@人事ニュース解説ぷらすvol.3
「チャイルドペナルティ」をなくすには? 育児とキャリアの両立を支える人事制度を考える
2025.02.06
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近年、企業の評価制度において「チャイルドペナルティ」が大きな課題になっている。東京大学などの研究チームによる最新の調査*では、育児期の労働時間減少が昇進機会を制限し、結果的に男女間の賃金格差を固定化するメカニズムが明らかになった。特に、「長時間労働=高評価」という評価基準が、育児中の社員のキャリア成長を妨げているという。
本記事では、企業が今取り組むべき「公平な評価制度の見直し」について、中小企業でも実践できる具体策とともに解説する。
*企業内の昇進システムが生む『子育てペナルティ』――人事データから明らかになった男女間賃金格差の原因――(PDF)|東京大学
目次
発表された分析結果の要点
同研究は、大手製造業の人事データを用いて、育児期の労働時間減少が昇進機会を制限し、結果的に男女間賃金格差を生じさせるメカニズムを明らかにした。主なポイントは以下の通り。
- 第一子誕生後、女性の賃金は10年で46%低下し、男性は8%上昇
・育児休業や時短勤務が主因
・その後、労働時間が回復しても賃金格差は残る - 昇進基準における長時間労働の影響
・一般社員の評価は労働時間に依存
・役職が上がると、労働時間と評価の関係は弱まる
・残業の多寡が昇進基準となることで、育児負担を抱える人材が不利に - 役職手当が男女間賃金格差の主要因に
・出産直後は「残業手当・時短控除」による格差
・15年以上経つと「役職手当」の差が主因 - 企業の人事評価制度が非効率
・残業時間に依存した昇進基準を持つ企業は、育児負担の大きい優秀な人材を活用できていない
・労働時間ではなく、成果やスキルを評価する制度改革が必要
出所:企業内の昇進システムが生む『子育てペナルティ』――人事データから明らかになった男女間賃金格差の原因―― (PDF)|東京大学
企業の人事担当者・経営者向けのアクションプラン
「チャイルドペナルティ」をはじめ、賃金格差や長時間労働の起因となっている人事課題の解決していくため、企業の人事担当者・経営者向けのアクションプランとして考えられる改善策を列挙する。
1. 昇進・評価制度の見直し
労働時間ベースではなく成果ベースの評価を導入
- 例:業績目標、スキル習得、プロジェクト達成度を評価基準にする
- OK:「営業目標を〇%達成」「新規プロジェクトの立ち上げに成功」
- NG:「年間〇時間以上の労働時間」「夜間・休日対応の頻度」
時短勤務者の評価が不利にならない仕組みの導入
- 成果の質・貢献度を明確に数値化
- 一定期間ごとの評価見直し(昇進が遅れないようにする)
人事評価プロセスの透明化
- 昇進基準・評価項目を社員と共有
- フィードバックの仕組みを導入し、成長機会を提供
2. 柔軟な働き方の推進
フルタイム・時短・リモートの選択肢を増やす
- 育児・介護などライフイベントに対応できる制度設計
- 例:「週4勤務制度」「フレックスタイムの適用拡大」
リモートワークの活用
- 特に中小企業では、オフィス勤務に縛られない仕組みを導入すると、優秀な人材を確保しやすい
- 例:「オンライン会議の導入」「業務進捗の可視化」
育休取得後のキャリアパスを明確化
- 育児休業後に復帰しやすい体制(上司とのキャリア相談の場を設ける)
- 例:「育休中のスキルアップ支援」「復帰プランの策定」
3. 中小企業でも取り組める具体策
スモールステップで制度改革を進める
- まずは試験運用を行い、フィードバックを基に改善
- 例:「半年間の時短勤務評価テスト」「特定の部署でフレックスタイム導入」
助成金・補助金を活用
- 日本政府や自治体は、働き方改革を進める企業向けに補助金を用意
- 例:「時間外労働削減助成金」「テレワーク導入補助金」
社内研修で意識改革
- 管理職向けに「子育てとキャリアの両立支援」に関する研修を実施
- 例:「評価バイアスを減らすワークショップ」「育児経験のある社員の声を共有」
制度改革の導入プロセス
人事制度改革のアクションプランを実行するにあたり、どのようなステップで行えば良いのか。一例として、次の導入プロレス例を提示する。
