jMatsuzakiの「自己啓発書評」
「幸せ職場」をつくるための4つのポイント~職場を幸せにするメガネ
2017.06.16
『嫌われる勇気』を読んで「じゃあ何から始めればいいんだ?」と思ったら読むべき一冊
私の愛しいアップルパイへ
2013年に出版されて一大ブームを巻き起こした『嫌われる勇気』はご存知でしょうか。アドラー心理学を世に知らしめた素晴らしい名著です。
嫌われる勇気では「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」「共同体感覚」「自己受容」「目的論」などアドラー心理学の中核となる概念が物語形式で分かりやすく整理されており、自分の生き方を最高させられる実にエキサイティングな一冊でした。
一方で、本書を読んでこう感じるところもあったのではないでしょうか。「なるほど、アドラー心理学は素晴らしいものだということはわかった。で、何から始めればいいんだ?」と。
そんなあなたのためにアドラー心理学をビジネスシーンで、特にマネジメントに応用する方法について説いた実践的な一冊をご紹介します。『職場を幸せにするメガネ~アドラーに学ぶ勇気づけのマネジメント~』という本です。
これは、株式会社ディスコの部長をやられている小林嘉男さんが、実際にマネジメントで導入している実践的手法をまとめた本になります。
株式会社ディスコは東証一部上場企業であり、「働きがいのある会社ランキング」で、グーグルや日本マイクロソフトと並んでTOP10にランクインし続けている会社です。そんな株式会社ディスコのなかでも「最も働きがいのある職場」とされているのが著者である小林嘉男さん率いる経理部なのです。
それにしても経理部が働きがいのある職場というのがすごいですよね。今日はその謎に迫っていこうと思います。
「鬼上司」「冷徹上司」が幸せな職場づくり目指して奮闘!
本書の考え方の基礎にもなっていて、著者がアドラー心理学を学ぶきっかけになった出来事が大変興味深いので紹介します。
著者はかつて「ロジックおかしいよね?」が口癖の典型的な鬼上司、冷徹上司だったそうです。部下の仕事に徹底的にダメ出しをして、部下が成長するように問答無用でお尻をビシバシ叩くタイプの上司です。そんな著者に決定的な日が訪れます。それは、上司である著者に無記名でフィードバックさせてほしいという部下からの申し出でした。その結果は……。
フィードバックシートを手に取った私の目に飛び込んできたのは……、
「鬼」
「血の通っていない半導体のように冷たい冷徹人間」
「あなたが怖いからみんな萎縮して意見が言えない」と、想像もしていなかった言葉ばかりでした。
こんなに一生懸命みんなのためにやってきたのに!
どうして伝わらないんだ!
どうして、どうして……。
その晩は、悔しくて悔しくて眠れませんでした。P52
この出来事をきっかけに著者は自分のマネジメントのしかたを見直すことになります。馬車馬のように働き、それを部下にも強要するマネジメントではなく、もっと幸せな職場を作る必要があることに気がつきます。
そして様々な学びを経て、「幸せの専門家」としてのリーダーになることを決意します。結果、たどり着いたのが「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と説くアドラー心理学でした。アドラー心理学を学ぶにつれて、抱えていた謎がすべて解き明かされていったと著者は語ります。
人格を変えるのではなく、メガネを変える
「本当は自分だって、一緒に働く部下を幸せにしたかった」ということに気づいた著者は、部下が自分らしく働きながら、いつも楽しそうに笑っている職場を作ろうと決意します。
フィードバックを突きつけられてから数ヶ月後にこのことを部下全員の前で宣言した時は、全員キョトンとした顔をしていたそうです。それもそのはず、ちょっと前まで「鬼」「冷徹人間」と呼ばれた上司だったわけですから。
そんな話を聴くと、幸せな職場を作るには人格を根底から変えないといけないのかと不安に思うかもしれませんし、ある種の気持ち悪さを感じるかもしれません。
しかし、人格を変える必要はありません。これはアドラー心理学のいう「認知論」という考え方に基づいています。
アドラーは、「世の中に真実などない。あるのは主観的な解釈だけだ」と唱えました。そして、そのことを端的にわかりやすく伝えるために「誰もが自分だけのメガネを通してモノを見ているのだ」と言いました。
人間は誰もが「認知のメガネ」をかけて「主観的な解釈」をしている――この考え方を「認知論」と呼びます。
P.75
人格を変えるのではなく、ものの見方を変えるというわけです。そういうわけで本書のタイトルにも「メガネ」という単語が採用されています。メガネをかけ変えることで、一方的で押し付けがましいマネジメントではなく、部下一人ひとりを尊重するマネジメントにシフトできたのです。
笑顔あふれる幸せな職場で成果が上がるのか?
