障害者雇用のマネジメント
障害者雇用の現状と課題 「自分の価値を発揮する」意識の定着化が鍵
2015.07.24
厚生労働省の発表によると、平成26年度にハローワークを通じて就職した障害者はのべ8万4602人(前年度比8.6%増)と、5年連続で過去最多を更新している。一般事業主には障害者雇用率(現在2.0%)を義務付ける「障害者雇用促進法」の理解が進み、就職希望者そのものが増えている結果だと、同省の障害者雇用対策課は見解を述べている。しかし現実には、障害を持った社員のマネジメントや定着で悩んでいる人事担当者も少なくない。障害者雇用の現状や課題、そしてそれを乗り越える方法は何なのか?
なんらかの障害によって「生きづらさ」を感じている人たちのリアルを切り取るWEBマガジン「Plus-handicap」)の編集長を務める佐々木一成氏(一般社団法人プラス・ハンディキャップ代表理事)にお話を伺った。
現状と課題-障害を持つ社員の意識変革がカギ―
佐々木氏によると、障害者雇用を推進する国の施策は、数字の上では着実に成果が上がっているという。
「障害者雇用促進法による法定雇用率達成の義務化や、雇用率未達成時の障害者雇用納付金の発生、ハローワークによる行政指導など様々な施策があります。企業側にも、『しっかり力を発揮してほしい』という意識が浸透し、障害を持つ社員への歩み寄りは今まで以上だと思います。ところが、企業の期待に応えて成果を出そうという意識が希薄な社員も、少なからず存在します。今後大事になるのは、障害を持つ社員に『企業で自分の価値を発揮しよう』という意識を育てていくことだと思います」
こうした意識が障害者に育っていないケースの背景には何があるのか。
「『与えられた給与分は働こう、期待以上の成果を出そう』といった企業で働く上で必要な価値観を知る機会がないまま、社会人になるケースが多いのかもしれません。契約形態によって、企業の研修を受けられる、受けられないという差もあります。また、後天的に障害を持った人や精神障害を持つ人は、そもそも自分の障害を受け入れるのに精いっぱいで、他者に目を向ける余裕がないという問題もあります。企業内でのメンタルヘルスの問題も騒がれていますし、大人の発達障害の診断も増えていることからも、特に精神に障害を抱える方のマネジメントが企業の課題になっていくでしょう」
多様な状況にいる障害者をマネジメントするには?
障害者といっても、身体障害者、知的障害者、そして精神障害者がおり、障害の度合いもさまざまである。そんな多様性を持つ社員をマネジメントするにはどうしたらいいのだろうか?
佐々木氏はシンプルな処方箋を提示する。
「お会いする企業さんにはよく『外国人だと思って接してください』と話しています。健常者とは違う背景で育っている、生活していることが多いということを念頭に、いったん距離を置いてから、その距離を縮めていくイメージの方がうまくいくように思います。障害を持つ社員を同一化して捉えず、客観的かつ公平に接することが大切です」
「相手を自分と切り離し、違う存在だと考える」という視点は、障害者雇用の問題だけでなく、女性活躍推進や「ゆとり社員」の対処など、幅広い問題に応用することができるだろう。障害を持つ社員がキャリア観を育てられるような学びの機会なども、今後必要になってくるが、個々人が抱える「生きづらさ」をサポートする空気は社会全体に必要になってくるはずだ。
「生きづらさ」を予防し、当事者が変わるためのエッセンスが詰まったメディアを目指す「Plus-handicap」のような場の認知を広げることも、社員と企業の両方がハッピーになるための一歩だといえる。
執筆者紹介
松尾美里(まつお・みさと) 日本インタビュアー協会認定インタビュアー/ライター。教育出版社を経て、2015年より本の要約サイトを運営する株式会社フライヤー(https://www.flierinc.com/)に参画。ライフワークとして、面白い生き方の実践者にインタビューを行い、「人や団体の可能性やビジョンを引き出すプロジェクト」を進行中。ブログは教育×キャリアインタビュー(http://edu-serendipity.seesaa.net/)。
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