マネジャー・管理職の限界を乗り越える自律共創型組織へのアプローチ・後編
マネジャーのオーバーワークを乗り越えるには? 問題の背景と4つのアプローチ
2024.03.01
マネジャーや管理職は昔から板挟みになりがちな立場ではあるが、昨今では過剰な負担が課題になっている。今やマネジャー候補となる若手からも「なりたくない」と言われ始めており、その背景には長時間労働をはじめいくつかの課題がある。
前編では、トレーニング開発とミドルマネジメント領域の調査研究等を行っているリクルートマネジメントソリューションズの専門家が、実際に管理職がどのような状況に置かれているのかを解説した。
>>>前編「管理職は不要? 必要? ミドルマネジャーの役割と現状」
後編は、「解決方法」に当たる最後の話題「マネジャーのオーバーワークを乗り越える4つのアプローチ」について語られた内容を抜粋して紹介する。
- 目次
-
- マネジャーのオーバーワークの背景
・現代のマネジャーを取り巻く環境
・人事からマネジャーへの期待の高まり
・マネジャー自身の役割認識と難易度の変化
・マネジャー依存の危険性
・マネジャーは魅力的ではない? - マネジャーのオーバーワークを乗り越える4つのアプローチ
・4つのアプローチとは?
・アプローチ1:制度・仕組み×「量」への対処
・アプローチ2:能力開発×量」への対処
・アプローチ3:制度・仕組み×「質」への対処
・アプローチ4:能力開発×「質」への対処 - マネジャーとしてできること
- マネジャーのオーバーワークの背景
マネジャーのオーバーワークの背景
木越氏は、マネジャーがオーバーワークに陥っている背景について、先に石橋氏が紹介した調査結果も踏まえながら解説した。
現代のマネジャーを取り巻く環境
最初に、現代のマネージャーを取り巻く環境を解説。
成果創出の難度の高まりの一方で、マネジメント対象になるメンバーの多様化も進んでいる。部下の多様化、いわゆるZ世代の若手が職場に入って来たり、昔自分の上司であった方がシニア社員となりメンバーとしてマネジメントしなければいけなくなったりする状況も発生している。
また、マネジャーは短期生活と中期生活の双方を追いかけなければならない上に、マネジメント業務に専念できない(前編調査結果参照)。さらに、マネジャー自身もこれまで経験したことのない課題が出てきている時代のため、どのように対処すれば良いのか、見通しを立てることが難しくなっている。
人事からマネジャーへの期待の高まり
人事からマネジャーへの期待の高まりもある。昨今の人事施策は、人的資本経営などの流れに乗って人材を惹き付けるために重要なものであるが、現場のマネジャーにとっての負荷を増加させる場面もある。施策自体はもちろん人事が行うとはいえ、現場でどう運用していくのかといったことはマネジャーに依存するため、「人的資源管理」という分野が、マネジャーの役割の中でも広がってきている。
具体的には、1つ目が「メンバーのキャリア支援」。調査結果でも、人事からの期待として2位になっていたもの。しかし、マネジャー自身も自律的にキャリアを切り開いてきた経験が豊富ではないため、自身のニーズにもなっている。
2つ目が「リテンションとエンゲージメント」。離職を防いでほしい、メンバーの組織へのエンゲージメントを高めてほしいといった期待だ。エンゲージメントサーベイの導入率も高まっており、マネジャーにとってはモニタリングされる指標が増えていることになる。
最後に、「JOB型人事制度」。JOB型の人事制度に移行する企業が増えており、その現場での運用がマネジャーに任せられ、負担となっている。
マネジャー自身の役割認識と難易度の変化
意識調査の結果を見ると、マネジャーも人的資源管理を自身の重要な役割と捉えている。当然のことながら業務関係の目標達成などへの対応もある中で、こちらの役割も重く捉えていることが分かる。
一方、マネジャーになる人はどのような人かというと、昇進前の経験が少ない人がマネジャーになっているというのが現状である。かつては後輩育成経験や、「係長」「リームリーダー」といったプレマネジメント経験と呼ばれるマネジメントに近い経験を豊富に積めた。ところが現在では後輩育成の経験が少ない、例えば自分が職場で最も若手である期間が長かった人など、課長の仕事代行経験が少ない人が、マネジャーとしての役割に取り組んでいかなければならない。
加えて、期待レベルとのギャップも発生しがちである。かつては管理職の能力に対して期待レベルがやや柔軟であったと言えるが、現在ではかなり期待レベルが高まってきている。難度が高まっている分、ギャップが広がってしまっているのが現状だ。
マネジャー依存の危険性
このような状況の中で、組織がマネジャー依存になりやすい条件もそろっている。
