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コラム

「組織内サイレントマイノリティ」須東朋広


【第五回】エンプロイアビリティ保障型HRMシステム構築に向けて

2017.03.10

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80年代の日本型HRM(Human Resource Management)システムが機能していた時代は、部下を画一的にマネジメントし組織成果を最大化させる、またマネジメントを通じて、より早く正確に課題解決サイクルを回せばよかった。より早く正確に回すためには長年掛けて一日一日をしっかり手を動かし技術を高めることであり、そのために雇用保障する代わりに、年々組織で真面目に働くように拘束した。

しかしこれからはイノベーションのために専門性を高め、将来を予測し最適化していくことが求められる。そのためには自分の志向性(何を専門性にするのか)やキャリア構築において必要な能力(その専門性を高める能力とは何か)を選択し、自己責任でエンプロイアビリティを高めることが重要である。人こそが競争優位の源泉と本当に思うのであれば、企業は主導的に働く人のエンプロイアビリティを高めていく「エンプロイアビリティ保障」をHRMシステムとして導入していくべきである。しかしながら、これまで日本企業で新しいHRMシステムとして欧米発の成果主義やコンピテンシーなどを導入してきたが、現場で運用がうまくいかないとよく耳にする。むしろ欧米式システムをそのまま企業組織に導入した結果、現場や働く人が困惑している企業も少なくない。

ではどうやってシステム化していくのか?人間誰しもが変化を嫌う。ましてや慣れ親しんできたシステムを変えることは社員に不安を与えることになる。アメリカ式経済合理性の追求である成果主義やコンピテンシーなどは、日本で働く人の志向と今までの経験・慣行に配慮されていなかった。社員が腹落ちして行動してもらうためには、従来の「(長期)雇用保障型人事システム」が時代にそぐわなくなったところから適合させるやり方が有効であろう。

そもそも「(長期)雇用保障型人事システム」とはなにか。新卒一括採用後、様々な組織や職場、業務を経験しながら時間をかけて徐々に経営者候補を選抜していく。入社年数などの節目毎に選抜し、それを繰り返すことで経営者候補を絞り込み、経営者を選出する(例えば昇進標準モデルでは係長38.8歳、課長44.8歳、部長51.3歳※1という結果である※2)。これは「トーナメント方式」と呼ばれている。

「トーナメント方式」の現在における問題点とは「単一人事制度」「年次管理」で運用されていること、つまりゼネラリスト養成に偏った年功型キャリアパスであること。また「定期異動させ、総合的に評判のよい人」、つまり大きなミスをしなかった人が生き残る傾向にある。そしてトーナメント方式から「外れた人」でも原則定年まで雇用し続けること、裏を返せば競争から脱落した人は辞めてやりがいや高い賃金をもらおうとしても、市場価値と乖離しているため外部に転進できない。といったことが挙げられる。

マネジメント職コースと専門職コースの複線型人事制度を導入している企業は多い。しかし専門職というキャリアパスがあることは説明できても、そのキャリアでどうやって偉くなっていくのか明示できない、そもそも専門人材すら定義できていない企業が多い。一方、マネジメント職は単純明解に部下数が増えることで偉くなっていく、すなわち偉いマネジャーは部下が多い。基本的にはマネジメント職がメインストリームであり、専門職はマネジメント職になれない人のために用意されていることが大多数である。私はこの設定や運用も間違っていると思う。また、大半の社員はマネジメントポストが減っているために就けない、「トーナメント方式」から外れていく社員が溢れ出る時代である。よってエンプロイアビリティ保障はこれから欠かせないシステムにしていかなければならないし、専門職コースがあるから頑張れるといった制度を構築しなければならない。

そのためには専門人材とは何か、企業として定義し、専門職としてのキャリアパス構築を行う必要がある。その際、専門性の発揮度や貢献度、例えば顧客インパクト度※3や育成した社員の活躍度などを評価や処遇(非金銭報酬を含む)する在り方に再設計していくべきであろう。一部の企業では研究者を対象としたフェロー制度や研究支援制度に限定されているが、対象範囲を広げるべきである。

専門職制度が新設または拡充でき次第、アセスメントに時間を掛けてマネジメント職同様に選抜・選考する。また事業部にパートナー人事を配置し、選抜された候補者のフォローやコーチングをして能力発揮やエンプロイアビリティを高める支援を行う。

また、マネジメント職人材もエンプロイアビリティ支援できるスキルや知識を学ばせる。そしてプロジェクトやタスクをアサインするときに「(このくらい)エンプロイアビリティが高まるからやってみないか」、という声掛けを通じて本人のモチベーション、キャリアコミットメントを引き出し、良質な経験をして成長してもらう。働く人も企業もWin-Winとなってイキイキする社員が増えるであろう。

文字数の関係上、ここでは具体的に提示できないが、今後はエンプロイアビリティを軸に採用、職場での動機づけ、トレーニング,個に着目した人事管理・異動(社外も含めて)などを補完させながら経営パフォーマンスにつなげること、つまり「新・日本型HRMシステム」として構築を人事部門が取り組んでいかなければならない。

 

※1 2005年労務行政研究所が上場企業を中心とする4,003社を対象に,回答のあった138社(製造業63社・非製造業75社)を集計したもの。
※2 全国証券市場の上場企業を中心に、回答企業の現行制度に基づく、役職(係長・課長・部長)への「標準」昇進年齢を尋ねた。2009年結果では係長は39.6歳、課長45.1歳、部長50.7歳となっており、若干早くなっている。しかしポスト不足などから役職への昇進スピードは「変わらない」が6割前後という結果である。
※3 顧客インパクトは高度な専門性を持ち、顧客が気づいていないようなニーズや将来の技術動向を見極めて、将来の方向性を選択する、つまり専門性に裏打ちされた予測と最適化をする能力が必要になる。

執筆者紹介

須東朋広(すどう・ともひろ)(一般社団法人組織内サイレントマイノリティ代表理事) 2003年、最高人事責任者の在り方を研究するため、日本CHO協会を立ち上げ事務局長として8年半務める。2011年7月からはインテリジェンスHITO総研リサーチ部主席研究員として日本的雇用システムの在り方の研究から中高年、女性躍進、障がい者雇用、転職者、正社員の雇用やキャリアについて調査研究活動を行う。組織内でなんらかの理由で声を上げられない社員が増え、マジョリティ化しつつあることに対して、2016年10月、誰もがイキイキ働き続ける社会を実現するために『一般社団法人組織内サイレントマイノリティ』を立ち上げ。

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