【働き方改革】成功事例に学ぶ「脱残業のススメ」CASE01~シグナルトーク
柔軟な働き方が、業績を伸ばし人材流失を防ぐ
2017.05.19
長時間労働が恒常化するゲーム制作会社における働き方改善の成功例
一般的にゲーム制作会社やIT系企業は、長時間労働が常態化する傾向にあり、問題の解決が難しいと言われてきた。オンラインゲームの運営を主体に、健康分野領域のWebサービス、アプリなどの開発・制作・配信を行うシグナルトークは、労働時間の短縮、有給消化率の改善に取り組み、社員がライフスタイルに合わせて働き方を選択できる「FreeWorking 制度」を実施。その結果、10年ほど前までは、月間平均労働時間が219時間、残業が60時間を超えていたのが、2016年度には147.3時間に。残業時間が限りなくゼロに近くなっただけでなく、業績は過去最高の数字をたたき出した(取材:2017年2月下旬)。
【写真:「FreeWorking制度」が第3回グッド・アクション(主催:リクルートキャリア)で表彰された。(2017年2月7日・品川グランドホール:編集部撮影)】
個人の状況に合わせて選べる働き方
シグナルトークでは全社員が「成果報酬型」か「時間報酬型」の2つの働き方から選べる。
「成果報酬型」は13時から18時までのコアタイムを設け、それ以外の時間帯は1日8時間を目安に自由に出勤・退勤でき、仕事の成果に対して給与が支払われる。
対して「時間報酬型」は、1日8時間の決められた時間に働き、実働時間に対して給与が支払われ、残業が発生した場合は時間外手当が支給される一般的な企業の働き方だ。
前者は成果が伴っていれば、1日7時間の勤務でも問題なく、基本的には仕事の早い人が得をするという働き方で、現在は社員のほとんどが「成果報酬型」を選択している。
社員に自由な働き方を促す「FreeWorking 制度」
同社では、この2種類の働き方をベースに、子育てや介護、副業などの個々の事情に合わせて働けるよう、週3〜4日出社して勤務する「Free Days(フリーデイズ)」、在宅で業務をする「Remote(リモート)」の2つから成り立つ「FreeWorking 制度」を導入している。
同制度は減給の対象になっても自分のペースで働きたいという社員に向いている。「Remote」で働く条件は、週に一度の全社会議に出席することと、仕事をしている時間にはチャットにログインし、会社からの連絡に対応できる状態にしておくこと。
ただし、介護などの事情で会議に出席できない場合は、議事録の確認をすれば了承が得られるようになっている。
寝泊まり当たり前から残業時間ゼロへ
「創業の頃から、一部のスタッフは寝泊りや土日の出勤も頻繁。ただ、嫌々働いているというよりは、ゲームを作るのが楽しいから、ついつい長くなってしまうという感じでした。しかし共同創業者がうつ病になり、退職するという状況になりました。たとえ好きな仕事でもやはり長時間働いていると疲弊してくる。短距離走のような走り方ではもたないと思い、労働時間を減らすことを考えるようになりました」(同社代表の栢孝文氏:写真)
改善のためにまず実行したのは、栢氏が会社を不在にすることだった。
会社のトップが遅くまで働いていると、社員は帰りづらいもの。物理的に不在であれば、社員も帰りやすくなると考えた。現在、栢氏の会社滞在時間は、全社ミーティングがある週1回、5〜6時間程度だという。
社内テストで「仕事効率の重要性」を啓蒙
仕事の効率化をどう図れるかにも注力した。
同社では「業務効率テスト」という一人ひとりのスキルを測るテストを年1回実施する。内容は、「エクセルファイルを開いてコピーする、並び替える」「ファイル名を変更する」などのPC操作のテストだが、同じ課題を5分で完了する社員もいれば、40分を要する人もいる。
「単純な作業でも8倍の差が出る。プログラムを書く、ホームページを作るなど複雑な仕事になると、その差は8倍どころではなくなります。労働時間を8倍にすることは不可能ですが、効率を高めることは可能。そのことをまずテストの結果という数字で示すことで、『仕事効率の重要性』を啓蒙し、その上で具体的にどうやれば早くできるかなどテクニック的なことをアドバイスします」(栢氏)。
