マネジャー・管理職の限界を乗り越える自律共創型組織へのアプローチ・前編
管理職は不要? 必要? ミドルマネジャーの役割と現状
2024.02.29
マネジャーや管理職は昔から板挟みになりがちな立場ではあるが、昨今では過剰な負担が課題だ。今やマネジャー候補となる若手からも「なりたくない」と言われ始めており、その背景には長時間労働がある。
こうした課題がある中、トレーニング開発とミドルマネジメント領域の調査研究等を行っているリクルートマネジメントソリューションズの専門家が、実際に管理職がどのような状況に置かれており、乗り越えるためにどのような解決方法があるのかを解説した。
前編は、「そもそも管理職はなぜ必要なのか」「現代のミドルマネジャーの置かれた環境」のテーマついて語られた内容を抜粋して紹介する。
- 目次
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- そもそも管理職はなぜ必要なのか
・組織のベースは官僚制
・管理職の現実の役割 - 現代のミドルマネジャーの置かれた環境
・ミドルマネジャーとは
・「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査」の結果から見えたもの
- そもそも管理職はなぜ必要なのか
そもそも管理職はなぜ必要なのか
第1部では石橋氏が昨今では管理職不要論も出てきていることを踏まえ、なぜ管理職が必要かについて解説。また、管理職が役割を果たすことの難易度自体も高まっていると石橋氏は指摘する。
組織のベースは官僚制
前提として、分業と調整で成り立っている組織設計を踏まえておく必要がある。組織は生産性を高めるために分業を行っているが、分業だけでは統合したアウトプットが出ないため、調整を行う仕事が必要になる。この調整統合では「官僚制」がベースとなっている。「官僚制」の元々の意味合いは、組織成員が安心して働ける、属人性を排した、効率的な仕組みである。したがって、どんな人でも効率的なアウトプットが出せるような制度となっている。
これを機能させるための要素が「標準化」と「ヒエラルキー」という2つの要素である。
標準化とは、各作業が統合されたアウトプットになるための手段であり、マニュアル化のようなもの。いわゆる決められた作業を決められたとおりに、効率的に遂行できるための備えである。
一方、標準以外の、予想外のことや例外が起こったときの対応策も組織は考えておかなければならず、その調整手段がヒエラルキーと言われる。
ヒエラルキーは階層化であり、要はメンバーが上司に相談し、上司が問題解決を行うのが代表的な形であり、階層化を行って事後の調整を行うことが組織上必須になっている。そこに対応する役職が管理職なのである。
基本的にほぼ全ての企業が官僚制をベースとした組織設計をしているため、事後調整の手段としての管理職はなくならない。よって、基本的に調整手段としての管理職の役割自体は今後も必要になっていく。
現在はAIが非常に注目されており、今後標準化はAIに代替されていくと言われているが、調整という作業はAIによる代替が難しいとされる。上からの伝達の調整、横断の調整といった作業を行う管理職の仕事は、AIで代替できないものとして今後重要になっていく。
管理職の現実の役割
原初的な役割としては、部下の管理監督をするという役割がある。管理の5つの要素とされるのが、「計画」を立て、「組織」を作り、「命令」をして「調整」し「統制」をかけるということであり、これがベースの機能となる。
ところが管理職の実体的な役割は徐々に広がってきていると言われ、メンバーの統制だけではなく対外的なコミュニケーション、多部署、他社、上層部など多様な関係者とのコミュニケーション機能も担うようになった。そして近年は、マネジメントだけではなくメンバーの業務の一部を引き受けるプレイングマネジャーも万国共通で発生し、マネジメント自体の機能・役割自体も広がったのに加え、プレイング業務も引き受けることで負担が増えている。もっとも、プレイングマネジャーだから忙しくなったわけではなく、かなり以前から管理職は小刻みに断片的な動きをしている忙しい存在だった。
最初はメンバーの管理監督から始まり、対外関係者とのコミュニケーション機能、中長期的な業務の主導が管理職の仕事に加わり、近年、2000年代以降は特に人事施策運用の担い手としての期待が非常に高くなってきている。またプレイング業務に時間を取られているというように、徐々に管理職の役割自体が拡大している。
現代のミドルマネジャーの置かれた環境
次に、石橋氏は、2023年に行ったミドルマネジャーと人事担当者への意識調査の結果を紹介しつつ、現代のミドルマネジャーの置かれた環境について説明した。
ミドルマネジャーとは
一般的に管理職は、トップと一般社員の間に位置する階層を指すが、「ミドル」と言われた場合、課長、係長、部長などの役職を想像する人が多い。ここでは、厳密な定義として、マネジメント対象となるメンバーが2層以上にわたる管理職をミドルマネジャーとする。一般的な課長に当たる。以後、ミドルマネジャー=マネジャーと記載する。
「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査」の結果から見えたもの
ここからは、2023年6月に実施した「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査」の結果について紹介する。企業の人事担当者150名、管理職層150名を対象にインターネット調査を行なったもの。特徴的な点を解説する。
参考情報:マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2023年
ミドルマネジャーの負担過重が共通認識に
1つ目は、会社の組織課題についての質問。組織課題について、それぞれどのくらい当てはまるかを回答してもらった。この調査は3年行っているが、今回初めて人事担当者もマネジャーもともに「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」という課題を最も多く選んだ。
この項目は昨年は4位程度だったが、今年は1位になったことから、人事担当者もミドルマネジャーも負担が非常に重いという認識になったということが大きな変化と言える。
2番目に挙がっている「次世代の経営を担う人材が育っていない」という課題も例年高い選択率になっているものだが、それを上回ってミドルマネジメント層の負担問題が浮上している。
