失業経験アリ人事コンサルによる直球コラム
人事部からの配置転換命令を断る社員への対処法 準備すべき3つの条件
2017.01.27
会社は人事運営する中で、適材適所を常に模索していると言っても過言ではないでしょう。そして適材適所は、人事部では「配置転換」という言葉に訳されます。配置転換には2種類あり、積極的配置転換と消極的適材適所の2つです。積極的配置転換は、「会社の発展」を目的に会社に所属する人材を本支店や各部署に配置することであり、このポストにはこの人材が必要だと判断されて行うものです。一方消極的配置転換は、何か理由があって会社が、現在のポストにはこの人材は不要と判断して、別の部署に配置転換させることです。人事部は積極的配置転換だけではなく、消極的配置転換も行わなければなりません。
積極的配置転換を行う場合は、本人への説得も比較的容易です。配置転換、特に転勤で起こる経済的不利益は、給与の増額等で補うことが可能であり、社宅等の準備も認められることが多いので、いわゆる昇格・出世コースへの誘いであり、この会社の申し出を断る社員は少ないでしょう。
一方消極的配置転換を行う場合は、積極的配置転換とは逆に難易度が高いミッションを人事部はこなさなければなりません。消極的配置転換はいわゆる左遷ですから、転勤に伴う経済的不利益を給与の増額で補うことは難しく、むしろ給与の減額という経済的不利益を課すなかで行われるので、労働者本人の不満は当然発生し、できれば断りたいと申し出る社員が多くなるのは自明の理でしょう。そのような社員が出て困る前に、人事部と会社は事前準備をすることが必要不可欠なのです。そして準備に必要なのは、「労働条件に明記されているか?」「正当な理由がある配置転換か?」「労働者に著しい不利益がないか?」という3点です。次章からはこの3つの条件について考えてみましょう。
1.労働条件に明記されているか
準備として必要なのは、労働条件に転居を伴う配置転換、いわゆる転勤があることを明記することが必要と言われています。しかしながらこの「労働条件への明記」だけでは、配置転換を行う準備としては極めて不十分なのです。では、一般的に言われている「労働条件への明記」だけで準備不足と言われるのはなぜなのでしょうか? 確かに労働条件への明記は配置転換命令を出すのに必要な事項ではありますが、それは法律的なものであり、心情的な必要事項ではありません。「書いてあるから……」と配置転換される本人に伝えても、納得させるのは難しいでしょう。本当に必要なことは、「配置転換を受忍する企業文化の育成」なのです。
まず必要なのは、労働条件を本人に伝える内定時や入社時の説明において、配置転換(転居を伴うか否かは問わず)の可能性がある場合は、どのような配置転換がありえるのか、消極的配置転換もありえるのか、どのような時に配置転換があるのかなどを、遅滞なくかつ十分な時間をかけて説明を行うべきなのです。この説明が行われ、「確かに聞いた」ことを労働者から捺印を受領するなどで確認し合い、言った言わないを防ぐ準備が必要なのです。
次に必要なのは、既存社員に対する準備です。入社時に説明を受けていない労働者と説明を受けている社員が混在するのは、人事組織上よろしくありません。そこで、説明を受けていない既存社員がいる場合は、就業規則の改定などで「書面上」の準備と平行して、転勤を伴う配置転換がある会社に企業文化が変わったということを、実際に配置転換を行う前に十分な時間をかけて労働者一人一人に対して説明を重ねることが必要なのです。中には配置転換を受け入れない労働者向けに、配置転換がない代わりに昇進昇格や昇給のスピードが遅くなる、あるいは一定レベルで停止する人事制度を導入している企業も存在します。
この準備(説明)を十分に行った後で、(転勤を伴う)配置転換を実際に行う上で必要な「正当な理由がある配置転換か?」「労働者に著しい不利益がないか?」という点を考えることができるようになります。
2.正当な理由がある配置転換か
この正当な理由という解釈は広く会社側に人事権として認められていますので、あまり考慮する必要はありません。気を付けなければならないのは、個人的な感情や組合活動に参加したことなどを理由に転勤を命じられた場合は、労働者には拒否権が発生するということくらいでしょうか。ただし個人的感情、すなわち気に入らない労働者やできれば辞めてほしい労働者を辞めさせるために行う配置転換であっても、人事としてはその「個人的感情」は労働者に絶対に伝えず、粛々と配置転換命令を労働者に伝えなければなりません。そしてその理由は、「幅広く業務経験を積ませたい」ということに集約すべきなのです。長年人事をやっていると、いわゆる懲罰的・敵対的配置転換命令を行わなければならないことに遭遇することも多々ありますが、ここは余計なことを言わないことを徹底すべきであり、じっくり正当な理由であることを説明することが人事として必要です。
3.労働者に著しい不利益がないか
この場合の不利益とは、賃金の減少や物価の差から生じる経済的不利益と、生活的不利益、たとえば要介護の親族がいて、面倒を見る人が自分以外いないという状況で転勤を命じるなどの事象が生じる場合を指します。積極的配置転換の場合は経済的不利益が生じる可能性は少ないのですが、消極的配置転換の場合は起こりうる可能性が高いといえます。そこで対策としては、転勤に関わる「一時金(転勤支度金など)」の支給が有効です。恒常的賃金上昇につながってしまう給与・手当の増額は、懲罰的・敵対的・消極的な配置転換を行う場合、本末転倒になってしまうため、あくまで一時の支出で留まる「一時金」にするのがよろしいでしょう。また生活的不利益が著しい場合は、例えば要介護家族の転居費用負担・介護サービスの検索を手伝うなどの個々の対策を実施することが肝要です。万が一訴訟になったとしても、不利益回避したと会社が主張できる根拠となります。したがって、なにが生活的不利益になるのかを労働者からじっくり聞き取り、その不利益を訴訟的に回避できるかを人事は考えなければなりません。
いかがでしたでしょうか。配置転換一つとっても、人事部の業務負担は大きいものとなりますが、綿密な準備を怠った場合、後で大きな負担になるので、その点を考慮して対策を行うことが重要ではないでしょうか。
執筆者紹介
田中 顕(たなか・けん)(人事コンサルタント) 大学を卒業後、医療系人材派遣会社・広告代理店で人事を担当したのち、密着型人事コンサルティング団体「人事総合研究所」を設立。代表兼主任研究員として、労務相談受付・課題解決に取り組む。得意分野は採用・法務・労務・人事全般の問題解決等、多岐にわたる。
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