コラム

クリエイターとハードワーク


多様な働き方を尊重する社会のために、クリエイターにできること

2016.11.24

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今回、「クリエイターとハードワーク」というテーマで寄稿の依頼をいただきました。私はライターとしてクリエイターの末席に連なる者であり、私自身はハードワーカーです。結論から言うと、「ハードワークをしたい人間はハードワークをすればいい。しかし、社会全体としては、ハードワークは健全ではないので推奨するのは止めましょう」というのが私の意見です。

先日、私が今よりもハードワークだった時代に苦楽を共にした友人と、象徴的な会話をしました。その友人は現在もまだバリバリのハードワーカーで、飲み会を中座して仕事に戻るとのことでした。

筆者「マジか。そういうの、流行んないよ」
友人「うん、そうだね」

あくまでも気軽に、サラッと交わされた別れ際の挨拶です。しかし、これがかつて、お互いに生活のほとんどを仕事に捧げてきた者の間で交わされたこと、自分の口からふとハードワークに歯止めをかけるような言葉がついて出たこと、友人もそれに同意したことを、私は感慨深く思いました。

当然のことですが、ハードワークをしたい人にはハードワークをする権利があります。ハードワークにより(長時間労働すれば)成果が上がりやすいのも実感として納得できますし、特にクリエイター職であれば、納期ギリギリまで制作をして、クオリティーを向上させたいというのも理解できます。クリエイターはハードワークになりがち、というのは、傾向としてあるでしょう。

だからこそ、重要なのは、多様な働き方を「選べる」ということです。そして、注意しなければいけないのは、ハードワークのようなマッチョな思想ほど「人に押しつけがちである」ということです。

学生時代は部活に入っていた人も多いかと思います。部活には大きく分けて、運動部と文化部があったはずです。そこでもし、自分の学校に、運動部しかないと仮定してみると、想像しやすいかもしれません。校長先生の方針で「学生はとかく体を鍛えるべし」となり、全員が強制的にスポーツをさせられる学校、それは非常に息苦しいはずです。

できる限り体力を養うことが、その後の活躍につながる――もし、校長先生が学生のことを考え、そう信じていたとしても、このようなマッチョな思想は強制力を持って伝播しやすいのです。たとえば、「運動を嫌がるなんて、あいつらは軟弱だ」と、本来は文化部に入りたい学生を揶揄する運動部気質の学生も出てくることでしょう。ですが、言うまでもなく、軽音部だって放送部だって茶道部だって、どんな選択をしようが個人の自由です。

ハードワークを推奨する社会があるとすれば、同じ構図だと私は思います。ハードワーク至上主義というのは、このような理由で、社会を息苦しいものにするリスクがあることは理解しておくべきではないでしょうか。

日本社会においては、私はそれを体験した世代ではありませんが、これまでその成長の背景にハードワークがあったことは事実かと思います。しかし、これからの日本の人口はフリーフォールのように減少することが予想されており、“ニッポン一億総活躍社会”という政府のスローガンは、ある意味で「国民全員が頑張らなければヤバイ」という危機意識の裏返しでもあります。

問題はこの頑張り方で、そもそも働き手がいなくなるのに「個々人がもっとハードワークをしましょう」という意識では、いずれ働き手が疲弊し、失敗するのが目に見えています。AIやロボットなどのテクノロジーは日々発展していますが、それを活用するために必要なのは「効率化により生産性を向上させよう」という意識であるはずです。

以上のことを踏まえて、つまり、社会全体としてはハードワークを推奨するべきでなく、効率化により生産性を向上させることを意識するべきです。この前提に基づいて、個人がハードワークを選択するのであれば、何も問題はないはずです。

ここで、クリエイターという立場の人間がさらに念頭に置くべきことがあるとしたら、それはこの仕事が、クリエイティブにより社会に影響を与えうる、ということだと思います。かつて一世を風靡した“24時間働けますか”というコピーがありますが、これは今の時代には合わないものでしょう。

クリエイターはハードワークになりがちだからこそ、発信するメッセージは普段から、あくまで公平に、多様な働き方を尊重するものであるべきではないか、と私は思います。とはいえ、私もまた夜中に、終わらない原稿を前に、筆が進まないことを嘆くツイートをすることはあります。これからもあるでしょう。その程度の発信にも言葉狩りをするような社会は、それはそれでディストピアです。

「ガタガタうるせえな、いいモン作るには死ぬ気で働かなきゃいけねーんだよ」と思われた方もいるはずです。繰り返しになりますが、それは私自身クリエイターの端くれとしても、十分に理解しています。しかし、ハードワークが一因・遠因となり発生する様々な痛ましい事件を耳にするにつけ、私たちはそろそろ、現実を直視し、社会的な変革をすることが求められていると感じるのです。

インターネットの記事が国を動かした「保育園落ちた日本死ね」の事例は最たるものですが、ソーシャルメディアの発達により、私のようないちライターであっても、少なからず社会への影響力を持つようになりました。発信には責任が伴うことは、ライターの世界ではよく言われることです。伝える、あるいは結果的に伝わってしまうメッセージは、できるだけよいものになるようしたい。そのためにも、まずは私自身がハードワークをしているときに、自分に「こういうの、流行んないよ」と声をかけたいと思います。

執筆者紹介

朽木誠一郎(くちき・せいいちろう)(編集者/ライター) メディアコンサルタント。大学時代にフリーライターとしてキャリアをスタートし、卒業後はメディア事業をおこなう企業に新卒入社。オウンドメディアの編集長として企画・編集・執筆を担当したのち退社。現在はYahoo!ニュース個人などで執筆、PAKUTASOのフリー素材モデルとしても活動している。

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