企画

Z世代の社員マネジメントの未来を探る 前編


個人人格と組織人格のバランスと尊重

2024.11.19

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1990年代半ばから2010年代前半に生まれたZ世代は、従来の世代とは異なる価値観や働き方を持つことから、職場において新たなマネジメント課題を生み出している。特に、彼らは個人の価値観を重視し、組織の枠組みにとらわれない柔軟な思考を持つ傾向がある。そのため、Z世代の社員を長期的に引きつけ、彼らの貢献を引き出すためには、単なる指示や目標管理だけではなく、彼らの特性に応じたマネジメントの手法が必要だ。

そこで、株式会社リンクアンドモチベーションのフェローであり、『Z世代の社員マネジメント 深層心理を捉えて心離れを抑止するメソドロジー』の著者である小栗隆志氏に、Z世代に対する効果的なマネジメント手法やその背景にある考え方について取材した。

前編は、Z世代の社員マネジメントにおける「個人人格」と「組織人格」の概念を基軸に、彼らを効果的にマネジメントするためのポイントについてうかがった。【取材・文:@人事編集部】

プロフィール

小栗 隆志(おぐり・たかし)
1978年生まれ。2002年、早稲田大学政治経済学部卒、株式会社リンクアンドモチベーション入社(新卒1期生)。人事コンサルタントとして、100社以上の組織変革や採用支援業務に従事。2014年、パソコンスクールAVIVAと資格スクール大栄を運営する株式会社リンクアカデミー代表取締役社長に就任。17年、株式会社リンクアンドモチベーション取締役に就任し、経営に携わる。23年より現職。同年、株式会社カルチベートを創業。

目次
    1. Z世代の特性と心理:選択肢の多さが生む迷いと不安
    2. 個人人格と組織人格の理解:Z世代は「個人」を優先する
    3. 「心離れ」を防ぐための信頼関係の構築
    4. 個人人格と組織人格の一致がもたらす効果
    5. 書籍紹介

Z世代の特性と心理:選択肢の多さが生む迷いと不安

――Z世代の社員が抱える特有の悩みや、彼らの考え方について教えていただけますか?
Z世代の特徴としてまず挙げられるのは「選択肢が多い」という点です。私たちの世代と比べて、あらゆる選択肢がインターネットを通じて無数に広がっている。つまり、何を選んでも他にもっと良い選択肢があるかもしれないという状況です。これは、一見すると自由で恵まれた環境のように思えるかもしれませんが、実際には決断を下すことが難しい環境ともいえます。

選択肢が多いというのは、自由度が高いように見えますが、実際には「どれを選ぶべきか」という迷いを生じさせ、決断力を弱める要因にもなります。これは、キャリア選択にも当てはまります。

Z世代の多くは、最初の就職や転職で「本当にこの選択で良いのか」と常に自問自答し、心離れしやすい傾向にあります。その結果、一つの職場に対して長期的なコミットメントを持つことが難しいのです。

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個人人格と組織人格の理解:Z世代は「個人」を優先する

――Z世代のキャリア選択や職場での行動には、他の要因も影響しているのでしょうか?
Z世代は、「個人人格」と「組織人格」の概念が分かれていることが特徴です。これは、個人としての価値観や信念を重視し、自己の目標に忠実でありたいという考え方が強い世代だということを意味します。彼らにとって、自分の価値観や信念が組織に合致しなければ、すぐに「この職場は自分に合っていない」と感じてしまうことが多いのです。

団塊の世代やバブル期の世代は、組織の一員としての自分、つまり「組織人格」を優先する傾向がありました。組織が求める役割や目標に従い、組織内での役割に適応することが重視されていたため、個人の価値観よりも組織としての行動規範が尊重されていました。つまり、組織の中での自分の存在意義を考える際には、まず「会社のためにどう貢献できるか」という視点が強調されていたのです。

『Z世代の社員マネジメント 深層心理を捉えて心離れを抑止するメソドロジー』

――Z世代は、そうした「組織人格」ではなく、「個人人格」を優先していると?
早Z世代は、個々の価値観やライフスタイルを大切にします。組織の一員として自分をどう位置づけるかということよりも、自分がその組織でどのように自己実現できるか、自分らしく働けるかということを重視します。そのため、組織が彼らに提供する役割や期待が、彼らの個人的な価値観や目標と一致しないと、すぐにモチベーションを失ってしまうのです。