STEP1:現状の課題を把握する
✅ 現行の評価基準を洗い出し、「長時間労働」に依存していないか確認
✅ 社員アンケート・ヒアリングを実施し、昇進や評価に関する不満点を収集
✅ 時短勤務・育児休業取得者のキャリアパスの実態を分析
⇒例えば、「時短勤務の社員が昇進できる確率はフルタイムの50%」などの実態データを可視化
STEP2:小規模な試験導入を実施
✅ まずは一部のチーム・部署で新しい評価基準を試験導入
✅ 試験期間(6ヶ月~1年)を設定し、フィードバックを収集
✅ 問題点があれば柔軟に修正しながら進める
⇒例えば、「チーム単位での成果評価を試験導入し、個人の労働時間に依存しない昇進が可能かを検証」
STEP3:透明性を確保しながら全社展開
✅ 評価基準を明確化し、社員に共有する
✅ 昇進基準を具体的なスキル・成果に基づくものに変更
✅ 昇進が遅れがちな育児中の社員に対するキャリアサポートを提供
⇒例えば、「育休復帰後の社員が管理職を目指せるキャリア支援プログラムを提供」
STEP4:継続的に運用・改善
✅ 定期的なフィードバックを受けながら、制度をブラッシュアップ
✅ 管理職研修を実施し、新しい評価基準の理解を深める
✅ 育児や介護などのライフイベントを考慮し、柔軟なキャリアパスを構築
⇒例えば、「育児が落ち着いた後に管理職登用を目指せる仕組みを整備」
企業の取り組み事例
経済産業省や厚生労働省、東京都が発表している事例の中から、今回のアクションプランに関連する実践事例を紹介する。
事例【1】リモートワーク×成果評価制度(中堅IT企業)
企業規模:従業員300人のIT企業
課題:
・以前は、深夜残業が評価基準になっていた
・育児中の社員の昇進が遅れる傾向があった
施策:
✅ 労働時間ではなく、プロジェクト成果で評価する新基準を導入
✅ リモートワークとフレックス制度を導入し、育児中でもフルタイム勤務が可能に
✅ チーム単位の成果評価を実施し、個人の労働時間に依存しない制度に変更
成果:
✔ 管理職の40%が女性に増加(以前は15%)
✔ 残業時間が30%削減し、社員の定着率が向上
事例【2】時短勤務でも昇進可能な評価制度(大手メーカー)
企業規模:従業員5,000人の製造業
課題:
・時短勤務の社員が昇進しづらい状況
・長時間労働が評価に影響し、育児中の社員のキャリアが停滞
施策:
✅ 管理職への昇進要件から「フルタイム勤務」の条件を撤廃
✅ チーム成果・スキル向上を軸に評価制度を再設計
✅ 管理職の勤務形態を多様化し、時短管理職のロールモデルを増やす
成果:
✔ 時短勤務者のうち、管理職登用が2倍に増加
✔ 仕事と育児の両立に対する満足度が向上(社員アンケートで80%が「評価制度の改善を実感」)
事例【3】スモールステップで評価改革(中小企業)
企業規模:従業員50人のデザイン会社
課題:
・小規模なため、すぐに大きな改革は難しい
・「長時間働いた人が頑張っている」という評価基準が根強い
施策:
✅ まずは試験的に「短時間勤務でも評価される基準」を一部チームで導入
✅ 半年ごとにフィードバックを実施し、課題を調整
✅ 評価制度の透明化を進め、納得感を高める
成果:
✔ 小規模でも評価制度改革が可能と証明
✔ 短時間勤務でも重要なプロジェクトを任される風土が醸成
✔ 3年で離職率が半減(育児・介護と仕事の両立がしやすくなった)
参照:
・経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」
・厚生労働省「女性活躍推進企業データベース」
・東京都「働き方改革成功事例」
改革は企業の成長にも直結する
長時間労働に依存しない評価制度を導入すると、男女間の賃金格差の是正だけでなく、人材の活用が進み、企業の競争力が向上する。中小企業でも助成金や補助金を活用しながら、小規模な試験運用から始め、柔軟な働き方を推進して優秀な人材確保に結び付けたい。
人事制度の改革は、持続的な企業成長と多様な人材活用の第一歩だ。取り組みを推進していく際には特に、「人材が定着し、スキルの高い社員が長く働ける環境を作ることが、最終的に企業の業績向上につながる」という視点が重要になる。
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