特集

企業ブランドと人材戦略のカギを握るCHRO(最高人事責任者)【第1回】


すべてのベースにあるのは「対話」であって「交渉」ではない

2017.05.24

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目次
  1. 「今なぜCHROが必要なのか」を3つの視点からひも解く
  2. 「人と人との接点を改善することで企業は成長する」
  3. 経営者が伝えきれないことを補完するのがCHRO
  4. 実は社長は社員を見ていない
  5. CHROの定着はまだまだこれから
  6. CHROに求められるのは経験と「人間心理」
  7. 仕組みでは救えない。社員の気持ちをどうくみ取るか
  8. 人にお金と手間をかければ、いずれ必ず返ってくる

「今なぜCHROが必要なのか」を3つの視点からひも解く

企業の経営層として、最高責任者であるCEOは当然のことながら、キーマンとしてはCFOやCMO、COOなどが取り上げられることが多く、人事担当であるCHOは若干これらのポジションよりも下として見られてきた。日本語で表現すると「人事部長」という扱いで、人事に関する最高責任者でありながら、「経営」や「ブランディング」という視点から語られることはほとんどなかったといえる。
海外ではほぼ定着しつつあるCHRO-最高人事責任者-というポジション。日本経営拡大にとって他の責任者と同格かそれ以上に重要であるという概念がクローズアップされ、実際に業績という形で成果を上げる企業も出てきている。

この特集では、企業のブランド形成にとってCHROが不可欠であることを前面に打ち出し、実際に事業として推進している3人の個性的なリーダーに話を聞き、CHROの重要性とその具体的な役割、日本で普及していくための課題や人材の育成、今後の展望などについて語ってもらった。
CHROというポジションが、今後の人事戦略だけでなく企業のブランド構築にとって、なぜ欠かせない存在となるのかを知る一助となれば幸いである。また、2017年2月16日に開催されたイベント、「CHRO×Branding-tokyo branding labo vol.4-」の模様もあわせてレポートしているので参考にしていただきたい。
【写真:それぞれの視点からCHRO の意義について語る3氏(左より大槻貴志氏、チカイケ秀夫氏、深澤了氏)】

「人と人との接点を改善することで企業は成長する」

CHRO特集第1回は、「人と人との接点を改善することで企業は成長する」ことを信念として組織開発支援を行う、企画経営アカデミー株式会社代表の大槻貴志氏に、CHROの定義や企業の抱える悩みに対してCHROがとるべきポジション、アプローチなどを語ってもらった。

大槻貴志(おおつき・たかし)

企画経営アカデミー株式会社代表の大槻貴志氏①

企画経営アカデミー株式会社 代表取締役
ITベンチャー企業を立ち上げ、大企業と直取引できる企業にまで成長させるも、社員と対立してしまい組織崩壊を経験する。そこで初めて企業における理念の大切さや、組織作りの重要性に気付く。現在はその経験を活かし、「社外CHRO(最高人事責任者)サービス」をベンチャー企業、中小企業向けに提供して組織の生産性を向上させる組織開発支援などを行っている。
HP:http://kikaku-keiei.com/index.html

経営者が伝えきれないことを補完するのがCHRO

CHROとは、社員と経営者の橋渡しをする役割であると定義しています。

どの企業も、理念やビジョン・ミッションをしっかり設定していますが、それを具体的にどう落とし込んで、社員に浸透させればいいのかが分からないとか、そもそも経営理念を作った「つもり」になっているケースが非常に多いと感じています。
経営理念が社員にしっかり伝わらない原因のひとつに、その理念を経営者が自分の言葉で作っていない、そしてそのことにまったく気づいていない、というのが挙げられますね。ここを補完するのが、CHROの最も重要なミッションであるという認識です。

