【INTERVIEW】株式会社CFPコンサルティング 坂牧毅 氏
プロフェッショナルな人材を正しく評価する仕組み~CFPコンサルティングの人事評価制度
2025.05.09

「なんとなくいいこと」ではなく「確実に成果を出す行動」を評価する——。多くの企業が人事評価制度の見直しに苦心する中、CFPコンサルティングは「結果にコミットする」評価基準を確立した。同社が徹底するのは定性評価の排除と「行動⇒結果」の明確な連動。データのリアルタイム可視化と細分化された目標設定により、PDCAサイクルが加速。社員は自らの成長と会社の業績向上を同時に実現する。シンプルでありながら確実な成長を実現する評価制度の秘訣を代表取締役の坂牧毅氏に伺った。【取材・構成:編集部】
坂牧 毅(さかまき・つよし)
早稲田大学商学部卒業後、フェラガモ・ジャパン株式会社へ入社し、営業部にて就業。その後、株式会社イーエムネット (現株式会社イーエムネット ジャパン) の日本進出直後に営業として入社。広告営業および広告運用の責任者として営業組織と運用体制の構築を担当し、売上を入社当初から数倍に伸張させる。その中で「メディアの代理で広告を売る」代理店ビジネスの本質的問題、その問題に対して現場の人間が抱えるフラストレーションを目の当たりにし「顧客の社会的価値を向上させる」というテーマと本格的に向き合うために2010年5月に株式会社CFPコンサルティングを設立。運用型広告を主なフィールドとして企業のデジタルマーケティングを基本設計の段階から支援し、多くの企業の売上拡大に貢献する。
株式会社CFPコンサルティング
所在地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿8-15-17 住友不動産西新宿ビル2号館 3階
設立:2010年5月
資本金:6,000万円
従業員数:29名(2024年7月現在)
事業内容:デジタルマーケティング総合コンサルティング事業、アカウント出稿サポート事業、SaaS事業
https://cfp-consulting.co.jp/
「結果にコミットする」組織づくりの理念とは
──CFPコンサルティングの人事評価制度についてお話を伺いたいと思います。まず、御社が人事評価制度を構築する際に重視したポイントについて教えてください。
私たちは複数の事業と複数のプロダクトを持つ会社なので、最も重視したのは「全社で統一された目的」と「個別事業の強化」のバランスです。各事業やプロダクトが強くなることは会社として期待していることですが、その一方で個別事業の求心力が強くなりすぎると、会社全体の求心力に対する遠心力として働いてしまう危険性があります。
通常、社員は個別の事業やプロダクトにコミットする形で日々働いていますが、その先に何を実現しようとしているのか、会社全体として目指す姿の中でその事業やプロダクトがどういう存在であるべきかという「目的」を明確にすることが非常に重要です。
そのため、「目的」と「目標」というものをきちんとセッティングし、曖昧さを完全に排除して徹底的に定量的な結果で評価することにこだわりました。
──目標設定には「結果目標」と「行動目標」があるとのことですが、その関係性について詳しく教えていただけますか。
目標には結果目標(成果目標)と行動目標の2つがあります。重要なのは、この2つはバラバラのものではないということです。行動目標は「絶対にこの結果を達成できるに決まっている」と確信できるような行動をセッティングし、それを絶対にやりきるということにコミットします。
結果目標や成果目標にコミットするためにまず行動目標を描き出し、その行動目標を100%やりきることに絶対コミットします。行動目標を完全にやりきった結果として、成果目標や結果目標がどうだったのかを突き合わせます。行動目標が完全達成でき、狙い通りに結果も手に入れることができたら、それが評価につながるという仕組みです。
実は行動目標のところは、評価そのものではなく「評価を受けるに値するかどうか」というプレ評価の位置づけです。行動を100%やりきっていない人が売上・利益を達成しても評価しません。それは偶然であり、狙い通りではないからです。
定性評価を最小化し定量評価を最大化する仕組み
──定性評価をできる限り削減し、成果・結果を純粋に評価する方法や考え方について教えてください。また、どのような企業に向いているのでしょうか。
定性的な要素は評価そのものには含まれないのが良いと考えています。理念を理解しているかどうかや体現しているかどうかといった点は、“評価そのものではなく評価の前さばきの段階”で判断されるべきです。つまり、これができていないと判断される場合は、そもそも売上利益を使った評価のステージに上がる資格がないということです。