介護や副業と両立して働き続けられる社員が活躍
「FreeWorking 制度」は、同社の“ものが言いやすい社風”がプラスに働き、生み出されたものだ。
2012年ごろ、プログラマーの採用について話し合う会議で「この会社に魅力を感じて働きたいと思ってもらうには、どうしたらいいか」という議論になった。そのときの、一人の社員が発した言葉がきっかけだった。
「…ていうか、ベンチャーなのに会社に来なきゃいけないなんて、ありえないっすよ」
実際にそんな働き方ができるのか。それを確かめるため、栢氏は言い出したその社員に特例として在宅勤務を容認した。すると、在宅勤務でも成果は落ちることがなく、むしろ上がった。これが成功事例となり、2015年に「FreeWorking 制度」が誕生。就業規則に明文化された。
「FreeWorking 制度」がきっかけで、介護離職した職員が復職
2017年3月時点で、同社には介護をしながら働く在宅勤務社員が2名いる。そのうちの一人は、介護離職からの出戻り社員だ。
退職当時、特例で在宅勤務が認められていた社員はいたが、まだ一般社員向けに制度化はされていなかった。「介護との両立は厳しく、会社に迷惑をかけたくない」という思いから一旦離職したが、同社のニュースリリースで「FreeWorking 制度」が導入されたことを知り、復職を決心した。自由に勤務時間を決められる「Remote」であれば、朝、病院に付き添う前に仕事をして、病院から帰ってきてからまた仕事をするという介護と仕事の両立が可能になる。
「就業規則に明文化された制度であれば、堂々と利用でき、この制度のなかでなら安心して仕事に取り組み、貢献することができる」(復職した社員)
制度を作ったことが、優秀な人材の確保にもつながったのだ。
労働時間の削減と業績アップという結果
また、全社の取組として有給奨励日を設けて、全社員が有給の90パーセント以上を消化。副業を容認し、毎年、会社利益の50パーセントをボーナスとして社員に配分するようにしている。
一方でプロジェクトの責任を明確化し、個人に委ねられる裁量を大きくしたことで、仕事の進め方を自身で管理しやすくした。残業時間が短縮され、自己成長の機会も創出できたことも、業績向上の要因にもなっている。
長時間労働対策に苦しむ業界のなかにあって、個人が安心して会社に籍を置き続け、自己成長もできる環境を構築し、少ない労働時間でも業績を上げた好事例といえよう。
【構成:編集部、撮影:D.C.カンパニー】
企業プロフィール
グッド・アクションの表彰状は全社員、来客者が見られるようエントランスに飾られている
会社名:株式会社シグナルトーク
オンライン麻雀ゲームの運営を主体に、パソコンで手軽に脳の認知機能を測定するWebサービス、 健康への効果をスコア化するアプリなどの開発・制作・配信を展開する。
所在地:東京都大田区蒲田5-8-7 蒲田K-1ビル8階
事業内容:インターネットを利用した各種娯楽提供及び情報提供サービス、ソフトウェアの開発、設計、制作、販売
設立:2002年8月13日
社員数:33人(2017年3月時点)
URL:http://www.signaltalk.com/
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執筆者紹介
土井ゆう子(どい・ゆうこ)(ジャーナリスト) インテリア雑誌の編集者を経てフリーに。インテリア、料理、旅など日々の暮らしの楽しみをテーマにしたものから、ビジネス関連まで幅広いジャンルで取材・ライティングを行う。「英国カントリーサイド 庭の美しいB&Bに泊まる旅」(NHK出版刊)、「大学生まれの食品 美味しいお取り寄せ」(双葉社刊)、「日経住宅サーチ 快適リノベLIFE」など多数手がける。
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