今までも人事役員の呼び方として、CHOという言葉がありましたが、こちらは純粋な「人事部長」(または総務部長)という位置づけで、あくまで経営層の下の部門という扱いでしたから、結局このCHOは与えられた予算の中でどうこうして、という動き方なので経営に直結する観点で人事に関わる話をすることができませんでした。

現状、多くの企業で、CFO(最高財務責任者)がCHRO的な役割を担ってしまっているというケースをよく聞きます。本来は人事畑から上がってきた役員がなすべき活動を、ほかにやれる人がいないからと、ファイナンスなどを担当してきた全然違う経歴の役員が仕方なくやる、というような。これでは本来の目的が達せられるはずもないですよね。
こういうケースを見ていると、まだまだ純粋なCHROという存在はとても少ないんだな、というのが実感で、企業としても仮にCHROという役割が必要だとは理解していても、どこから連れてくれば良いかわからないし、非常に困っているのだろうと思います。

実は社長は社員を見ていない

このCHROが不在だと、どんな問題が出てくるかというと、たとえば離職率には大きな影響が出るはずです。

私が今ちょうどコンサルティングしている企業でも、社長はとてもまじめに、とても必死に理念を作って社員を育成して頑張っているのに、目をかけた社員ほど辞めてしまうという悲しい現象が起きています。
時間をかけて組織図を作り、重要なポジションにその社員を置いていたのに、急に抜けられてしまうということが繰り返されている。このままでは経営戦略もボロボロになり、企業の存続にも関わってきてしまいます。これは特にベンチャーではインパクトが大きい。

企画経営アカデミー株式会社代表の大槻貴志氏②

この原因は、やはり社長が社員のことを見ていないことがひとつ挙げられます。社長としては目をかけているつもりでしょうが、結果的に「目標設定中心」になっていて、「売り上げ〇億に対してこういう活動が必要だ」というようなことはしつこく言うものの、なぜその売り上げが必要なのかということをしっかり伝えられていないのです。
「会社は成長しなければならない」という総意で話してしまうので、社員はついていけなくなる。社員からすると(直接は)自分に関係のないこととして捉えててしまいがちですから。

CHROの定着はまだまだこれから

CHROはまさにこの経営者と社員の間を取り持つ役割という、非常に重要な立場になります。

CHROが存在することによって、社長がなぜこの会社を経営し、存続させ、成長させなくてはいけないかを社員へ正確に伝達できるようになるわけです。
逆にいえば、CHROはCEOに対して、その“掘り下げをできる立場”にあるということです。
経営者と対等な立場で、モノ申せるのがCHROで、どうしたいのかを引き出す重要なポジションになります。

CHROという概念はまだまだ日本では定着していなくて、そもそもCHOに関する書籍も10年ほど前に一冊出ただけで、その後は出ていません。以前から存在する「組織開発」という概念が、CHROに置き換わったという考え方もできますが、いずれにしてもこれから 浸透していくものでしょうね。
そもそも、この「組織開発」という言葉自体が堅いせいか敬遠されがちで、CHROと呼んだとたんに反応がよくなるというのがあって。” 人事の責任者” というキーワードなら話を聞いてくれるみたいな感触がありましたね。呼び方だけの問題なのですが、やはりここの考え方が日本ではまだまだなのだろうなと。

CHROに求められるのは経験と「人間心理」

CHROに必要な能力【図:「CHROに必要な能力」(2016企画経営アカデミー)】
(図について)CHRO(最高人事責任者)は、人事の役職が上がったポジションだと思われがちだが、実際には経営の観点からCEOと一緒になって「人的資源」の最適化を図ることが最大の役割となる。 そのため、必要な能力として人事としての労務管理や給与管理だけでなく、「人」の観点から企業にとって最適な経営戦略を練る力。企業の組織を設計し、どのように動かすのかという組織論の観点、さらに何よりも「人」そのものを理解するための人間心理についてマスターしていることが必要となる。人事管理企業に所属している社員の管理がメインの業務となっている人事部と違い、CHROには経営者も企業における1つの人的資源としてとらえ、企業全体の人的資源をマネージメントしていく能力が求められる。

