「組織内サイレントマイノリティ」須東朋広(第6回)
適材適所が大事!「職場リーダー特性マトリクス」で人事課題を解決
2017.04.07
昨今、注目されている「働き方改革」。残業時間問題やテレワーク、同一労働同一賃金などに関する記事が色々なところで賑わかせている。そういった仕掛けや仕組み、インフラを提供することはとっても大切である。しかし、重要な目的が欠けているということを一橋大学守島基博教授は指摘する。それは「働く人がいきいきと誇りを持って仕事に取り組み、その結果、人生を豊かにするという、いわゆる仕事そのもののやりがいに目を向けること」。そして、「やりがいを持つためには仕事そのものや遂行過程における働く人の感情や経験に注目すべきであるということ」だとしている※1。
働く人の感情や経験を注目するとき、「クラッシャー上司」※2なるものがいる。「クラッシャー上司」の特徴は、部下を奴隷のように扱い、気にいらないと精神的に追い詰めて潰す。共感性が欠如しているため、そのことに罪悪感を抱かない。たちの悪いことに、クラッシャー上司は働く人の感情や経験などおかまいなしである。それどころか、出世した「クラッシャー上司」の中には、何人潰したかをさも勲章のように自慢している。こういった上司が存在することを、組織で勤める人で心当たりがない人はいないだろう。
「作れば売れる時代」から「売れるモノを創る時代」に変化した現在、企業は画期的な製品やサービス開発、ビジネスモデル、つまりイノベーションを生み出す必要がある。イノベーションを起こすためには、社員からアイデアを引き出すための環境作りと多様性がキーとなる。クラッシャー上司は、自分とは異なるタイプの部下を排除しようとするため、多様性が脆くなりがちになる。よって、イノベーションが起こりにくくなってしまう。多様性を確保・活かすためには、組織として働く人をしっかり観察し、感情を理解し、思いを汲み取り、支えていく必要がある。
“働く人の声”をしっかり聴くどころか、部下の報連相すらも要領得ないと苛立ちを隠さない、または適当な相槌で聞き流すといった態度をとる、話をすること自体も緊張させる職場リーダーが存在する。一方、萎縮していて結果が出せなかった人、ダメの烙印を押された人でも、元気でノビノビと明るく結果を出す人に変えることができる職場リーダーがいる。職場リーダーの特性は非常に重要になるが、どうやって職場リーダーの特性を見抜けばいいのだろうか?
職場リーダー特性のタイプ分けとして、1つ目の軸は「課業達成重視型」と「人間成長重視型」というリーダーシップ行動の切り口がある。「課業達成重視型」はビジョンを掲げ、それに向かって方向性を打ち出し、途中でついていけない人も出るが、目標を達成させるために全力を注ぐ。「人間成長重視型」は一人一人の社員が成長することで組織力が上がり、目標や目的を達成することにつながると信じている。よって、一人一人に対して顔色や様子を見ながら声を掛け、時には励まし、落ちこぼれないように支援していく。
2つ目の軸として「独善」と「信頼」という考え方・方針・態度の切り口が挙げられる。「独善」は他人の利害や立場を考えず、自分だけが正しいとする考え方を持っている。自分だけが正しいと思い、ほかの人の意見を聞き入れない、いわゆる独り善がり。「信頼」はその人が頼りになると信じること、「信頼」するためにその人に対して何らかの信頼できる根拠を見出し、現在・未来への行動を期待し任せる。
下図のように縦軸を課業達成重視型/人間成長重視型、横軸を独善/信頼という類型の各2軸を組み合わせて4つのセルで職場リーダー特性にタイプ分けできる。
粉砕型リーダーの特徴
目的達成のためにメンバーは身を粉にして働くのが当たり前。自分が圧力をかければいつでも業績を上げられる。メンバーの仕事の隅々まで口をはさみ、言われた通りで完成させるように管理する。自分がいないとメンバーだけでは何もできないので、いつも指示を出してやらなければならない。メンバーは自分の手足であり、消耗品である。
タイプ的には織田信長のような唯我独尊タイプで“泣かぬなら殺してしまえホトトギス“的にメンバーに威圧する。創業期に見られるリーダータイプ。
マキシマイズリーダーの特徴
企業や事業を取り巻く環境を理解し、目的や目標を達成するために何をすべきか方向性を示す。メンバーはそこからなにを行うべきかについて、意見や課題など発言しやすい雰囲気で接する。面白い発想を起案した人に自由裁量で取り組みさせそっと見守る。オペレーティブな仕事を担う人にも常に感謝でいつも見ているよという安心感を与える。タイプ的には島耕作のような包容力がありメンバーからの信頼が厚い人を指す。成長期に組織を拡大したいときに期待通りの活躍をしてくれるリーダーである。
押し付け型リーダーの特徴
ヒトがいきいきと働くことによってハッピーになり、そして組織力も高まりハッピー、Win-Winになると思っている。いきいき働くためには成長に寄与することが大切であり、そのために教えることに糸目をつけない。しかし、時間を掛ければ掛けるだけ仕事はできるようになると信じている。なぜならそうやって自分が育ってきたから。24時間でも働く。自分の辿ってきたやり方、信じている価値観こそが正しい。タイプ的には「巨人の星」の主人公・星飛雄馬の父星一徹。成熟期を迎えた会社が新たな取り組みをやり遂げる人材を輩出した時に、あの時あの人に鍛えられたといわれるリーダー。
立て直し型リーダーの特徴
メンバーは有能であり自分で解決策を見つけて行動する。それは挑戦するからであり、背中を押すことがリーダーの使命だと信じている。ヒトそれぞれ活躍できる場所は必ずある。よってメンバーの才能を見出し、本人に気づかせ、その気にさせ実行させ、成果が出ることが最高の幸せと感じる。そういった事例をいかに自分が関われるかが生き甲斐である。タイプ的には野村克也氏。衰退期、もしくは衰退期にかかった企業において、埋もれた人を見つけ活かす、育てることができるリーダー。
職場リーダー特性マトリクスを示させていただいた。ビジネスは“人”で決まる。昨今のような激変する経営環境において現場で考え行動していかなければならない。特に様々な事業業態や事業ライフサイクルが存在する会社において人の配置は難しいが重要な人事マターだ。職場リーダー特性マトリクスを使って適所適材に配置する、活用する、育成することに取り組んでもらえれば幸いである。
※1 日本経済新聞 やさしい経済学「毀損した日本企業の組織力⑤」
※2 『クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち』(松葉一葉、PHP新書)
執筆者紹介
須東朋広(すどう・ともひろ)(一般社団法人組織内サイレントマイノリティ代表理事) 2003年、最高人事責任者の在り方を研究するため、日本CHO協会を立ち上げ事務局長として8年半務める。2011年7月からはインテリジェンスHITO総研リサーチ部主席研究員として日本的雇用システムの在り方の研究から中高年、女性躍進、障がい者雇用、転職者、正社員の雇用やキャリアについて調査研究活動を行う。組織内でなんらかの理由で声を上げられない社員が増え、マジョリティ化しつつあることに対して、2016年10月、誰もがイキイキ働き続ける社会を実現するために『一般社団法人組織内サイレントマイノリティ』を立ち上げ。
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