彼らは、組織に対して「自分がこの場所で何を成し遂げられるか」「自分らしさをどのように表現できるか」を基準に職場を評価することから、組織と個人のバランスを取ることが難しい世代といえるでしょう。

「心離れ」を防ぐための信頼関係の構築

――Z世代の社員が組織から「心離れ」をしやすいという話を耳にすることが多いですが、それはこの個人人格と組織人格のバランスの問題に起因しているのでしょうか?
まさにその通りです。組織人格ではなく個人人格を優先する彼らにとって、自分の個人的な価値観や目標を理解、尊重されることが「心離れ」を防ぐ最も重要なポイントです。

そのため、組織がZ世代の社員と信頼関係を築くためには、まず彼らの個人的な目標や価値観を理解し、共感することが大切です。Z世代の社員は、上司や組織が自分の価値観を理解しようとしない場合、「この組織は自分のことを分かってくれない」と感じ、次第に組織に対する信頼を失っていきます。

――信頼関係を構築するために、組織は具体的にどのようなアプローチをすべきでしょうか?
一つのアプローチとして、「対話の場を設けること」があります。Z世代の社員に対しては、定期的に彼らの価値観や目標について話し合う場を設けることで、組織として彼らの考え方を理解しようとしている姿勢を示すことが重要です。

例えば、1on1ミーティングを実施し、業務の進捗だけでなく、彼らの将来的な目標や価値観について尋ねることが効果的です。こうした対話を通じて、上司と部下の間に信頼関係が築かれると、彼らは「この組織は自分を理解してくれている」と感じ、組織に対して積極的に貢献しようという気持ちが芽生えやすくなります。

『Z世代の社員マネジメント 深層心理を捉えて心離れを抑止するメソドロジー』

個人人格と組織人格の一致がもたらす効果

――個人人格と組織人格が一致した場合、どのような効果が期待できるのでしょうか?
個人人格と組織人格が一致すると、組織に対して強い帰属意識を持ち、積極的に組織の目標達成に向けて行動するようになります。特にZ世代は「自分の価値観が尊重されている」と感じると、組織に対して忠誠心を持ち、難しい仕事や新しいチャレンジにも前向きに取り組む傾向があるのです。

また、個人としての価値観が組織の目標と一致していると感じることで、自己実現の欲求も満たされやすくなり、組織の成長にも積極的に貢献するようになります。このように、個人人格と組織人格の一致がもたらす効果は大きく、Z世代を長期的に引きつけ、彼らのポテンシャルを最大限に引き出すための鍵となります。

>>>後編「Z世代が組織に長期的に貢献するためのアプローチ」につづく

【記者の目】:個人人格と組織人格のバランスを取るマネジメント

Z世代をマネジメントする際には、彼らの個人的な価値観や目標と、組織が求める役割や目標のバランスをどのように取るかが重要だ。組織が彼らの個人人格を理解し、それを尊重することで、彼らは「この組織は自分に合っている」と感じ、長期的な貢献を続ける意欲を持ちやすくなる。社員を単なる「組織の一員」として見るのではなく、一人ひとりの個人的な価値観を理解し、彼らと信頼関係を築くことが組織全体の成長にもつながるといえる。

書籍紹介

『Z世代の社員マネジメント 深層心理を捉えて心離れを抑止するメソドロジー』著・小栗隆志

新刊紹介 『Z世代の社員マネジメント 深層心理を捉えて心離れを抑止するメソドロジー』著・小栗隆志|@人事ONLINE

独自の分析結果をもとに、いわゆる「Z世代論」に懐疑的な著者が、対症療法的なマニュアルではない、若手に対する本質的なマネジメントについて解説している。チームリーダーや管理職、人事担当者などZ世代のマネジメントに悩むすべての人に向けた一冊だ。

目次

第1章 「働く人間」の真実
第2章 延べ45万人のデータで見るZ世代の真実
第3章 キャリア創りのスキルセット
第4章 キャリア創りのマインドセット
第5章 オンボーディングのゴールセット
第6章 ステージ別の離職要因とアプローチ方法
第7章 企業と個人の相互繁栄に向けて

書籍概要

書籍名:『Z世代の社員マネジメント 深層心理を捉えて心離れを抑止するメソドロジー』
出版社:日経BP 日本経済新聞出版
価格:2000円+税
著者:株式会社リンクアンドモチベーション フェロー 小栗 隆志
日経BOOK PLUS:https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/24/08/23/01558/
Amazon:https://amzn.asia/d/9eYuaP6

※情報は2024年10月3日取材時点

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