目の前の成果に対する重要度認識にズレ
次に、そういった管理職に期待していること、また管理職自身が重要だと考えていることについての質問。それぞれ最大3つまで選択してもらった結果として、ともにメンバー育成が1位となった。昨年も同じ傾向だった。やはりメンバーの育成については管理職自身も重要だと捉えており、人事担当者も非常に高い期待をしているという結果が出ている。
一方、2位以下の項目を見てみると、マネジャーが重要だと捉えているのに人事担当者はそこまで期待していない項目が去年よりやや多くなっている。特に先ほどマネジャーの役割として人事制度の運用などに対する期待が高いという話をしたが、逆に言うと人間関係の円滑化や業務改善といった、目の前の成果については人事担当者の期待がマネジャーの思うほどには高くないという結果になっている。
マネジャーの98%近くがプレイング業務を行っている
先ほどプレイングマネジャーについても話題にしたが、現在のマネジャーのマネジメント業務の実際の比率についても質問した。結果として、マネジメントの業務比率が50%以下の人の割合が6割程度になっている。半数以上の方がプレイヤーの比率が高いということになる。多くの場合ではマネジメント業務に専念できていないのではないかということがこの結果からも言える。
他の調査を見ても概ね近い結果が出ていると思われるが、100%マネジメント業務を行っているマネジャーはわずか2.7%。98%近くが何らかのプレイング業務を行っているというのが、現代のマネジメントの置かれている状況であることが見て取れる。
プレイング業務を行う理由の2位に「自分の専門性の維持・向上」
さらに、プレイングマネジャーがプレイング業務を行っている理由についても質問した。もともと、メンバーの仕事が回らないから引き受けているというのが大きな理由ではないかと仮説を持っていたが、それに近い「メンバーに知識・スキルが不足しており仕事を一任できない」が最も選択数が多かった。
2番目が非常に興味深い結果で、「自分の専門性を維持・向上させ続けるため」にプレイング業務をしているという、個人ニーズがプレイング業務の背景として高くなっていることも注目される。マネジメント業務を行っていると自分たちのスキル開発ができなくなっていく、市場価値がなくなっていくということに対する恐れがマネジャーの中にあるということが言えそうだ。
そうした状況を周りのメンバーも見ているため、マネジャーや管理職により魅力を感じなくなると考えられ、こうした個人ニーズの問題も、マネジャーや管理職が敬遠される悪循環の一つの要因だと推察できる。
日々のマネジメントではメンバーの育成に困難を感じる
次に、実際に管理職層が日々のマネジメントで難しいと思っていることについて当てはまるものを全て選んでもらった。その結果、役割としても重視していた「メンバーの育成・能力開発」が最も難しいと感じているとなった。これは近年職場のダイバシティ化が進んできていることが要因となっている。シニアの社員やZ世代に代表される若手社員のマネジメントに苦労しているということが、普段研修を提供する際にも毎回と言って良いほど聞こえてくるため、そこが難しいと感じているという結果はよく理解できる。
また、2位の項目に「既存業務と新規チャレンジの両立」も挙がっている。目の前の業務をこなしながら中長期の計画もしなければならないといった、非常に難易度の高い業務にマネジャーが日々直面していることがうかがえる。
周囲に求めるサポートは人員補充や具体的なアドバイス
次に、こうした状況の中で周囲に求めるサポートについて聞いた。図の縦軸に困っていること、横軸に必要とするサポートを並べている。難しさを感じている事柄ごとに必要としているサポートは異なっているが、大きく見てみると、目標の達成や仕事の改善といった業務面のものについては、人員補充や配置転換を望んでおり、メンバーのコンディションのケアやキャリアの支援などに関しては上司や人事からのアドバイスを希望していることが分かる。
また、こうした管理職のニーズに対し、既に実施されているサポートとこれから実施する予定のサポートについて人事担当者にも聞いたところ、研修でのインプットや上司・人事からのアドバイスは半数以上の人事担当者が既に実施していることが分かった。
一方、今後のものとしては、全体の4分の1程度で外部の専門家によるコーチングが検討されている。
候補者育成の難問は「なりたい社員が減っている」こと
次に、課長・マネジャーの候補者の育成についても、何を難しいと思っているのか人事担当者に聞いた。結果として、人員が少ない、スキルが足りないなどではなく、課長・マネジャーになりたいという社員が減っているという選択肢を選んだのが全体の4割程度となっていることは特筆すべきである。
育成の進め方が2位になっているが、実際の育成以上に、マネジャーになりたいという意向を持った社員が減っていることが問題になっていることが見えてきている。
管理職にとって良かった経験は研修や情報交換、欲しかった経験は「個別コーチング・サポート」
管理職に上がったときにあって良かった経験と、なかったが欲しかった経験について質問した。あって良かったのは昇格時の研修や管理職同士の情報交換、プレマネジメント経験、つまり昇格前リーダーとしてメンバーを率いる経験だった。なかったが欲しかった経験としては、個別のコーチング、上司や人事の個別サポート、フォローツールなどが挙がっている。
一方、人事担当者に前出の設問で今後のサポートについて質問していたが、管理職があって良かったと回答した研修や個別サポートは実施している回答者が多く、今後実施したいサポートの1位は専門家の個別コーチングとなっていた。コーチングを導入する企業が増えているが、これは管理職・マネジャーが「なかったが欲しかった」と回答しているサポートと一致している。人事担当者が管理職・マネジャーのニーズをつかみながら今後のサポートを検討していることがうかがえる。
>>>後編「マネジャーのオーバーワークを乗り越えるには? 問題の背景と4つのアプローチ」につづく
【編集部注】本記事は、リクルートマネジメントソリューションズが2月19日に開催したメディア向けの情報共有会「中間管理職(マネジャー)のオーバーワークを乗り越える4つのアプローチ」の内容をもとに作成しています。
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