企画

石川樹脂工業×ニューホライズンコレクティブ


リスキリング改革:成功企業に学ぶ持続可能な成長戦略

2025.04.01

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企業の競争力を左右する人材育成の最前線に立つ「リスキリング」。技術革新や市場の変化が加速する現代において、従業員のスキルを再構築し、企業内に新たな価値を生み出すことが求められている。しかし、リスキリングを成功させるには、単なる研修を超えた体制づくりと継続的な仕組み化が不可欠だ。
今回は、リスキリング施策で成功を収めた石川樹脂工業とニューホライズンコレクティブの担当者による対話を通じて、実践的なヒントを探る。【取材・構成:編集部】

石川樹脂工業株式会社

石川樹脂工業株式会社専務取締役 石川 勤 氏石川県加賀市に本社を構え、山中漆器という伝統工芸をルーツに持ちながらもDX(デジタルトランスフォーメーション)とリスキリングを推進し、地方中小企業として数々のアワードを受賞する先進企業。近年は日本一※のフォロワーを誇る割れない食器ブランド「ARAS」などさまざまな新規ブランドを手掛けており、DXを活用した新しいものづくりを展開している。※2024年10月時点 https://ishikawajyushi.net/

専務取締役 石川 勤 氏
東京大学工学部を卒業後、P&Gで約10年間勤務し、日本とシンガポールで経営戦略や財務を担当。「ものづくりをしたい」という思いから、実家の製造業に転身。前職でのグローバルな視点と経営経験を生かし、下請けB2B型からD2C型のモデル変革に着手。その取り組みが評価され、日経リスキリングアワード大賞を受賞。さらに、ICCデジタル&イノベーションアワードでも優勝を果たすなど、業界内外で高い評価を得ている。

ニューホライズンコレクティブ合同会社

ニューホライズンコレクティブ合同会社代表 野澤 友宏 氏

電通の100%子会社として2020年に設立。人生100年時代におけるミドルシニアのライフシフトを支援する基盤「ライフシフトプラットフォーム(LSP)」を運営し、学びの機会、仲間作りの場、そして新しい出番作りの3つの機会を提供する。元電通社員のみならず、延べ16社が参加し現在約250名のメンバーの、キャリアの再構築を支援している。「日経リスキリングアワード2024 企業・団体イノベーティブ部門 最優秀賞」を受賞。
https://lifeshiftplatform.com/lsp

代表 野澤 友宏 氏
1999年株式会社電通入社。コピーライター・CMプランナー・クリエーティブディレクターとして、100社以上の企業を担当。2018年よりHuman Resource Management Directorとして電通の人事施策・後進育成にも広く貢献。2020年末、電通を退社。2021年1月より「ニューホライズンコレクティブ合同会社」の共同代表として人生100年時代の新しい働き方・生き方を提案している。

目次
  1. 競争優位を確保するためのリスキリング
    伝統と革新が共存する石川樹脂工業の取り組み
    ミドルシニアを活躍させるニューホライズンの戦略
  2. リスキリングを成功させるための体制構築
  3. 持続可能性と成果測定:リスキリングの効果を如何に確保するか
    OKR導入による効果の測定と評価
    エンゲージメントと学習文化の強化
    経営トップが牽引するリスキリングプロセス
  4. 経営者へのメッセージ:小規模から始めるリスキリング

競争優位を確保するためのリスキリング

伝統と革新が共存する石川樹脂工業の取り組み

──リスキリングの体制構築について伺います。石川樹脂工業は地方中小企業という立場から、リスキリングにどのように取り組まれたのでしょうか。
石川樹脂工業 石川勤 氏(以下、石川氏)
:われわれがリスキリングを始めた背景には、少子高齢化による人口減少と、それに伴う生産性低下の危機感がありました。所在地の石川県加賀市では、毎月100人の人口が減少するという現実があり、今のままでは20年後に生産性が半分になる可能性があります。こうした状況に対応するため、DXとリスキリングを組み合わせて、生産性の向上と社員の待遇改善を目指しました。

まず、Slackの導入からです。地方中小企業では、FAXや口頭伝達が当たり前で、情報が特定の人に偏る傾向が強かったのですが、Slackを導入することで「情報は共有するもの」という文化が浸透し、社員同士の協力体制が強化されました。

しかし、新しいツールを導入することへの抵抗感も大きかったですね。特に年配の社員にとっては、従来のやり方からの変化に不安を感じる人も少なくありませんでした。そこで、最初は賛同者となる若手社員から小さく始めて、成功体験を見せることで、徐々に広げていくスモールスタート戦略を取りました。「2割の賛同者から徐々に拡大する」という形で改革が進んでいきましたね。

──ほかにもDXとリスキリングを組み合わせた工夫はありますか。
石川氏:
Slack導入の後は、ロボットの導入を行いました。特に、FANUCのロボット※を生産現場に投入し、手作業の工程を自動化したことで、生産効率が飛躍的に向上しました。同時に、目に見える変化を実感させることで、社員に「会社が変わるなら自分も変わらなければ」というポジティブな危機感を抱かせることに成功しました。

