社員に選ばれる会社の人事制度・人材開発
社員のエンゲージメントを高める「ラウンドテーブルミーティング」とは?
2017.02.17
会社における人事制度や人材開発制度は、社員を育成するためのものとしてだけではなく、社員のエンゲージメントを高めるためのものとしても位置づけられております。最近、「エンゲージメント」という言葉がいろいろなところで使用されているのを、見かけたことがある方も多いでしょう。人事における社員のエンゲージメントとは、「会社に対する満足度だけではなく、会社への愛着心」といったものを指しております。社員の「会社に対する思い入れ」と言い換えることもできるでしょう。このコラムでは、会社に対する思い入れを高め、社員に選ばれる会社の人事制度や人材開発に関して、事例を含みつつご紹介していきたいと考えております。
今回は、「社長とのラウンドテーブルミーティング」について取り上げたいと思います。ラウンドテーブルミーティングとは、「円卓を囲んで数名で行い、座り順といった上下関係がなく自由に意見を交換できる会議」のことです。私が在籍していた事業会社では1年半程度かけて、社長と事業所の社員(契約社員、パートも含む)約230名を対象に行ったことがあります。
1.開催の経緯
都内の本社のほかに、本社から40分程度のところに事業所があり、そこに4部門の社員が勤務していました。研修や社内イベントなどは本社で行われることが多く、部門長以外のスタッフの中には、社内報の写真か新入社員研修の冒頭での挨拶時しか社長の顔を見たことが無いという方もいたくらい、社長との距離感がありました。その一方で、勤続年数の長い専門職が多く在籍している事業所でもありました。そこで、スタッフの考えや意見を社長が聞き、さらに、社長からのメッセージを直接スタッフが受け取ることによるオープンな対話を通じて、「関係の質」を高める=心理的な距離感を縮めることを目的としたラウンドテーブルミーティングを実施することにしました。大まかなイメージは社長から伺い、その具現化にたずさわったのが人事部門でした。
2.具体的な手法・運用のポイント
ラウンドテーブルを行うに際して、以下の点は早い段階で決定しました。
・各回10名~15名程度。各部門から満遍なく参加者を出してもらうため、部門毎の出席者を調整するコーディネーターをアサイン。
・月に1回程度の開催。
・部門長以外の直接雇用社員(パートも含む)が対象
・1回あたりの時間は以下のような流れで1.5時間。
・10分:本日の目的(=社長と事業所スタッフの相互理解を深める場)を伝える
・10分:アイスブレイク
・1時間:ラウンドテーブルミーティング
・10分:社長からのコメント
しかし、「ラウンドテーブルミーティングのファシリテーターを誰が行うのか」という点は検討の余地がありました。当初は、人材開発を担当していた私や、上司である人事部門長が行うことも想定していました。しかし、参加スタッフに「人事が聞いているから発言しにくい」という心理的なプレッシャーを与えてしまうことも考慮し、複数社から選定した上で、あるコンサルティング会社にファシリテーターを依頼しました。ファシリテーターは3名ほどアサインしていただき、全17回を複数回ずつ担当してもらいました。それによって、ファシリテーターのスケジュールが限りなくフレキシブルになり、さらに、複数の方の「中立的な意見やミーティングの雰囲気」を伺うことができました。
3.結果および影響
参加スタッフあるいはこれから参加予定のスタッフの反応は、直接感じることができました。当初、このラウンドテーブルミーティングがスタートした時には、私を事業所内で見つけると「次回、社長とのラウンドミーティングに参加しますが、話しちゃいけないこととかありますか?」「何を話せばいいんだろ~」といった、後ろ向きではないにしても、何となく緊張感が伝わることをおっしゃるスタッフが多かったです。しかし、回数を重ねるにつれて、既にラウンドテーブルミーティングに参加した人からの「口コミ」などの影響なのか、「次回なので、楽しみです!」といった発言が聞けるようになったのは、企画担当としてうれしかったです。
ラウンドテーブルミーティングは、社長、参加スタッフおよび外部コンサルティング会社のファシリテーターだけで進行していたので、私自身はミーティングそのものには参加しておりません。当日は、会場設営や出欠確認など事務方に徹しておりました。そのため、ラウンドテーブルがどのような雰囲気だったのかは、社長や外部コンサルティング会社からのフィードバックのみとなります。
そういったフィードバックから鑑みると、社長の人柄や考えについて、該当事業所のスタッフに知ってもらうという目的は達成できたと思います。また、社長がもともとこのラウンドテーブルミーティングに対して意欲的だったこともあり、参加者の質問に対してオープンで率直な回答をしており、参加者も義務的ではなく自身の興味から社長に関して知りたいことを訊いていたようです。また、同じ事業所といえども部門が違うと接点が少ないため、複数の部門の方が一堂に会したのはオフィス全体の雰囲気づくりにはよい影響があったようです。さらに、社長がその事業所に来ると、挨拶をする社員もかなり増えたようです。(社長感覚比)
各回の参加者の反応などによって、話された内容はさまざまだったようです。それこそ、「今後の会社の方向性」「具体的な施策に関する社長・参加者の意見」といった、業務寄りのことがメインだったこともあれば、「楽器の演奏、スポーツ」などの共通の趣味や、社内のクラブ活動(有志で野球、ハイキング、ゴルフといった会社公認のクラブがある)などプライベートな内容がメインだった回もあったようです。
4.まとめ
今回は、ラウンドテーブルミーティングについて取り上げました。相互理解を深める場で対話をすることが重要であり、自分たちの考えや思いを話すことが目的であって、発言が評価につながることはない安全な場であることが、ラウンドテーブルミーティングに参加したスタッフを通じて段々と伝わっていったことも、これがうまくいった要因でしょう。これによって、社員のエンゲージメントもさらに高まるきっかけにはなっただろうと認識しています。社内報などでメッセージを発信していても、直接顔をあわせて話すのが重要であるというのは、どんなにネットワークが発達しても変わることはないかと思います。
執筆者紹介
永見昌彦(ながみ・まさひこ) アルドーニ株式会社代表取締役。外資系コンサルティングファームなどで人事コンサルタントとして勤務した後、事業会社(ラグジュアリーブランド持株会社)で人事企画担当マネージャーとして人材開発・人事システム・人事企画を兼務。事業会社、コンサルティングファームの両面から人事に20年たずさわった経験を活かして、2016年にフリーランス人事プランナー・コンサルタントとして独立。2018年に法人化。現在、人事全般のプランニング・コンサルティング・実務にたずさわっている。
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