特に昨今、非対面・非集合、いわゆるテレワークやリモートワークが広がっていく中で、管理職が協働をつなぐハブとなる、つまり管理職がメンバー同士の情報共有を助けたりメンバーの間をつないでいく動きが求められる。そうなると、管理職の業務化が増大していき、結局メンバーがバラバラに働き、マネジャーとしかやり取りしていない状況が生まれ、協働の停滞が起こり、メンバーの支持待ち化が進む。結果、さらに管理職の役割が増え、オーバーワークが加速していくことが考えられる。
このままいくとどうなってしまうのか。マネジャーは成果創出という重要な役割を果たしているが、今後成り手がいなくなる可能性もある。これは企業の戦略推進上、大きな課題になる。
調査結果にもあったように、マネジャーになりたいという人が少なくなっているということが課題。パーソル総合研究所のデータによると、他の18カ国と比べて日本は管理職になりたいと思っている人の割合が低水準である。
このような状況を実際に現場で見ると、能力と期待水準とのギャップがあるために、マネジャーへの適応に苦労する人が一定数出てくる。そうすると他のマネジャー、同僚のマネジャーの負担が増える。それを見ているメンバーは、管理職は割に合わないと感じる。また、マネジャーへの適応に苦労している人を見ているメンバーが、大変そうだ、自分にはできそうにないと感じ、マネジャー意向のある人が減ってしまう。そのため、候補者が減少するので、やや能力不足の人をマネジャーに登用する必要が出てくる。結果的にそうした方が登用された後、マネジャーへの適応に苦労してしまう。
このような悪循環に陥ってしまうのではないかと考えられる。
マネジャーは魅力的ではない?
では、管理職は本当に魅力的ではないのか? マネジメントを担うことにネガティブだった人に、実際にやってみた感想を質問したところ、実際にやってみるとポジティブに変わるという可能性が高いという結果が出ている。ネガティブだった人のうち、約半数がポジティブに捉えている。「より大きな影響力を周囲に及ぼすことができる」「現場の仕事とは違う面白さがある」ということがマネジャーにしか味わえない喜びと言える。
マネジャーのやりがいとしては、「自分が管轄する組織が、目標より高い成果をあげたとき」に最も感じるという結果に。やはりマネジャーによって仕事で組織的により高い成果を上げていくということがやりがいにつながるため、成果を上げられる環境を整えることが、現在のマネジャーが置かれている状況に対して必要と考えられる。
マネジャーのオーバーワークを乗り越える4つのアプローチ
では、このようにマネジャーがオーバーワークに陥っている状況を乗り越えるためのアプローチとしてどんなことが考えられるのか。木越氏は4つのアプローチについて解説した。
4つのアプローチとは?
オーバーワークに陥るマネジャーのマネジメント機能をマネジメント機能をこちらにありますように4象限で分類する。仕事面と人・組織面、そして長期と短期である。
長期の仕事面は、事業開発、業務改善などの取り組み。短期的には業務遂行、短期成果の創出、今の目標を達成するということ。
人・組織面では、長期的には人材育成やキャリア開発など、組織の力を高めるということ。短期的には人・チームのメンテナンス、チームワークなどの調整である。
これらを量と質に分けた上で、制度・仕組みや能力開発で解決する。これはPM理論※を参考とし、P・Mの2要素にそれぞれ時間軸をかけ合わせた4象限で整理したもの。
※PM理論:1966年に日本の社会心理学者、三隅二不二が提唱したリーダーシップ行動論。Pは「目標達成機能(Performance)」、Mは「集団維持機能(Maintenance)」を意味し、この2つをリーダーに必要な要素とする。
アプローチ1:制度・仕組み×「量」への対処
マネジャー個人では担保できないことは、他の人や他のリソースを振り分けられるような仕組みが必要となる。
具体的には、リソースを振り分けてマネジャーの仕事を減らすということ、アウトソースである。LINE株式会社の事例を紹介する。
LINE株式会社では、中途入社の社員が多くなった際に、いかに早く組織にフィットしてもらうかが課題となっていた。そこで、仕事面と人・組織面の間にまたがる短期的なものとして、オンボーディングのサポート、分からないことを何でも聞ける「LINE CARE」という社内サービスを運用し、バックオフィス部門の人員が即座に質問に答える仕組みを作り、マネジャーに質問することによる負担を引き受ける取り組みをした。
また、組織状態の診断(パルスサーベイ)を行い、人・チームのメンテナンス部分のマネジャーの業務を一部代行した。社員に月に一度簡単なアンケートを実施し、組織の状態を可視化している。これにより、コンディションを確認しなくても状況が分かるようにし、マネジャーの負荷を軽減する取り組み。
