【INTERVIEW】株式会社ベンチャー広報 三上毅一 氏
メディアと企業をつなぐ架け橋 ~広報のプロが語る「取材獲得への5ステップ」
2025.04.21

人事や総務を担当する一方で、広報業務も兼務している担当者は少なくない。特に中小企業やスタートアップでは、限られたリソースの中で効果的な広報活動を行うことが求められている。しかし、メディアに自社の情報を取り上げてもらうことは容易ではない。
本記事では、広報歴40年で「広報のプロが教えるメディアのトリセツ―取材獲得への5ステップ」の著者・三上毅一氏に、メディアと企業の間に存在するギャップや、効果的な広報活動を行うためのポイントについて話を伺った。。【取材・構成:編集部】
三上毅一(みかみ・きいち)
株式会社ベンチャー広報 CKO (Chief Knowledge Officer)最高知識責任者
ゼロイチ広報 代表コンサル
大学時代から広報PR業界に入り、キャリアは40年。これまで上場企業から中堅・ベンチャー企業までの広報コンサルティングを手掛け、これまでに500社以上の民間企業のほか、自治体や大学、政党、宗教法人、博覧会事務局と、あらゆる組織広報の経験を持つ。現在は、BtoBからBtoC企業を幅広く担当した経験とキャリアで培った豊富なマスコミ人脈を生かした、広報PRの指南役としてマネジメントも担当。ゼロイチ広報では、年間のべ200名の広報パーソンに向けた個別コンサルや「広報いろは勉強会」の講師を担当。
ゼロイチ広報:https://www.v-pr.net/service/zeroichi/
広報書籍に込めた思い
──今回の著書『広報のプロが教えるメディアのトリセツ―取材獲得への5ステップ』を執筆された背景や思いについて教えてください。
これまでも広報関連の書籍は数多く出版されてきましたが、特に5~6年前から、広報業界の視点に立った本が増えてきたという印象があります。これはこれで勉強になる部分もあるのですが、私が40年間広報という世界に身を置いて一番重要だと感じているのは、「メディアの視点」なんです。

三上氏の著書『広報のプロが教えるメディアのトリセツ―取材獲得への5ステップ』
広報・PRという仕事は、以前は肩身の狭い部署でしたが、今では社会的に認知され、一つの職業として確立されてきました。しかし、広報活動が一方通行になってしまうと、メディアとの乖離が生じてしまう。私はそこを心配していました。
また、コロナ禍を経て、仕事の仕方やコミュニケーションの方法も大きく変わりました。出社しない働き方やフリーアドレスの普及により、社内コミュニケーションが取りにくくなり、外部とのコミュニケーションはさらに難しくなっています。そこで、今のメディアの人たちがどういう考え方を持ち、どのように情報提供を受け入れているのかを知ってもらいたいと思ったんです。
この本では、新聞、雑誌、テレビ、ネットなど、さまざまなメディアの人たちに直接話を聞いて、リアリティのあるコンテンツを提供しています。特に実名で協力してもらっている点は珍しく、若い広報担当者や広報歴の浅い方々に理解していただけるのではないかと思っています。
メディアと広報のギャップ
──本書を読んで、メディア側の視点が参考になりました。よく言われている「答えを知りたがる」傾向がある若い広報担当者にとって、メディア側の声を直接聞けるのは説得力がありますね。
その通りです。Z世代の方々は答えを知りたがる傾向があります。本書では、テクニック論よりも、自分がPRしたいメディアや媒体に対して何をどう情報提供すれば良いのかという「答え」が書かれています。実際にメディア側の人たちが登場して話をしているので、これに勝る説得力はないでしょう。
また、私自身もクライアント業務を担当していますが、今の若い方々は昔と比べて格段に難しい時代に入っています。40年前は、SNSもネットメディアもなく、4マス(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)を相手にしていれば良かった。携帯電話もなかった時代です。
当時は編集部に電話すれば担当者と話ができ、会える確率も高かったんです。対面でコミュニケーションを取ることで、相手の考え方や関心事が分かりました。しかし今は、メディアも大きく変わり、電話やメールなどさまさまなコミュニケーション手段があるにも関わらず、むしろコミュニケーションは難しくなっています。
──確かに、現代の広報担当者はメディアとの接点が少なく、コミュニケーションの取り方に悩んでいるケースが多いです。
そうなんです。「電話をするのが怖い」という声をよく聞きます。プレスリリースを書いて初めて売り込みに行く時、編集部に電話しても出ない。誰に連絡すればいいのかもわからない。メディアの全体像が「幻想」になってしまっているんです。
