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優秀な人材の履歴書は「完璧」ではない。TEDで学ぶ人事採用

2017.04.22

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  • 経営・人事戦略
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the spirit of TED/Gisela Giardino

瑕一つない経歴を持つ優等生と、逆境にもめげずに奮闘してきた苦労人。こんな2人の採用候補者を前にして、あなたはどちらの人物を雇うべきか?――これは2015年に開催された講演会「TED」で、大手運送企業UPSの情報サービス部門で人事トップで務めていたレジーナ・ハートリーが問いかけたもの。世界中で話題になったこの名講演において、彼女は、困難な過去を克服したタフな人材、通称「スクラッパー」にチャンスを与えることの大切さを説いている。(以下、抄訳)

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銀のスプーンとスクラッパー

あるポジションの採用者を決める際に、2人の候補者がいる。1人目は、名門大卒の優等生で、瑕一つない経歴を持つ、絵に描いたようなパーフェクト人材。もう1人は、州立大出身で転職歴が多く、レジ店員や「歌うウェイトレス」などのアルバイトもこなしてきた一風変わった人物。この2人は、どちらも候補者として資格は満たしている。さて、あなたはどちらの候補者を選ぶか?

講演冒頭でこう質問を提示したのちに、ハートリーはそれぞれの候補者を独自の言い回しで表現する。

1人目は「銀のスプーン」――幼少より生まれも能力も秀でていて、成功を明白に約束された人材。

そして2人目は「スクラッパー(闘士)」。とんでもない逆境を跳ね返して、ようやく同じ地点まで這い上がってきた者のことだ。

履歴書は個人のストーリーを物語るもの

ハートリーは質問の答えをいったん保留したのちに、「レジュメ(履歴書)はストーリーを物語るもの」と語る。

人事担当者として何年も経験を重ねるうちに、レジュメにパッチワーク(継ぎ接ぎ)の布地のようないびつな経歴が記されていても、すぐには一蹴せずにじっくりと検討してみることを覚えたという。

羅列された様々なアルバイト仕事の経験は、一貫性や集中力の欠如、気まぐれな性格を表すものかもしれない。だがそれはこうとも考えられる――この人物は、様々な障害にもめげずに、必死に闘ってここまでたどり着いたのではないか、と。「少なくとも、スクラッパーだって面接くらいは受けるに値するはずだ」

「念のために言うと、私は銀のスプーンを毛嫌いしているわけではない」とハートリーは言う。「一流大学に入って卒業するには多大な努力と犠牲を要する。しかしながら、成功が約束されたレールの上をずっと歩いてきた人は、困難な局面にどう対応するだろうか?」

彼女は以前採用したあるエリート人材の例を挙げる。この人物は一流大卒であったがゆえに、ある種の仕事を見下す傾向があった。たとえばUPSのオペレーションをよりよく理解するために一時的に現場作業に従事させると、それを嫌がった。この人物は最終的には組織を去っていった。

だがこのケースとは反対に、「昔から失敗することを宿命づけられていた人物が、思いがけず成功してしまったらどうなるだろうか?」とハートリーは問いかける。

「私は皆さんに、スクラッパーを面接するよう強く推奨する。自信を持ってそう言えるのは、私自身がスクラッパーだからだ」

そうハートリーは告白したのちに、自らの生い立ちを語り始める。

家や車はおろか、電話すらなかった幼少時代

「私が生まれる以前より、父は妄想型統合失調症と診断されていた。すばらしい頭脳の持ち主だったにもかかわらず、病気のせいで仕事が持てなかった」

ハートリーは5人きょうだいの4番目の娘で、ニューヨーク州ブルックリンの荒っぽい地域でシングル・マザーに育てられた。家も車も洗濯機も持ったことがなく、子ども時代の大半を通して電話すら所有していなかった。

「だからこそ私は、ビジネス・サクセスとスクラッパーの関係について進んで理解しようと努める。なぜなら私の人生は、ほんのすこし事情が違えば、今とはまったく異なるものとなっていただろうから」

そして人事担当者として様々なビジネス成功者と出会ううちに、こうした経歴を持つのは自分だけでなく、そこにはある種の「共通項」があることに気がついたという。

「成功者の多くは子ども時代に困難を経験していた。貧困や、育児放棄、幼少時の親との死別、学習障害、アルコール依存症、暴力などだ。従来の考えでは、トラウマは精神的な苦悩につながり、その結果として様々な機能不全を引き起こすとされてきた」

