特別インタビュー
牛窪恵氏に聞く、「ミレニアル世代」の若者との上手な付き合い方
2017.04.19
生まれ育った時代背景がまったく違う「ミレニアル世代」
メモをとらずにスマートフォンで写メを撮る、欠席連絡をLINEで送る、叱るとすぐに辞めてしまう……現代の若者たちに困惑している管理職世代も多いのではないでしょうか。
小・中学校でゆとり教育を受けた、いわゆる「ゆとり世代」より少し下まで含む世代を「ミレニアル世代」と呼びます。「千年紀の」という意味を持つ「ミレニアル」はアメリカで生まれた言葉。様々な解釈がありますが、日本では20代前半を指すことが多く、一般的には新入社員くらいのイメージです。
生まれた時から携帯電話やインターネットが身近にある、いわゆる「デジタルネイティブ」と呼ばれる世代で、物心ついた頃から、日本経済は右肩下がり。それ以前の世代とは育った環境も時代背景も違うため、一方的に価値観を押し付けても、上手に付き合っていくことはできません。
今後の企業の発展には、新世代の若者たちの活躍が欠かせません。まずは彼らの考え方や行動パターンを理解することが大切です。
数多くのインタビューやマーケットリサーチを行っており、現代の若者に詳しい牛窪恵氏に、ミレニアル世代とビジネスの現場でうまく付き合っていくコツを聞きました。
ポイント1:ノリと勢いではなく、具体的な指示をする
―ミレニアル世代の特徴を教えてください。
牛窪恵氏
牛窪:ミレニアルやゆとり世代の少し上の、30代前半ば前後の世代を私は「草食系世代」と呼んでいますが、この世代から下は、日本経済が悪い時代しか知らないので、消費傾向を見ても非常に堅実で、攻めより守りの姿勢が強いんです。
ミレニアル世代もこの守りの志向を引き継いではいるのですが、一方で攻めの志向もあります。「コスパ」(コストパフォーマンス)という概念が定着した世代で、物を買う時も、ただ金額が安いか高いかを比べるのではなく、トータルで見たときの費用対効果の高さで決めます。飽きた時にオークションで売って値崩れしない方、長持ちするからトータルでお得、などという考え方をするんです。
この傾向が実は仕事にも表れていて、彼らは非常にコスパを意識しながら業務に取り組みます。デジタルネイティブですから、ITスキルは高く、要領もいい。だから、効率的に業務を進めることができます。
一方で、失敗を非常に恐れるのも特徴です。失敗したら自分や会社のリスクになると思う仕事はやりたがらない。
上司の世代は、ある程度経済の良い時を見ていますから、頑張った先にはいいことがあると思えます。終身雇用の制度も確立していたので、有事には会社が守ってくれました。失敗しても、リストラされたり、会社が倒産したりすることはないだろうという思いが根底にあったんですね。
でも、ミレニアル世代の根底には、国も会社も守ってくれないという思いがあります。頑張った先にいいことがあるとは限らないと思っているので、ただ単に「頑張れ」と言っても頑張れないんです。この仕事の先に何があるのかを明確に見せてあげる必要があります。「気合いと根性」のような精神論や、「俺の背中を見て覚えろ」といった指示は通用しません。
―上司はどのような指示をすれば良いのでしょうか?
牛窪:「いつまでに、どこまで進めて」と細かく指示することが求められます。これはよく聞く話ですが、上司が「明後日に使う会議資料を作って。頑張れるな?」という曖昧な指示をした。若手社員は「はい、頑張ります!」といい返事をしたものの、翌日出社したら、まったく進んでいない。聞くと、「僕的に頑張ったんですけど、疲れたので昨日は帰っちゃいました」と言ったそうです。
この場合は、「明後日の会議に使うから、明日の朝までに何ページまで終わらせておいて」と明確な指示をするべきなんです。
若者に限らず、今後は時短で働く女性や介護のために自宅勤務をする人などが増えていきますから、仕事はシェアしていくしかない。管理職は誰にどんな仕事を、いつまでにどの程度任せるのか、きっちりマイルストーンを敷いて管理していくことが求められます。
ポイント2:親と良好な関係を築く
―「友達親子」など、親子の仲が良いイメージがありますが、それは仕事にも影響しますか?
