「組織内サイレントマイノリティ」須東朋広
社員の働きがい向上には「内発的動機付け」が重要
2017.06.19
飛び込み営業をする新入社員に思うこと
4月には多くの会社で新入社員が入社し、マナーなど社会人にとって必要な研修を一通り受講し、現場に配属される。営業マンとして配属された新人が飛び込み営業する姿を目にする。「度胸がつく」からという理由で世間の迷惑を省みず、「俺も若い頃頑張ったな」なんて目を細めながら頷いている上司・先輩の姿の光景が浮かぶ。
飛び込みしないと売れない商品やサービスとは、差別化できないありふれたもの、広告を出しても読んでもくれない・わかりにくいものであるケースが少なくない。
「作れば売れる時代」の終焉
「作れば売れる」時代、つまり高度成長期におけるGDPが毎年10%近く伸びた時代や「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれたGDP6%成長下では、長期間売れている、また売れている総数が多かったため、差別化のない商品・サービスでも気合と根性を出して頑張ればなんとかなった。しかし、バブル崩壊以降のGDPが平均年1%程度後しか伸びない時代はあきらかに違う。1970年以前、5年以上続くヒット商品は60%あったが、2000年以降は、5年以上続くヒット商品は5%しか存在しない。むしろ、ヒットしている期間が1年未満の商品が20%近くになっている。商品ライフサイクルの陳腐化のサイクルが早くなっているということだ。よってイノベーションが求められる時代であり、対応できない産業・企業は成熟期や衰退期に入ってしまうことが多々見られる時代になったのだ。
目を細めて昔を思い出し喜んでいる暇があれば「売れるものを創る」ために「独創的で、斬新で画期的なアイデア」を創出するためにアイデアを出し合い、多様な人達を巻き込み、実現させていかなければならないはずである。新人を企業色に染めるのではなく、若い感性を使っていかに「独創的で、斬新で画期的なアイデア」を提案させるか、商品開発などの企画部門や研究開発などの部署で新人研修を行うべきだ。毎年恒例の新人研修のやり方を変えることで、オペレーションやコントロール(管理)に明け暮れ、疲弊している社員に「売れるものを創ることに新人でも取り組む時代です、みなさんも意識を変えて取り組んでください。」とメッセージできるはずだ。
「外発的動機付け」より「内発的動機付け」を
その時に最大障壁となるのが「毎年の行事だから」「新人研修はそういうものだから」と企業色に染めることへ何も疑問を持っていない人達だ。それはなぜだろうか?特に成果主義導入以降、報酬や昇進、褒めるなど「外発的動機付け」に頼る制度を作り、運用してきた。短期志向主義が強くすぐに結果が欲しい会社では、ポリシーもこだわりも持たない、やって欲しいことをやってくれる人間を重視し、報いる制度を構築し運用してきた。それに加えて短期で成果を出せないと賞与減だけでなく、降格や降給といった心理的安全を取り除く制度が構築・運用され、新しくチャレンジすることに二の足を踏む社員も少なくない。
一方、トップアスリートと言われる選手たちは、面白く、楽しく、ワクワクすることと捉え、日々チャレンジングな目標を掲げ、達成するために創意工夫して取り組んでいる。傍目から見たら驚くほど努力していて大変に見えるが、その行為自体を愛していて、達成すれば「自分で自分を褒める」ことだけで充分満足する、「内発的動機付け」をしている。
「作れば売れる」時代から「売れるものを創る」時代に変わった。「作れば売れる」時代ではいかに作るものの質量を高めるかが重要であった。そのためには、作る行為自体の好き嫌いといった感情を排除すること、そのためには作る行為を習慣化させ、たくさん作る、欠品を少なくするといった行為に外的な報酬を与えることが手っ取り早かった。
しかし現在のような「売れるものを創る」時代においては、問題解決能力などの人のクリエイティビティ能力が重要となった。かのダニエル・ピンクは報酬というものは視野を狭め、目の前にあるゴールをまっすぐ見ていればよい場合はうまく機能するが、答えが目の前に転がってなく、周りを見回す必要がある場合、つまりクリエイティビティを発揮しパフォーマンスを上げることに対してマイナスの影響を持ちうるとしている。また、外発的動機づけで人を動かそうとすると、アイデアを鈍らせてクリエイティビティをブロックする。そして本来、人が持っている可能性を限定し、情熱や好奇心いわゆる「内発的動機づけ」を失わせるとしている。
「売れるものを創る」時代において「外発動機付け」ではなく、「内発的動機付け」を持ってもらうことこそが重要である。但し、企業にとっても意味があること、働く人とWin-Winの状態になることであり、そのためには連結ピンの役割である中間管理職の在り方が重要である。
「売れるものを創る」時代に向けた戦略を
図は登用される中間管理職と上がり目がない中間管理職について調査した結果である。上がり目のない中間管理職は業績目標の達成を目的としているため、経営陣に対してもメンバーに対しても数字だけでコミュニケーションを取る傾向にある。KPIマネジメントをするためのコントロール(管理)ありきで現場メンバーが疲弊していくパターンである。当然上がり目などない。
一方、将来登用される中間管理職は経営陣には「経営言語」で、メンバーには「キャリア言語」というそれぞれに違ったアプローチでコミュニケーションしていた。経営陣のビジョン実現に向けて経営理念に付け合わせ、どんな付加価値をもたらすべきか戦略を提言、そして付加価値実現のために、メンバーそれぞれの強みに応じて仕事を任せ、成果出し、各々の成果をつなぎ合わせる。
このときに重要なのは、メンバーにキャリアについてどう考えていて、自分の仕事に取り組んでいるのか、また取り組むために今興味あることや読んでいる本、勉強していることをヒアリングしていることだ。できる中間管理職は付加価値実現のために一人一人の顔を思い浮かべて、タスクに分解して部下に任せる。任せる時にも「Aさんは将来こういうキャリアを想定しているよね、この仕事はこういう能力を高めるから将来のキャリアのためにやっておいた方がいいと思う。仕事状況次第ではあるけどチャレンジするかどうか考えておいて」という言い方で自発性を尊重する。一人一人が自発的に取り組み、クリエイティビティを発揮し、仕事の幅を広げキャリアを高められる。また会社もビジョンに向けた付加価値が実現でき、組織力も向上するWin-Winを築き上げられる。そのような人間にはもっと上のレベルで仕事してもらいたいだろう。
社員を働き甲斐ある組織にするためにも、「売れるものを創る」時代に向けた取り組みと仕掛けを人事部が行う。そして一人一人の社員のキャリアに立脚した働き方を支援する現場管理職と人事部がタッグになって取り組んでいくことが求められる。
執筆者紹介
須東朋広(すどう・ともひろ)(一般社団法人組織内サイレントマイノリティ代表理事) 2003年、最高人事責任者の在り方を研究するため、日本CHO協会を立ち上げ事務局長として8年半務める。2011年7月からはインテリジェンスHITO総研リサーチ部主席研究員として日本的雇用システムの在り方の研究から中高年、女性躍進、障がい者雇用、転職者、正社員の雇用やキャリアについて調査研究活動を行う。組織内でなんらかの理由で声を上げられない社員が増え、マジョリティ化しつつあることに対して、2016年10月、誰もがイキイキ働き続ける社会を実現するために『一般社団法人組織内サイレントマイノリティ』を立ち上げ。
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