だが複数の研究データにより、思いがけない洞察が明らかになった、とハートリーは言う。「最悪な境遇ですら、成長や変革につながることがある。この直観に反した、目覚ましい現象を発見した科学者らは、それを『心的外傷後成長(post traumatic growth)』と名づけた」

逆境があったからこそ、成功できたと捉える

ある研究では、逆境が子どもに与えるリスクを計測するために、幼少時代にきわめつけに過酷な経験をした698人の調査が行われた。これらの人々の3分の1は、予想に反して、大人になったあと成功者として健康的で生産的な人生を送っていた。

「こんなレジュメがある。この男性の両親は彼を里子に出した。彼は大学を中退した。頻繁に転職を繰り返し、ふらりとインドに一年間逗留したりもした。その上、彼は読字障害まで持っていた。あなたはこの人物を雇うだろうか?」

「この人物」とは、アップル創業者のスティーヴ・ジョブズである。

「世界で最も成功したアントレプレナー(企業家)を対象とした調査では、読字障害を有する人が目立って多かった。アメリカ人が対象の調査では、企業家の35%が読字障害を患っていた」

「これらの『心的外傷後成長』を経験した企業家らの目覚ましい点は、彼らが自分の学習障害を肯定的な困難と捉えて、そのおかげで自分はより優れた聴き手となり、ディテールに気を配る注意深い人物になれたと考えていたことだ」

「彼らは逆境にもかかわらず、いま自分はこうあるのだ、と考えるのではなく、逆境のおかげで、いまの自分があると承知していた。トラウマや困難を自己形成に不可欠な要素として進んで受け入れて、その経験があったからこそ、成功するために必要なタフさや根性が身に着いたと考えていた」

スクラッパーを衝き動かす信念とユーモア

「スクラッパーを衝き動かすのは、『自分が完全に制御できるのは、唯一自分自身だけ』という信念だ」とハートリーは語る。

スクラッパーは「より良い結果を出すために、自分が変えられることはなんだろう?」と問う。そして目的意識があるおかげで、自分自身のことを決してあきらめない。

「貧困や、心を病んだ父や、数回の強盗を経験しても生き延びた人間ならば、ビジネス上の困難くらい、いくらでも立ち向かえる」とハートリーは冗談交じりに言う。

「こう皆さんに語って思い出すのは、ユーモアの大切だ。スクラッパーは困難な時期を乗り越えるのに必要なのは、ユーモアだと知っている。ひとは笑うことで、視点を変えることができるのだ」

大切なのは過去ではなく、未来と向き合うこと

そして最後に、スクラッパーの成功には、「人間関係」が欠かせない、とハートリーは言う。

「人間は自分ひとりの力では逆境を乗り越えられない。どこかの時点で、自分の最良の部分を引き出してくれる他者、自分の成功に賭け金を投じてくれる他者に出会うのだ。なにがあっても自分を信頼してくれる人は、逆境を克服するには欠かせない存在だ」

「私は幸運だった。大学を出て最初の仕事に就いた当時、私は車を持っておらず、別の女性の車でカープール(相乗り)通勤をしていた。この女性は社長のアシスタントだった」

「彼女は私の仕事ぶりを見て、こう声をかけてくれた。『過去について思い悩まずに、未来に集中しなさい』と」

「そしてキャリアを積み重ねるなかで、私は多くの人々に出会い、おそろしく誠実なフィードバックや、アドバイスや、メンターシップをもらうことができた。この恩人たちは、若かった私が大学の学費を捻出するために、『歌うウェイトレス』だったことなんて少しも気にしなかった」

そう告白して聴衆を笑わせたあとに、ハートリーはこう述べる。

「最後にひとつ、貴重な知見をお教えしたい。ダイバーシティ&インクルージョンのプラクティスに熱心な企業は、概してスクラッパーに擁護的であり、しかも競合他社より業績が優れている。『DiversityInc』の調査によると、ダイバーシティ指数でトップ50の企業は、S&P500株価指数の構成企業より、25%業績が優れている

それからハートリーは、冒頭の質問に立ち戻る。あなたは銀のスプーンに賭けますか? それともスクラッパーに賭けますか?

「私は勝ち目の薄そうな人を選ぶことを勧める。彼らには、情熱と目的という秘密兵器がある。スクラッパーを採用しよう」

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忙しくなればなるほど、人事担当者には「履歴書だけでその人物の価値を決めつける」場面が出てくるかもしれない。そんなときには、レジーナ・ハートリー女史のこの講演を思い出してほしい。

Regina Hartley: Why the best hire might not have the perfect resume (September 2015)|TED

翻訳編集=櫻谷知央

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