また、リスキリングという言葉を一度も使わず、「ロボット導入プロジェクト」や「配置転換」といった具体的な言葉を使って、新しいスキル習得を自然な形で進めました。さらに、給与の見直しを早期に行い、成果が見えた段階で報酬に反映することで、「会社が変わるなら報酬も変わる」というメッセージを社員に伝える工夫をしました。

※幅広い用途で活躍する産業用ロボットで、各種知能化機能を搭載した高性能ロボットコントローラで制御されている。

ミドルシニアを活躍させるニューホライズンの戦略

ニューホライズンコレクティブ 野澤 友宏 氏(野澤氏):非常に共感します。われわれも、40代・50代でミドルシニアの活躍が制限されることに課題感がありました。周囲からいわゆる「働かないおじさん」や「妖精さん(やる気はあるが活躍の場がない人材)」と呼ばれてしまうような人材のなかにも、本人にはやる気やスキルがあるのに、会社の都合、ひいてはミドルシニアに「スキルの賞味期限切れ」をもたらす、企業の構造的な問題が大きく関係していることが問題意識としてありました。このような課題を突破するために、「ライフシフトプラットフォーム」(以下、LSP)を構築しました。この考えについては、退職後の社員に投資するというのは非常に新しいと周囲から反響の声もいただきました。

▼ミドルシニアに「スキルの賞味期限切れ」をもたらす企業の構造的問題

ミドルシニアに「スキルの賞味期限切れ」をもたらす企業の構造的問題(ミドルシニアを活躍させるニューホライズンの戦略)|@人事ONLINE

▼ライフシフトプラットフォームの仕組み

ライフシフトプラットフォームの仕組み(ミドルシニアを活躍させるニューホライズンの戦略)|@人事ONLINE

出所:電通、人生100年時代における個人の多様な価値発揮を支援する「ライフシフトプラットフォーム」を提唱

野澤氏:世の中的に雇用の流動性も高まっている現在ですが、終身雇用が根強い日本企業では特に「辞めた後のことを考えて学びの機会を提供する」という考え方は、新しい企業の責任になるのではないかという部分に、共感をいただくことが多かったです。

さらに、立ち上げの際に掲げていた「Give & Give」 の精神で、組織に対し自分は何が提供できるだろうという発想でスタートしてもらいたいという狙いがあり、何もない状態からでも協力してメンバーが互いに教え合うことで、知識の共有と成長の循環を作り出しました。
電通から退職する230名を対象に、コミュニティ活動を通じた相互学習を提案し、月2回のグループ会を通じて、メンバー同士が自分の経験を共有し合うことで、孤立感の解消とモチベーションの維持を図りました。

──「Give & Give」の精神は、従来の「ギブ・アンド・テイク」とは異なり、与えること自体を価値としていますね。
野澤氏
:その通りです。また、「全員が先生」というコンセプトを掲げることで、メンバー自身が自分の経験を言語化・体系化し、教えることで学びを深めることができました。これにより、学びの場が固定化せず、メンバー同士が互いに刺激し合うダイナミックな学習環境を作り出しています。「もらうことを期待するのではなく、自分から与える」という文化が定着し、学びの継続性を高めることができました。これにより、変化を恐れず常に成長し続けることができるのだと考えています。

リスキリングを成功させるための体制構築

──―リスキリングを推進するための組織体制や役割分担はどうされましたか。
石川氏
:小さい組織ですので、特別な組織・役割分担は明確にしていません。石川樹脂工業では、リスキリングを「生産性改革に業務上必要なもの」と定義し、就業時間内で全てのリスキリングを行います。また、リスキリングは希望者による配置転換や業務転換を前提として実施し、習得したスキルに基づいてポジションを整理しつつ、組織内公募などを通じて適切な配置を行っています。リスキリングを受けた社員がそのスキルを最大限に生かせる環境、機会を提供することで、社員のモチベーションを高め、組織の柔軟性を確保しています。

先ほど触れた給与については、リスキリングによる直接的な給与増ではなく、役職や役割の変化に基づいて反映しています。新しいスキルを習得し、新しい役職や役割に就いた社員は、それに応じた給与増加を受けるというわけです。また、デジタルスキルのリスキリングだけでなく、コーチングやマネジメントの研修も行い、社員全体がデジタル技術を駆使して職場環境を向上させる文化を醸成しています。

野澤氏:私たちは、アグレッシブに活動するメンバーをサポートするため、LSPでIT環境を独自に構築しました。独立・副業を始めるためのサポートやビジネス体験トレーニングを提供するなど、より実践的なブログラムも充実させてきました。企業参加のメンバーには、LSP専任の「ライフシフトコーチ」が、活躍していくためのキャリアサポートを行います。