マネジメントする側としては、笑顔あふれる幸せな職場にするのは良いが、それで肝心の成果が上がらないのなら意味がないのではないか?と考えるかもしれません。緊張感のあるピリピリした職場の方が成果が上がるのならそちらを選択するという考え方もあるのではないか?と。実際、だからこそ著者はかつて「鬼上司」「冷徹人間」を進んで演じていたわけです。
しかし、本書ではこれに真っ向から「NO!」を突き詰めてくれます。簡単に理由を説明しましょう。”鬼上司マネジメント”と”幸せの専門家マネジメント”の一番の違いは、「結果志向」か「原因志向」かで表現できます。
”鬼上司マネジメント”は結果志向です。徹底的に成果・結果にこだわったマネジメントで、成果が目標に届かなければ欠点を1つ1つ排除していきます。しかし、成果にこだわりすぎることで職場が不満や疑心暗鬼、対立やギスギスした空気に包まれてしまい、社員が受動的で消極的になりやすく、十分に力を発揮できなくなってしまうのです。
それよりも結果を生む原因、つまり職場環境の改善に注力する”幸せの専門家マネジメント”で成果を生むプロセスが改善されます。幸せな職場であれば、部下一人ひとりが本来の力を発揮やすくなり、自然と成果や結果が向上されるのです。著者は良い成果を生む環境づくりに徹底的にフォーカスしているわけです。
みんなが楽しく幸せに働きながら、結果として成果も上がってしまう。これこそ究極のマネジメントではないでしょうか。
「幸せ職場」を作る4つのステップ
「では、どうやって?」
良い質問です。
「では、どうやって?」はこの世で最も素晴らしい質問の1つです。
本書にはビジネスシーンにアドラー心理学を応用する手法がいくつも書かれているのですが、そのなかでも特にグッときたのが「幸せ職場」の作り方と題された4つのステップです。職場でアドラー心理学的に言えば「共同体感覚」を育む方法といえます。
- ステップ1:リーダーとしての想いを明確にする
- ステップ2:組織として大切にすることを共有する
- ステップ3:お互いを知り、信頼関係を構築する
- ステップ4:動き出す仕組みをつくる
組織を作るうえで特に難しいのは、組織としてのミッションを一人ひとりに「自分ごと」だと思ってもらう方法と、部下一人ひとりが「自分が主人公」だと思って自立して動けるようにすることの2点ではないでしょうか。
4つのステップ自体はそんなに意外性はないかと思いますが、この2つの問題を解決する仕組みが大変洗練されていて参考になりました。
朝礼や個人面談、部会の運用などにも踏み込まれていて、うまく機能するミッションの作り方と、部下一人ひとりと親密なコミュニケーションを取る方法については、すぐにでも取り入れたい方法が多数ありました。
アドラー心理学を知っただけで終わってしまった人に手にとって欲しい一冊
本書はアドラー心理学を知っただけで終わってしまっている人には特に手にとって欲しい一冊です。
この記事では触れられませんでしたが、アドラー心理学を実践する上でハードルになりやすい以下のような疑問に1つ1つ解決策が提示されていて参考になります。
- 部下にダメ出ししたり、褒めたりするときに気をつけるべきことは?
- 部下への適切かつ効果的なフィードバック方法は?
- みんなに職場に対して「共同体感覚」を感じてもらえるようにするには?
- アドラー心理学を知らない人にもアドラー心理学的な考え方を持ってもらうには?
- 部下や同僚とのコミュニケーションで気をつけるべき点は?
- 部下や同僚と信頼関係を築き、尊敬しあえる仲になるためにできることは?
- 部下が自然と自ら自己研磨し出すような職場環境を作るには?
- 職場を幸せにするために他に参考になるような書籍は?
などなど、すぐに活用したいと思えるノウハウが盛りだくさんです。
アドラー心理学を基礎としながらも、ほとんど専門知識を使わずに幸せな職場を作る方法がわかりやすく書かれていて、自分もこんな職場を作っていきたいと希望が膨らむ楽しい本です。
本書のタイトルには「マネジメント」と謳われていますが、自分がマネジメントする立場になくてもチームの中で働いている人(つまりすべての人)であれば誰でも役立つ内容になっていると感じました。オススメの一冊です!
職場を幸せにするメガネ~アドラーに学ぶ勇気づけのマネジメント~
貴下の従順なる下僕 松崎より
執筆者紹介
松崎純一(jMatsuzaki) IT系専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。 ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生の頃からの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。 2015年からはjMatsuzaki名義でバンド活動を開始。 ブログ:jMatsuzaki(http://jmatsuzaki.com/)
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