もう一つ事例を紹介する。こちらはマネジャーの役割をヨコで分業する新しい取り組みである。マネジャーの果たす機能を仕事面と人・組織面に分割し、あえて別の人に分けて担うことで負荷軽減を図っている。株式会社サイバーエージェントの事例。エンジニアの人数が増えたことで、さらに成果を果たす人材を育成するためにエンジニアリングマネジャーという役割を新設した。
エンジニアリングマネジャーのミッションは競争力を与える強い開発チームを作り上げること、マネジャーのミッションはプロダクトを開発すること、として役割を分け、かつプレイングマネジャーをこれまで以上に正しく評価するという仕組みにも取り組んでいる。
メリットとして想定されることは、人に関するマネジメントのばらつきを解消できること。プロダクトのマネジャーは人に対してどれだけ関われるか個人によってばらつきがあるが、専任の人がつくことでばらつきを解消したり、エンジニアリングマネジャー同士が情報交換することでマネジメント のレベルアップができたりする。
デメリットは、通常一人にやっていることを分けることでマネジメント行動の抜け漏れや重複、メンバーの混乱などが想定されるが、仕組み化をすることで回避可能と考えられる。
マネジャーが担っている機能を大幅に削減するのは難しい。そこで、他の誰が担うのかを検討 する必要がある。とはいえ、アウトソースやヨコでの分業など、仕組みを決めるのはマネジャー個人の権限の範囲を超えているため、組織的な対応が必要になる。
アプローチ2:能力開発×「量」への対処
マネジャーの力を上げることで対処するアプローチだが、対象はマネジャーだけにとどまらない。新任マネージャー機能の能力開発は各企業で非常に重視されている。リクルートマネジメントソリューションズが作ったトランジションデザインモデルでは、Leading PlayerからManagerへの転換は非常に質的な転換が大きいため、能力開発が必要になると考える。
ところが、能力開発のテーマ例は多く、マネジャーが陥りがちな問題がたくさんあるが、全てを網羅して能力開発するのは難しいのが現実である。
そこで、マネジャー自身が職場のマネジメント機能を全て担保しようという発想から脱却し、自分の責任と権限の範囲内で業務を切り出すことが求められている。例えば、仕事面の短期の業務遂行はリーダークラスに管理してもらうこともできるので、自分は長期の戦略に時間を使う、またはベテランに他のメンバーのメンター役を引き受けてもらってコンディションを維持するなどの考え方である。これは、マネジャーの役割をタテで分業するものと捉えて良いだろう。長期的なところはマネージャーが担い、短期的なところはマネジャーとリーダーで分業するイメージ。
但し、当然その業務を推進できるだけの力量が相手にも必要である。よって、マネジャー候補者向けにマネジメント教育を早期に施したいというニーズが増えていると感じている。候補者にマネジメントの視界を供与することで、マネジャーを補佐することになる。
実際に取り組んでいる企業事例を紹介する。
輸送機器の部品メーカーでは、少し大胆だが評価に関わる業務の一部をグループリーダークラスに権限移譲している。マネジャーが見るメンバーの数が多くなりすぎると適正な評価ができないため、一次評価として事実情報の収集などを任せる。
大手総合リース会社では、課長の負担が大きくなりすぎるので中堅社員にマネジャーを支える期待をかけて取り組んでいる。職場風土を変革する一員として巻き込み、職場風土を見る入り口を伝えたり、マネジメントの基本知識を研修したりすることで、他のメンバーにも主体的に働きかけてもらうことを目指した。結果的にマネジャーとの関係性が変わったり、見る範囲が広がったことによって仕事が楽しくなったり、本人たちの動機づけにもつながっている。
アプローチ3:制度・仕組み×「質」への対処
先が見通せず新しい取り組みが必要になるという環境変化に対処するために、望ましい組織運営の在り方を再検討し、マネジャーの役割も再考する必要がある。
「技術的挑戦」から「適応的挑戦」に課題が変化し、リーダーも解決方法が分からないものに対してメンバーとともに対応していく、メンバーとの相互作用で対処していく姿勢が求められる。また、「タスク依存性」が高まり、多部署と連携し、社外関係者も巻き込みながら対処しなければならない。「タスク不確実性」が高まり、心理的安定性がなければ新たな挑戦が難しいため、メンバーの積極性を促すリーダーシップが必要とされている。
上記のような環境変化を踏まえ、望ましい組織運営の一例として、自律共創型マネジメントを提唱する。