CHROに求められる素養としては、人事はもちろんとして、経営について理解していて語れるということ、組織論や組織開発がわかる、というのが必須になります。非常にハイスキルであるし、経験も必要になります。
そして何より、人間心理がわかる人であるべきです。社員との接点ももちろんですが、組織崩壊の原因はほぼ社長にあることが多いので、なぜその行動に至っているのかを理解できないと改善へ導くことができません(図参照)

ではそのCHROを招き入れたいとなっても、どう探せば良いのかという大きな壁があって、今の段階ではコーチングなどで活躍されている方に創業時に入ってもらって社外CHRO的に動いてもらうというスタイルになっているのが実情です。
仮に社外からCHROを入れた場合、通常のコンサルタントは経営者と直接対応するケースがほとんどですが、CHROは社員とも多く接する必要があります。とはいえ社員からすればこの人は社長と密接だからという目で見てしまうので、とにかく社員の気持ちや考えを聞き、引き出すことに徹することが求められます。

仕組みでは救えない。社員の気持ちをどうくみ取るか

さきほどCHROは組織開発の呼び方が変わったものと言いましたが、この両者の大きな違いは、「仕組みづくり」か否か、という点です。

実は仕組みは作れば作るほど、社員の気持ちが置いてきぼりになることがあります。とある企業では、制度もかなりしっかりと構築されていて、有給や報償などとても練られているのに、実はそれが社員に響いていないというケースがあります。その経営者はとにかく社員のことを第一に考えてそれらの制度を組み立てたのに、社員たちはまったくそこに感謝をしていないし、恩恵も感じていないわけです。経営者としては、「仕組みさえしっかりしていれば」という気持ちからの行動だったのですが、まったく効果を出せていなかったのです。

ここで決定的に欠けているのは、社員たちの気持ちをどうくみ取るか、という経営者の視点です。
すべてのベースにあるのは、「対話」です。決して「交渉」であってはならない。
CHROを幹部として設置するからには、経営者自身も変わる覚悟と勇気が必要です。単にCHROを置けば会社が変わるはずもなく、経営者が本当に自分のやりたいことに向き合えるかどうかで数年後の結果が変わってきます。CHROは万能ではありません。経営者と一体となって、経営者自身も含めて組織全体を変えていくという強い決意が絶対に欠かせません。それがCHROを介して正しく社員へ伝わる(「対話」をする)ことで、変化が起きるからです。

企画経営アカデミー株式会社代表の大槻貴志氏とチカイケ秀夫氏

人にお金と手間をかければ、いずれ必ず返ってくる

今後、CHROという概念が広まっていくには、CHROが入ったことで業績が向上した企業が出てくることが必要ですね。売り上げと利益がマーケティングや営業力だけではなく、人事を含めた内部の底上げ、つまり組織開発による結果だということが証明される。それが一番だと思います。
「人にお金と手間をかける」ことで、結果が出ることが明白になるはずですし、かけた分だけ返ってくることが証明されるのは間違いありませんから。
当社のサービスでも、「社外CHRO」として経営者と社員に寄り添い、経営者が抱えるべきではない無駄な荷物をおろし、本来目指すべきところへ導く支援をしていきます。
やれるだけのことをやっているのにうまくいかない、愚痴をいいたいと思ったらぜひ呼んでほしいと思います。

執筆者紹介

高井 直樹(たかい・なおき)(株式会社スキマタイズ 代表) 「感動」「驚き」「満足」「発見」「喜び」の5感覚で伝達力を強化し、エンジニア出身ならではの論理的課題解決をコンテンツメイクで実現する、ドキュメンテーションアートディレクター。徹底した取材と言語化翻訳、映像、Webとメディアを問わず"表現代行"を生業とし、車とゲームと電子楽器をこよなく愛する無類の速いモノ好き。

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