていってほしい』というメッセージを発信していることと同義です。こうしたメッセージを従業員が認知することで、会社への帰属意識や働く意欲が高まり、企業と従業員双方にとってメリットをもたらします」

「また、業務外で従業員が新たなスキルを磨くために外部研修に参加したり資格を取得したりするための費用を会社が負担するといった施策を設けたとしたら『従業員の成長やスキルアップを支援している』というメッセージの発信になります。具体的な工夫として、在職中の従業員にはライフプランセミナーなどを通じて福利厚生の周知の機会を設けるとよいでしょう。また、社外に発信する方法として、CSR(企業の社会的責任)レポートに掲載するというのも有効です。新規採用の募集要項やWEBサイトで福利厚生制度を実際に利用した人の声をわかりやすく紹介することで、会社の魅力の一つとしてアピールするのも手です」(秋谷氏)

より俯瞰的な視座と、専門性が制度設計のキーに

こうした動きから、企業の福利厚生及び人事労務などの勤労者福祉に関して、適切なアドバイスや制度設計ができる力が重要になってくる。その背景として、「福利厚生と、社会法等の改正や新設の関わりが強まり、専門的な知識が必要となりつつあること」、「制度設計において、国の公的支援制度や従業員の居住自治体の福祉制度を俯瞰的に把握することが求められるようになったこと」の2点を秋谷氏は挙げる。

「育児や介護、医療などの支援をはじめ、例えば自然災害発生一つとっても、国や地方自治体の災害弔慰金、災害障害見舞金支給についての知識が必要となります。また、今後はグローバル化の影響で、従業員の海外派遣や日本国籍以外の人材雇用のケースが増えると思われます。そのため、日本と海外の社会保障との関わりも把握しておいたほうがよいですね。こうした観点から、政策的な思考で福利厚生を企画し、見直しを行う視点が人事担当者にいっそう求められるでしょう」(秋谷氏)

こうした力を身に付ける方法として、一般社団法人企業福祉・共済総合研究所で実施している福利厚生管理士(EBアドバイザー)養成講座もこれからの時代において、従業員にとって魅力的な施策を考え、前提知識を蓄えるうえで有益だといえる。秋谷氏は、「異業種あるいは同業の人事担当者との情報交換の機会も、新たな発想を生み出す一助になる」と指摘する。

福利厚生制度を取り巻く外部要因についての正しい知識を得ると同時に、他社の事例から自社の従業員を引きつける施策のヒントを学び続けるという姿勢。これが、人事担当者にとって今後ますます重要になるにちがいない。

執筆者紹介

松尾美里(まつお・みさと) 日本インタビュアー協会認定インタビュアー/ライター。教育出版社を経て、2015年より本の要約サイトを運営する株式会社フライヤー(https://www.flierinc.com/)に参画。ライフワークとして、面白い生き方の実践者にインタビューを行い、「人や団体の可能性やビジョンを引き出すプロジェクト」を進行中。ブログは教育×キャリアインタビュー(http://edu-serendipity.seesaa.net/)。

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