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救済措置として不充分? 就職氷河期世代「正社員採用」助成金の問題点

2016.11.17

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目次
  1. 国が「就職氷河期世代」の正社員化を助成する意図は
  2. 施策と企業の本音に生じているギャップ
  3. 支給額や支給要件に検討の余地あり
  4. 抜本的解決につながる制度の導入を

国が「就職氷河期世代」の正社員化を助成する意図は

厚生労働省が来年度からの導入を発表した「(新卒)就職氷河期世代を正社員化、採用企業に助成金」という制度について、今回は考えてみたいと思います。

まず導入の背景について考えます。就職氷河期世代は1993年~2005年(有効求人倍率が1倍を下回っていた年度)に大学を卒業した世代を示し、大卒新卒者であれば現在30代後半から40代前半の方々を指します。国としては働き盛りのこの年代が無職や非正規社員であることは、高齢化社会を向かえている今、国家としての総合的な労働力の不足に直結すると考えているのでしょう。そこで助成金を支給することで正社員化を促し、労働力の不足を補い、なおかつ無職であること故の生活保護受給者の増大や、非正規社員故の低賃金による所得税総額の減少を避けたいという思惑があると思われます。年金の滞納問題も少しは改善したいとの思惑もあるでしょう。

施策と企業の本音に生じているギャップ

しかしながら、制度制定が今(2016年)というのは、遅きに失した感は否めません。すでにこの世代の年齢は、前述の通り30代後半から40代前半に達しています。この年代は企業の労働者構成から言えば、中間管理職クラスであり、求められている求人(低賃金や劣悪な労働環境である求人はもちろん除きます)も管理職経験が必須となっているものが多く、管理職経験のない状態で無職や非正規社員として労働してきた人間からすれば、高いハードルであり、「企業が求める人材像」と「実際の労働者層」でかなりの求人採用ミスマッチが発生することが予想されます。導入が2005年頃だったら、と思うのは筆者だけではないはずです。

また、「就職氷河期世代には優秀な人材が多い」という言説はよく聞かれますが、全ての世代に優秀である人もそうでない人も分布しているというのが現実的な事実です。またバブル期に採用された世代のリストラを躍起になって行っている企業に対して「就職氷河期世代は優秀だから採用してみませんか?」と斡旋しても、「すこし様子を見たい」と回答する企業が多いのではないでしょうか。例えば面接で、「能力があっても氷河期で採用されず活かせなかった」と答えて、「そうですよね」と納得してすぐに採用してくれる企業は、現状ではほんの一握りといえるでしょう。現実的には、就職氷河期に激戦を勝ち抜き、就職して、順当なキャリアを積んでいる人材ならぜひ採用したいというのが企業の本音となるのではないでしょうか。

支給額や支給要件に検討の余地あり

次に、制度の要となる「助成金の金額」に話を移すと、大企業には50万円、中小企業には60万円を支給すると謳っています。これも大きな問題です。年収の半分を助成するなど抜本的対策ならともかく、無職・非正規社員状態の方を採用するという一種の賭けに対して、その対価が5~60万円というのは、リスク・リターン分析から考えると、魅力が薄いと言わざるを得ません。しかもこの30代後半から40代前半は、それなりの年収を確保しなければならない世代であり、とてもこの金額では人件費として足りません。一方、採用される側からしても、非正規社員から正社員になったけれど、賃金はそう変わらないといったワーキングプア状態の継続=助成金制度の目的形骸化という事態を、筆者は強く懸念しています。

支給要件も問題です。「過去10年間で5回以上の失業や転職を経験した35歳以上の非正規社員や無職の人」となっていますが、現実的に、よほど人材不足の企業を除いて、わずか10年で5回の転職を経験している人材は「忍耐力が無い。決して優秀ではない」と判断する企業が大半ではないかと思います。この現状をいったい国はどう考えているのでしょうか。筆者なら「助成金額を年収の半分相当額とし、失業・転職回数に関わらず、無職・非正規社員を正社員採用する場合」と設定するでしょう。また、すでに類似の助成金があるかもしれませんが、「非正規社員を正社員に転換した場合に助成する」という制度の方が有効かもしれません。厚生労働省は年間5億円の助成金予算を要求しているようですが、無駄に終わる可能性が高いと判断します。その理由としては、金額が少なく雇用の促進につながらない可能性が高く、対象者が失業回数でかなり限られるなどの問題点を抱えているからです。

抜本的解決につながる制度の導入を

「ないよりまし」の制度を作るよりも、より実効性が高い助成金制度が必要であることは言うまでもありません。現状、労働力のミスマッチ、すなわち企業側は余計な採用条件(転職回数や転職理由を重視する日本式かつ古典的採用条件)を付けて、非正規社員でも優秀な人材をみすみす逃す悪循環を繰り返しています。また、こんな条件で誰が働くのかという劣悪条件でも求人を受け付けるハローワークにも問題があります。

5億円という巨額の国家予算を投じるなら、非正規社員から正社員への転換が滞っている企業や、転職回数の多い人間を一定数採用しない企業に罰則を科すなどの攻撃的対策の方が有効ではないかと考えるのは筆者だけでしょうか。

執筆者紹介

田中 顕(たなか・けん)(人事コンサルタント) 大学を卒業後、医療系人材派遣会社・広告代理店で人事を担当したのち、密着型人事コンサルティング団体「人事総合研究所」を設立。代表兼主任研究員として、労務相談受付・課題解決に取り組む。得意分野は採用・法務・労務・人事全般の問題解決等、多岐にわたる。

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