イベントレポート|Unipos「2024年新春特別ウェビナー」前編
人手不足時代を乗り越えるために。人的資本経営のベストプラクティスを探る
2024.02.07
Unipos(東京・渋谷)は1月19日、代表取締役CEOの田中弦氏が登壇するウェビナー「日本の統合報告書全部読んで分かった人的資本経営永久保存版スペシャル」を開催した。同イベントは、2023年2月6日に行われた「『本当に役に立つ』田中弦のマニアック報告会-統合報告書を全部読んでわかった人的資本開示」の最新版だ。
金融庁は昨年、上場企業に対して2023年期末決算より人的資本の開示を義務付けることを発表したが、前例のないことゆえに多くの経営者・役員層が「何を開示したら良いのか」「どうすれば自社の強みを落とし込めるのか」と戸惑いや困難に直面した。
田中氏は、この時点で人的資本の開示を行っていた上場企業数百社の統合報告書を全てチェック。その所感と 「推し統合報告書」のポイントについて余すところなく語った。
今回は2023年12月までに発表された日本の統合報告書を全て読み込み、人的資本経営のベストプラクティスを類型化したという田中氏。前編では、発表のサマリーとベストプラクティスの9類型のうち前半3つを紹介する。
統合報告書898社読了後のまとめ
田中氏は、2023年12月までに発表された統合報告書898社分を読了した所感を3つのポイントで整理している。
ポイント1:2023年度の人的資本開示はさらに進んだが、開示に積極的な企業と消極的な企業はますます二極化した
ポイント2:積極企業では、単なる人的資本開示ではなく、人的資本経営の実践が行われつつある
ポイント3:人的投資をデータをもとに優先順位付けする、人材ポートフォリオ、健康経営との組み合わせなど、新しいベストプラクティス類型が登場
開示ではなく経営を重視する方向への転換を
田中氏は今回の発表に先立ち、独自の基準・方針に基づいて898社分の統合報告書を格付けしたという。そのうちSOMPOホールディングス、UTグループ、味の素、レゾナック・ホールディングス、オムロン、エーザイなど32社が、充実度の高い「5」にあたると発表した。
また「2」と「3」の差が大きいことに言及し、その違いは経営戦略と人材戦略がきちんと紐付けされているかどうかにあると語った。
ここで人的資本経営の定義について改めて確認する。田中氏は、「個人の持つ人的資本(スキル・ノウハウ)を十分に発揮するための土台を再構築し、サステイナブルな競争力を創出する経営」だと説明しつつ、日本の経営体質を見ると必ずしもその通りにはなっていないと述べた。
未曽有の人手不足が目前に迫り、売り手市場となっている現在、人的資本に投資する企業に人材が集中し、投資できない企業はさらに人材不足に陥ることが予測できる。この問題について「あとで考える」時間はないという。
このような状況の中で人的資本開示が義務付けられたわけだが、「開示自体を目的とするのではなく、具体的な人的資本経営の実践にシフトしていくことが大切だ」と強調した。
人的資本経営のベストプラクティス・9類型
900弱の統合報告書に目を通した結果、人的資本経営のベストプラクティスはいくつかのパターンに類型化できることに気付いたという田中氏。ウェビナーでは9つの類型を紹介した。
類型1:経営課題≒組織課題を提示、解決へ
田中氏は前提として、「課題」とは必ずしもネガティブなものではないと話す。正しい課題を明示してこそ、それを解くための経営に取り組むことができるという。課題=ポジティブな伸びしろ、という考え方だ。
類型1は、Uniposが提供する「人的資本経営フレームワーク(田中弦モデル)」を参照するとSTEP2に注力した取り組みだと言える(上図参照)。
モデルとして取り上げられたのは出光興産。数字をベースに課題を語っており、特にエンゲージメントについて社内独自の指標を策定し、「出光で活躍できる人材要件・行動様式を明確に定義している点がレベルを一段上げている」と評価した。
出光興産はさらに、従業員のやりがいについて2019年から社内調査を行い、結果を全員へフィードバックするとともに結果の詳細分析および具体的なアクションプランの策定・実行を地道に継続。4年前には男女別で大きく乖離(かいり)があったスコアを接近させることにも成功している。
類型2:投資とリターンを分析し優先順位付け
モデルとして、ナブテスコを取り上げながら解説した。
同社は、従業員のエンゲージメントスコアと組織診断を定期的に実施。ともにイノベーションの促進に関連性が高いと考えられる項目を設問に加え、課題抽出や充足度の分析を行っている。
その上で、個人の能力を引き出すための投資と組織への投資をする際、充足度を増す部分に注目してアクションを取ることで、イノベーションを起こしやすくしていることがうかがえる。
田中氏は補足として、個人への投資としてはリスキリングや研修、組織への投資としては風土改革、カルチャー変革、人事制度の全般的な見直しなどがあると具体例も紹介した。
類型3:KGIだけではなく中間KPIを提示する
類型3は、「人的資本経営フレームワーク」のうち、STEP4の部分に関わる内容だ。
田中氏は、人的資本経営においてもKGIとKPIを分けて考えるべきだとしながら、女性管理職の比率を例に挙げた。
この例で言うKGIは管理職における女性の比率であり、KPIは将来、管理職になっても良いと考える人の率となる。どちらの数字を追うのかという問いに対して、田中氏はKPIを追うべきと明言した。「現状として女性管理職の比率上昇は鈍く、将来的に管理職を目指している人の比率の方が伸びやすく、また母数も多いため伸ばしやすい」。
この点において、安川電機のKPI設定が秀逸であると田中氏は評価する。
同社は女性従業員と男性従業員いずれにも管理職への意欲を調査。いまだにギャップはあるものの、女性従業員の意欲が向上していることに着目した。
はじめから「女性管理職比率を上げること」を目標にするのではなく、20~30代の若手の意欲をくみ、それを実現するための施策に取り組むことで、将来的な改善を目指している。
>>>後編「10年先を見据え、事例に学びつつカルチャーと行動の変革を」へつづく
イベント概要
【累計9000人以上申込!田中弦人的資本マニアック会永久保存版スペシャル!】
2023年度以降、全上場企業で人的資本にまつわる開示が義務化されました。少子高齢化という外部環境の変化により、日本企業の人材獲得競争はより苛烈となります。今後は少ない人的資産を活かし企業は成長していく必要があります。
本ウェビナーは、2023年1月より「人的資本経営専門家」であるUnipos代表・田中弦が、先行開示企業 / 海外企業の開示内容や3月決算の企業の有価証券報告書・すべての最新統合報告書、「約5,000」の情報をもとに、人的資本経営の最新動向や独自見解をお届けします。
日本の企業価値向上には、社会全体で人的資本の活用・改善に取り組むことが必要不可欠です。
今まさに試行錯誤されている皆さまの学習時間を短縮し、ともに人的資本経営を盛り上げていければという想いで開催いたします。
ぜひ皆さま、奮ってご参加ください。ご参加を心よりお待ちしております!
開催日時:2024年1月19日(金) 10:00~12:00
参加方法:Zoomでのオンライン開催
参加費:無料
https://event.unipos.me/webinar/20240119/
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