書評『小さな会社のための新しい退職金・企業年金入門』
社長!その退職金制度、間違ってます!! 今こそ価値ある退職金・企業年金制度を
2017.03.06
退職金は、実際退職者が出るまで支給されることがないため、給与などの他の報酬制度と比べると関心度が低く、どうしても整備が後回しにされがちな分野です。また退職金は、長期の勤続に対するまとまった額を退職時に一時に支払うという、他の報酬にはない性格を持っています。このことから、従業員の在職中にかかっているコストを把握しづらい点も、この分野が敬遠されがちな要因の1つだと思います。
しかし、退職金制度を設けている企業では、給与の1割程度が退職金のためのコストとして追加で掛かっています。事業の拡大期に採用した従業員が一斉に定年退職を迎えたりすると、資金負担への影響も非常に大きくなります。一方で、従業員にとっては老後の生活を支えるための重要な資金であり、国の年金が縮小していく中で、その重要性はますます増しているところです。
こうした中で、退職金や、その資金準備の手段である企業年金について、初めてその制度内容を見直したり、新たに制度を導入したりしようとする中小企業の経営者や人事担当者にとっての「入門書」と言えるのが本書です。実際に制度設計の検討を始めたり、金融機関からの提案を受けたりする前に、ひととおり知っておきたい事柄について、分かりやすくまとめられています。
本書では、中小企業が採用できる退職給付制度を「内部留保型」「企業年金(確定給付)型」「共済型」「確定拠出型」の4つのタイプに分類したうえで、
・どこに退職金の原資を積み立てるのか
・掛金の税制上のメリットを受けられるのか
・積立資金を事業資金に流用することは可能か
・退職給付債務(従業員に対する将来の退職金の支払義務にかかる債務)を決算に計上する必要があるか
・積立資金の運用責任を負うのは誰か
・自己都合退職の場合に支給の減額は可能か
・中途退職時に従業員は一時金を受け取ることができるか
・年金での受け取りを選択することは可能か
・制度の実施後に給付を引き下げることは可能か
といった観点から比較・整理されており、自社にふさわしい制度の選択と、その組み合わせについての基本的な考え方を知ることができます。
また、現在の退職金・企業年金制度を見直す際に必要となる、現状把握、支給額の算定方式の検討、モデル退職金額の設定、旧制度から新制度への移行についての概要や、実際に制度を設計し、導入するにあたっての、社員説明までの具体的なステップについても解説されており、制度の見直しに着手してから新しい制度をスタートするまでの流れもイメージしやすくなっています。
本書の後半では、筆者が特に専門としている確定拠出年金制度(DC)について、一般的な制度の解説にとどまらず、中小企業が採用するにあたっての詳細な選択肢や、導入にあたってのポイントや留意点、他の制度との組み合わせ方も含めた活用方法について、詳しくまとめられています。
ここ最近、退職金や企業年金の普及にブレーキがかかり、むしろ後退傾向にある中で、DCにあっては、制度創設以来、着実にその導入企業や加入者の数を増やしています。大企業から中小企業まで規模にかかわらず広く採用され、離転職時にも資金の持ち運びが可能なDCは、特にこれから新たに退職金制度を実施しようとする会社にとって、まず押さえておくべき制度といえるでしょう。
とはいえ、本書の中でも指摘されているように、制度ありき、結論ありきでの検討では、最終的に従業員の理解を得て、人事制度・報酬制度の一環である退職金制度を、有効に機能させることは期待できません。退職金を通じて従業員にどのようなメッセージを伝えたいのかをはっきりさせ、それにふさわしい制度の設計や選択を行うことが、退職金制度の見直しや導入を成功させるカギとなります。
退職金は、従業員にとっても「いくらもらえるのか分らないもの」になりがちであり、せっかくコストをかけて退職金制度を実施していても、退職を間近に控えたところでようやくその金額やありがたみを知るということになりかねません。本書にもあるように、退職金を「見える化」することで、従業員が在職中から金額を把握できるようにし、引退後に向けた将来の資金計画を立てられるようにしておくことも、今後の退職金制度を考えるにあたっては、重要なポイントとなるでしょう。
なお本書では、小規模企業の経営者を読者と想定していることもあり、退職金にかかるコストを資金繰りとほぼ同列に扱っています。但し、上記の退職給付制度の4分類のうち、「内部留保型」と「企業年金(確定給付)型」については、本来的には中小企業においても要支給額(その時点で仮に全従業員が退職したとした場合に支給すべき退職金額)等を、決算で引当処理することとなります。この場合、退職金にかかる帳簿上の費用は、当期に現金で支払った退職一時金や企業年金の掛金とは異なるため、両者を混同しないように留意する必要があります。
