長時間労働を考える
無給残業はサービスじゃない。今こそ「サービス残業」という言葉をなくしましょう。
2016.11.01
HARES(ヘアーズ)の西村(@souta6954)です。
電通の過労自殺問題をきっかけにして、長時間労働をどうするか?といった問題について、政府や地方自治体、大手企業から中小企業まで、至る所で議論が繰り広げられています。
長時間労働の何が問題なのか?
当たり前のことですが、睡眠時間すらも削って働きすぎると、心身ともに疲労が蓄積され、その状態が恒常的に続くと身体か精神のどちらか、またはその両方が壊れてしまい、最悪の場合は死に至ってしまいます。
では、具体的に何時間以上働くと心身に危険が及ぶのか?というと、厚労省が定めている「過労死ライン」の月間80時間を超えた時間外労働(いわゆる残業)が一つの目安になりそうです。
健康を脅かすまでに「働きすぎる」ことから自らの身を守るのは、本来自分自身でセルフマネジメントを行うのが自立した大人のあるべき姿です。
ただ、自らの働き方を100%自分で決められるのは、経営者や起業家やフリーランサーというごく一握りの人で、多くの人は労働者として会社など何らかの組織に雇われている存在です。
労働者が経営者や上司という存在から評価され指示命令を受ける限りにおいて、労働者が自らの健康を犠牲にして、成果を出すため或いは頑張っていることをアピールするために長時間労働を余儀なくされる。これはごく自然に発生しうる心理状態です。
誰だって、少しでも高く評価されたいですし、クビにされたくないですし、存在価値を否定されるのは怖いものです。その中で、経営者や管理職が立場を利用した搾取から労働者を守るために存在するのが、労働基準法をはじめとする労働法なのです。
世界基準から外れた「働かせ放題」な日本
その労働基準法の第32条において、「1日8時間、1週40時間」と法定労働時間を定めています。それに則って、多くの企業では1日8時間を所定労働時間として定めているわけですが、同36条で「労使協定をし、行政官庁に届け出た場合においては(32条、35条の規定にかかわらず)、その協定に定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる」と定められているため、事実上の「抜け道」が存在するのです。
この労使協定のことを通称36(サブロク)協定と呼んでいますが、36協定の特別条項を設定し、特別条項を設定して、形式上の要件を満たした上で労働基準監督署長に届け出さえすれば、年間6カ月間は労使で決めた上限まで働かせることが可能になるのです。
某居酒屋チェーンは「所定労働時間は月間120時間までOK」という、「過労死ライン」をゆうに超える労使協定を結び、その結果従業員の過労死を引き起こしてしまい、激しい非難に遭いました。このように、「合法的」に過労死ラインを超えた長時間労働がまかり通ってしまっているのが現状なのです。
EUでは、労働者の健康と安全の保護のため、平均週48時間労働が法律上の上限時間であり、違反した場合の罰則規定があります。
また、アメリカでは残業代の割増賃金の割増率が1.5~1.75倍と定められており、経営者が利益を追求するために残業を削減するインセンティブが働きます。一方日本は割増率が1.25倍にとどまっているため、残業時間削減に対してアメリカほど強いインセンティブが働きません。
欧米に比較しても、日本は長時間労働に対する労働者保護の仕組みが著しく弱いです。欧米と比べても解雇規制が極めて強く、その結果「終身雇用」が実現される形で労働者を保護してきましたが、経済が停滞し誰も終身雇用を約束できなくなってしまった今、解雇規制とは違う形で労働者保護を推し進める必要性が出てきています。
こうした「世界基準から外れた労働ルール」を変えるべく、私が有志ではじめた活動が「長時間労働撲滅キャンペーン」です。
署名キャンペーン開始からわずか2日で1万人、1週間で2万人という過去最速で多くの賛同者を集めました。それほど、今の長時間労働のあり方に対して疑問に感じている方が多いのだと思います。
参考:長時間労働を撲滅して、日本から過労死をなくしましょう!
今こそ、「世界基準」のルールを日本でも整備していくタイミングなのです。
「サービス残業」という言葉をなくそう
日本の場合、さらに問題をややこしくしているのが、いわゆる「サービス残業」問題です。
サービス残業とは、残業代の支給を受けずに無給で行う業務のことを指します。つまり、単なる無給残業です。
自らの意思で行うボランティアと異なり、サービス残業は実質的には会社から指示命令を受ける形で行うものです。
「本人の意思でサービス残業してるんだ」というのは勝手な言い分で、仮に本人の意思だとしても「高い成果を求められ、成果を出すためにやむなく残業している」のだとすれば、それは「本人の意思」とは言えません。
会社から評価されるため、上司の期待に応えるため、会社で居場所をなくさないために、「サービス」で残業しているのだとするならば、おかしな話ですよね。
もう21世紀だというのに、まるで江戸時代のような「滅私奉公」ぶりです。
「無給で残業」することは「サービス」でもなんでもありません。「サービス」は、提供した価値に対して正当な対価を支払われてはじめて「サービス」と呼べるのです。
「サービス残業」というと、何だかいいことをしているような勘違いを生んでしまいますが、「無給残業」というととても損をしているような気がしますよね。
やっていることは同じでも、言葉の使い方一つでメンタリティが全然違います。言葉に踊らされることなく、自分自身や家族の人生を何よりも尊重し、「仕事の自分のより良い関係づくり」を目指していきましょう。
次回は視点を変えて「労働時間革命と利益追求の二兎を追うものだけが生き残る」というテーマで書きたいと思います。
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西村創一朗(にしむら・そういちろう) HRイノベーター/複業研究家。1988年、神奈川県生まれ。首都大学東京法学系を卒業後、2011年に新卒で株式会社リクルートキャリアに入社し、法人営業、新規事業企画、人事採用を歴任。本業の傍ら「二兎を追って二兎を得れる世の中をつくる」をビジョンに掲げ、2015年に株式会社HARESを創業。2016年末にリクルートキャリアを退職し、独立。 プライベートでは三児のパパ。NPO法人ファザーリングジャパン理事。週末は地域の少年サッカークラブのコーチも務める。2017年9月より「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(経産省)の委員を務める。
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