広報・PRは営業セクションと同じで、新規開拓していく部署です。営業が顧客を開拓するのに対し、広報は「メディア」を開拓します。つまり広報からするとお客様はメディアなんです。
そこで本書では、「こういう人たちが編集を担当している」ということを具体的な顔と名前で示しました。一方通行のコミュニケーションではなく、顔が見える人たちへのアプローチのヒントになれば、と思っています。
中小企業・スタートアップのPR成功事例
──@人事の読者は中小企業やスタートアップの人事・総務担当者が多く、広報業務も兼務しているケースが少なくありません。このような環境でメディアに取り上げられるための工夫や成功事例があれば教えてください。
特別なひねり技はないんですが、本書の113ページに紹介している「介護スキルシェアのクラウドケア」という会社が良い事例です。この会社は現在、非常に多くのメディアに取り上げられ、注目を集めています。
成功の最大のポイントは、経営者が「広報マインド」を持っているかどうかです。広報マインドとは、メディアの立ち位置を理解していること、そして広告宣伝と広報・PRは全く違う分野だということを正しく理解していることです。さらに、自ら自社をメディアに発信したいという意欲を持っていることも重要です。
できていない企業は、広告宣伝と広報・PRを同じようなものだと考え、「タダ(無料)でメディアに情報を伝えれば載せてくれる」と思っています。しかし、単に報道させれば良いわけではなく、企業の立ち位置の中で何を優先順位として、どのタイミングで情報提供すべきかを考える必要があります。
正しい情報を正しく伝え、理解していただいた上で取材をしてもらうというステップがあるんです。これを経営者や役員にきちんと理解してもらうことが重要です。そうしないと、メディアとの良好なコミュニケーションは取れず、一方通行になってしまいます。
出所「介護スキルシェアの『クラウドケア』、総額1.1億円の資金調達を実施 ~初めて外部から資金調達を実施、事業展開のスピードアップを図る~」|株式会社クラウドケア
──採用活動に関する事例もありますか。
採用広報なら、P106で紹介しています。「アシロ」という会社が参考になります。この会社は従業員の環境づくりに注力しており、代表の中山さんが働きやすい環境や長く働いてもらうための福利厚生情報を積極的に発信しています。採用広報で成功した事例として、読者の方々の参考になるでしょう。
出所:「新たな休暇制度『ウェルビーイング休暇』と『結婚休暇』を導入」(PR TIMES)より|株式会社アシロ
広報活動はすぐに成果が出るものではなく、恒常的に情報発信していく活動です。一歩一歩確実に進んでいくことが成功のポイントです。焦ってはいけません。
広報スキルを磨くための方法
──広報としての知識やスキルを磨くために、特に中小企業やスタートアップの広報業務を担当する方ができることはありますか。
まず、メディアに接してください。これは初心者の方に強くお伝えしたいことです。最近はメディアが生活の中から遠のいているように感じますが、マスメディアはまだまだ影響力があります。
一般のビジネスパーソンは日々のビジネスのヒントを得るためにメディアと接しますが、広報パーソンは「顧客」としてメディアを理解する必要があります。お客様の属性がわからなければ営業開拓できないのと同じで、相手を知るためにメディアと接することが重要です。
どんな記事を書いているのか、どんな記者がどんな傾向の記事を書いているのか、世の中のトレンドは何かを知るために、メディアを生活の一部として取り入れてください。新聞でも雑誌でもテレビでもネットメディアでも、会社の環境にマッチするメディアに接することが成功への近道です。
次に、広報・PRの書籍を最低でも5冊は読んでおいてください。初めは何を言っているのか分からないかもしれませんが、わからないことがあったらその書籍をひも解いたり、検索したりして追求していくことが大事です。
これを毎日コツコツ続けてください。仕事が忙しくて時間がないという方も、昼休みや通勤時間などを活用して少しずつ取り組むことができます。スマートフォンという便利なツールもありますし、休日には経済番組や情報番組を意識的に見るなど、「アンテナを張る」ことを心がけてください。
私は新人時代、上司から「三上、アンテナ張ってないよ」とよく言われました。最初はその意味が分かりませんでしたが、それは「意識」のことだったんです。敏感に情報を欲する意識を持つこと。そうすることで、リリースの書き方や企画立案の能力も徐々に変わってきます。
──面白いですね。広報は情報を発信する側でありながら、まず情報を求め、アンテナを張って情報を拾うことが大切なんですね。それが発信する力に転換されるというのは興味深いです。
私も昔はそんなこと全然分かりませんでした。クライアントから言われた情報をプレスリリースに落とし込んで、ターゲットメディアに売り込めばいいと思っていました。でも、実は「受け手」であるメディアの視点が重要なんです。そうでないと的外れな企画を出してしまいます。
