企画

脱・長時間労働


「チームで力を発揮する」意識を醸成してワーク・ライフ・バランスの実現を(内閣府 仕事と生活の調和推進室)

2017.02.10

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内閣府男女共同参画局は、2015年12月に閣議決定された第4次男女共同参画基本計画等に基づいて、女性活躍・男女共同参画に関わる様々な施策を行っている。また、ワーク・ライフ・バランス(以下、WLB)の実現に向けては「仕事と生活の調和推進室」が内閣府に設置されている。

2016年は長時間労働是正や、多様で柔軟な働き方を広める動きが活発化し「働き方革命」元年と呼ばれた。一方、長時間労働による過労死、メンタルヘルス疾患といった課題が横たわっている。長時間労働を是正し、生産性を上げるには法制度の整備等が求められるが、同時に、女性活躍推進やダイバーシティ経営の観点からは、各職場でのWLBの浸透も欠かせない。

今回は、「社内におけるワーク・ライフ・バランス浸透・定着に向けたポイント・好事例集」を発行する、内閣府 仕事と生活の調和推進室に、その先駆企業の成功ポイントを伺った。長時間労働にとらわれた働き方を変え、今年度こそWLBを実現したいと考える人事担当者に向け、実践的な処方箋を紹介する。

プロフィール:
内閣府男女共同参画局推進課 仕事と生活の調和推進室
上席政策調査員 中島智史氏
上席政策調査員 原田麻里氏

長時間労働、転勤は当然……。「男性中心型労働慣行」の見直しがWLB浸透のカギ

「社内におけるWLB浸透・定着に向けたポイント・好事例集」(以下、事例集)を発行するに至った経緯をお尋ねした。中島氏はこう語る。「事例集は、実際にWLBを職場に浸透させるための、実践的な情報提供という位置づけです。安倍総理を議長とする働き方改革実現会議では様々な議論が進められていますが、男女共同参画局は、女性活躍推進やダイバーシティ経営の観点から企業の経営者や管理職を対象にWLBへの理解を促し、各職場の意識改革と行動改革をサポートするという役割を担っています。
事例集第一弾となった平成26年度のテーマはWLBの浸透・定着でしたが、平成27年度は一歩進んで、実際に管理職が社員を評価、育成、マネジメントしていくうえで役立つ事例にフォーカスしています。
いずれも一番伝えたいメッセージは、『WLBの定着・浸透は、企業規模の大小や業種を問わず、誰でもすぐに取り組める課題である』という点です」。現に、取り上げられている企業は数十名の会社から5万人超えの大企業まで幅広く、業種もさまざまだ。

ではWLB浸透・定着に成功している企業の共通項は何なのか。中島氏は事例集に掲載された企業の取り組みから読み取れる次の5つを挙げる。「1つ目は『トップの強いコミットメント』があることです。WLBを単なる福利厚生施策でなく、自社の成長に資する重要な経営戦略と位置づけているかどうか。トップの意志が全社への浸透度を大きく左右します。そのうえで、トップが全社的に拡散させたWLBの本気度とビジョンを、現場の業務に結びつく形に翻訳し、具体的な行動に落とし込める存在が必要となります。それが共通項の2つ目、WLBを自らが体現して周囲を巻き込んでいくという『WLB管理職の育成』です。3つ目は『全員参加型』であること。女性と育児を結び付けてWLBを女性だけの問題ととらえてはいけません。育児や介護を担う男性も今後は増えていくと考えられますし、趣味や資格勉強に力を入れたい人なども含めて、一人一人のライフスタイルにおいてWLBは大事なテーマだと訴え、当事者意識を持ってもらうこと。そして、4つ目は『生産性の向上』。これは、『男性中心型労働慣行の見直し』とも関連します。5つ目が『風通しのよい職場づくり』ですね」。

とりわけWLB浸透のためには、「男性中心型労働慣行の見直し」が必要だという。男性中心型労働慣行とは、勤続年数を重視しがちな年功的な処遇のもと、長時間労働や転勤を厭わない人だけが評価され、出世していくという労働慣行を指す。つまり、高度経済成長期には機能していた「モーレツ社員」を評価する文化が未だに残っているのだ。「また、この男性中心型労働慣行の見直しが進まない背景には、構造上の問題があります。例えば、夜遅くでも対応しなければクライアントに迷惑がかかる、といった状況は職場だけで解決できる問題ではありません。一つの職場や企業だけでなく、業界全体、日本全体が取り組まなければならない問題なのです」(中島氏)

