「組織内サイレントマイノリティ」須東朋広
【第四回】社員の“エンプロイアビリティ”構築支援に向けて
2017.02.03
前回、イキイキ働けなくなると「自己否定感」「組織不適応感」に陥ってしまうことが発見された(【第三回】自己不安感・組織不適応感に対処するためのマインドセットの在り方)。そしてその感情を消し去るためには「エンプロイアビリティ」を高めること、そしてどのような方法で解消するのか述べさせていただいた。今回は「自己否定感」「組織不適応感」に陥らせないために人事部門は何をすべきか、どのように支援すべきかについて述べていきたい。
「エンプロイアビリティ」とは、労働市場価値を含んだ就業能力、即ち、労働市場における能力評価、能力開発目標の基準となる実践的な就業能力と捉えることができる。エンプロイアビリティの具体的な内容のうち、労働者個人の基本的能力としては、
A:職務遂行に必要となる特定の知識・技能などの顕在的なもの
B:協調性、積極的等、職務遂行に当たり、各個人が保持している思考特性や行動特性に係るもの
C:動機、人柄、性格、信念、価値観等の潜在的な個人的属性に関するもの
と厚生労働省は定義している※1。
エンプロイアビリティは企業業績にポジティブに寄与し、かつ持続的競争優位性を築くことで企業も働く人もハッピーになる。そのためのエンプロイアビリティとは①専門知識②予測と最適化③柔軟性④共同意識⑤バランス、としている(山本、2014)※2。
激変する外部環境において、企業はイノベーションが起きるように取り組むことが重要である。特に①②はビジネスの観点から重要といえよう。①専門知識は、知識社会にとって重視されている専門性を保持していると評価されるものである。また②予測と最適化においては、顧客も気づいていないようなニーズを探り当てることが求められる中、将来性ある技術の目利きや時代を先取りする仮説を打ち出すための予測、そしてその仮説を商品やサービスにする上でのコンセプトを創りあげるために大切である。①②は相互に結び付き、高め合ってイノベーションを創発していくための能力として、企業にとって必要であり、育み・高めていくべきエンプロイアビリティである。
企業は社員に雇用を保障するかわりに組織や働き方を拘束してきた。しかし成熟化した社会や不確実性の高い環境では、今までのような企業と働く人の関係性を維持することが難しい。よって働く人は現在・将来の労働市場に関する予測を行い、専門性の獲得や従来の能力に囚われない柔軟性を持ち、自己志向性の理解とキャリア戦略を駆使してエンプロイアビリティを高めていく必要がある。その支援を行うことが業績や組織成長につながるため、企業側もそれに取り組んでいかなければならない。
では実際、企業はどのように取り組んでいるのであろうか? 図は職業別の労働力構成を国際比較したものである(クリックして拡大)。ここで特徴的なのは専門的職業の就業者割合が一番低いことがわかる。2016年にリクルートマネジメントソリューションズが実施した「昇進・昇格実施調査2016」から、部長における課題として、第2位に「社外で通用するレベルの管理能力や専門性が育っていない(48.5%)」が挙がっている(前回調査2009年より8.8ポイント上昇)。また今後取り組みたい施策に「専門職制度の新設・拡充を図る(37.0%)」であった。この施策を現在取り組んでいる企業は8.7%と28.3ポイントも開きがある結果となっている。専門職制度は、マネジメントが得意でなく管理職になれない人材への対応する面が現状拭えない。しかしイノベーションのカギを握る専門性をいかに組織貢献する役割につなげていくか、新設・拡充していかなければならないことも企業は認識している。
予測や最適化に関しては日本企業では企画部門などの一部のエリート層が行っている。大部分の社員は会社から短期成果を求められ、さらに細分化したタスク処理のためのPDCAサイクルを回すだけの歯車となっている。よってエンプロイアビリティや仕事の意味が見出せず、言われたことしかやらないと割り切っている社員も少なくない。中高年にインタビューする機会がよくあるが、自身のポータブルスキルを認識していない社員が本当に多い。
ではどうしていけばいいのか?