執筆者紹介
向井洋平(むかい・ようへい)(株式会社IICパートナーズ 常務取締役) 京都大学理学部卒業後、第一生命勤務を経て、2004年にIICパートナーズに入社。退職給付制度の設計や債務計算、年金資産運用に関するコンサルティング等に従事。2016年11月に『金融機関のための改正確定拠出年金Q&A』を出版。「はたらく人たちが豊かなライフプランを描ける社会の実現」を目指し、オフィシャルブログ「社員に信頼される退職金・企業年金のつくり方 」等を通じた情報発信を行っている。
@人事では『人事がラクに成果を出せるお役立ち資料』を揃えています。
@人事では、会員限定のお役立ち資料を無料で公開しています。
特に人事の皆さんに好評な人気資料は下記の通りです。
下記のボタンをクリックすると、人事がラクに成果を出すための資料が無料で手に入ります。
今、人事の皆さんに
支持されているお役立ち資料
@人事は、「業務を改善・効率化する法人向けサービス紹介」を通じて日本の人事を応援しています。採用、勤怠管理、研修、社員教育、法務、経理、物品経理 etc…
人事のお仕事で何かお困りごとがあれば、ぜひ私達に応援させてください。
「何か業務改善サービスを導入したいけど、今どんなサービスがあるのだろう?」
「自分たちに一番合っているサービスを探したいけど、どうしたらいいんだろう?」
そんな方は、下記のボタンを
クリックしてみてください。
サービスの利用は無料です。
関連記事
-
コラム
人事必見!ニュース解説
確定拠出年金の「塩漬け」問題、人事部ができることとは…?
目次 盛り上がる確定拠出年金の密かな悩み「塩漬け1400億円」? 自動移換者という「塩漬け」問題はどこにあるのか 企業担当者には「退職者説明」の義務がある 離職してから半年間のもう...
2016.11.29
-
書籍紹介
新刊紹介
『「うちの会社にはいい人が来ない」と思ったら読む 採用の問題解決』著・北野唯我
ワンキャリア(東京・渋谷)は、取締役 執行役員CSOの北野唯我氏の著書『「うちの会社にはいい人が来ない」と思ったら読む 採用の問題解決』(ダイヤモンド社)を発売した。同社は創業以来...
2024.10.21
-
書籍紹介
新刊紹介
『会議・プレゼン・メール・雑談で失敗しない!シンプル・丁寧・効果的なビジネス英会話のコツ96』著・伊藤日加
ビジネス特化型オンライン英会話事業「Bizmates」を展開するビズメイツ(東京・千代田)は、数多くのビジネスパーソンへの英会話指導を行ってきた取締役・伊藤日加氏の著書『会議・プレ...
2024.10.08
-
書籍紹介
新刊紹介
『Z世代の社員マネジメント 深層心理を捉えて心離れを抑止するメソドロジー』著・小栗隆志
リンクアンドモチベーション(東京・中央)は9月17日、フェロー の小栗隆志氏による著書『Z世代の社員マネジメント 深層心理を捉えて心離れを抑止するメソドロジー』を日経BPより発売す...
2024.09.13
あわせて読みたい
あわせて読みたい
人気の記事
国内・海外ヘッドライン
THE SELECTION
-
PRTHE SELECTION企画
「置き型健康社食」がもたらす可能性とは
健康経営、採用強化、コミュニケーション活性化にも。 手軽に導入できる「食」の福利厚生
-
PRTHE SELECTION企画
街なかの証明写真機「Ki-Re-i(キレイ)」で、もっと社員の顔写真管理をラクに
社員証の写真、「最適化」できていますか? チーム力を強化する顔写真データ活用法とは
-
THE SELECTION特集
【特集】ChatGPT等の生成AIが一般化する社会で必須の人材戦略・人的資本経営の方法論
-
THE SELECTION企画
レポートまとめ
@人事主催セミナー「人事の学び舎」 人事・総務担当者が“今求める”ノウハウやナレッジを提供
-
THE SELECTION特集
特集「人手不足業界の逆襲」~外食産業編~
「見える化」と「属人化」の組み合わせが鍵。 丸亀製麺が外食業界を変える日
-
THE SELECTION特集
人事のキーパーソン2人が@人事読者の「組織改革」の疑問に答えます(第2弾)
数値化できない部署を無理に人事評価する方が問題。曽和利光×北野唯我対談
-
THE SELECTION会員限定特集
働きやすい職場づくり~サイバーエージェント編
「妊活支援」や 「働くママ・パパ支援」を、 一部の社員のものにしないためには?