持続可能性と成果測定:リスキリングの効果を如何に確保するか

OKR導入による効果の測定と評価

──リスキリング施策は一時的な取り組みではなく、継続的な成果を生み出すための工夫が求められます。どのように効果を測定し、施策を持続可能にしているのでしょうか。
石川氏:われわれは、OKR(Objectives and Key Results) を導入しています。KPIになると目的と手段が逆になることも多いので、まずは目的を明確にしてリスキリングProjectを設計しています。
特に、リスキリング施策においては、新しいスキルの習得がどのように業績向上に寄与しているのかを数値で確認できるため、成果を定量化しやすくなります。

──OKRの導入はスムーズにいきましたか。
石川氏:最初はやはり抵抗がありましたね。特に、従来の評価制度と異なり、成果だけでなく過程や挑戦を評価するため、社員にはなじみにくい部分がありました。しかし、OKRの歴史や考え方を社内研修で共有し、「挑戦することが評価される」という意識を根付かせることで、徐々に受け入れられていきました。今では、OKRを通じて社員が経営視点を持ちながら自主的に目標設定を行うようになり、会社全体の目標と個々の目標が連動する形で成果を上げています。

エンゲージメントと学習文化の強化

野澤氏:われわれは、コミュニティ内のエンゲージメント指標を設定し、効果を測定しています。具体的には、グループ会の参加率、活動内容の充実度、メンバー間のフィードバック頻度などを指標として、メンバーのエンゲージメントを測定しています。
また、キャリアサポーターによる1on1を実施するのですが、管理ではなく期待ゴールを共有し、そのために必要なリソースをLSPから提供し、学びのアドバイスを実践しています。自己評価だけでなく、他者からのフィードバックを受けられる仕組みにより、メンバーが互いに学び合う環境を維持しつつ、自己成長を促進しています。

──他者からのフィードバックを導入することで、先ほど説明があった「学びが固定化せず、ダイナミックな学習環境」が維持されているのですね。
野澤氏:おっしゃる通りです。学びの継続性を担保するために、「全員が先生」という文化を根付かせることを意識していますが、メンバーが自分の知識や経験を他者に教えることで、自分自身の理解が深まり、知識の定着と応用力の向上を図っています。特に、ミドルシニア層がメンバーに教えることで、世代間の知識共有と組織全体のナレッジ強化につながっています。

経営トップが牽引するリスキリングプロセス

──「全員が先生」というコンセプトは、学びを固定化せず、常に新しい知識が循環する仕組みであり、特に世代間のギャップを埋める取り組みとしても有用ですね。石川樹脂工業では、どのように学びの継続性を担保していますか。
石川氏:われわれは、「経営ワークショップ」 を定期的に開催しています。これは、社員が経営視点を持ちながら、会社全体の方向性を議論し、自らの役割を見つけ出す場です。特に、OKRの設定や見直しを社員自身が行うことで、自らの目標が会社の成長にどう貢献しているのかを意識させています。
また、リーダーシップ層が率先して学び続ける姿勢を示すことで、社員にも学び続ける文化を根付かせています。私はChatGPTなどの最新技術を積極的に学び、それをSlack上で社員と共有することで、新しい技術に対する興味と探求心を喚起しています。

野澤氏:トップが率先して学びの姿勢を示すことは、組織全体の文化を変える上で非常に重要です。われわれも、リーダーが先頭に立って学ぶことで、メンバーのモチベーションを高めています。また、オンラインツールを活用して、学びを共有する場を設けることで、知識の共有とナレッジの循環を促進しています。

経営者へのメッセージ:小規模から始めるリスキリング

──「トップが学ぶ姿勢を示し、成功体験を共有する」ことで、学びの文化を根付かせる点は、中小企業がリスキリング施策の持続性を目指すうえで1つのヒントになりそうです。
石川氏:中小企業では、トップの影響力が大きいため、リーダー自身が学び続けることが、最も効果的なリスキリングの推進方法だと感じています。社員に「学び続けることが当たり前」という文化を浸透させることで、リスキリングが自然に行われる組織を目指しています。

野澤氏:われわれも、コミュニティのエンゲージメントを維持しつつ、新しい学びの場を提供し続けることで、メンバーが自発的に学び、挑戦し続ける文化を作っています。これが、ミドルシニア層が変化を恐れずに、社会で活躍し続けるための鍵だと考えています。

──最後に、中小企業の経営者や人事担当者に対して、リスキリングの導入に関するアドバイスやメッセ―ジをお願いします。
石川氏:まずは、経営者自身のデジタルリテラシー・経営力などのリスキリングからスタートしてみてはいかがでしょうか。その上で、大きな目標を設定せず、小さな目標で小さく始めるのが資本力も低く、人的資本も少ない中小企業には始めやすいかと思います。

野澤氏:今後LSPは新たな人生の選択肢の1つであるこの仕組みを導入いただけるよう、さまざまな企業に向けて参画をフォローしていきます。また、「学び」のカリキュラムをより多くの企業に提供することで企業が自社で行うリスキリングを支援していきます。

──ありがとうございました。

※情報は2025年3月末時点

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