牛窪:「親ラブ族」と私は呼んでいますが、すごく親と仲がいいですね。国も会社も守ってくれない中で、彼らが何を信じているかというと、それは「親」なんです。ちょうど一人っ子が増えた世代で、母親の専業主婦率も高く、親子の密着度合が強い。今の20代は、結婚まで8割以上が親と同居しているというデータもあります。企業にとっては、この親子のつながりは無視できないポイントです。
―親に反対されて内定を辞退する人がいると聞いたことがあります。
牛窪:ありますね。子どもが家から離れると心配なので、転勤がある会社は反対する、あるいはインターネットで調べてブラックな要素があると反対します。「オヤカク」という言葉がありますが、「親に確定をとれ」ということで、採用の段階から親と話をしたり、関係性をつくっておくことが新入社員獲得のポイントになるんです。
だから、企業からすると多少面倒であっても、入社式に親を呼ぶのも一つの方法です。社長や直属の上司と顔の見える関係で最初に信頼を得ていると、その後、子どもが辞めたいと言っても、むしろ親の方が「いい会社なんだから続けたら?」とか、「もう少し話し合ってみたら?」と説得してくれることもあります。
入社後も、親の誕生日を上司がチェックしておいて「今日はお母さんの誕生日だから、早く帰ったら?」なんて声を掛けられると、すごく効果的ですね。
急な残業も注意が必要です。親からクレームがくるケースが多いんですよ。親はご飯を作って待っているのに、なかなか帰ってこないとご飯は冷めてしまうし、心配だから会社に電話をかけてくる。やりすぎだと思うものの、心境は分からなくもない。だから残業は事前に伝えておく必要がありますし、残業で会議室に長時間こもるときは、その前に「親に連絡しておいたら?」と声を掛けるような配慮も必要です。
ポイント3:「透明性」を高める
―守りの志向でリスクを嫌う若者たちは、1社に定着しそうにも思うのですが、3年以内の離職率が高いのはどうしてでしょう?
牛窪:たくさんの情報が入ってくることで、負の情報も目に入ってくるんです。ネット上で悪い評判を見ると、不信感が募って辞めてしまうこともある。
そういう意味で、企業は「透明性を高める」ことがすごく大事です。例えば、以前なら上司が知り合いの店に部下を連れて行って、飲み代を会社の経費で落とすようなことはよくありました。ミレニアル世代はそういう公私混同に見える行為をものすごく嫌います。
平日に上司が仕事でゴルフに行くのも、仕事ならそこで取引先とどんな話をしたのかを会議でオープンにする。そうでなければ、「結局遊んでるんじゃないの?」と思って、「うちの上司は公私混同してる」とSNSに書かれてしまう。だから、意識して不透明なことをなくすことが大事です。
―叱り方にも注意が必要ですよね。
牛窪:絶対やってはいけないのが、みんなの前で叱ることです。必ず会議室など離れた場所に一人で呼び出して叱ってください。そのときも、いきなり叱るのではなく、「いつも頑張ってくれてるよね」とまずはほめる。怒られ慣れていないので、怖いというより、ビックリしてパニックになってしまうんですよ。そして、多いパターンは、その直後に会社に来なくなる。ただ来なくなるだけならいいのですが、会社の資料を持ったまま田舎に帰ったりして、電話をしたら親に「もう帰しません」と言われる。なんて事態になりかねません。
―それは悲劇ですね…。デジタルネイティブ世代ならではの、メモをとらない、ビジネスメールが書けないというような点も、上司はつい叱りたくなると思うのですが……。
牛窪:メモをせずに写メを撮ることは、非常に効率的とは言えるのですが、上司から見ると、手を抜いているようにも見えます。常識に反すると感じることは、言い方に気を付けながら、その都度注意するしかありません。
彼らはマニュアルで決められたことはきちんと守れるので、始めから提示するか、一緒にマニュアルを作るのも良いと思います。テレビドラマの「逃げ恥(編集部注・『逃げるは恥だが役に立つ』)」がヒットしましたが、あれもマニュアル化ですよね。恋人といつ手を握ったらいいのか、キスをしたらいいのか悩むよりも、「火曜日はハグの日」と決められたほうがラクなんです。
仕事も、「メールの書き方はこうだ」「欠席連絡はLINEでしない」とマニュアルにする。そんなことまで?と思うかもしれませんが、自分たちとは常識の考え方が違うのですから割り切りましょう。
―ミレニアル世代のモチベーションを高めて、戦力になる人材として育てるにはどうすればよいでしょうか?
基本的に、彼らは自信がないんですね。競争させられてないということは、それだけ自分が勝ち取ってきた成功体験も少ないんです。だから、少しずつできそうな仕事から任せて、ほめて、ステップアップしていく。根気は必要ですが、もともと優秀なので、自信をつけて仕事を覚えていけば、3年くらいですごく変わって成果を出せるようになります。
管理職の方は大変だなぁと思うかもしれませんが、今の若者たちは、カンペキなものよりは、少し欠けているものを好むんですよ。半顔メイクやB級グルメなど、正統派より、ちょっと抜けたもの。だから、上司もカンペキでいる必要はないんです。弱みを開示して、特に彼らが得意なこと、「このアプリの使い方はどうするの?」などはどんどん聞く。その方が好かれる上司になります。
執筆者紹介
尾越まり恵(おごし・まりえ) フリーランスライター。福岡県北九州市生まれ。結婚情報誌ゼクシィの制作に携わり、2011年に独立。「女性の生き方」をテーマに取材・執筆を続けている。福山雅治、ホークスが好き。
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