「チームで力を発揮する」という意識をいかに醸成するか

仕事をできるだけ定時までに切り上げ、それまでに集中して働いた人が高く評価されるという風土を築くには、仕事のやり方自体を見直していくことが必要となる。こうした動きの中で、民間企業の人事担当者が取り組むべきことは何か。「その一つは、コミュニケーションを密にとり、チームで力を発揮するという意識を育てること」だという。

日頃から社員間のコミュニケーションを密にし、互いの業務内容や個々人の状況を理解し合うことが大切。比較的多くの企業で実践され最初のステップとして取り入れやすい事例としては、スケジューラーを使って各メンバーがいつ、何の業務に取り組んでいるかが可視化できる「スケジュール共有」を挙げる。「○○さんは来週のプレゼンに向けて、今週は忙しくなりそう」とか「●●さんは、●時にはお子さんのお迎えで帰る」といったことが見え、フォローしやすくなるというわけだ。また、業務の進捗を把握しにくいと思われがちな、テレワークのような場所にとらわれない働き方を推進するうえでも有用な方法ではないかと中島氏は語る。

「業務の属人化」を防ぐ

WLBの阻害要因として、「業務の属人化」も大きな壁となっている。担当が一人しかいないと、トラブル発生時に長時間働いて対応する、そもそも有給休暇を取りづらいという状況につながりかねない。そこで「チームで仕事をする」というワークスタイルを人事担当者が推進していくことがカギとなる。事例集にも、三州製菓株式会社の「一人三役」制度が紹介されている。同社では、担当外の仕事を業務の合間に三役ほど習得しておくことで、担当者不在時や繁忙期に、担当外の業務を他の社員が担当できる。そのため、繁忙期も全体の残業を減らせ、長期の休暇も取得しやすくなっているのだ。「各業務の手順をマニュアル化し、ナレッジを共有しておけば、社員の異動時や育児・介護休業取得時などの引継ぎコストを下げられます」(中島氏)

中島氏、原田氏はこうアドバイスする。「とはいえ、チームで力を発揮するという発想は一朝一夕には現場に根づいていきません。『共有するのが面倒』『私の仕事をとられるかもしれない』。こうした感情を取り除くことが必要です。チームで仕事を進められる人こそが、多様性を活かした高いアウトプットを生み出せるし、個人としても高く評価されていく。こうしたメッセージを人事担当者が発信していくことがポイントとなります。スピーディーな変化への対応が求められる時代ですので、専門分野を磨くだけでなく、職場の色々な「穴」を埋められるジェネラリストの価値はますます高くなるはずです。こうした動向を現場に粘り強く発信し続けることも人事担当者の大事な役割ではないでしょうか」

原田氏によると、今後は男性の暮らし方を見直す議論を一層進める必要があり、平成28年度の事例集(平成29年3月末公開予定)では、WLBの取り組みが男性社員の働き方や意識に良い影響を与えた事例を掲載しているという。少子高齢化が進む日本では女性をはじめとした多様な人材の能力を企業の力に結びつけることが求められている。仕事と育児・介護を両立していて時間に制約のある社員は、WLBの実現によって大いに活躍できる。WLB浸透においては、今からでも、ほぼノーコストで取り組める施策が豊富にある。人事担当者が「まずはやってみる、そして、やり続けること」が第一歩である。その際にトップや意思決定者を説得するための根拠として、事例集を十二分に活用していただきたい。

執筆者紹介

松尾美里(まつお・みさと) 日本インタビュアー協会認定インタビュアー/ライター。教育出版社を経て、2015年より本の要約サイトを運営する株式会社フライヤー(https://www.flierinc.com/)に参画。ライフワークとして、面白い生き方の実践者にインタビューを行い、「人や団体の可能性やビジョンを引き出すプロジェクト」を進行中。ブログは教育×キャリアインタビュー(http://edu-serendipity.seesaa.net/)。

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