失業経験アリ人事コンサルによる直球コラム
電通過労死事件から学ぶ、社員の過労死(過重労働)撲滅方法
2016.11.09
電通過労死事件、事態は労働局による強制捜査に発展
株式会社電通。世界有数の広告代理店が今大きく揺れています。原因は報道等でご存知の通り、1人の女性新卒社員の過労自殺から始まった企業の過重労働体質の露呈による労働基準法違反各種によるもの。事態は労働局から電通に対する強制捜査に及んでおり、企業価値を計る株価も右肩下がりに値を崩しています。この強制捜査は、企業犯罪を摘発するものであり、誰もが入社を目指していた業界トップ企業を最低評価の「犯罪企業」に替えてしまうものです。いったい電通に何があったのでしょうか。報道では、以下のようなことが語られています。
「社員に大きなプレッシャーとなるパワハラが常態化。常にプレッシャーを感じる労働」
「強烈なサービス残業したものが評価される企業体質」
「人間の生存を全て犠牲にして、仕事に取り組むことを命じられる電通鬼十則の存在」
etc…
電気を消すだけで時間外労働が減り、業務環境が改善するのか?
これらの報道に対して電通が時間外労働削減策として取り組んだ事項の一つが、「ビルの電気を一定時間に消灯して残業できなくするようにしました」という非常にお粗末な施策だったため、筆者は眉をひそめざるを得ませんでした。そんなことで時間外労働が減って業務環境が改善するなら、どこでもやっていると思う方も多いのではないでしょうか。
大きく企業価値を落とす事件に発展しつつある電通過労死事件を他山の石とするまえに、そもそも貴社はいかがでしょうか。本当に過労死を防ぐ施策はとっていますでしょうか。電通過労死事件を教訓に、2つのポイントに絞って、今一度チェックしてみましょう。
「ポイント1:過労死の原因となる過重労働を命じない・させない」
「ポイント2:ストレスの原因となるパワハラと感じられる事象を撲滅する」
過重労働防止対策
以前はサービス残業(無賃時間外労働)を多くさせている企業のみを対象にしていた労働局の摘発対象が、時間外労働(有賃時間外労働)をさせている企業にも広がっています。残業代さえ払っていれば摘発対象から外されていたものが許されない時代に突入しているのです。労災認定されると言われている過重労働は月間80時間~100時間の時間外労働の常態化とされていますが、それと同時に重要なことは、業務量に釣り合った労働時間になっているかということを確認する必要があるということです。
どういうことかというと、本来1時間でこなす仕事を30分でやらなければならないということになると、人間にとって肉体的・精神的に大きなストレスとなり、かつ大きなミスにつながりかねないということです。これを防ぐために有効な施策の一つは、ビルの電気を一斉に消すことではなく、「社員と業務量について有効かつ意味ある面談を繰り返す」ことです。
業務量と労働時間の相関関係について真剣に取り組んでいることを社内に徹底し、「効率よく仕事をすすめている者を評価する」という企業体質を維持させなければなりません。
そして業務量>必要労働時間となっていることが確認された場合は、どうすれば業務量=必要労働時間になるのか真剣に考えることです。ここで間違えてはいけないのは、「労働時間を減らす」ことではなく「業務量を減らす」ことが重要であるということ。「労働時間を減らす」ことを主眼に置いてしまうと、社員は「残業代減らし」と考え、実入りが減ることを懸念し、本心を話してくれないという意味が薄い面談となります。
パワハラの撲滅
パワハラとはパワーハラスメントの略で上下関係や立場・地位を利用した、いじめや嫌がらせなどの行動、言動を相手に対して反復継続して行うことをいい、その結果精神的苦痛(ストレス)を相手に与えることです。これを放置すると、職場環境を著しく悪くしてしまうだけでなく、相手をうつ病等の病気にし、最悪の場合自殺という方法を選んでしまうこともあるので、絶対に防がなければならない事項です。
企業内では、主にパワハラは上司と部下の関係で行われるもの(逆もありうるので注意)です。そのため、なかなか申告による発覚がないという悪い特徴があるので、パワハラ相談の申告制度はいかに相談しやすいかという視点で作らなければなりません。人事が間に入って、パワハラ(軽度なもの、パワハラとは思えないものも含む)を解決するために、人事異動などの人事権発動も辞さない覚悟で臨まなければなりません。厚生労働省による調査では東証一部上場企業において43%の会社が「パワハラ事象が起こったことがある」と回答、82%の会社が「パワハラに対する施策実行は会社を経営するうえで重要な課題の一つである」と答えています。
それではパワハラはどうしたら撲滅することができるのでしょうか。
まず大切なことは、人事がパワハラ撲滅を宣言するのではなく、企業トップから宣言を出してもらうことです。つまり、パワハラを厳しく職務上罰すること、撲滅することが会社の意思であることを明確にすることです。そして実施施策としては、相談窓口の設置、研修の実施、定期的アンケートの実施など、いろいろな問題顕在化方法が考えられます。またいかにしてパワハラを受けた側を会社として保護するかの施策として、受けた側が人事降格等の対象にならない(しない)ことを宣言するなどの態度表明も必要でしょう。気持ちよく働く環境づくりが結局企業利益につながることを経営トップが認識すれば、人事としては成功といえるでしょう。
電通もパワハラ相談窓口の設置や時間外労働削減施策をとっていたと思われます。しかし機能しない施策であったことは明確になりつつあります。機能しない施策ならやらない方がマシとならないように、自社の体制・方針も一度見直す時期にきているのではないでしょうか。
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