評価そのものはあくまで売上や利益で行います。ただ、この方法が向いているのはベンチャーやスタートアップが多いと思いますが、同時に、最も力をかけて解決すべき課題でもあります。それは「迅速かつ正確なデータの取得と突き合わせ」です。
行動をやりきっても、その結果がどう現れているのかを迅速に確認できなければPDCAは回りません。例えば金曜日に行動をやりきっても、月曜日にその結果が見えないようでは意味がありません。「絶対この結果を手に入れるぞ」と思って行動しても、実際にその結果が得られるかはわかりません。でも「やりきったのに届かなかった」という疑問がPDCAの回転を促すのです。
ベンチャー・スタートアップの多くは、売上がどのように形作られているのかの構成要素分解が十分に行われていません。粒度の細かいレベルまで正確かつ早くデータが取れる状態になると、自分の行動が狙い通りに売上や利益の伸びに接続しているかどうかを確認しながら改善できます。「なぜ行動をやりきったのに結果が出ないのか」という思考が働くようになるのです。
──具体的にどうやってリアルタイムで評価できる仕組みを構築されているのでしょうか。
行動管理については、各チームやマネジャーがメンバーと握っている行動のチェックを朝礼と終礼で行っています。結果の数字については、前日までの売上・利益のデータが反映される環境を内部で構築し、全員が見られるようにしています。自分が目標に届いているか、今のペースで月末を迎えた場合に目標に届きそうかをリアルタイムのデータで確認できる仕組みです。
──お聞きしていると、評価者側の負担は少なくないように思えます。
一人の人間が見なければいけない人数を極めて少なくしています。物理的に近くで仕事をすることにも徹底していて、朝礼や終礼、他部署・他チームとの目標共有ミーティングも設定しています。評価者以外の人からも見える状態にすることで、「やりますと言ったのにやっていない」という目線を気にするようになり、行動の実行率が高まります。
行動の設定についても、「絶対にこの結果を達成できるに決まっている」と確信できる行動を描き出すことが難しいため、何度も確認が必要です。また、行動を曖昧にしようとする傾向があるので、「改善する」といった表現ではなく具体的で定量的な基準設定が必要になります。
評価制度の導入による変化と成果
──この評価制度を導入したことで、社員の行動や意識にどのような変化がありましたか。
大きな変化として、「改善する」といった曖昧な表現が許されなくなったことと、実現しようとしているものを構成要素分解する癖がついてきたことが挙げられます。
私が会社を壊すと思っている最大の要因は、「なんとなく良いこと」を始めることです。例えば、あるマネジャーが「ブログの作成と投稿頻度を上げます」と言った時、私は「どんなテーマで、どれだけの訪問者数を増やし、その何パーセントが商談につながって、何件の商談から何件が受注になり、いくらの売上になるのか」と尋ねました。
「ブログ更新は悪いことですか?」という反応がありましたが、プラスになるというなら、具体的な数値で示すべきです。ブログを5件アップデートするという目標を達成しても、売上・利益に反映されていなければ評価できません。「なんか良いこと」をやるのは一見良いように見えますが、実は最も厄介で、排除すべきものです。
──具体的な成果につながった事例はありますか? この制度によってどのように会社が成長できるのでしょうか。
明らかに変わったのは、短期的な売上や利益に対する意識です。メンバーは会社内の役職・ステージに応じて時間軸が変わってきますが、一般のメンバーは今月や来月といったショートスパンに意識を集中することが重要です。
「今月の達成は何によってなされるのか」という思考が働くようになり、新規受注のための活動よりも既存顧客へのアップセル提案が重要だと理解されるようになりました。具体的に「何を何件提案して、その中の何パーセントが受注に行き、平均単価はいくらで、粗利目標はこうやって達成できる」というセッティングが行われるようになりました。
結果的に、既存顧客へのアップセルによる目標達成の数が圧倒的に伸びてきました。今月の数字にコミットする際には新規顧客の影響はほぼゼロですが、新規開拓も来月の達成のために必要だということも理解されています。
中小企業・スタートアップにおける人事評価制度のポイント
──中小企業やスタートアップの人事担当者や経営者にアドバイスをいただけますか?企業規模を問わず適用できる人事評価制度のポイントは何でしょうか。
最も重要なのは、できる限り最小粒度かつ正確なデータを迅速に収集し、社内に共有することです。これは大変ですし、売上・利益に直結しない行動のように思われがちなので後回しにされますが、事業規模が小さく、顧客数も少なく、売上構成が単純な段階から構築しておくことが重要です。
