コラム

林修三先生のなるほど人事講座


面接時に「○○」とカミングアウトされたらどうする?(LGBT編)

2016.12.19

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一昔前と違い、現代では多様性が前提の社会になってきています。そのため、企業の採用募集へも多様な方々が応募してくることになりますが、現実問題としてどう対応したら良いのかわからないという面接官・採用担当の方もおられると思います。

そこで、今回からのシリーズ記事として、「面接時に『○○』とカミングアウトされたらどうする?」というテーマで、特に最前線にいる採用担当者の方のお悩みにお答えしていきます。

目次
  1. 面接時に「LGBT」とカミングアウトされたらどうする?
  2. (1)「LGB」のいずれかであることを伝えられた場合
  3. (2)「トランスジェンダー(T)」であることを伝えられた場合
  4. 大切なことは「受容」の意識

面接時に「LGBT」とカミングアウトされたらどうする?

初回は「LGBT」についてです。おそらく、単語としては知っていても内容まではよくわからない、という方が多いのではないかと思います。まずは、この「LGBT」という単語の意味からおさらいしていきましょう。

LGBTとは、
L=レズビアン(女性同性愛者)※
G=ゲイ(男性同性愛者)
B=バイセクシャル(両性愛者)
T=トランスジェンダー(身体的な性とは違う性意識(両性・無性もあり得る)を持った状態)

という4種類の言葉の頭文字を取って作られた単語で、現在では大まかに言って「性的マイノリティ」を意味する言葉として使われています。

LGBTに関する各種調査・研究を行っている「LGBTマーケティングラボ」の調査によると、現役の人事担当者のうち17.2%の人が、採用面接でLGBTをカミングアウトされた経験があると回答したそうです。もはや決してレアケースではありませんね。

参考:「現役人事180名に聞いた、採用面接時のLGBT対応」に関する調査(LGBTマーケティングラボ)

では、実際に面接中に応募者から「私はLGBTなんです」という話がなされた場合、面接官や採用担当者としてはどのようにすべきなのでしょう?

実はこの場合、「LGBT」と一括りにした対応法ではなく、少なくとも「LGB」と「T」とで各々対応を分けて考える必要があります。以下、各々説明をしていきます。

(1)「LGB」のいずれかであることを伝えられた場合

この場合の対応は簡単で、「ああ、そうなんですね。でもそのことは採否判断においても、入社後の処遇においても、別段影響を与えることではありませんのでご安心ください」という旨の話を返し、この話題についてはそれ以上の詮索をする必要はありません。

なぜなら、人がどの性別の人間を性的対象として見るかということと、業務能力の有無や社内環境上の制約条件等とは基本的に無関係だからです。

例えば、筆者自身は同性愛者ではなく異性愛者ですが、そのことと自分自身の業務遂行能力に関係があるわけではありませんし、業務で異性と接するのもあくまで各々一人の職業人対職業人としての交流だととらえています。このことは何も筆者に特有の考え方ではなく、常識的な考えだと考えて差し支えないものと思います。

逆に、業務で接する異性を無差別に性的対象と捉えて行動するような社員がいたとしたら、それは男女関係なく問題社員として認識されるはずです。

LGBの方を社員として採用した場合、この話の「異性」という表現が「同性」に置き換わるだけの話です。

もしLGBの方が業務で接する同性を無差別に性的対象と捉えて行動するようなことがあったとしても、それはLGBであること自体が原因なのではなく、ただ単に社会人としての良識がないというだけの話です。

また、仮に同僚に恋愛感情を抱くことがあったとしても、振った・振られた・付き合った・別れたという話は、異性愛・同性愛に関係なく、大人として適切に処理するだけのことで、やはり「LGBだから云々」ということにはなりません。

したがって、面接で「LGB」のいずれかであることを伝えられた場合は、特段何か特別な対応をする必要はなく、そのまま受容して頂ければそれで結構です。

(2)「トランスジェンダー(T)」であることを伝えられた場合

この場合、受容が重要であることは先の話と同じなのですが、それだけではなく、面接内で是が非でも本人に説明~了解をとっていかなければならない項目が生じてきます。

最もポイントになるのは、「社内でのトイレ使用」の問題です。端的に言えば、男性用トイレと女性用トイレのどちらを使うのかということです。

例えば、身体的には男性だが意識では女性というケースを考えてみましょう。

意識は女性ですから、本人にとっては女性用トイレを使うのが自然な行動になります。しかし、他の女性社員から見れば、どれだけ頭ではわかっていても「女子トイレに男性が入ってきた」という感覚になることは十分にあり得る話で、誰が悪いというわけではないのですが、トラブルになる可能性があります。

最善の解決策は、男性用トイレ・女性トイレとは別に、共用のトイレ(公共施設における多目的トイレのようなもの)を設置することです。あるいは、コンビニエンスストアのように最初から男女共用の個室形式トイレを設置することです。でも、自社ビルの大企業はともかくとして、一般的なオフィスビルに入っている企業ではこの対応は不可能ですね。

ただ、仮にトイレの改装が不可能だとしても、自社専用のトイレである場合は、自社社員への啓蒙活動をきちんと行えばある程度問題は解決できます。

最も難しいのは、トイレが他社社員と共用の場合です。この場合、もはや自社社員に啓蒙活動をするだけでは問題の解決が図れません。かと言って同じビルに入っている他社全てを巻き込んで啓蒙活動をしていくというのも、現実的には難しいでしょう。

結局のところ、そのような現状をありのままに本人に説明し、必ずしも意に沿いきれない部分が出てくることを了解して頂くしかありません。真摯に、誠実に、本人の「T」の部分は受容したうえで、物理的な制約やコスト面の事情について説明を行いましょう。その結果本人がどういう判断を下すかはケースバイケースですが、少なくともいざこざは発生しないはずです。

大切なことは「受容」の意識

いずれの場合においても、大切なのは、「LGBT」であることそのものをまずは受容する、ということです。そのうえで、受容意識だけではどうにもならない制約条件がある場合は、それを真摯に伝えていく。そのような人としての誠実さをもって対応をすることこそが肝要だろうと思います。

※レズビアンという表現(正確には「レズ」という表現)は蔑称であるという考え方から、昨今では「ビアン」と表現することが増えています。当記事では、あくまで「L」の語源として記載しています。

執筆者紹介

林修三(はやし・しゅうぞう)(株式会社ヒュームコンサルティング代表取締役) 1975年生まれ。仙台市在住。東北大学法学部を卒業後、大手自動車部品メーカーの経営企画職~IT企業の人事・採用職を経て現職。現在は東北地方の複数の大学でキャリア系科目講師として学生の就職指導に努めるほか、人事・採用コンサルタントとしても活動中。

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