情報の背景や文脈を読み取る力も、感度が高くなれば自然と身についてきます。初心者の方はまず、競合他社や理想とする企業の情報をキャッチすることから始めると良いでしょう。それが情報提供のヒントになります。
例えば、「アシロの福利厚生がこんなに充実しているのか、これも記事になるんだ」と気づけば、自社の若い社員の離職率を下げたり、エンゲージメント率を高めたりするための施策を考え、それを情報化してメディアに提供できます。こうした取り組みがメディア側にとって「ネタ」になるんです。
ゼロイチ広報 ー広報担当者のオンラインサロン
──三上さんは実際に広報担当者向けのサポート活動もされているそうですね。
はい、「ゼロイチ広報」というオンラインサロンを運営しています。月額1万円で会員になると、さまざまな勉強の場やネットワークを構築できます。広報担当者、特に一人で広報をやっていたり、マーケティングを兼務していたりする方が約100名ほど参加されています。
若い広報担当者の中には、精神的につらくなってしまう方もいらっしゃいます。特にベンチャーやスタートアップ企業では、経営者と直接広報についてやり取りすることも多く、社長のリクエストを100%実現したいという真面目な若手が多いんです。しかし、それが原因で途中でつらくなり、転職することもあります。
私は広報・PRは非常に面白く、やりがいのある仕事だと思っています。もし解決できない問題があれば、ゼロイチ広報で私がアドバイスできますし、メンバー同士でも助け合いができます。興味がある方は、ぜひお問い合わせください。
【ゼロイチ広報】 広報担当者向けオンラインサロン
https://www.v-pr.net/service/zeroichi/
まとめ:広報活動の本質
──お話を伺って、広報活動の本質や成功のポイントがよく理解できました。最後に、人事や総務を担当しながら広報も兼務している読者へのメッセージをお願いします。
広報・PRは難しい手法ではありません。熱意と正しいマインドがあれば、少しずつ前に進むことができます。すぐに結果が出るものではありませんが、継続的な情報発信が重要です。
まずはメディアの視点を理解し、自社の情報を整理して伝える工夫をしてみてください。経営者や上司にも広報の本質を理解してもらいながら、アンテナを張って情報収集に努めることが成功への近道です。
一人で悩まず、書籍や専門家の助けを借りながら、広報活動を楽しんでいただければと思います。
──ありがとうございました。
書籍情報『広報のプロが教えるメディアのトリセツー取材獲得への5ステップ』

三上氏の著書『広報のプロが教えるメディアのトリセツ―取材獲得への5ステップ』
広報歴40年にわたる広報戦略から戦術まで、いまも現役でメディアリレーションを実践している著者が、メディアの視点から効果的な情報発信方法からメディアとつながる方法や良好なコミュニケーション術まで、分かりやすく解説。メディア業界でトップリーダーとして活躍されている、ジャーナリスト・池上彰氏のインタビューや新聞、雑誌、テレビ、web媒体のメディア関係者の方からのアドバイスも公開しています。
書籍情報
■書籍名:『 広報のプロが教えるメディアのトリセツー取材獲得への5ステップ』
■出版社:(株)中央経済社
■著 者:三上毅一
■発売日:2024年5月1日
■定 価:2,530円(税込)
■体 裁: A5判
■目次:
巻頭インタビュー 池上彰氏と考える広報の「伝える力」
第1章 広報・PR活動を正しく理解する
第2章 メディアが広報・PRに求めるものを知る
インタビュー(1)松林 薫氏(元日本経済新聞社記者/ジャーナリスト)
インタビュー(2)原 隆氏(日経ビジネス電子版編集長)
インタビュー(3)松林浩司氏((株)新聞編集センター代表取締役/「定年時代」編集部長)
インタビュー(4)山口 圭介氏(週刊ダイヤモンド前編集長)
インタビュー(5)清水俊宏氏(フジテレビジョンニュース総局報道局報道センター部長職プロ デューサー)
インタビュー(6)金泉 俊輔氏(NewsPicks Studios代表取締役CEO/元NewsPicks 編集長)
第3章 広報・PR活動を進めるための土台を作る
第4章 自社の情報をプレスリリースに落とし込む
実例1新商品紹介/実例2商品やサービスの紹介/実例3実績を紹介実例4人材採用・福利厚生を紹介/実例5資金調達
第5章 準備した情報を売り込む
いざ、メディアにアタック!
広報・PRの作法/新聞社へのアプローチ/テレビへのアプローチ/出版社(雑誌掲載)へのアプローチ/Webメディアへのアプローチ
おわりに
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