会社の規模が小さく単一事業の段階で、データの取り方のベースをしっかり固めておけば、その後に新たな受注パターンや売上パターンが発生しても追加していくだけで対応できます。私たちも「そうすれば良かった」と思っています。
──これから自社の評価制度を改善しようとする際に、人事担当者の懸念点は上層部への働きかけや現場の社員への説明です。最も気をつけるべき点は何でしょうか。
絶対的に重要なのは、人事評価制度は会社のためでもあるが、働く従業員のためのものでもあるという点です。先ほど説明した成果目標と行動目標について、行動目標を100%やり切り、成果目標も達成できれば金銭的な報酬が支払われます。
しかし実は、行動目標はやり切ったけれど成果目標が達成できなかった場合が最大の報酬を得るタイミングだと考えています。「なぜ届かなかったのだろう」という思考が働き、PDCAの回転、能力の拡張という報酬を得られるのです。
私はいつも「PDCAの回転数が君の将来、未来の所得を決定づける」と伝えています。悔しいけれど、成長の機会として捉えるべきです。このことが伝わると、社員は評価制度にコミットするようになります。
重要な考え方として、「従業員の所得を増やすこと」があります。何の成果も上がっていないのに給料を上げることはできませんが、部下の所得を増やすことは上司の責任です。
事業部側からは「頑張りを評価してほしい」という声が上がることもありますが、私は「頑張りは評価しません」と伝えています。ただし、これは金銭的報酬としては評価しないということで、能力的報酬という観点で「頑張り」は自ら手に入れているものなのです
理念と行動の結びつきが生む持続的成長
──企業の理念と行動がきちんと結びついていないと評価制度だけ変えても効果がないということですね。
そうですね。ただ、スタートアップの時期は事業そのものが理念に近いです。シンプルに「世の中にとって自分たちが必要とされる水準までこのサービス・事業を持っていくとしたらどういう状態か」を定義することが重要です。
世の中に必要とされるには独自性が必要です。多くの場合、ある特定の領域においてありえないほどの高いステージを実現することにフォーカスします。それを実現するための行動と、その結果としてどんな売上・利益・顧客数を獲得できるのかを丁寧にセッティングすることが重要です。
実は私自身も定量的な目標設定が苦手でした。高い能力があれば目標達成を特に意識しなくても結果が出せる人もいますが、それは壁にぶつかるまでの話です。私も苦労した結果、今のように売上や利益の構成を細分化し、データをリアルタイムで見える化する重要性を理解しました。
──自分ができるから「みんなもわかるでしょう」「できるでしょう」という考え方ではなく、誰もが理解できる、納得できる制度づくりが基本になるのですね。
そその通りです。それがとても大切だと思います。
──ありがとうございました。
まとめ:プロフェッショナルな人材を正しく評価する鍵
CFPコンサルティングの人事評価制度から学べる重要なポイントをまとめた。
- 目的と目標の明確化:全社の目的と個別事業の目標をきちんと結びつけ、曖昧さを排除する
- 行動目標と結果目標の連動:行動目標は結果目標達成に直結する具体的なものであり、行動のコミットメントが評価の前提条件となる
- 定量評価の徹底:「なんとなくいいこと」ではなく、具体的な数値で測定可能な行動と結果を設定する
- データのリアルタイム可視化:迅速かつ正確なデータ取得と共有により、PDCAサイクルを素早く回せる環境を構築する
- 少人数マネジメント:一人のマネジャーが管理する人数を限定し、きめ細やかな行動管理を実現する
- 成長マインドセットの醸成:行動をやり切りながらも結果が出なかった場合を最大の学びの機会と捉える文化をつくる
- 従業員のための制度設計:評価制度は会社のためだけでなく、従業員の現在と未来の所得向上のためのものであることを明確にする
この評価制度は、特にベンチャー・スタートアップにおいて、早い段階から導入することで組織の成長と社員の能力開発を両立させる強力なツールとなる。しかし、その前提として正確なデータ収集と共有の仕組みづくりに投資することが不可欠だろう。
企業情報
株式会社CFPコンサルティング
所在地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿8-15-17 住友不動産西新宿ビル2号館 3階
設立:2010年5月
資本金:6,000万円
従業員数:29名(2024年7月現在)
事業内容:デジタルマーケティング総合コンサルティング事業、アカウント出稿サポート事業、SaaS事業
https://cfp-consulting.co.jp/
※情報は2025年3月7日取材時点
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