管理統率型のマネジメントでは、これまで通りの運営でマネジャーが決めたことを素早く実行する。それに加えて自律共創型のマネジメントを行い、チームで考えて柔軟に価値を生み出していく。
実際に、自律共創型組織への移行度を調査すると、人事担当者および管理職の7割程度は自律共創型への移行が必要と考えており、5割程度がこのような組織運営に取り組んでいる。
実例としてネットプロテクションズの事例を紹介する。
人事制度を見直し、自律共創型のマネジメントで、自ら意思決定する民主的な組織を作り、一人ひとりに組織が持つ情報や権益を分散させた。ところが、以前の人事制度(評価制度)がそのまま残っていたため、マネジャーが運用でカバーするということが起き、負担がかかった。そこで抜本的な制度改定を行い、成長支援や評価をメンバー同士で行う組織を実現した。
関連記事:マネジャー職を撤廃! 互いに成長促進する次世代の人事制度「Natura」とは
アプローチ4:能力開発×「質」への対処
自律共創型の組織運営をするということにおいて、マネジャーもこれまでのマネジメントを変えていく必要があるため、マネジャーに求められる力を高めるというアプローチ。
自律共創型のマネジメントに取り組んでいる多くの企業が、管理統率型のマネジメントの限界に直面しており、マネジメントにおける新たな考え方やスキル開発の必要を感じている。さまざまな役割がマネジャーに集中している、マネジャー自身がビジョンを考えるのが難しい、既存テーマをこなすことで精一杯、といった声が人事担当者から挙がっている。
一方、マネジャー自身は、自律共創型の組織運営をする上で、「ビジョンを打ち出す」「失敗を恐れず挑戦する組織」そして「これまでのやり方からの脱却」といった辺りを難しいと感じている。
具体的な取り組みとして、管理統率型のみを続けることで生じる問題のうち、マネジャーが個別の指示ばかりするために動機が高まらないということに対しては、どういう方向に向かっていくのかビジョンの策定が必要である。また、マネジャーのハブ化が進んで指示待ちになってしまうという状況に対しては、チーム全体で意見交換できるようにするため、ベースとしての心理的安定が重要になり、組織・チームでの共創が求められる。マネジャーがこれまでのやり方に固執して環境変化に対応できなくなってしまう場合は、マネジャー自身が自分が持っている前提を疑っていくということが非常に大事であり、振り返りと学習が必要となる。
マネジャーとしてできること
これらをもう少し具体的にそれぞれの行動にブレイクダウンをし、力を高めていく必要がある。いくつか例を紹介する。
まずはメンバーのやりたいことや問題・課題意識を対話を通じて明らかにする。このことを通じて、メンバーのやりたいことに自分もマネジャーとして共感するということからビジョンを作っていく。メンバーのやりたいことからチャレンジを引き出すというのは、まずはメンバー本人に対して関心を持って知ろうとすることから、チームとして取り組むべきことに格上げしていくこともできると考える。これを実行するに当たっては、既に運用されている制度を活用することで追加の負荷を軽減することができる。1on1や評価面談、キャリア面談の中でどんなことを考えているのかを聞いてみるということが有効。
チームの中で誰もが意見を表明できるように心理的安全性を高めることについては、コミュニケーションスタイルとしては 対話がこれまで以上に重要になってくる。何かに対して評価や結論を下すやり取りだけではなく、互いの発言やその背景を聞き合いながら意味を発見していくもの。メンバーから意見が上がってきたときに、それは違うのではと判断するのではなく、どういうことから考えたのか、こちらがどのように感じたかというようなオープンなやり取りをしていく。対話によってメンバーの持っている前提が明らかになったり、マネージャー自身の気づきにもつながったりする。
マネジャー自身がマネジメントのアンラーニングを行うということについては、マネジャー自身も囚われから解放されなければオーバーワークの解決が難しいと考える。マネジメント経験やメンバーに対する働きかけを振り返ることで、マネジメントに対するメンタルモデル、固定的なものの見方を変えていき、マネージメントは案外面白くて創造的だということに改めて気づく機会が必要である。
【編集部注】本記事は、リクルートマネジメントソリューションズが2月19日に開催したメディア向けの情報共有会「中間管理職(マネジャー)のオーバーワークを乗り越える4つのアプローチ」の内容をもとに作成しています。
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