エンプロイアビリティには内的エンプロイアビリティと外的エンプロイアビリティがある。内的エンプロイアビリティとは現在の組織で周囲から評価されて、雇用され続ける能力で、外的エンプロイアビリティとは転職市場で評価の高い、他の企業でも使える能力のことをいう。日本企業は特に前者に重きを置いてきたが、先ほどにも触れてきた通り、これからの時代において全社員を雇用保障できなくなっている。よって後者を高めるための支援も行っていかなければならない。これを「エンプロイアビリティ保障」といい、企業側が主導してエンプロイアビリティを高めていくことである。従来の日本的な「長期雇用保障型人事システム」から「エンプロイアビリティ保障型人事システム」へ。次回は「エンプロイアビリティ保障型人事システム」構築をなぜ行わなければならないのか、どう構築していくべきか提案していきたい。
※1『エンプロイアビリティの判断基準等に関する調査研究報告書について』(厚生労働省、2001)
※2『働く人のためのエンプロイアビリティ』(山本寛、2014、創成社)
執筆者紹介
須東朋広(すどう・ともひろ)(一般社団法人組織内サイレントマイノリティ代表理事) 2003年、最高人事責任者の在り方を研究するため、日本CHO協会を立ち上げ事務局長として8年半務める。2011年7月からはインテリジェンスHITO総研リサーチ部主席研究員として日本的雇用システムの在り方の研究から中高年、女性躍進、障がい者雇用、転職者、正社員の雇用やキャリアについて調査研究活動を行う。組織内でなんらかの理由で声を上げられない社員が増え、マジョリティ化しつつあることに対して、2016年10月、誰もがイキイキ働き続ける社会を実現するために『一般社団法人組織内サイレントマイノリティ』を立ち上げ。
@人事では『人事がラクに成果を出せるお役立ち資料』を揃えています。
@人事では、会員限定のお役立ち資料を無料で公開しています。
特に人事の皆さんに好評な人気資料は下記の通りです。
下記のボタンをクリックすると、人事がラクに成果を出すための資料が無料で手に入ります。
今、人事の皆さんに
支持されているお役立ち資料
@人事は、「業務を改善・効率化する法人向けサービス紹介」を通じて日本の人事を応援しています。採用、勤怠管理、研修、社員教育、法務、経理、物品経理 etc…
人事のお仕事で何かお困りごとがあれば、ぜひ私達に応援させてください。
「何か業務改善サービスを導入したいけど、今どんなサービスがあるのだろう?」
「自分たちに一番合っているサービスを探したいけど、どうしたらいいんだろう?」
そんな方は、下記のボタンを
クリックしてみてください。
サービスの利用は無料です。
関連記事
-
コラム
「組織内サイレントマイノリティ」須東朋広
社員がイキイキ働けるために―【第三回】自己不安感・組織不適応感に対処するためのマインドセットの在り方
以前は活躍してイキイキしていた人が「職場になじめない」「あきらめ感を漂わせている」……そんな人を職場で見かけたことは誰しもがあるのではないだろうか。またそういう人ばかりで満ち溢れた...
2017.01.20
-
コラム
「組織内サイレントマイノリティ」須東朋広
社員がイキイキ働けるために―【第二回】日本的雇用人事システム改革と職場の荒廃
20代から50代のビジネスパーソンを対象に幸せな感情を表す言葉を調査したところ、1位は「ワクワク」という言葉であった。しかし、この1年で職場にワクワク感が「ある」と回答した割合は1...
2016.12.12
-
コラム
「組織内サイレントマイノリティ」須東朋広
社員がイキイキ働けるために―【第一回】なぜ組織・職場は劣化したのか?
約7割の社員が職場に何らかの不満を持っているという調査結果がある。不満の中身の半数近くは「業務遂行上の問題に関する不満」であり、次に3割近くは「職場内人間関係の不満」であった。バブ...
2016.11.11
-
コラムニュース・トレンド
企業とシニア求職者のミスマッチをひもとく 第3回
シニア人材の活躍事例――これまでの人生経験を生かす
シニア層の活躍: 未経験業界への挑戦第1回は、シニア層の就業実態および意識をシニア個人と企業双方の視点からお伝えし、第2回では、積み重ねたキャリアで得たスキルや専門性を生かして生き...
2023.08.25
-
コラムニュース・トレンド
企業とシニア求職者のミスマッチをひもとく 第2回
シニア人材の活躍事例――これまでのキャリア・専門性を生かす
シニア人材の採用と活躍:スキルと経験を生かす方法第1回では、リクルートの調査研究機関『ジョブズリサーチセンター』が実施した「シニア層の就業実態・意識調査(個人編・企業編)」をもとに...
2023.08.18
-
コラムニュース・トレンド
「人的資本経営」の実践のポイント 第4回
人的資本経営の実践に向けて――マネジャーのリスキリング
人的資本経営の実践の要となるミドルマネジャーの「リスキリング」に注目本連載では、人的資本経営の実践のポイントとして、「人的資本の情報開示」「人事部の役割変化」「ミドルマネジメントの...
2023.08.10
あわせて読みたい
あわせて読みたい
人気の記事
国内・海外ヘッドライン
THE SELECTION
-
PRTHE SELECTION企画
「置き型健康社食」がもたらす可能性とは
健康経営、採用強化、コミュニケーション活性化にも。 手軽に導入できる「食」の福利厚生
-
PRTHE SELECTION企画
街なかの証明写真機「Ki-Re-i(キレイ)」で、もっと社員の顔写真管理をラクに
社員証の写真、「最適化」できていますか? チーム力を強化する顔写真データ活用法とは
-
THE SELECTION特集
【特集】ChatGPT等の生成AIが一般化する社会で必須の人材戦略・人的資本経営の方法論
-
THE SELECTION企画
レポートまとめ
@人事主催セミナー「人事の学び舎」 人事・総務担当者が“今求める”ノウハウやナレッジを提供
-
THE SELECTION特集
特集「人手不足業界の逆襲」~外食産業編~
「見える化」と「属人化」の組み合わせが鍵。 丸亀製麺が外食業界を変える日
-
THE SELECTION特集
人事のキーパーソン2人が@人事読者の「組織改革」の疑問に答えます(第2弾)
数値化できない部署を無理に人事評価する方が問題。曽和利光×北野唯我対談
-
THE SELECTION会員限定特集
働きやすい職場づくり~サイバーエージェント編
「妊活支援」や 「働くママ・パパ支援」を、 一部の社員のものにしないためには?